SHs大戦   作:トリケラプラス

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3-2 タイムリミット

 

「さて、帰りますか。お客さまをお連れしなければですね」

 

 そういうとリクは無事な腕で額の汗を拭うとメアと黒焦げの椅子の元へと歩みを進める。すると椅子が喋った。

 

「リクちゃん様、アーク殿へトドメを差しにいかなくていいのでござるか?」

 

「ヘタに川に入り込めば、彼女が意識を失っていない場合感電のリスクがありますしそのまま逆転されるかもしれません。まあいつまでも上がってこないということは意識を失っているか、逃げたか。どちらにせよ私の勝ちは変わりません。それに」

 

 リクは笑い。

 

 「どうも彼女は調子が悪かったみたいですからね。これで終わりにはしませんよ。幸いこの娘がいれば向うからくるでしょうし……ね」

 

 泣きべそをかくメアの頭を撫でてやる。

♦方舟市を流れる川。阿弥陀川。そこをスゥーと滑らかに流れて来るものがあった。

 

「ぶはぁ!」

 

 サメだ。ワニとの争いに敗れた彼女は勢いよく水面から顔をだすとその小ぶりな頭を振り、周囲に水をまき散らした。

 

「…ここは?」

 

 一時的に意識を失っていたアークは現在地を確かめようと周囲を見渡す。そんな彼女の頭上から声がかかる。見上げてみるとそこには意外な人物がいた。

 

「上だアーク。早くあがってこい」

 

「サン!」

 

 橋の上には車を傍らに停めた、アークのよく知る白衣の女性がいた。

 

 身体を半端に拭ったアークはサンの用意した車の助手席に勢いよく乗り込む。座席がじんわりと濡れるが二人とも気にはしない。行先を自宅に指定してサンは車を発進させる。

 アークは心ここにあらずといった風体で窓に映る背景を眺めつつ問いかけた。

 

「なあ。なんでアタシの位置がわかったんだ?」

 

「お前の持つ腕輪には位置情報機能を内蔵してある。その情報を見るとお前が川を下っていたのでな。戦闘でもあったのだろうと判断したまでだ。その様子だと、負けたのか」

 

 協力者のあまりにデリカシーのない率直な問いを受けると、アークは眉根を寄せ、顔をしかめると、瞳に涙を貯めて叫んだ。

 

「うわああああああぁんそうだよ!負けたよ……負けた!まーけーたー!悔しいよぉぉおおおおお」

 

 涙を流して足置きを映画館の迷惑客のようにドスドスと躊躇なく蹴っていくアーク。その度にSHの膂力によって車が揺れる。

 対"SH"との初めての完全な敗北。チリチリと湧き上がる敗北感と煮えたぎる怒りは負けず嫌いな彼女にとめどなく涙をあふれださせた。

 

「メアもとられたし……。そうだ。メア!早く助けてやらなきゃ……」

 

 重大な事柄に気付いた涙目のアークは助けを求めるように運転席に振りかえると信じられないものを見た。

 

「zzz…………zzz……」

 

 運転手はハンドルに頭から突っ伏して眠りこけていた。圧力におされ眼鏡が額の方にズレている。

 

「寝るなー!完全自動運転だからって寝るな!危ないしお巡りさんに捕まっちまうだろうが!!」

 

 大層焦ったSHによって加減なくガックガックと肩を揺らされて起こされた運転手は呑気な欠伸をして答えた。

 

「ああ、すまんな。ここ数日睡眠をとっていなかったツケが回ってきたか。……で、負けたのか?」

 

「そのくだりもうやった!喧嘩売ってんのかテメー!」

 

「掴むな。揺らすな。自動運転中とはいえ危ないだろう」

 

「寝てたやつがいうんじゃねーよ!」

 

 一戸建ての屋敷の一室。サンの家に帰って来たアークは、地下室にて人が三名ほど入れるような大きさの近未来的カプセルへと押し込まれんとしていた。

 

「待て待て待て押すなオイ。押すなって。ヤメロ!こんなか嫌いなんだよっ!」

 

「何故だ……?お前はただ座っているだけでいい。それだけで◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆され闘いで得た疲労は回復し、死んだように眠れるというのに」

 

「◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆されるからだろうが!なんだこの怪しげなアームはよぉ。前より増えてるよな!?」

 

 「いいから入れ」「ヤメロー」といった攻防が為される中、アークから軽快な電子音が流れ出す。腰のあたりからだ。

 アークがズボンのポケットの空間から取り出したのは携帯端末。着信元は不明だがアークは確信をもって電話に出る。

 

「リクか」

 

「ええ、さっきぶりですねアークさん。お元気でしたか?」

 

 電話の主はつい先ほどまで激闘を繰り広げたリクだった。小憎たらしい声にアークは眉をたて、拳を強く握りしめた。

 

「てめえ。メアは無事なんだろうな。もしアイツになんかしてたら──」

 

「ええ勿論。私はあなたと違って理性的ですので。彼女には傷一つありませんよ。それもあなたの対応しだいですが」

 

 チッと、舌打ちを一つついたアークの耳元に届いたのは聞きなれた幼い声。

 

「やらんかー早くジュースもってくるのだ。メアは喉が渇いたのだ!持ってきたら肩を揉むのだ。メアはおつかれなのだ」

 

「ひ、ひぃー!このロリ。オタク使いが荒いでござる!だが、それがいい!」

 

 ランカの歓喜の声を最後に、電話越しの両者の間にはしばし無言が発生した。

 

「……あれ?結構余裕ある?」

 

【挿絵表示】

 

「ない!ないですよ!!我々は血も涙もない無慈悲な獣ですからね!」

 

 電話の奥では「ごほん」という咳払いが一つ。

 

「ともかく。彼女の身柄はこちらが確保しています。彼女を取り返したくばこちらの指定する場所に来てもらいましょうか」

 

 ここまで聴いた後、アークは柔らかいものが腕をつく感触を得る。振り向くとサンが二の腕を指でついていた。彼女の意図を掴むため、携帯端末を離し、小声で会話する。

 

「……何だよ」

 

「できるだけ再戦の日時を引き延ばせ……そうすれば」

 

 そうすれば。彼女は希望の言葉をアークにもたらす。

 

(私がお前に新しい力をやれる。敗北を打ち破る。新たな力を)

 

 真っすぐと見据えるサンの視線を受けアークもまた首肯で返す。

 

「じゃあ……一週間後でいいか?」

 

「はあ!?どれだけ待たせる気ですか!せめて二日後です。」

 

 あからさまに声量の大きくなった携帯端末から耳を離し。アークも大声で話す。

 

「じゃー。四日後ならどうだよ?」

 

「じゃー。じゃないですよ!三日後で!!」

 

「なら三日後な」

 

 そう纏まりかけたところだった電話の向こうから声がする。

 

「門限があるから八時には帰りたいのだ。マミーたち心配するのだ」

 

「聞きましたか!七時までに傷を治してきなさい!」

 

「メアてめ~~~!」

 

 背後から撃たれた形となったアークはちらりと横に目をやる。そこには遠い……いや、普段とあまり変わらない目をしたサンがいた。

 アークは少しだけ申し訳なく相手を気遣った声色で問う。

 

「……できる?」

 

「……お前はいつも無茶をいう。まかせておけ」

 

 心強い返答を受け。アークは携帯端末に言葉を吐き捨てる。

 

「……遅刻しても文句いうんじゃねーぞ!」

 

 捨て台詞をはいたのちアークは黙ってカプセルの中に歩みを進める。

 誰かのせいでタイムリミットは近い。

 


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