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ゴロゴロと転がったのち、立ち上がったリクの両腕には黒白の賽子が握られていた。
「デスロール!」
宣言と共に死を呼ぶ賽は降られた。
デスロールはリクの持つ唯一のSH能力。黒白の賽子の出目の合計に応じて威力の変わる巨大なエネルギー体を発生させるこの能力は、通常使用の場合、高い出目であればあるほど埒外の威力を持つが場合によっては自身にペナルティをも与える危険な能力だ。
今うえを向こうとている目は五・六。最高に近いその結果が出る、その前に。
「アークネード!」
「なっ!?」
新たな宣言が成立を阻む。
突如として室内に発生した中規模の旋風は死を空へと運び去った。
刹那。賽子の行方に気を取られ意識を逸らしたリクの顔面に膝が刺さる。だが、浅い。直前に行われたバックステップで勢いを相殺している。
爪先で着地したリクはターンを決め、未だ着地していないアークを横から殴っていく。熱戦に汗が散る。
打撃を受けたアークは全身に力を籠め耐えつつ、腕を脚を振り回し、その動きに合わせてチェーンソードを展開することで応戦していた。
初見に比べて慣れを得たリクは幾度か浅い切り傷を得ていくものの数多の攻撃を掻い潜り的確にアークの身体を穿っていく。口元から唾液が溢出し、あばら骨の折れる音がする。
「小細工を弄したところで所詮小手先。私との力の差は埋まりませんよッ!」
「抜かしやがって……もっと上げてくぞミニアーク!……あん!?」
肩上のミニアーク必死の横を向け!のジェスチャーにアークは視線を移す、ついでリクもそれに従う。
先程打ち上げられた賽子が今になって出目を出したのだろう。そこには猛烈な勢いで二人にせまるデスロールのエネルギー体が迫っていた。
「「ヤバ」」
異口同音の彼女らはとっさにとった対応も同じであった。お互い相手の腕を掴む逃げられなくする。そしてその上で相手をエネルギー体に直撃するように仕向けんと力を籠める。だが拮抗する力。身動き取れず。運任せの一撃が二匹を打撃する。
「「ッ…………!!」」
衝撃に散り散りになる二匹は共に着地姿勢を取る。先に獲物を捉えたのはアークだ。偶然にもリクの背面方向に飛ばされた彼女は、そのままワニを背後から打撃する。
「気付いてないとでも!」
だがそれよりもリクの振り返りと同時に放たれた裏拳がアークの脇腹を削り、抉る。チェーンソードの斬撃を防ぐ防御力と不規則な突起を持つ腕甲はそのまま鋭利な凶器となる。鮮血が噴出した。
「今といいおチビさんのことといい、少し自分に有利な要素が出来たぐらいで調子に乗り過ぎなんですよ貴方は。今から私との実力差というものをその身に刻み込んであげますよ」
膝をつき出血部位を抑えるアークを前にリクは高みから拳を鳴らす。
追い込まれたアークはそれでも拳を握り果敢に大振りに殴りかかる。リクはその様を嗤い思う。
(苦し紛れの一撃ですか。ならばその拳。希望とともに正面から打ち砕いてあげましょう!)
リクもまた左の拳をあえてアークの打撃と正面から衝突するように調整。激突する。その直前。
「ミニアーク!」
「ガッテン!」
二匹のサメが吠え、硬質な裂音が熱帯に響き渡る。
初撃同様、アークの拳はリクの拳に打ち砕かれてしまったのか。否。
「……馬鹿な!?」
亀裂が走しるは緑の腕甲。ワニの左腕。
一方。アークの拳は無事だった。それどころか異常なる変化が起きていた。アークの右こぶしは藍色に覆われその先端に長大な四角形の突起が付けられている。
「探索・打撃補助武装ハンマーナックル。いい仕上がりじゃねぇか。サン」
アークは製造者の顔を思い浮かべ不敵に笑う。