「なのはちゃんとこ行ってくるけど、きちんとせんとあかんよ!」
「はいはい。ごめんね、はやて。」
「たまににーさんたち気が抜けとるからあかんわ。」
「耳が痛いな。細波、準備は出来たか?」
「ええ、もう万端ですぜ。閃、またな。」
「はい細波さんもお気を付けて。」
「管理職が何に気をつけりゃあいいんだよ。月音の旦那ありがとうございました。」
「いえいえ。また来てください。お客さんは大歓迎ですよ。」
「それでは行こうか。」
「うん!またな閃にーちゃん!」
「またね。はやてちゃん。」
「そんじゃ、失礼します。」
「細波おじさん!翠屋はこっちやで!」
「おうおう。そんな急ぐと見失っちまうよ。」
「はやて、気を付けてね。」
「わかっとるよ!もう子供やないんやから!」
そういってDIOと慧を先導するはやては歳相応の少女に見えるが、そんな彼女を見ながら閃は一言
「…確かに幼稚園児には見えませんよね。」
「今日はお話されちゃったしね。」
「あれは怖かったですね。」
今朝の話をしながら閃と月音は家に戻る。閃はこのあと自宅にもどるらしい。
「閃君は家どこになるんだっけ?」
「えっと…西の方の……ケーキ屋の烏森って知ってます?」
「ケーキのお城の?」
「ええ、そうです。その隣に。」
「へえ!それはいいね。あそこのケーキは美味しいから羨ましいよ。…?どうしたの?」
「…いや。あそこ知り合いがやってるもんで。そう言われると気はずかしいんですよ。」
「そうなの?…仕事関係?」
「えーと。なんていうか…。一時期中学が一緒だったんですよ。実家が妖関係ではあるんですけど、あいつらはもう足を洗ってますね。」
「…そうなんだ。今度会ったらファンだって伝えてね。」
「ええ、あいつもきっと喜びますよ。」
「ここからの行き方はわかる?」
「大丈夫です。この辺も見てまわりたかったですしフラフラ歩いて行きますよ。あと月村家にも挨拶に行かないと。」
「ああ。あそこか…。」
そう言う月音を見て、閃は首を傾げる。
「なにかあったんですか?」
「…あそことは些細なすれ違いがあってね。」
「何があったんです?」
「だいぶ前のことなんだけどね。先々代くらいかな?その時の当主に襲われてね。」
「えっ?」
「ああ。武力的なことじゃなくて。どうもオレの血は美味しいらしい。」
「…妖混じりの血でもいいんですね。」
「…オレも驚いたよ。けど飲まれるわけにはいかなかったから応戦してね。それで伸したところを誤解されちゃって。それ以降疎遠なのさ。」
「じゃあ、上司の友人のお宅にお邪魔してた。って言っときますよ。」
「ありがとう。まあ何年も前だけど、もしまた襲われたら…ね。あと、この辺は治安はいいけど最近物騒らしいから気をつけてね。」
「例の転成者ってやつですね。まあいざとなったら逃げますよ。」
「そうだね。無理に争うこともない。…何か手伝えることがあれば言ってね。基本オレもDIOも暇にしてるから。」
「…ええ。はやてちゃんも心配するくらいですもんね。」
「はは。まさかはやてに仕事の心配されてるとは思ってなかったよ。」
「心配されない程度に相談させてもらいます。」
「そうだね。頼むよ。」
そういい笑い合う二人。閃はもう行くようだ。
「それじゃ。また来てよ。はやても喜ぶ。」
「ええ。男だってわかった後も懐いてくれましたしね。またお邪魔させてもらいます。」
「待ってるよ。」
「ありがとうございました。失礼します。」
「じゃあね。」
閃は月音と別れると、とりあえず十字路を右に曲がった。烏森の方向とは少し違うが先ほど言っていたように海鳴市を見てまわるつもりだろう。月音は閃を見送ると隣の家に入っていった。普段生活しているのは八神家だが、はやてと一緒に住む前に住んでいた家もそのままにしている。普段の生活では使わないが、それでも時間経過による劣化などはある。そのため月に一、二回ほど掃除をすることになっている。今日がその日だが、はやてはお泊まりを楽しみにしていたので、掃除のことを伝えるのは忍びなかった。
けれど、と月音は思う。
「DIOは確信犯だろうな。」
○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○
そういえば、とDIOは思い出す。
今日は掃除の日ではなかったかと。細波や閃が来てバタバタして忘れていた。まあそれほど大変でもないし月音一人でできるだろう。…掃除を手伝わされるのは面倒だし翠屋で時間を潰そう。
などと考えながら、高町家からの道を歩く。既にはやてと慧とは別れた。八神家から高町家へ歩いていく途中に翠屋はある。徒歩十分で翠屋、更に十五分ほど歩けば高町家につく。慧とは高町家に来る前に、はやては高町家でそれぞれ分かれた。
DIOと月音は高町家に随分お世話になっている。よくはやてを預けているのだ。長く生きた間に子育てをしたことは何度かある。孤島に島流しされた姉弟の面倒を見たこともあったし、河川敷で兄弟や少女の面倒を見たこともある。今で言う戦国時代では孤児院のようなことをしたこともある。けれど、どの場合も八、九歳の子供の面倒を見ていた。はやてのように幼児から育てることは経験がない。…まあはやてはそこらの八九歳児に比べると著しく大人びているが。
