ここは海鳴市の小さな公園。青年はビニール袋を片手に公園の前を通り過ぎる。長期休暇に入ったばかりなのか、暑いながらも子供達がはしゃぎまわっている。青年はしばらく子供達を眺めていると、隅のベンチに座る少女を目にとめ、少し悩んだ様子を見せるとその幼い少女に声をかける。声をかけられた少女はただ寂しそうに座っている。青年は少女の隣に座り、さっき買ったアイスを取り出し少女に向ける。青年は警戒する少女にアイスを渡すと、もう一つのアイスを取り出し食べ始める。青年が食べ始めたのを見ると、少女は青年を窺いながらもアイスを食べ始める。青年は少女がアイスを食べ始めたのを確認してベンチから立ち上がると少女に一言挨拶をして、公園から歩き去った。
少女は歩き去った青年を見送りながら首を傾げた。
一体なんだったんだろう。公園を通っただけの人に慰められるほど寂しそうに見えていたのか。
…それじゃあいけない
きっといい子は周りから心配なんてされない
「…いい子にしてないとダメなの」
少女の小さなつぶやきは蝉の鳴き声の中で掻き消えた。
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少女はいつも公園にいた。同じように公園に行き、同じように隅のベンチに座る。家に居づらいのか、居たくないのか。ただ、少女は公園で静かに座る。公園で遊ぶ子に声をかけられても、うつむいたまま首を振る。日が登り、涼しさがやや暑さに変わる頃から、日が沈むまでただ静かに
ただ、時間が早く過ぎるように
ただ、祈りが届くように
少女は今日も公園の隅に
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青年は家に帰ると、同居人にペットボトルを投げ渡す。ペットボトルを受け取って、なおもこちらを見る同居人にアイスはなかった旨を伝える。同居人の視線は青年の右手にもつ木の棒に移る。二人の間に蝉の鳴き声だけが響く。同居人は又はどこぞの子供にあげたのだろうと当たりをつけると、ペットボトル片手に台所へ向かった。
男所帯とはいえ、二人とも料理はそこそこできる。青年は一般的な家庭料理なら一通り、同居人は家庭料理から民族料理までなんでも。なので、普段の食事は当番制である。今日は同居人の当番のようだ。
同居人が青年を呼ぶ、どうやら食事がでたようだ。
"用事がない限り夕食は一緒にとる。"
これが二人の唯一のルールとなったのはいつからか。二人は冷やし中華を食べながら、今日あったことを話す。近所のスーパーでの特売があったこと。隣の八神さん宅が旅行に行ったこと。公園で少女にあったこと。近所の喫茶店が休業になったいたこと。新しくできたケーキ屋の店主夫妻が仲睦まじそうだったこと。そのケーキ屋では月一でケーキの城が作られるらしいこと。
二人の近所づきあいはいい方だ。同居人など厳つい顔のくせして祭りの準備に駆り出されることもある。近所の子供達ともよく遊ぶし、近所のおばさま方と井戸端会議などしょっちゅうだ。だから会話の話題がなくなることはない。おばさま方の情報網はすごいのだ。おばさま方のアイドルらしい高町君とは、一度あって話して見たいものだとよく話題にでる。
二人ともこの街が好きだという。けれど彼らはいつ引っ越すかをいつも何処かで考えながら暮らしてる。
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青年はその世界で生活を始めて、与えられた仕事を消化しつつただ静かに暮らしていた。けれど、静かな焦げ付くような燻りがあった。何かしなければならない。けど何を?自分は生きていていいのだろうか。
きっとこれは永遠に続くのだろう
永遠の中でも彼女達を忘れないように
祈るように彼女達を想う
彼は今日も静かに佇む
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同居人は青年と生活を始めて新鮮さを感じている。以前とは自分でも信じられらいくらいの変貌ぶりだと思っている。以前の自分は所謂 "悪" だった。改心したとは言わないし、結局今でも自分はそういう人間だと思う。けれど、今の平穏も悪くはない。太陽の下を思うままに歩く、そんな生活もいいだろう。気が向くまでは、このまま静かに暮らそうと思う。
過去を背負う
それが罪と知りながら
けれど償おうとは思わず
ただ背負い、向かい合う
平穏を望み静かに暮らしながら
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少女と青年が再びあったのは数日後の或る夏の雨の日。
青年が木陰のベンチで雨を眺めていると少女が駆け込んできた。少女は木陰に青年がいることに気がつかなかったようで、少女は青年と目が合うと驚いたように目を見開き、すこし青年から距離をとり雨粒を払い始めた。青年はその様子を見て苦笑しながら少女にハンカチを渡す。少女はハンカチを受け取りお礼を言うと軽く雨粒を拭いた。拭き終わってハンカチを返したあとはただ、雨の降る音だけが二人の間に響いていた。少女も青年もお互いを気にすることなく、ただ静かに雨を眺めていた。
しばらくしても雨は止まず、少し暇を持て余した青年は少女に話を聞かせようと思い立つ。もう少しすれば、傘を持った同居人が迎えに来るだろうし、それまでいい暇つぶしになりだろう、と思って。
「昔々、………………
突然話し始めた青年を見て、少女は怪訝な顔をしながらも、その話を聞いていた。この様子だと雨はまだや見そうにないし、御伽噺を聞いてるだけで、知らない人と会話をしてるわけじゃないから、悪いことでもないだろう、と。
青年は怪訝な顔をしながらも話に耳を傾けてくれる少女に感謝しながら話を続けた。
青年は語る。
情の厚い夢魔と一途な雪女の友情を
賢者たる魔女と不屈の夜叉の協奏を
敬愛する人狼と気高い歌姫の親愛を
そして、最愛たる吸血鬼の物語を
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青年の同居人が傘を持ってやってきたのは、話の区切りがいいところだった。同居人はニヤニヤしながら二人に近づくと、青年に少女を家まで送って行くように言い、二人に傘を渡し、その場から立ち去ろうとした。断ろうとする少女を見ると同居人は笑い、まるで最初からいなかったかのように消え去った。突如消え去った同居人に青年は呆れ果てるが、少女に顔を向ける。少女は何が起きたのかわからずポカンとしているが、それは気にせずに
「まだ明るいけど、よかったら送るよ。」
傘を少女に渡そうとして、青年は言う。
青年の声を聞いて少女は我に返ったようで、
「えっと…。ありがとうございます?」
それを聞いて青年はクスリと笑うと傘を少女に渡し、
「改めて。はじめましてお嬢さん。僕は青野月音と言います。お嬢さんは?」
少女はまだ状況に追いついていないのか、目を白黒させながら、
「高町なのはって言います。」
少女は、傘を受け取りながら名乗る。
二人はそうして雨の中を歩き始めた。