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ラムルディは暴風の壁の前に立ち尽くしていた。
幾ら打ち込んでも効果のない射撃は既に止めている。今はどうやってこの嵐を突破するかを警戒しながら思案している最中だ。
(……発動してからしばらく経つが一向に勢いが衰えん。緊急回避だけでないとしたらこの竜巻を障壁に何かしでかすか……?ならば攻め。解除を待たず。風のない天上から攻める……か。林檎はさっき飲んでしもうたから)
ラムルディは位相空間から果実を取り出しミキサーへとセットする。
<Grapes><Orange>
そして変身の為のドリンクを精製する。その時だ.竜巻の中に人影が映り蠢いた次の瞬間。
ラムルディは慮外の衝撃を受けることになった。
<冷静さを装いつつも若干興奮気味な女性の声>
地表に存在するありとあらゆるを巻き込み、吸い上げ、自らの構成物へと変える風の化け物。
竜巻。
アークが乗りこなしているのはソレだ。
彼女は今風と一体となり円周上に高速移動を行っている。
自由自在に風を泳ぐ様は正に龍が天に昇るが如し。
数十の周回を経て彼女は遂に風の円環から解き放たれる。形状は飛び蹴り姿勢。力の向かう先は当然。暁の簒奪者ラムルディ。
天災の力で生み出された遠心力とは果たしてどれほどのものであろうか……
嵐鮫が蝙蝠を捕食する!
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竜巻の遠心力を得た超速の飛び蹴りがラムルディの鳩尾を捉える。
めり込んだ剛脚は一層強く沈み込み、肋骨が一本一本折れていく音が響いていく。
その音すら置き去りにして二匹は激進する。
衝撃に耐えきれず腹部に取り付けられていたミキサーが宙を舞う。
そして。
終着点を砕き。決着する。
「げっ……!?ぉご、ぇえええ……げほっ、げほっ」
崩壊した外壁を背にラムルディはべちゃべちゃと口元から生暖かい血液を滴り落とす。
一通り咳を出し。落ち着いたと思われた彼女に安息は訪れない。
「休んでんじゃねーぞオラ」
眼前のアークにより乱雑に衣服の掴まれ、持ち上げられ、強引に立たされる。自力で立つ力はもうない。
そしてミキサー容器が外れてむき出しとなった彼女の腹部に今度は拳がめり込む。
「げェ!?お……ぁ?……おのれぇ……貴様ごときがわらわを……このような、たたではすまさ………ごぶぅ!?……き、きさ……ぶッ!?ぐぅ!?」
それは一度ではすまず幾度も打ち据えられた。
「も……もうやめ……うぷ」
そしてラムルディに変化が現れる。打撃のなか突如としてえずきだし。そして上体を折りさまざまな色が混ざった液体を大量に吐き出した。
カラフルな液体は眼前のアークは勿論のこと自身の美麗な紅の衣装も濡らし穢していく。
アークは自らにもかかったフルーツと酸味の香りを嗅ぐとケタケタと笑い。
「おーおーそりゃあんだけの量を何杯も何杯も飲んでりゃそりゃこんだけでるよなぁ。もっと絞り出してみるか?ん?」
「うぐ……。うぐ~~~!!」
目に涙を貯め呻くラムルディを愉し気に眺めるアーク。そして彼女はあることに気付く。
「ん~~~?なんだぁオメェ?さっきからこう……モジモジモジモジとスカートふりふりさせやがってよぉ~。ああ、そりゃそうだよなあ。さっき吐いた奴で全部な訳ねぇよなぁ~!」
アークは顔に手を当て笑う。
「あんまりつめてえもん腹につぎ込むもんだから……もう漏らしちまいそうなんだろう?なぁ?じゃあこうだ」
そういうとアークはラムルディのスカートをめくりあげ擦り合わせた汗ばんだ太ももを押し退けその手で彼女の股座に手を差し込んだ。
「ひゃっ!?お、おぬし……なにを……!?」
「お前、アタシに電気がきかねーことを不思議に思ってたよな~。それがなんでか教えてやるよ」
不敵に笑うアークに対しラムルディは何が何だかわからないといったように恐怖に震える。
「持ってんだよ電気を放つSH能力を……な。当然耐性ぐらいあるさ」
「な、なんじゃと……!き、忌刻十二支の御方々ですらないおぬしが……複数の独立した能力を持っているとでもいうのか!?」
「一個で複数を兼ねるオメーに言われてもなんか特別感ねーなぁ。ま、いいや。アタシのは純粋な電気の能力だから……さっきみてぇな柔いもんじゃねぇぞ?それを今からこの手を介してお前に通す」
そういうと手指を軽く曲げ掴む。
「ひゃっ……!?そ、そんな……そんなことをしたら……」
「お漏らし確定だろうな~~~!いい顔してくれよ?」
「や……やじゃ……そんな辱め……や、やめとくれ……いや……やじゃーー!!」
ラムルディの絶叫と共に古城に閃光が迸る。