問題は子育てではなく、DIOたちの仕事にある。稼がねば生活はできない。しかしいくら大人びているとはいえ、はやてはまだ小学生ですらない。家に一人にはできない。だから仕事で遠出をせざるを得ない時にははやてを何処かに預けざるを得ない。そんな時頼りにしているのが高町家なのだ。もちろんて体のいい託児所にしているわけではない。双方の合意の上だ。とはいえ、DIOたちが頼りにしているには確かで、高町夫妻には頭が上がらない。
「ん?」
「お、旦那。奇遇ですね。」
「奇遇も何もなかろう。話は終わったのか。」
「ええ。いや、なかなか恐ろしいお方で。あの気迫にゃ驚きましたよ。喫茶店の店主が出していいもんじゃねぇ。」
そう言って、笑いながら慧は去る。DIOはそれを見送ると翠屋に入っていく。
「いらっしゃいませ。」
「一人だ。ランチセットにシュークリームをドリンクはコーヒーで。」
「はい。いつものですね。DIOさんっていつものって言いませんよね。」
「…以前違うものが出てきたことがあってな。それ以来注文はしっかり言うようにしている。」
「それは「ああ、もちろんここではない。」それは良かった。それでは空いている席へどうぞ。」
「ああ。」
そう言って隅の席に座るとすぐに出されたコーヒーを味わう。一昨日話に出たトイレはまだ修理できていないようだ。一応トイレは使えるようになっているが手洗い場は使用禁止でアルコール消毒液と紙タオルが置いてある。まああれなら代用として十分なんだろうかと考えていると士郎が話しかけてきた。
「ディオくん。ランチセットです。どうぞ。」
「ああ、ありがとう。シュ「シュークリームは食後にコーヒーのおかわりと一緒に、でしょう?」…ああ。」
「常連さんなんだから把握してるよ。もう少し信用してくれてもいいのに。」
「信用はしている。でなければ、ここに来ん。…これは性分だ。それに期待していたものが来なかったらショックが大きかろう。」
「なら、期待以上のものをお持ちしましょう。」
そう言ってDIO前にもう一つ皿を置く。
「これは?」
「新メニュー。常連のお客様にサービスです。」
口に指を一本立てながら士郎は言う。
「ホウ?これは期待せざるを得ぬな。」
「ちょうどいい卵を仕入れてね。オムレツにしてみたんだ。そのサンドイッチにも合うと思うよ。」
「ありがたい。」
「それではご賞味ください。」
オムレツを味わうDIO。それを見守る士郎。その後ろでソワソワしている桃子。両親の様子を見ている美由希。DIOの持つ荘厳さも相俟ってその様子はさながら審判をまつ信徒のよう。そして判決が下される。
「美味い。」
「ありがとうございます。」
そう言うとDIOはサンドイッチ食べ始める。それを見ると士郎はキッチンに戻った。キッチンでは桃子が喜んでおり、夫婦で喜ぶのであろう。…ただそれを見る娘、美由希はげんなりしていたことは追記しておく。
「それで?何か話があったんではないのか?」
DIOはシュークリームとコーヒーを持ってきた士郎に問う。
「…どうしてわかったんだい?」
「他の客がいるのにサービスで一品持ってくるなぞシロウらしくなかろう?」
「…それもそうかもね。月音君と違ってディオくんに隠し事はむつかしそうだ。」
その言葉に眉を顰めるもDIOは続きを促す。
「いや、月音君が襲われたって聞いた翌日に君が来たんだ。外出は控えないのかな?と思ってね。」
「ハヤテを連れて行った帰りでな。掃除から逃げるためにここにいる。それに日中は安全だろう?」
「まあそれもそうかな。…ディオくんは月音君が本当に逃がしたと思う?」
「通り魔か?」
「うん。やっぱり彼が逃がすとは考え辛いんだよね。」
「フフ。」
「?」
「いや、昨日ツクネがぼやいていたのを思い出してな。周りが強くさせたいみたいだ。と言っていた。」
「彼はきっと強いでしょう。きっとディオくんと同じくらいに。」
「…俺もツクネも対して強くはないよ。少し鍛えた一般人程度さ。それほど立会いがしたいのか?大怪我した時のナノハを忘れたわけではなかろう。」
「武人としての性みたいなものさ。強い人を見かけるとつい声をかけちゃう。これのせいで月音君が苦手意識持ってるのはわかってるんだけどね。」
「……性か。」
「まあ、これっきりにするよ。僕はね。」
「キョウヤにも言っておけ。あいつも相当猛っているぞ。」
「うちの息子は言ったところで止まらないよ。月音君に伝えといて。一度沈めちゃっていいよって。」
「…それはどうなんだ?それに月音が受けるとも思えんが。」
「恭也が押し切っちゃうだろうしね。月音君Noと言えない日本人の典型だし。」
「まあそうだな。伝えておこう。」
思い当たるところがあるのか苦笑いするDIO。そのDIOに士郎はまるで今思い出したかのように聞く。
「そういえば、さっき入り口で男の人と話してたけど知り合いかい?」
それを聞く士郎を見るとDIOは答える。
「…ああ、あの男か…。ハヤテを送る時にあってな。翠屋の場所を探していたようでな。すぐそこまで連れ来たのだ。何かまずかったか?」
