SHs大戦   作:トリケラプラス

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3-5 水中戦

「じゃ、いってくるぜ」

 

 無機質な白の空間。アークはミニアークを肩に乗せサンに背を向け。扉に向って駆けだす。一刻も早く目的地にたどり着くそういった足取りはあと数歩のところで止められる。

 

「まあ待て」

 

「うぇ?」

 

「クソマスター!?」

 

 肩を掴まれたような感覚を得たアークはそのまま数メートルを引き倒され気付けばサンの目の前に来ていた。

 

「?!え?何」

 

「……全く。お前はいつも人の話を途中で切り上げる。今回用意したのはミニアークだけではない」

 

「ソーナノ!?」

 

「マジで!?早くいえよ!見せろ見せろ!」

 

 想定外の追加に先ほど起きた事象も忘れ目を輝かせるアークと秘密兵器が自身だけでないことショックを受けるAI。そんな彼女らの元に運ばれてきたものは。

 

「シュモクザメの頭部をモチーフに製造した探索・打撃補助武装ハンマーナックルだ。装着した腕部の打撃力を飛躍的に強化する他、ロレンチーニ器官の構造を応用した電気探知に暗中の探知も可能だ」

 

「安直な名前ー……こんなんでほんとに役に立つ──」

 

 最後まで言い終わるまでにハンマーナックルを装着したサンのスローパンチがピトっとアークの胸に当たった。瞬間アークは弾き飛ばされゴロゴロと後転を繰り返す。

 

「クソマスター!!」

 

「闘いに行く前に何してくれてんだてめー!?」

 

 逆さまの状態で文句を叫ぶアークに下手人のサンは普段と変わらず。

 

「何、性能が信じられないようだったのでな。自身で体験したほうがより信頼も置けるものだろう?」

 

 転がったままのアークに手を貸しサンは天井を仰ぐ。  

 

「しかし、まあ。想定より強く飛んだな……」

 

「この野郎……!!」 

 

♦ 

「どうだぁ?得意分野で負けて自慢の装甲が自信ごと砕けちまった感想はよぉ?」

 

 アークの煽りに呆然としていたリクの意識は戻り打ち振るえ無事な右手に力がこもる。

 

「一度のマグレでいいきになるなよ。アークゥ!!」

 

 再び拳をぶつけ合う。リクの拳は先ほどより深く踏み込んだ音を切るストレートパンチ。入ればアークであってもしばし行動不能を余儀なくされる一撃。だがそれでも結果は変わらない。

 

「な……あ……ッ!?」

 

 ピシピシと走る裂音。指は内側に折れ曲がり装甲は剥がれゆく。それはやがて拳から腕、腕から肩へと衝撃が伝い骨髄が砕けゆく音に変わる。そして、衝撃が走る。

 衝撃はリクの矮躯を軽々と家屋数軒分吹き飛ばし。終着点である壁面に叩きつけ、それを砕き、バウンドさせる。

 地面へと落ちたリクは血反吐を吐き打ち震えた。

 

「あ、あり得ない……打撃で私が……打ち負けた?いやそれよりも今は」

 

 呟きを抑えるその左腕は幾つも装甲が剥離していた。ダランと垂れている右腕に至っては通常ではありえない方向に曲がっていて完全に折れていることが見て取れる。だがその両手には既に黒白の賽子が握られており投下される。

 手痛い一撃を受けたことで彼女の頭は既に冷えている一・六のデスロールを先行させ迫りくるアークに迂回を強いる。そして自身はその行動の起こりを見極めサイドステップ。デスロールを回り込んで避けるアークの更に外側、背後を取る。そして、肩口に喰らいつく。

 

「ふぅー……グルルルル」

 

「あッ!ギアぁ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

 

 リクは無事な腕と両足を用いて必死にアークの腕の動きを抑制して打撃を受けないように立ちまわる。一方振りほどけないと判断したアークは駆け壁面に向って跳躍。壁面と自身の間にリクを挟み叩きつける。

 

「ら”あ”!」

 

「……!!」

 

