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ショッピングモール内部は照明が明るく輝き、軽快に鳴り響く店内のBGMやホールに配置された洒落た噴水装置など。弱冠寂れてはいるものの一般的にイメージするショッピングモールそのもので、この外が異常事態になっているとはとても思えない様相だった。
内部に招き入れられたアークたちは階段を登りながらテンガロンハットから簡単な紹介と状況の説明を受ける。
「俺はフランク。一応この班のまとめ役をやってる。こっちの女はクラーク、男の方はネビルだ。現在このショッピングモールは幾つかの班に分かれて入り口の防衛を続けている。この中にいる間は、俺の作り上げた72の規則を守ってもらうぜ」
「72の規則……ですか?」
「ああ。まず第一に絶対防衛。絶対に奴らを中に入れるな。情に訴えられても物で釣られてもぐっと我慢だ。第二は死体蹴り。もしも戦いになったら気絶させたと思ってももう一度とどめをさせ。奴らはしぶといからな……」
「そうだな。アイツら地雷を踏んでも何故か普通に生きてるもんな」
「第三は……と、集まってるな」
規則を言い終わる前に階段を上り切った先には未履修者と思わしき老若男女を問わない集団が出迎えた。フランクは彼らに親し気に手を挙げ、ついでアークたちを指し示す。
「みんな新しい仲間が加わったぞ。噛まれてないことは確認してる。さ、君たちも自己紹介してくれ」
「メアなのだ!嵐を呼ぶしょーがく5ねんせーなのだ。仲良くして欲しいのだ」
「アークだ。まあよろしく」
「え……と、私は……」
フランクの促しに率先してメアが、次いでアークが応えていく。そして緑髪の少女の番で未履修者たちの中で騒めきが起こる。
「おい……彼女、もしかしてリクちゃんじゃ……」
「本当だわ。あのちんまりとしたサイズ、可愛らしいご尊顔。リクちゃんに間違いないわ!」
「リクちゃ~ん!こっちに目線くれ~~!!」
「え、ええ……?」
「え?なに?お前有名人なの?」
「な、何かの間違いだと思いますけど……」
騒めく集団に困惑気味のリクと呼ばれた少女に弱冠引き気味のアーク。そんなアークの疑問にネビルが答えてやる。
「さっきは気付かなかったが……リクちゃんといえば嵯峨を代表するご当地アイドル。誰もライブやイベントをやっている姿を見たことがないが、嵯峨の誰もが一年前に突如現れた彼女の愛くるしさに魅了され、グッズやチェキはどれも高値で取引されている……!」
「ライブやってるとこ誰も見たことないのにどうやって人気になってんだよ……Vの者か?いやそれよりも……おっちゃん高値で取引のあたり詳しく!」
「し、知りません!覚えがないですって!確かに私はリクですけどアイドルなんてしてません。きっと他人の空似ですよ!」
否定するリクだったがその眼前にズイっと目を輝かせたメアが現れる。
「スゲーのだ。有名アイドルなのだ!リクの姉御って呼んでもいいのだ!?」
「姉御っ!?姉……つまり年上扱い!……へへへ。いいですよ~メアさん。仲良くしましょね!」
年下扱いされることが多いのか年上扱いされることに頬を掻き、染めるリク。その様子をシラーと横目で見るアークはやがて視線をそらしフランクへと声を掛ける。
「しかし騒動が起きてからまだそんな経ってないだろう?よく短時間で入り口全部をバリケードで塞ぐなんてことができたな」
「ああ、嵯峨でこんな事件が起きるのは、実は始めてじゃないんだ。一年前ぐらい前だったかな。その時も外にいるような布教を声高に叫ぶ奴ら……俺たちは十字軍(オタクの行進)って呼んでる連中に街が占拠されてな。以後ショッピングモールではバリケードスターターキットが常備されて未履修者はここに集まるように指示されてるんだ」
「十字軍ってのはありえん。なのか?」
「大本はそうかもしれん……が、どちらかとうとそういう現象に近いんじゃないか。何しろ噛まれただけでありえん。になるなんて聞いたことないしな。まあ、換歴じゃよくあることだろ」
アークたちの会話にクラークたちも割り込んでくる。
「ちょっとこの中でアイツらの話なんてしないでよ気持ち悪い!私は絶対オタクに何かならないんだからね!」
「お、お前……!俺達がなんとなくぼかしてたことを直接言うなよ……!」
歯にもの着せぬクラークの言に騒然となる一同。クラークは構わず続けて。
「だってそうじゃない!初対面の他ジャンルの人間に失礼しますもなしに勝手に好き放題布教するなんて……私はグリ×レイ派なのよ!名前が似てるからってムリ×ライを勧めるような……そんなオタクなんて存在になりたくないわ!」
「十字軍やそいつみたいな厄介をオタクにカウントすんじゃねーよ!普通に迷惑な人だから!オタク関係ねえよ!」
「それに何よ。アイツらやけに機敏じゃない……オタクって運動不足なんじゃないの……?」
「何のオタクかにもよるし。それに最近は健康促進ゲームの影響で運動する奴増えてるからな……」
ギャーギャーと言い合っている中でふとアークの手を握るモノがあった。テトテトと人の合間を縫って来たメアであった。
「アーク、折角だからゲーセンいくのだ。カフェもやってるし食べていくのだ。リクの姉御のおごりなのだ!」
「マジで!いいの!?」
「ええ。危ない所を助けてもらいましたし。それに少しはリラックスしないと大事な時に頑張れませんから」
リクの言にアークは涙を流した顔を覆い、彼女の方に手を置く。
「リク……お前のことを疑ったアタシが馬鹿だった……すまねえ……」
「え!?疑い!?な、何を……?」
「アーク―!リクの姉御ー!早くいくのだー!」
困惑するリクを他所にメアはどんどん先にいき二人に呼び掛ける。慌てて追いかける二人を先導するようにメアが掛けていく。