SHs大戦   作:トリケラプラス

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4-7 方舟市

 セカンドステージを終え。参加者たちや観客は次の会場へと足を運ぶ。そのような動きの中でイベントスタッフたちは慌ただしく動いていた。唯一人。パイプ椅子に座り扇子で自らを扇いでいる市長アトイを除いてだ。やがて彼女の元に無線での連絡が来ると彼女は耳を傾ける。

 

「ハイハイみんなの愛され市長アトイだよ。どーぞー」

 

無線の先から聞こえてくる声はアトイの砕けた態度には取り合わず。冷淡に業務報告を行う。

 

「動物たちの誘導は終わったぞ。いつでも始めていい。だがわかっているな。この件が片付いた後、破片の一つでもパーク内に残したらお前らの」

 

「命はないと思えかい?怖い怖い。お上の方々よりもリト君の言葉のほうがよっぽど身が引き締まるねぇ」

 

「御託はいい。協力の見返りは覚えているな」

 

「パーク内の保全予算と動物医療に関する予算の増加だろぅ。よきにはからっておくよ。ドーンと構えていてくれたまえよ。私が約束を違えたことがあるかい?」

 

 その言葉に相手は無言で通信を落とす。

 市長は視線を落とし首を二度三度振るう。するとちょうど隣の席についたヒカリが声をかける。

 

「何か問題でも起きたんですか?」

 

「いいや。ここまでは順調さ。気にしなくていいよ君は楽しんで実況でイベントを盛り上げてくれればそれでいい。それが一番得になる。ということでそろそろサードステージの会場を映そうか」

 

 サードステージについての解説は方舟市内に存在するサファリパーク内で行われようとしていた。普段はそこら中に闊歩している動物たちが影も形も見られない光景は普段のこの場所を知るものほどどこか不気味に感じられるのだった。

 <女性の声>

 方舟市。その名の由来は聖書に登場するノアの方舟から来ている。単に市内の宗教色が強いというわけじゃない。方舟との繋がりは市のある特徴によるものさ。

 

 よく知らないけど旧暦と比べてその気候や植生、生物分布が著しく狂っている換歴においても方舟市のそれは一際異常と言えるらしい。気候は旧暦の日本と大差がないんだけど、その移り変わる四季に本来適応するはずのないものたちも含めたありとあらゆる生物群が平然と生息しているんだ。そこには極寒に住まうペンギンがいて、熱帯に住まうワニもいてサバンナに住まうライオンがいる。

 

 数多の動物が闊歩する様を世界中の動物たちをその船内に収めたノアの方舟に例えられているんだ。

 

 なお、この動物たちは普段は決して街中に入ってこないだけではなく付きっ切りで見張ってもいつの間にかどこかに消え。またいつの間にかやってくるという特性を持っており。目下研究の対象となっているそうだよ。実際に触ったりできるそうなのにどこに消えているのやら。

 

 方舟と市の関係はそれだけじゃあない。遺物が出土したんだ。ある時、現在のサファリパークが存在している土地。その地下から巨大な黒の方舟が発見されたの。当時の調査書によれば内部には夥しい数の動物の骨が残っていたとされ。内部では数多くの動物が共生していたと推察されこれを伝説のノアの方舟そのものでありそれが流れ着いたのがこの土地であるとされる論が流れた。また、これは流れ着いたものではなく埃にまみれた人類(カートリッジ・ライフ)史とつながった結果そこにあったということになったという説もまた流れたようだね。どちらにせよこれらが方舟市の名の由来となったことには間違いはない。ちなみにこの方舟は市で厳重に管理されていたがいつの間にか展示は取りやめられておりその行方は不明となっている。全くどこにいったのやらだね。今度気が向いたら探してみようかな。

 

 数も減ったイベント参加者たちの前で桃色の低身長の女性がマイクを携え話始める。

 

「イベントスタッフのエレインですぅー。これからサードステージ。チキチキ荷車の騎士レースについて説明させていただきますぅー」

 

<女性の声>

 

 解説しよう。荷車の騎士とは伝説に登場するアーサー王の騎士、ランスロットを主人公とした物語であり彼の騎士の異名の一つさ。

 

 ある時アーサー王の妻グィネヴィアが拉致された。ランスロットは彼女を助けるため荷車に乗る必要があったのだが彼は俊住する。なぜなら騎士の間では荷車に乗ることは大変な不名誉であるとされていたからさ。だが彼は愛する人を助けだすため。荷車に乗る決断をする。そして最終的にはグィネヴィアを助けだすという話さ。

 

「サードステージではその名の通りこちらに用意された荷車型レースマシーンを利用して妨害ありのカーレースを行ってもらいますぅー。皆様にはセカンドステージと同じメンバーで一つの荷車を運転していただきますぅ。基本的に運転手一名それ以外の方が妨害・防御役を務める形になりますねぇ。人数が多い方が妨害の手数は増えますが重量が増えるため速度が出づらくなってしまいますので気を付けてくださいぃ。妨害用のアイテムはこれまでの順位に応じてそれぞれの荷車内に設置しているので利用してみてくださいね~」

 

 そういうと彼女は参加者たちの前に並べられているサファリパークに不釣り合いな鉄馬に曳かれた荷車風の六輪車を指し示す。この荷車に対する反応は様々だ。

 

「え、コレ運転すんの?」

 

「うちは人数多いから位置取りと妨害を上手くやらねえと置き去りにされるな」

 

「ていうかコレさっきのステージで見た気がするんだけどもしかして使いまわし?」 

 

 そのように騒めく中で実況席から声が飛ばされる市長のものだ。

 

「さっきの奴を使いまわしたんじゃないよ……今回のステージのために用意したものをさっきのステージでも使っただけのことさ」

 

「「それを使回しっていうんだろうが!!」」

 

「仕方ないだろ~予算と時間が足りなかったんだ。そのぶんその荷車を運転するうえでの安全性と性能は保障するからさ~。許してよー」

 

 金と時間を出されては仕方ないと参加者たちが拳を降ろしたのを見計らい、エレインは解説を続ける。

 

「コースはサファリパーク三周分。光りの道しるべがあるので道に迷うことはないはずなので安心してください~」

 

 彼女がそういうとスタート地点付近から光の玉が次々と浮かび上がり。それらが光のラインで繋がり一つのコースを形成する。

 

「コースアウトと走行不能で脱落となります。それでは5分後に開始しますぅ。皆さん準備の程よろしくお願いしますぅ」

 

 春とは思えぬほどの乾いた風が大地を拭う。サバンナの平原の如き大地に鉄の馬車が立ち並ぶ。数は数十台。いずれも既にエンジンを可動させ激しく振動している。荷車に搭乗する者たちはみな今か今かと発進の時を持っている。

 そんな彼らの眼前にシグナルランプのホログラムが現出する。カウントダウンの電子音と共に一つ一つシグナルが点灯していく。そして三つ目のランプが点灯すると共にけたたましい音が響き渡り鉄馬車が一斉に走り出す。レースの開始だ。


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