SHs大戦   作:トリケラプラス

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4-2 真夜中の騎士

 メアはとある一軒家の前に訪れていた。突き穿つようにインターホンを押す。すると気の抜けた呼び出し音が鳴った後。機械音声が問いかける。

 

「合言葉は」

 

「無利息無返済」

 

「お入りください」

 

 扉のロックが開き小さな体で開けると。玄関には腰に手を当て立っているサメの尾を持つ少女がいた。彼女はメアの姿を確認するとニッ、と口を開く。

 

「ふっふっふよく来たな」

 

 その言葉を合図にメアは地面を蹴り跳躍。

 

「よく来たなじゃねーのだ!約束の時間なのになんでまだ家をでてねーのだ!!」

 

 ドロップキックをアークにぶち込んだ。

 

「てー!蹴るこたねーだろぉよぉー!?」

 

「けることしかないのだ!さっさと行くのだ湖の冒険にレッツゴーなのだ!!」

 

 ずるずると引きずられようとするアークをポケットから這い出てきたAI、ミニアークが制止する。

 

「へいへーいと、なんだよミニアーク」

 

「クソマスタータチ、テレビ見テミナ面白イノヤッテンゼ」

 

「「テレビぃ?」」

 

 メアたちが居間でテレビを点けるとちょうど何かの記者会見といった光景が画面に映し出されていた。

 

「市長!この度の会見では今朝発見された宝剣について重大な発表があるということでいいのでしょうか?」

 

「市長!」「市長!!」  

 

 

 市長と呼ばれ多数の記者に詰め寄られているのは少し恰幅のいいスーツ姿の女性だ。

 

 「まーまー君たち落ち着きなさい。物事には順序というものがあるのだよ。どんな情報も話すタイミングを間違えればゴミ同然さ。逆もまた然り。そんなこと、私よりも君たちの方がよーくわかっているだろう?」

 

 その言葉に記者たちは静まり返り。代わりに市長はウム、と満足げに笑い。口を開く。

 

「それでは始めよう。諸君らの聞きたがっている聖剣。それを用いたわが方舟市の一大ニューイベントについて……ね」

 

【挿絵表示】

 

 方舟市市長アトイ。歴代市長の誰もが欲望の赴くまま市長という権力を振りかざしてきたためいずれも短期政権で終わった中、例外的に長期政権を続けているのがこの女市長である。

 とはいえアトイも別段清廉潔白に活動しているわけではない。ある時は市内にかかっていた表現規制の一斉解除、またある時は一部区画の爆破解体セレモニーを執り行うなどむしろ歴代のどの市長よりも傍若無人に振舞っている。そんな彼女が長期政権を維持している理由はただ一つ。方舟市の住民にとって益となるからだ。

 規制緩和には先代市長による締め付けで市外に逃げた表現者達が戻り。爆破解体セレモニーでは方舟市を根城に活動するありえん。に大打撃を与え治安維持に貢献すると共に市内外からの見物人を集める名物イベントと化している。

 アトイは異能といえるほどに金の匂いを嗅ぎ分けることに長けていた。ゆえにこの場の記者たちは一様に確信する。詳細定からぬが市長のいうこのイベントもまた、当たる。と

 

「今朝、方舟市の湖に出現した剣だが。鑑定の結果埃にまみれた人類史由来と思われる未知の成分を多く含んでいることが分かった。つまり、船来の品ということだねえ。はたまたこれにどんな由来があるのかと考えてみたいのだがね?まさにこれだ!というものがあるじゃあないか」

 

 一呼吸を置き。彼女は言う。

 

「アーサー王伝説における聖剣エクスカリバー。湖から浮き上がりし剣というのはまさにそれだ。岩に突き立って抜けないあたり選定の剣と混ざっているかもしれないけどね。ともあれ、だ。そんなものが我が市で発見されたのならばやることは一つだよ」

 

 両の手を広げ意識を集め、放つ。

 

「方舟市市長アトイは今ここに第一回ネクストアーサー王だ~だれだ大会の開催を宣言しよう」

 

 一瞬の静寂の後。記者たちの疑問が市長に殺到し騒然となる会場。絶え間なくたかれるフラッシュが目に悪い。

 

「うんうん。驚いてくれたようでなによりだ。それじゃあ会場が温まっているうちに概要説明といこうかな。諸君、こちらに視線をくれるかな」

 

 そうして市長が右腕を差し出すと手のひらから現れたホログラムが現れ巨大化する。それは先ほど発表されたイベントに関する資料だった。資料にはアーサー王らしきフリーイラストがふんだんに使われたそれは子供でもわかりやすく、不思議と心躍らせられるものだった。市長はそれらをスライドさせつつ解説を続ける。

 

「このようにアーサー王伝説をモチーフにした市全体を巻き込むイベントを開催する。参加資格は自由。市民だろうが観光客だろうがありえん。だろうが振るって参加してくれたまえ。そしてこのイベントで最も優秀な成績を収めた者には優勝賞品を贈るそれは……」

 

 指を弾く音を合図にいつの間にか市長の横に現れていた何かを覆っていた布が剥がされる。現れたものは話題の渦中にあるものだった。

 

「この聖剣エクスカリバーだ。言っておくがレプリカではないよ。正真正銘今朝発見された物が景品だよ」

 

 一イベントの景品としてはあまりにも豪華な景品に対して飛ばされる矢継ぎ早な質問に対して市長は耳を貸すポーズをとった後次々と答えていく。

 

