二匹のSH。両者は中空で正面から衝突する。
アークがチェーンソードを振り下ろしラムルディが双のハルバードで受け止める。一瞬の交差の後、二匹は弾き飛び地上で再び激突し剣戟を交差する。
双のハルバードを振るうラムルディが手数で勝るがアークは一撃一撃を少ない動作で躱し、受け流し、的確に振るうことで互角。それ以上に渡り合っていた。
「くっ、この……」
ラムルディは応戦するために速度を上げるが無理矢理なソレは動作を雑にするだけであった。結果容易く読まれ、剣戟の隙間からアークの拳が彼女の身体を捉え始める。
「は!動きが素人くせぇ!手に馴染んだ武器じゃあねえなあソレ?」
「やかましいわ!じゃが……あたり……じゃ!」
つばぜり合いを続ける中ラムルディは勢いよく頭を振りかぶり虚空を噛み。自らの首ごと振り回す。
「あぶね!?」
虚空より引き抜かれ放たれた物体は瞬間的に身を縮めたアークの頭部を掠め去る。くの字形。特殊な金属によって形作られているモノは
「ブーメラン!?てことは」
吸血鬼の放った投射武器は標的を通過した数メートル後から進行方向を転換し再び獲物へと襲い来る。
「わらわの元に返るのは必然よな」
ラムルディは体勢を崩したアークへとハルバードを振るい対応を強制する。
「くっそ。吸血鬼らしからぬ武器使いやがって」
「じゃからわらわも使いとうはなかったのじゃ。わらわにこれを使わせた罪。その身で贖えよ」
そう話す間にも背後から死の円盤は迫る。
二双の刃と輪刃に挟まれ回避は不能と思われたアークだったが危険を背に一気呵成。
「力押し……だ。足元が御留守だぜ。歩くのは久しぶりか?インドア派ぁ!」
ハルバードを力づくで押し返し覚束なくなった足元に脚を差し込み一気に位置を奪い取る。その結果起きることは一目瞭然。
「わらわに押し付けおったか……」
「テメーの武器でイタイ目見やがれ!」
「小癪」
アークの言の通りラムルディの背には彼女自身が放ったブーメランが迫りつつあった。だが、彼女は慌てることなく鋭い右上下の犬歯を合わせて三度鳴らす。
小さな乾音が響いた直後。ブーメランの片翼背部の端で小さな爆発のような小火が発生する。
唐突ながら発生した衝撃と推進力はブーメランのバランスを大きく変え。結果ラムルディに届く前に大きく左へと逸れることとなった。
「そ、そんなんありかよ!?」
アークの抗議には耳を貸さず、ラムルディはそのまま左上下の犬歯を四度かち鳴らす。すると今度は先ほどとは逆翼の背部が火を上げ再び軌道を変えアークを襲う。
自在に軌道を変える遠隔武器と近接武器への同時対処はさしものアークも骨が折れるようで次第に小さな傷を増やしていった。そして。
「アーク!危ないのだ!」
メアの叫び通り。アークの顔面には今まさにブーメランが迫ろうとしていた。そして背後には双の武器を交差し一気に振り下ろそうとせんラムルディ。
片脚立ちのままでは回避も叶わぬ絶対絶命の危機。だが、アークは笑い。チェーンソードのエンジンを掛ける。そしてブーメランがアークの顔面を捉えた。
金属音が響く。その音を斬り裂くように風切り音が後を追う。
チェーンソードの重量を活かした回転上段切り。
ただそれだけで双のハルバードとラムルディの飛膜は断たれる。
ラムルディの押し殺し切れぬ叫びが城内に響いた。間髪を入れずラムルディの腹部へと拳が叩き込まれる。
「おげっ……ぶっ!?」
ブーメランのように体を曲げ頭が下がったところ顔面を拳で砕かれる。
ラムルディは鼻血を流しながら床をバウンドし転がりやがて止まる。
ダメージは大きく直ぐには立てないようだが腕を支えに上体を起こしキッと吸血鬼に手をあげた不敬者を睨み付ける。
その不敬者。アークは無事だった。彼女はその口にラムルディのブーメランを咥え。かみ砕くとペッとその場に吐き捨てる。そして空いた手で痛めた首元を抑えてやると。
「もう終わりか?案外大したことねえなあ噂の吸血鬼さまは。いや暁の……あか……あー……」
既に記憶があやふやなアークに遠く離れたメアが声をかけてやる。
「赤紙のさんだつしゃなのだ」
「赤髪の散髪者!」
「それはただのファンキーな理容師さんじゃ……!おのれどいつもこいつも人のかっこよい異名を馬鹿にしくさってからに……」
ぐぬぬぬと腕を振るわせる暁の簒奪者に対しアークはチェーンソードの切っ先を向け告げる。
「そんでどうすんだ?お前もSHならあるんだろ。この世の理を侵すSH能力ってやつがよ。出さねーってんならこのまましまいにすっけど」
「フン。それほど見たければ見せてやるわ。暁の簒奪者として謡われた吸血鬼の力をな……そこのわっぱ共々生きて帰れると思わぬことじゃ」
アークの挑発に乗る形でラムルディは痛みをこらえて立ち上がり、両腕を広げ体とともにWの文字を象ると、その手にそれぞれ異空間から物質が取り出される。
<Apple> < Pineapple>
ラムルディの右手には真っ赤な林檎が。左手にはとげとげしいパイナップルが。それぞれむき出しで握られていた。