♦
フィフスステージを無事に潜り抜けた参加者たちはもはや片手で数えられるほどとなった。彼女らは若干薄汚れたアトイとエレインたちイベントスタッフと共にフィフスステージの会場である森を後にした。
始まりの会場に戻ってくると平原の中に舞台劇で使うような巨大なセットが存在しており、アトイは参加者たちから離れるとその上にワンステップで飛び乗り参加者たちへと振り向く。
「さぁて、栄えあるこの決勝の舞台まで辿り着いた君たちには、私直々にファイナルステージの種目を宣言してあげようじゃあないか」
市長はカツカツと子気味いい音を立てながらセットの中央に歩みを進め声を溜める。
「ファイナルステージその種目は…………種目は~~~…………」
形容しがたいおそらくしゃれていると判断してのポーズで宣言する。
「ミュージカルさー!テーマはアーサー王のブリテン統一。自由な解釈で存分に踊り歌ってくれたまえ」
♦
<飽きてきた声の女性>
アーサー王のブリテン統一とはそのままのことである。え?……やる気がなさそう?すまない飽きてきたんだ。いや……ちゃんとやろう、うん。
選定の剣を抜き王となったアーサーだが、年若い彼には従わないもの達も多かったんだ。彼らは徒党を組み、アーサーたちと敵対した。
そんな彼らを打ち倒し。恭順させアーサーはブリテンを統一していったんだねえ。
♦
メアら参加者たちの眼前で市長はミュージカルっぽい謎のポーズを繰り返しながら解説を続ける。
「演目内で役を変えてもよし一つの役にこだわってもよし、とにかく観客を盛り上げられればそれでいいよ。今回はミュージカルを鑑賞しているお客様方にいい!と思わせたらポイントを入れて貰える形式だからね。張り切ってくれたまえ。それじゃあ十五分後に開始するとも」
「ララ~!」と踊りながら退場していく市長を見送ると参加者たちは時間を潰すため思い思いの方に散らばっていった。メアもまたその間に出店でチョコバナナなどを頂こうと傍らのアークに声をかけようとした時だ。アークは既にその場を離れどこかに向おうとしていた。
「アークぅ。どこに行くのだー?チョコバナナは向うなのだー」
「あー?何いってんだアタシはちょっと用事があんだよ。なんだよその目はよぉ……手洗い、手洗いだよッ!ついてくんなよ!覗くなよ!」
そういうとアークは会場から離れていった。メアは頬を膨らませ視線を屋台に向け直した。
「変なアークなのだ。まあいいのだチョコバナナ一人占めなのだ」
♦
忙しなく準備が進められるファイナルステージ会場。そこから少し離れた人通りの少ない場所にアークはいた。彼女は何かを待っているかのようにしきりに足で地面をこづいたり身体を回して時間を潰す。そんな彼女であったが、来訪者の気配を感じ取ると居住まいを正す。
「やっと来たかよ」
「このような僻地まで余を呼び出すとは何用だ?もしや一人のところを狙えば追い落とせるとでも考えてはいまいな」
現れたのは鎧姿の大女、アルトリウスだった。
「ねーよ!アタシをなんだと思ってんだ」
「浅ましい蛮族」
アークは拳を振り回すが頭を腕で押しとどめられ拳は空を切りつづける。やがてアークは息を切らすと正気に戻った。
「たく話の腰を折りやがって。いいよもう、単刀直入に言ってやる。お前、アーサー王辞めろ」
それを聞いたアルトリウスは玩具の剣を引き抜き
「なるほどやはり恫喝か。少しは気骨のあるやつかと思いきや、やはり蛮族は蛮族、見果てた根性だな。即刻引導を渡してやろう」
「だーっ!今度は話が早すぎる!中間ってもんがねーのかよテメーはよぉ~?決勝辞退しろってわけじゃねえよ。しれくれたら楽だとは思うけどよ」
「ではなんだ……もしや貴侯」
「ああ、テメーのアーサー王の絡繰りは全部聞かせてもらったぜ。もう限界が来てるってこともな。悪いことは言わねえ、アーサー王辞めろ」
アークの言にアルトリウスは剣を下し。一度深くため息をつくと頭を抱え。
「ケイだな。全く勝手なマネをしてくる……それでいらぬ節介を焼きに来たというわけか」
「お前がアーサー王辞めるってんなら力になれそうなやつも紹介できる。だから聞かせろ。もしこのイベント優勝したとしてその時聖剣をどうする気だ」
「正当な所有者である余の手元に戻るというだけであるが。そうさな、ソレを受け入れた時余は真の力を取り戻しカルヴァリーを始めとした蛮族どもを撃ち滅ぼすのもよいだろう」
アークは言に眉を顰め。
「つまり手放す気はねーってことかよ。剣も、アーサー王も」
「当然だ。余にはアーサー王としての責務がある。ブリテンの、いやさ、此度は世に蔓延る蛮族どもから世界を救うという使命がな」
「テメエわかってんのかよ!?このままじゃあお前死ぬんだぞ!んな使命なんてくっだらねえもんのために死ぬってのか!?ふざけてんじゃねえぞ!」
アルトリウスの強い断言にアークは食ってかかる。するとその罵声にアルトリウスは押し黙り代わりというように剣を掲げ。
大きく振りかぶり地面に突き刺し穿った。
「今までの発言は無礼者の戯言として流しておいたがな。此度は度が過ぎたな」
引き抜き叫ぶ。
「DEXカリバー・カリバーン!」
地を割り現れし刃は光。後光を棚引かせ、構え。アークに斬りかかる。
「その妄言の罪科、その身で贖ってもらうぞ」
「ウォオオオオオ!?マジかオイ!落ち着けって!」
「問答無用!」
剣戟とそれにより発生した剣圧の衝撃を躱し二撃目を起動状態のチェーンソードで受けとめたアークは吠える。
「妄言吐いてんのはそっちだろうがよ。オメーに流れこんだのはアーサー王たちのただの記憶!オメーはアーサー王本人でもその生まれ代わりでもねーんだよ!受け継ぐ使命も何もありゃしねえ。それだってのに命かけるってのか!?」
アークの反撃を斬り返しつつ、アルトリウスはかみ砕くように歯噛みをし。
「聞こえてくるのだ!縋りついてくるのだ!アーサー王の記憶たちに染みこむ民衆たちの声が。彼らは常に私に……余による救いと安念を信じ求めていた。耳を塞げど目を閉じれど、逃れることはできぬ。ならば再び応えてやるしかあるまいよ。現に今の世にも蛮族は蔓延り人々の平穏は犯されているではないか!」
「人を守りたいならアーサー王としてじゃなくてもいいだろうがよぉ~!苦しんでんの自覚してる癖に固執してんじゃねぇ!」
「そんなもの余の勝手であろう!そもそも何故今日会ったばかりの貴侯が余の生きざまに口出しをするのだ!?」
「私怨だよ!悪いか!!」
「悪いわぁ~~~!!」
剣戟を交わすアーク達の耳に会場の方から響くヒロイックなメロディが聴こえて来る。
「決勝始まる始まってる!くっそ慣れねえことはするもんじゃねえなあ」