「何?権利?世界アーサー王協会には既に話を通しているから安心したまえ。ほんとだよ? そんな貴重なものを一市民に委ねていいのか?これは来歴が来歴だからねえ、わかるだろう?いくら我々が厳重に保管したとしてもいずれ資格のある者が引き抜いて勝手に持って行くさ。渡さなかったら渡さなかったで災いでも起こるだろうしねえ。だったらいっそ景品にでもして我が市を盛り上げるのに一役買ってもらおうじゃあないか。何、これはイベントにして試練だ、生半可な者の手には渡らんさ。最近体重が増えられましたよね?どうしてそれを君が知っているんだい?」

 

 そして質問の波が落ち着いた頃を見計らって市長はよく響く拍手を一発。場の主導権を再び自身に戻す。

 

「さて、このイベントは一週間後。来週の日曜日に実施予定だ。期間中は方舟市周辺の宿泊施設や観光施設は割引が効くように手配している。君たちの参加をここからお待ちしているよ。それじゃあ今日の会見は終了。イベントについての続報は市のホームページから発信していくからチェックしてくれたまえ」

 

 そして会見は終了し。次の番組が始まるまでのコマーシャルが流される。アークとメアは黙って互いに目をやり。

 

「なん……か面白そうなイベントが始まるみてぇじゃね~かよー!」

 

「あの剣。今朝テレビでみたのだ!数千万から……もっとするかもしれないって話なのだ!」

 

「マ、マジで……!?おいメア……絶対……絶対優勝するぞわかってんだろなおい!」

 

 金になるその事実がアークの心に火をつけメアもまたそれに同調する。二人は手をとり踊り。机の脚に躓いて転倒する。

 

 すると呆れ切った様子のミニアークが公式サイトのページを出してやる。

 

「ホライベントニツイテ色々更新サレテンゼ。セイゼイ読ミ込ンデ当日無様ヲ晒サネエヨウニシロヨ」

 

「ほむほむ、当日は合戦やクイズ、レースなどが行われます。3人以上のチームを組むことがあるのであらかじめ知り合いをさそっておくのも有効です。なのだ」

 

「チームに……クイズな。ま、当てがないわけじゃねえそっちはまかせときな」

 

 その言葉にメアは怪訝な目を向け。口をとがらせる。

 

「え~アークに人脈なんてあるのだ~??心配なのだ~!」

 

「いいから任せとけってんだよ!!」

 

 くすぐり合いを始めた浮かれた小学生とサメ。二人を待ち受けるものは果たして……。

 

 まだ少し肌寒い夜風が吹く商店街に撃音と共に男たちの野太い叫びが響き渡る。

 商店街の路面には厳ついファッションの男達が鉄パイプなどの物騒な武器と共に死屍累々と倒れ込んでいる。その中心には身を寄せ合い買い物袋を手に持った母娘と外套を羽織った老人がいた。そして彼らの後方で麗人が剣を鞘に収め一息をつく。

 

「こっちは終わったぞ。そっちは……聞くまでもないか」

 

 言葉の先、悪漢たちが最も密集して倒れている場所に一つの影があった。身長百八十センチを越さんとする巨躯にその頭部以外をすっぽりと覆う鋼の鎧に身を包み。背には荘厳なマントを棚引かせ、頭には小さな赤の王冠とそれを挟み込むように熊のような丸い耳が生えていた。

 

「……無論。片はついておる。このような雑兵共何百と集まろうとも余の敵ではないわ。それよりも……」  

 

 鎧姿の女は悠然と母娘の元に歩きその姿を見るとその手を取り。掌に口づけをする。

 

「ウム。怪我はないようだなご婦人方。この辺りは蛮族のような輩も出るゆえ気を付けてな」

 

「あ、ありがとうございます……なんとお礼をいっていいのか」

 

「よい。余は王として臣民を守ったに過ぎん。礼など求める方が無粋というものだ。ではマーリン、ケイ。行くぞ」

 

 従者二人を呼びその場から去ろうとする熊耳茶髪の女のマントの端を掴む者がいた。助けられたという娘だ。

 

「どうした少女よ?まだ何かあるのか?」

 

「おねーちゃん。ありがと。これ、おいしいよ」

 

 彼女が差し出すのは買ったばかりと思われる袋詰めの菓子。巨躯の女は屈みそれを受け取ると

 

「礼をいう。最上の褒美だ」

 

 柔らかな笑みを見せ再び歩み出し。やがて夜の街に溶けて消えていった。

 

「ママあの人たちかっこよかったねー」

 

「そうねー。でも真似しちゃ駄目よ。絶対よ」

 

 母娘と別れた熊耳の女性は褒美に受け取ったお菓子をもっきゅもっきゅと頬張りながら従者を連れ歩いていた。甘味を愉しむその顔に一枚の紙が飛来する。

 

 彼女は従者が動く前に空いた片手でそれを受け止めまじまじと紙面を眺める。すると呆れたような一息し、側に控えていた麗人に紙を渡す。

 

「ネクストアーサー王だ~れだ大会……これは」

 

「下らぬ催しだがそれもいいだろう。紛い物どもに渡す聖剣はない。誰が真の王か、今一度世に知らしめてやろう。余らも参加するぞ。支度をせよ。次の目的地は方舟市だ」

 

SHs大戦第四話「英霊転生」


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