♦
サードステージを終え、フォースステージが始まるまでの間には一時間程の昼休憩があり、アークたちは昼食を取るために屋台が立ち並ぶ大公園周辺を散策していた。そんな彼女らの元に声が掛けられる。
「メア」
「マミー!お仕事中なのだ?」
「ああ、市長に駆り出されてイベントの警護役だ。このイベントにはありえん。連中も多数参加しているからな、お前も気をつけなさい」
メアの母親の一人、アルは方舟市の自警団の長を務めており日夜ありえん。ものどもの対処に奔走させられている。今回は市長の提示した景品によって各地からありえん。が集まっており取り締まりにも苦労しているようだ。
「それはそれとしてだ……」
「のだ?」
彼女は屈みメアに目線を合わせると、両の頬を摘まみ引っ張る。
「初戦の騙し討ちはなんだ~!?確かに自分の身に危険が迫ったら手段は選ぶなと教えているがこういった場で卑劣な手段に出ろとは教えてないぞ!余計な遺恨を振りまくような真似は止めなさい!」
「いだだだだだだ!ごめんなはいなのら~」
「なはははははは!オメーのかーちゃんおっかねーのな~ベソかいてやんの」
「神をも畏れぬ破天荒ぶりのメア殿も御母上には敵わぬのでござるなあ。いいものを見たでござる」
「ひひからはふけるのだ~!!」
教育的制裁から解放されるとメアはアルの元を離れアークとランカを一通りどつくと後ろに隠れた。アルは立ち上がるとアークたちの顔を確認し。
「メアのチームメンバーか」
「やらんかと」
「アークだ」
「娘が世話になっている。メアの母親のアルだ。特にアーク……さんにはそれはもう色々なところに連れて行ってもらっているようで」
「あ、ども」
頭を下げたアルの言葉にメアが反応し。
「アークのことマミーには言ってないのになんで知ってるのだ!?」
「自警団には市民から日々さまざまな情報が寄せられる。アーク……さんのように有名な相手と一緒にいればすぐに情報が入って来るさ」
アルはアークに向き直り両肩を掴むと。
「くれぐれも娘が危険な場所を教えたり怪しい遊びを教えるなどといったことがないように……よろしく頼む」
「う、ウース……」
保護者の圧力に負けたアークは冷や汗をかき顔を逸らす。アルはアークを解放するとメアに話しかけ。
「ああそうだ、トウコが弁当を持ってお前を探しているぞ。はしゃぐのもいいがちゃんと携帯の確認もしなさい」
「ママが!ほんとなのだ!見つけにいくのだ。いくのだアーク、やらんか」
情報端末の通知を確認したメアは急ぎアークの手を引き、アルに手を振ると駆けだす。
「おいおいそんな急がなくてもいいだろ」
「アークはわかってないのだ。本当に怖いのはマミーよりもママなのだ!ママきっと重箱にいっぱいご飯を入れてるのだ。時間が足りなくなってお残しとかしたら後が怖いのだ~」
「お……おお……」
いつになく焦燥した口ぶりのメアに若干引きながらもついていくアーク。屋台通りのごった返す人ごみを掻き分け、進む。途中ランカの姿が見えなくなるが無視して進むと広場に出る。当たりを見渡しその目に重箱を抱えた柔和な女性の姿を確認するとメアは安堵の声を上げ。
「ママ―!」
「メアちゃんみーつけた。あら、そちらの人はメアちゃんのお友達?丁度いいわ、お弁当作り過ぎちゃったの。よかったら一緒に食べていきませんか?」
「マジ!?ただ飯だ!やったぜ」
♦
アークたちが賑わう広場の空いた一角にブルーシートを敷いた後、メアのもう一人の母親、トウコは重箱をシートの上に降ろし一息をつく。
「手伝ってもらってごめんなさいね~助かったわ~。メアちゃんの新しいお友達は親切ね~」
「いやアタシは……」
「そうなのだ!アークは友達じゃなくて下僕なのだ!」
「メアちゃん~?」
アークがたどたどしく言い切る前に食い気味に言い放つメアだったが直後に体を震わせる。穏やかな声色と異なりトウコの目は笑っていなかった。
「駄目でしょう?仲よくしたい人にそんなこと言っちゃ~。ごめんなさいね~この子アルちゃん……もう一人のお母さんに似て素直じゃないから。これからも仲良くしてあげてね」
「あ、ああ」
「ム~なのだ」
トウコは膨れるメアをなだめると重箱の蓋を開いてやる。そこにはハンバーグやコロッケ、エビフライというお子様ランチのようなラインナップが所狭しと敷き詰められていた。
「美味しそうなのだ~!早くいただきますなのだママー!」
「ハイハイその前に飲み物を淹れましょうね~。あらやだ、私ったら水筒をお家に忘れて来ちゃったみたい……メアちゃん、コレ渡すからあそこの屋台で飲み物を買ってきてくれる?お釣りはお小遣いにしていいから」
トウコから千円札を手渡されたメアは目を輝かせアークを囃し立て。
「何をぼーっとすわっているのだアーク!さあジュースを買いに行くのだ!」
「え~一人で買いにいけよー。ちょ、やめろ、わかった行くから!」
「あんまり変なの買っちゃだめよ~」