SHs大戦   作:トリケラプラス

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4-16 アーサー王の真実

 前線を離れ近場の茂みに移ったアークたちは近くにカメラやイベントスタッフがいないことを確認すると話を切り出す。

 

「で、何が起きてんだよ?そこで寝てるアルトリウスってやつによ?」

 

 アークの言葉通りアルトリウスは樹木に背を預け、眠りについていた。その眠り顔は穏やかなものではなくしきりにうなされ、その大きな身を捩っている。

 

「兄ちゃんたちはSHなのだ?そんでカルヴァリーの一員なのだ?」

 

「メア、一個間違いがあんぞ。ここには女しかいねえ」

 

 アークがメアの言葉を訂正すると質問を投げかけられた鎧姿の麗人は薄く笑い。

 

「フ、そうだ。私、ケイは女だよ。よくわかったな」

 

「その腰つきは誤魔化せねえよ。で、どうなんだよ?」

 

「ああ、やらんかたちも一応カルヴァリーの関係者だから安心していいでござるよ~(若干嘘)」

 

「そうだな。ここにいないマーリンも含め、カルヴァリーに所属していることは間違いない。だがSHであるのはそこのアルトリウスだけだよ。SHクマだ」

 

 そこにいる皆がアルトリウスに視線を向ける。確かに彼女の頭部に生える耳は熊そのものであった。

 

「アルトリウス殿がクマであるというのはやはり、というところにござるな。しかしそれでは急に倒れた理由が余計にわからんでござるな。多少の攻撃ではびくともせんでござろうし、クマが苦手そうなことも特に発生してなかったように思うでござるが」

 

「そこが厄介なところだ。アルトリウスにはSH以外にももう一つ特別なものをもっている」

 

「特別?」

 

「ああ、」と肩をすくめケイはそのまま話す。 

 

「アルトリウスにはアーサー王の記憶が存在する」

 

 衝撃的な告白に一堂は静まり返りやがてランカがゆっくりと口を開く。 

 

「そういえば聞いたことがあるでござる。昔カルヴァリーでは他のありえん。と協同して過去の偉人たちをこの換歴の世に蘇らせようという実験が行われていたとか……まさか成功していたとは」

 

「正確には偉人たちの記憶や人格を引き継いだ人間を作る実験だったがな。私やマーリンはそのための補助役だ。アルトリウスは最初はただの少女だった、だが十二の時、カートリッジ・ライフと繋がったのだろう。ありとあらゆるアーサー王の記憶が彼女に流れ込み、以来アルトリウスはアーサー王となった」

 

「じゃあセカンドステージでのたまってたことは本当のことだってことかよ。いや、なんかおかしいぞ。アーサー王の記憶が入ったからって別に後世のアーサー王作品に対して詳しくなるわけじゃねえだろ。なのに何であんときゃスラスラ答えられてたんだ?まさかアーサー王本人の記憶があるやつがいちいち自分モチーフの作品をお勉強していったとか言わねえよな?」

 

 アークの疑問にケイは目を伏せ。観念したように答える。

 

「実験は成功に思われた。だが、そこで予想外の事態が起こっていたんだ。アルトリウスにカートリッジ・ライフから流入したのは正当なアーサー王の記憶だけじゃない。後世に作られた伝承、叙述詩、物語。ありとあらゆる媒体のアーサー王としての記憶が、人生が全て等しく流れ込んでいたんだ。アルトリウスはかつてこの世に存在していたアーサー王であり、宇宙を統べる宇宙騎士王であり、変形生命体の司令官でもあるというわけだ」

 

「そんないっぱいきおくを持ってだいじょうぶなのだ?あ、だからなのだ?」

 

「ああ、アルトリウスは様々なアーサー王としての記憶が混濁し、自我を侵食している状態だ。それを普段はアーサー王としてのイメージを統合した人格を演じることで押しとどめていたようだが、ここ最近はそれでも抑えが効かない時があってな。特にこのイベントはアーサー王としての自我を揺さぶる仕組みが多かったから限界が来たんだろう」

 

 あくまで淡々と話すケイにアークは食ってかかる。

 

「じゃあ何でこいつがここに来るのを止めなかったんだよ!こうなるのは予想ついただろ!なあ!?」

 

「落ち着くのだアーク!」

 

「我々がこのネクストアーサー王だ~れだ大会への参加を決めたのはきっかけを求めてのことだ。組織の専門家からこの症状について一つの見解を貰っていてな。それは己のアーサー王としての役割が、生がとうに終わっているということを強く自覚させること、だそうだつまり何もかもが終わった過去のことだと認識させて、自分から切り離すということだな」

 

「随分リスキーな手段にも感じるでござるが……確かに放置していてもジリ貧でござるからなぁ……」

 

「アルトリウスは元々とても穏やかで、日がなボンヤリと木陰で座りながら蜂蜜を舐めているのが好きな奴だった。幼い奴は夜私の部屋に現れて、アーサー王になんてなりたくないと、そう泣きついていた。私はそれをただ宥めることしかできなかったな。今の奴は記憶に振り回され、無理に騎士王たらんとしているようにも見える。解放してやりたいんだ。ありもしない重責から」

 

「んだよそれ……」

 

 アークは納得できぬというように呟く。思い起こされるのは過去の記憶だ。苦く煮えたぎるような後悔の海だ。”彼女”がただただ使い潰され、削られていくのを見ているしかできなかった自分。あのような結末にしか辿りつけず逃げるように泣き喚いた過去。ソレを思い出したアークは立ち眩みを覚え膝をつく。

 

「アーク!?」

 

「……はぁッ!あいつら……は……毎度毎度人を何だと思ってやがる……気にいらねぇ、気にいらねえよ!だからよぉ~!」

 

 調子を気遣うメアたちを他所にアークは眩暈も怖気も振り切って立ち上がる。そして先程得た醜い嫉妬など忘れ叫ぶ。

 

「やってやるよ……アタシが!こいつをアーサー王から解放してやる!!」

 

「アーク殿ぉ~聖剣売却というか……借金返済の件は忘れんで欲しいでござるよぉ~?」

 

「それもやる!!」

 

「アーク、君はアルトリウスとは今日会ったばかりの、それにイベントでは敵対している間柄だろう。それでも救うというのか?」

 

 問いただすようなケイの麗し眼差しにアークは嘆息し答える。

 

「別に、救う気はねーよ。こりゃアタシの個人的な……リベンジだ」

 

「そうか、聞いていた通り……いや、それよりも真面目な奴なんだな君は。そういうことなら君にアルトリウスを任せてみたい。珍しいことにアイツも君のことを意識しているようだしな、いい刺激になるだろう」

 

 ケイがそこまで話したところだ。寝かされていたアルトリウスが「う」と声を漏らし起き上がった。皆は彼女に視線を向け。

 

「起きたのだ!大丈夫なのだ?」

 

「ああ……しかしケイはともかく何故お主らがおるのだ……?」

 

 至極当然の疑問を吐くアルトリウスにアークはわざとらしく顔を背け。

 

「別にー?お前が重くて運べねえっていうから手伝ってやっただけだよ。痩せろ」

 

「なんだと貴侯……!!」

 

「その辺りは私が説明しよう。それよりだ」

 

『おーっとここでマーリンを追った選手たちは皆ギブアップー!!強い!早い!マーリン!誰かこの調子に乗った猿を封じ込めれるやつはいないのかー!?というか市長、どこにいったんですか!?帰って来てくださ~

!』

 

「マーリンをどうするか。それが問題だ」

 


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