SHs大戦   作:トリケラプラス

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第四話「英霊転生」
4-1 少女の休日


<かしこまった女性の声>

 埃にまみれた人類史(カートリッジ・ライフ)。人々の思念の堆積場にして万能の概念エネルギーであるソレは、この世界の隣に一方通行の壁を隔てて遥か昔から存在していたとされているカートリッジ・ライフは記憶や感情、事実に誤解を現実世界から受け取り、そして僅かな世界の隙間から超常現象などといった形で現実世界に影響を与えていたという。

 

 そんなあるとき日本のどこかで誰かがうっかり両者を隔てる壁に大きな穴を開けちゃったんだってさ。

 そこからはもう大変。カートリッジ・ライフから流出した概念エネルギーは現実世界を大侵食。世界各地で怪異や転変地異が大発生。未確認生命体も一杯現れたんだってさ。

 

 つまりどういうことかって?鳥取は一面砂漠になったしイギリスではどんな料理人が作っても食べ物がゲテモノになるようになった。らしいよ?

 

 幸い大穴は数年で一応封鎖されたけど現実世界への概念的侵食は深刻なもので世界の法則がそっくり変わってしまった。概念として刻まれたお約束がお約束としてある程度機能する世界。お守りを胸元に入れていれば銃弾から守ってくれるなんてことはよくあるしパンを咥えて走ってれば人と道で人とぶつかることもある。都市伝説の目撃なんて日常茶飯事さ。

 

 これはそんな書き換わった世界の出来事。だから何が起きても不思議じゃぁない。おや……これは……驚いた。泉から剣が浮き上がってきた。こんなことも起きるってことだね。全く見ていて退屈しない世界さ。さて、彼女は今度はどんな話を見せてくれるだろうか。

 

 ♦

小鳥たちの歌声のような囀りに、朝を告げる暖かな日差し。部屋に入り込んだそれが少女の耳元に、眠り眼に届いた時。彼女は眼を擦りベッドから体を起こす。

 

「ぶわぁ~、朝なのら~」

 

 弛緩しきった表情で気の抜けた声を上げる少女、メアは、小学五年生女子にしては乱雑に物が散らばった床を脚でかき分けながら部屋を後にした。

 トテトテと覚束ない足取りで階段を降りると彼女の鼻孔には焼けたトーストの香りが漂ってくる。ダイニングに向えばそこには彼女の二人の母親がいた。

 

「おはよーなのだママ、マミー」

 

「はい。おはようメアちゃん」

 

 「おはよう。さあ顔を洗って朝食にしよう」

 

 促されるまま彼女は洗面所で顔を洗い、彼女には少し高い椅子に座りトーストに噛り付く。するとつけっぱなしのテレビの画面が目に入った。どうやらニュース番組のようだ。

 

「ご覧ください!ここ、方舟市の湖では沢山の人で溢れています。今朝湖から浮かんできたとされる謎の宝剣を一目見ようと集まったようです」

 

 画面の向こうのリポーターは慌てた声でその場の状況を視聴者に伝えていく。そして近くにいた老人にマイクを向けると。

 

「ここで第一発見者の方に話を聞きましょう」

 

「ああ……今朝何時ものように兎飛びで湖の周りを散歩しておったんじゃよ……そうしたらの、湖の方から何やらぶくぶくと音がしおってな。なんじゃろうなぁ怖いなぁと思って覗き込んでみたら水面からドバーと剣が浮かび上がってきたのじゃ。刺さった岩ごとな。全くおかしな世になったものよなはっはっは」

 

「なるほど~不思議なこともありますね……あ、アレは……皆さん見てくださいアレです!離れていてもわかるこの絢爛さ。まさに聖剣というにふさわしいものです!」

 

 リポーターが指し示す方には岩に突き刺さった各部に宝石があしらわれた豪勢な剣。それが市の職員たちによって厳重に運ばれていた。

 

「この剣は不思議な来歴や各所にあしらわれた宝石もあり鑑定次第では数千万の値が付くのではないかとも言われています。この後は市の所有物として保管されるようです。またこの後は市長からこの件について正式な声明が……」

 

 テレビからは地元で起きた奇怪な事件についてのあらましが流れていた。そんな事件に当然好奇心の塊は

 

「ふぉぉおおおおおおおお」

 

 眼を輝かせテレビに張り付いていた。

 

「スゲーのだ!聖剣なのだ!ここから剣とまほうのバトルファンタジーが始まるのだ。竜のそっ首落とすのだー!」

 

「コラ!メア。食事中にはしたないぞ。せっかくママが作ってくれた朝食だ。ちゃんと座って食べなさい……と」

 

 メアの母親にして方舟市の自警団団長を務めるアルは突如かかって来た電話に慌てて応対する。

 

「はい、今からですか。あの、我々としてもそう何でも協力できるわけでは……はい」

 

「ほぐっ、ほぐっ。ごひほーはまでしたなのだ!ひっれきますらのらー!」

 

 厳しい母が目を放した隙に一気にほおばり食事を終えると有無を言わさぬ速度で玄関まで駆けだす。

 

「夕ご飯までには帰って来るのよ~」

 

「ほふはのは~!」

 

 少女の休日が始まる。

 


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