SHs大戦   作:トリケラプラス

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7-3 天敵

 

「その様子だと思いだしたようだな」

 

 蛍光灯のライトが照らす煩雑な室内でサンは眼前で腕を抑え必死に震えを止めようとしているアークにそう投げかけた。彼女もまた鮮明に当時のことを思い出したようで苦労を偲ぶような深いため息を一つつく。

 

「あの後お前は二週間と四日程恐怖に囚われ常に私の後ろをついて回ってきたな。研究や調理中の時はともかく入浴、就寝、手洗いの時まで片時も離れずだ。もうあのような手間のかかることは御免だぞ。」

 

「アーッ!アーッ!!ないないそんなことなかった!適当なこと言ってっとアイツの前にお前からぶっとばすぞ!?」

 

 握りこぶしを作り必死に過去の醜態をもみ消そうとするアークに怯むことなく淡々とサンは連ねて言う。

 

「あの夜以降も三度ヤツには襲撃されているがいずれもお前は勝てていないだろう。ヤツとお前では明確に相性が悪い。行ったところで足手纏いを抱えて二人無事に帰ってこれる可能性は低い。何よりだ」

 

 サンはあくまで緩慢な動作で指さしアークが必死に目を逸らしていた残酷な事実を指摘する。

 

「お前自身がヤツに対して怯えているだろう。いつもならその脅迫状を見た瞬間本拠地に乗り込んでいるはずだ。それがわざわざここに戻って来た。ヤツと向き合いたくない。見捨てる言い訳が欲しい。お前は私に止めて欲しいのだ……」

 

 痛いところを突かれたからか普段なら激昂するであろう言を受けてなおアークは無言を保っていた。そんなアークを他所にサンは眼前にホログラムディスプレイを表示すると慣れた手つきで幾つかの操作を終え。

 

「いいだろう止めてやる。言い訳を与えてやろう。お前は私にとって貴重な検体だ。こんなことで失われても困る」

 

「何を……」

 

 言い終わる間にけたたましいアラーム音と共に轟音が響く。アークが音の発生源、部屋の唯一の出口である扉に対して分厚い隔壁が降りていた。

 

「ミサイルの絨毯爆撃だろうと易々と防ぐ防壁だ。簡単に出られると思うな。お前は明日までこの場所で過ごしてもらう。いいな」

 

「────ッ」

 

 その部屋に外光は全くと言っていい程届かない。内部を照らすのは天井に幾つか備え付けられた古ぼけたランプとこの建物の内外を映し出すモニターの明りだけだった。

 薄明るい室内でこの場に似つかわしくない雰囲気の小学生メアは椅子にロープで縛られフンヌフンヌと脱出を試みている。そのすぐ近くでこの場に似つかわしい空気を纏った誘拐犯の少女トアは机に頬杖をつきモニター画面に視線を向けている。

 

「アークちゃん。まーだかなー。早くここまで来てくれないかなー」

 

 メアやトアが今いる部屋、ここは方舟市の郊外に存在する廃墟区画、その中の一家屋の地下のそのまた地下。数多のトラップフロアを超えた先に到達できる最終地点である。

 誰も映らないモニターに飽きを感じたのか頬杖を崩し視線をギッコンバッタンと忙しなく音を立てる背後のメアに移す。

 

「無駄だよ。あなたの力で解けるような素材でも結び方でもないもの。うーん……ちょっとうるさいし少し大人しくさせようかな?」

 

 その言葉にかつてないリアルな危険を感じ取ったのかメアは普段からは考えられない速度で動きを止め目を潤ませ。

 

「メアはとっても大人しくてじゅうじゅんないい子いい子なのだ~。静かにするなんてお茶のこさいさいだからヒドイことしないで欲しいのだ~」

 

 子犬のような目をしたメアに対してトアは若干目を眇めると腰を下ろし視線を等しくする。そして指先で弾力のあるメアの頬をツンツンと幾度かつつくと首をかしげて訊ねる。

 

【挿絵表示】

 

「ねえ。アークちゃんはあなたの体が全部くっついている間にちゃんときてくれると思う?」

 

「何をおっそろしいこと言ってるのだ~!?アークは来るのだ!遅刻はいっぱいするかもしれないから時間は待って欲しいのだ!でも最後には絶対来るのだ!アークはすっぽかしたりなんかしないのだ!」

 

 若干の虚勢も交えつつも殺人鬼に対して一歩も引かずに主張するメアに対してトアは少し感心した様子で。

 

「ふーん、信頼してるんだぁ。私が目を離したちょっとの間にそんなにねぇ。ふーん……あなたとアークちゃんって」

 

「あ、ほら!来たのだ!」

 

 メアの興奮気味に割り込んだ言葉にトアが振り返るとその目に待ち望んでいた光景が映った。

 

「来てくれたんだね。アークちゃん」

 

 書類が辺り一面に散らばった機械的な部屋の中で、サンはミニアークが淹れたまだ湯気の立ち昇るコーヒーを啜りぽつりと率直な感想を口にした。

 

「やれやれ、全くアイツの行動は毎度こちらの予測を超えて来る……」

 

 サンが先ほど降ろした障壁のほうに目をやるとそこには重機が通れる程の巨大な破壊痕があり。障壁から扉までを一気に貫通していた。

 

「その気になればいずれ突破されるだろうとは考えていたがまさか一撃で破壊されるとはな。SHの進化に際限はないということか。それとも、メアとの”悪友”という関係が力を引き出したのか。理解し難いな」

 

「友達イネーモンナ」

 

「……」

 

 ミニアークの容赦のない指摘が響いたのかそれとも何かを思考しているのかサンはしばしの無言の後、ミニアークを摘まみ上げ。

 

「行ってしまったからには仕方がない。サポートをよろしく頼むぞ。いいな」

 

「ハーイ」

 

【挿絵表示】

 

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