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激走する車群。その最前線にアークたちはいた。ランカが運転を務めアークとメアが付与されたバナナ型トラップで妨害する。そういった役割分担だ。
『現在総ポイント数二位のアーク選手率いるチームアークは絶好調。これまでの雪辱を胸に今度こそ一位をキープできるのかー!?おおっとここで一台抜けて来たー!』
そんな彼らの元に一台の荷車が幅を寄せて来る。
「やあ、アーク、メア。こんなところで会うとは奇遇だね」
荷車に乗る男二人、女一人のメンバーはアークも知っている顔だった。
「フランク!ネビル、えーと、クラーク!」
「なのだ!」
「なんで私の時だけ言いよどんだの!?」
吠えるクラークをフランクが制し。二台の荷車はしばし並んで走行した。
「嵯峨での時は途中から記憶が曖昧になっているけどこうして無事再会できたってことはお互い何とか切り抜けたんだろう。よかった」
「あ、ああ……そ、そうだなー。あの時はー大変だったな~。なーランカ」
「そ、そうでござるな~!あの時はやらんかも酷い目にあったでござるが。こうしてみな無事に再会できてよかったでござるな~!!」
じっとりとした視線をメアから向けられ上ずった笑いでごまかすランカ。それを他所にフランクは懐かしそうに語り出す。
「そういえばあの時二人には七十二の規則のうち二つしか教えられなかったな。ちょうどいい今日は俺が作り上げた運転の規則八十四個を全て叩き込んであげよう。あ、ちょっとネビル。規則二十七。だめだろそんなに幅寄せしたら。規則十五。ほらちゃんとブレーキに足を置いて、規則三。周囲を確認」
「鬱陶しい!!じゃあアンタが運転しろよ!!」
規則のがんじがらめで痺れを切らしたネビルは怒声と共にハンドルから手を放す。
「「あ」」
当然制御を失った荷車は緩やかなカーブを曲がり切れずコースアウト。その先にあった沼に頭から突っ込むみ、アークたちはそれを尻目にトップを激走する。
「なんか……規則で色々縛り過ぎてもよくないよな」
「ウム。規制ばかりの状況でいいものは生まれない……とはいわぬでござるがやはり自由にやったほうがいいかと思うでござる」
「ところでアーサー王はどこにいるのだ。さっきから後ろ見てるけど全然見当たらないのだ~」
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レース開始直後へと僅かに時は巻き戻る。サードステージスタート地点。多くの荷車が旅立っていったこの地にたった一つ。荷車が取り残されていた。
「あーっと!アルトリウス選手率いるチーム円卓。スタート地点からピクリとも動きません。何やら言い争っているようですが。一体なにが起きているのでしょうか」
実況の言う通りアルトリウスは荷車に乗ることなくスタート地点に留まっていた。チームメンバーのケイと呼ばれる麗人やイベントスタッフに促されても決して荷車に搭乗しようとはしない。
「ですからぁ~セカンドステージとはことなり激しいぶつかり合いもありますので安全性を考慮すると荷車部分以外への登場は許可できません~」
「ふざけるな。余に荷車に乗れと。囚人同然の扱いを受けよというのか!そんな辱めを受けるぐらいなら押していった方がまだましだ」
激昂するアルトリウスを窘めるためケイも口を出す。
「民を困らせるのは王の仕事ではないだろうアルトリウス。郷に入っては郷に従えだ。イベントに参加するならばルールに従うべきだぞ。駄々をこねている間にもどんどん差は広がっている。お前は聖剣が他のものの手に渡ってもいいのか?」
「それは……そうだが」
「わかっているなら早く乗れ。マーリンがもううたたねを始めてしまうぞ」
アルトリウスは深いため息をつくと不承不承といった所作で荷車に乗り込み運転を開始する。所作を
「えー何か揉めていたようですが。無事解決したようですね。ここまでトップの成績を収めているアルトリウス選手。既にかなりの差が開いてしまったが巻き返せるのか!?大逆転劇に期待したいところです!」
騎士王による怒涛の追走劇が幕を開ける。