♦
「さて、メアたち迎えにいっかな」
顔をごしごしと拭った後立ち上がったアークはゆっくりと観覧車の方へと歩を進めようとした。
それを虎視眈々と狙っているものがいる。
アークのすぐ側で黒焦げになり倒れているランカだった。痺れながらも僅かに意識を保っていた彼女は回復に専念しつつ次の一手を探っていた。
(……くくくオタクは僅かな供給さえあれば墓場からでも蘇って来るほどしぶとい存在……命を取らずに背を向けたのが運の尽きよ。回復次第背後からザクっ……と?)
ランカの思考は途中で中断させられた。見れば眼前にアークの顔がある。彼女は座り込みこちらをじーっと眺めており。
「あぶねーあぶねー規則2。死体蹴り。だったな忘れてたぜ。よっこい……せっと」
「ひでぶ!?」
立ち上がり。もののついでのように放たれた蹴りを顔面に受けランカは地面をのたうち回る。
「おほぉぉぉぉぉぉぉなじぇ…なじぇでごじゃるか……!先程まで完全に油断……いや、もう決着はついたはずでござる。死体蹴りなどプレイヤーとして恥ずべき行為ではないでござるか?BANするでござるよ!?」
「そんだけ元気にわめいといてよく言うわ。それによく考えたらフィンサガ初打ち台無しにされた分全然返してねえんだよなあ。て訳で徹底的に蹴りつくしてやるよ。これを見ろ」
そういうとアークは情報端末を操作し印籠のように突き出してやる。
「な……なにを?こ、これはぁ!?」
♦
(高らかに話す女性の声)
アークが示した情報端末の画面。そこに映っていたのは。そう。アークとランカのツーショット写真!
アークがナンパした時に撮ったやつだね。
「コイツを加工して……こうだ」
「お、おぬし。それは……その画面はまさかぁ!?」
「ああ、このツーショット写真を。今からにゃんすたに投稿する」
「にゃんすた……だと!?」
にゃんすたとは。換歴をときめく代表的なキラキラ系SNS。全世界に利用者がいる写真投稿SNSで。各国選りすぐりの洒落者(へうげもの)たちによる目を潰さんが如しオシャレ写真を投下しているのが特徴的さ。
僕も始めて見たらファンがつくかな?……やめとこうかこの話。
それでアークのフォロワー数は……凄いな数十万を超えてる。え?それで今から投稿するの?
「ギァァァ!や、やめるでござる!素顔投稿は色々不味いでござるよ!?肖像権!肖像権で訴訟でござる!」
「さらにここにキラキラタグをドーン!」
「オェェェェェェ!!気持ち悪くなってきたでござる!」
#嵯峨美女 #最高の出会いに感謝! #一期一会 などなど十数個のタグが画像に付随している。正直勘弁して欲しいノリだ。ランカが床でのたうち回るのもよくわかる。
「そして投稿ー!」
「殺生―!!」
ああ、終わった……。そして目まぐるしく回る数字。
「おい見ろよ。さっきの投稿もういいねが数千。お、万超えたぞおい。やったな!」
「いっそ殺すでござる~~!!」
こうしてランカはいいねが増えるたびのたうち回りやがて羞恥で燃え尽きましたとさ。陰の者には地獄だね。同情するよ。
♦
アークがキッチリとランカを片付けたことによって人々も正気を取り戻していっていた。熱に浮かされていた間自分が何をしていたのか覚えていないものも多く混乱しているものも多いようだ。
アークはそんな一般人たちを他所に観覧車から降りていたメアとリクへと合流していた。
戦いに疲れたアークにメアは胸を張り。
「うむ。よくぞ戦ったのだアーク褒めて使わす」
「おめーなー……」
「いやホントに凄いですよアークさん私びっくりしました!」
ふんぞり返るメアとは対照的に手を叩きアークを褒めたたえるリク。だがその声に混ざっているのは感謝の念というよりも興奮や喜色といったものが多く。
「本当、期待以上ですよ」
瞬間。悪寒を感じたアークが両腕で防御姿勢を取る。その彼女が耐え切れず数メートルを吹き飛ばされた。
それを為した少女。アークを突然殴りつけたリクは笑い。
「合格。合格ですよ。あなたなら私が力をぶつけるに相応しい」
その言葉を境にリクの姿に突如として変化が現れる。先程間での人の瞳とは明確に違う。細長の爬虫類の如き瞳へと転じていた。
そしてより明瞭な変化が腕だ。彼女の肘から先。両の腕にゴツゴツとした硬質な装甲が誕生している。
一切の疑いの余地はない。彼女は。
「私はSHワニのリク。では第二ラウンドです。さあ、アークさん。私と闘いましょうか」
SHs大戦第二話「オタクランドサガ」完結です。