「…いや…昔の仕事関係でね。どうも通り魔は思った以上に危険人物らしいくて、いろいろ聞かれてね。」
「ホウ…。…危険とは?」
「あー。…全国で似たような案件が多いらしい。」
「なるほど?」
「まあそれでいろいろ聞かれてね。」
「そうか。」
まだ聞きたそうにしている士郎にDIOは言う。
「…コーヒーのお代わりをもらえるか?」
それは暗にこの話は終わりだということ。
士郎は既に通り魔をただの通り魔ではないことを知っている。妖か異能者か。そう言った方面であることは細波から聞いている。それがなのはを狙っているらしいことも。
細波の最後の言葉
「いざとなれば夜行に連絡を。」
最後に気を抜いて喋ったであろう言葉
「…主人公ね。」
その言葉の真意はわからないが
「可能性は出てきたな。」
経験から察する。
今後もこの事件と関わることになるだろうと。
高い確率で自分の末娘も巻き込まれるだろうと。
であるなら、守らねばならない。
自分は父親なのだから。
既に士郎はDIOと月音がただの人間だとは思っていない。昨日の話から最低でも異能者から無傷で逃げ切れるレベルではあるはずだ。おそらくはそれ以上の秘密もあるだろう。
それでも、士郎は彼らを信じる。
彼らは信頼にたる人であると。
「…少々お待ちくださいお客様。」
自分は自分が出来ることをするだけだ。
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はやてを見るたびに思い出す。
「彼女はいずれ死ぬ。だからせめて彼女が笑顔で過ごせるように祈りたい。」と言われたことを。
一人での掃除は考え事に最適だ。なれると勝手に体が動く。月音が思い出すのはいつかの言葉。
「世の中に偶然はない。あるのは必然だけ。」
この言葉は前の店主のものらしい。
きっと、と月音はいつものように考える。
この言葉は偶然を否定しているわけではないんだ。と。
この世は意思で動いている。
自分の世界は自分の意思で動く。
他人の世界は他人の意思で動く。
ここに偶然はない。世界が動くのは必然だ。
そして世界は重なっている。意思も重なっている。
ならば必然も重なろう。
そこに偶然が存在するならば、よっぽど稀なものに違いない。
かつて会った名探偵は言った。
「偶然の意味は≪ほとんど起きない。≫だ。」
多分そういうことなんだろう。
未来について憂う。
いずれ死ぬのは必然であるはずだ。
しかし、はやての病は必然か?
はやてを育てるのは必然だ。
なのはとあったのは偶然かも。
けれど話しかけたのは自分の意志で必然だ。
DIOと出会ったのは必然かな?
けれどDIOと共にあろうと考えたのはオレの意思だ。だったらきっと必然だ。
とするなら、と考えを続ける。
彼女らと会えたのは仕込みがあったからだ。
そもそも偶然で人の身ながらあの学園に入学などできまい。
きっとあの学園で起きたことのほとんどは誰かの意思で、必然だ。
けれどそこには確かに自分の意思もあったんだ。
ならば運命論も自由意思決定論もかわりはない。
けれど、といつものように考える。
果たして自分が死んだのは必然か、偶然か。
あの先に彼女らと共に歩む意思はなかったのかと。
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月音は思う。
彼ははやてを助けるだろう。
覚悟も意志もなく、きっとはやてを呪うのだろう。
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DIOは決めている。
何があろうと、決して手は出さないと。
すでに覚悟は定まっている。
彼は、来たるべき未来を見据えて待つ。
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かつて男は‘店’で願った。
今度こそ家族を救いたい。と
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慧は考える。
もしこの世が物語であるなら…と。
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次元の狭間で男は女を嗤う。
貴様も同じであろう。と
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はやては兄に宣言をする。
「わたしは聖祥に行きたい!」
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写身は信じる。
愛はそこにあるのだと。
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なのはは祈る。
自らの存在証明を、自分を自分だと認められる何かを。
切に願う。
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆
世界は混ざり重なり合う
意思の下に必然の物語が紡がれる
けれどその意思は必然だと言えるのか