 剥がれない。二,三,四,五。繰り返す。剥がれない。更に繰り返す。壁面が砕け、繰り返すごとにリクの身体が埋まっていく。肉が剥がれ鮮血吹き出し、それでも剥がしきれない。

 

 リクはここで勝負を決めるつもりだ。ここを逃せば自身に勝機が薄いことをよく理解しているのだろう。必死の形相で喰らいついて離れない。

 

 一方アークは肩の感覚を失いつつも壁との距離を話し助走をつけて一気に叩きつけることを敢行する。

 

 衝撃に備えてリクが身構えた瞬間だ。その筋肉の動きが一瞬硬直する。閃光が走ったのだ。

 

 アークショック。壁面との衝突直前に放たれた電流により防御の構えをキャンセルされたリクはモロに助走の利いた戦闘系SHの全力体当たりを喰らい。たまらず顎を外す。

 リクは全てを失ったかのような感覚を得た。だが勝負は続いている。

 

(──不味い。だが彼女は背後を向いている。このまま後頭部をかち割ってあげますよ……!!)

 

 起死回生の拳の振り下ろし。その致命的な一撃にアークは。

 異常な速度の回転で向き直り対応した。

 アークネード超小規模展開。アークの周りに風をまとわせ回し。その回転力を自身の方向転換に利用したアーク。彼女はその埒外の遠心力そのままで振り下ろされる一撃よりも早く。打撃する。

 小規模台風の遠心力を得たハンマーナックルによる脇腹への横殴りは直ぐにその効力を発揮した。あばら骨は小枝のように音をたて次々折れ果て、衝撃を直接受けた内臓は揺れ、血液を逆流させる。

 打撃はリクを捕らえたまま一周を回り。そして力は解放される。

 ミサイルのような勢いで射出されたリクの行き先は水。水面を叩き割り水底深くまで押しこまれる。吐き出し空気に鮮血の色が混じり水に溶けていく。

 

(一瞬意識を失っていました……水中。だとすれば来ますか……!)

 

 直ぐにソレは来た。飛び込みと同時にプール全体を襲った雷はリクを捉えた。それは一瞬ではあるが心臓の鼓動を止める威力であり。隙を作るものであった。

 

(隙は一瞬。サメがなんですか。私もまた水中に適したSH。硬直が溶け次第その身体喰らい尽くして……ぐむぅ!?)

 

 一瞬のスキが致命的であった。アークはその刹那の内に三度。水中を揺蕩うリクの身体を打撃。回転させた。その威力は地上のものに劣るどころかむしろよりより凶悪さを増していた。

 連続する。

 殴る。蹴る。体当たりをする。刻む。噛む。打撃する。殴打する。食らう。抵抗の暇を一切与えない。

 アークもまた深手を負った身だがその動きは一切衰えを見せない。それどころか更なる加速と洗練を持って死に体のリクを襲う。

 

(馬鹿な……馬鹿な馬鹿な。これほどの……これほどの差があるというのですか!?反撃が、牙がまるで届かない。クソ……うぁ、ガハ!?)

 

 リクの鳩尾にアークのロケット頭突きが命中。衝撃を逃がすことなく圧し続ける。そして壁面に叩きつける。腹を圧されたことで大きな泡を吐くリク。その瞳は最早虚ろである。

 啄むように頭突きを繰り返し抵抗の力を奪う。そして掴み中央へと投げ捨て縦横無人に打撃する。

 

(呼吸の暇さえ与えられない……もう、酸素が)

 

 全方位から乱撃を受け薄れゆく意識の中でリクは思う。ここが己の終わりだと。打撃戦で負け、水中戦でもまた完膚なきまでに叩き潰された。だが不思議と悪くないと思っている。自身の持てる力を全てぶつけたという実感がある。その末に命を失うのであれば悔いはない。

 リクが最後にみたのは命を終えようとする自身にとどめを差そうと近づいてくる鮫の姿だった。それはゆっくりとこちらを抱き。そして。

 唇を奪い。息を吹き込んだ。

 

「!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 


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