辺りは暗い。
背の高い木々に囲まれ不安を覚える。
恐れ、痛み、使命感
様々な感覚が小さな身の中で荒れ狂う。
これは夢だ。
私は走って…逃げている?
木々に囲まれた草むらで私は走っている。
必死に、血を流しながら。
ナニカから逃げている。
これは僕の責任だ。
ここで死ぬのは仕方ない。
けれど事態の収集を努めなければ。
これは夢だ。
目の前に池が現れる。
池のそばには見覚えのある建物が。
あれは…貸しボート屋?
今はいい。私は逃げないと。
振り返ると、ナニカはすぐそこまで迫っている。
私はあんなモノ知らない。
僕はアレを知っている。
今は逃げねば。
「助けて。」
その黒いナニカが大口を開いたところで目が覚めた。
「ぼ、わたっ、助けないと…!」
寝ぼけた眼でそう言って周りを見渡すと見覚えのある自分の部屋だ。時間を確認するとまだ午前三時前、いつもなら寝ている時間だ。少しづつ覚醒していく頭で考える。冷静になると、あれが夢だったことを理解する。寝ぼけていたとはいえ夢と現実を混同するとは。少し恥ずかしくなり、少し強めにベットに倒れこむともう一度寝ようとする。怖い夢を見たから寝られるか不安ではあったが、今はどちらかというと恥ずかしさの方が勝る。大丈夫大丈夫、今は恥ずかしいの、と自分に言い聞かせて見てふと思う。夢の中の自分は、恐怖を感じていたが、どちらかと言えば使命感の方が強かったと。あれが自分の欲するものなのだろうかと、なのはは睡魔に身をゆだねながら考えた。
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翌朝、深夜に一度目を覚ましたこともあっていつもより遅い時間に起きてしまった。とは言え学校には十分間に合う時間だ。
「おはようなの。」
「おはようなのは。」
朝食を準備しているのはなのはの父の士朗。母は毎朝喫茶店の準備に出ているので、朝食は大抵父が作っている。兄の恭也と姉の美由希は道場だ。朝食前は二人で鍛錬をしている。それでも朝食の時間になるとそれぞれの仕事を終えて、家族で朝食をとることになっている。キッチン側に両親が、窓側に兄と姉が、そしてなのはは誕生日席。これが食卓の定位置だ。
「みんな揃ったね?それじゃあ、
「「「「「いただきます。」」」」」
なのはの家族は仲がいい。幸せなことだと思うし、周りがなのはを愛してくれているのは本人もよくわかっている。けれど、父は母と、兄は姉と仲良さげに喫茶店のメニューや鍛錬の話をしているのを見ると、若干の疎外感を感じる。別に悪いことじゃない。けれど寂しい。あんまり覚えてないけど、はやてちゃんも似たようなことを感じていたのかな?と最近会えていない友達に思いを馳せる。
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朝食を食べ終えて学校に向かうバスに乗る。すると見知った三人がなのはの席もとってくれていたようだ。
「おはよう!」
「おはようなのは。」
「なのはちゃんおはよう。」
「…おはよう。」
上から順になのは、アリサ、すずか、律である。なのはの家が聖祥に一番近い。したがって、この中ではなのはが最後に乗る形となる。
この四人は仲がいい。仲良くなったきっかけははやてとなのはだったか。はやてとなのはは、入学前には親交があった。はやてとは幼稚園からの仲である律、その二人と仲良くなったすずか。そして、なのはと仲良くなったアリサ。この五人が仲良くなるのにそれほど時間がかかることはなかった。
三年生になってはやてがこの輪に入ることは稀になったが、この四人での会話の中心ははやてだ。正確には新しく出来たというその妹だが。はやてが目に入れても痛くないと豪語するその子の話題は尽きない。
「かっこいい優男が連れてきたらしいわよ。」
「私その人にあったことある!はやてちゃんと買い物に来てたよ。ルルーシュさんって言うんだって。」
「そうなの?」
「うん、ファリンとお買い物に行ったときに会ったの。黒い髪で穏やかそうな人だったよ。多分外人さんかな?」
「外国の人?」
「ディオさんの親戚なんだって。けど、ディオさんと違って細かったな。」
「…ディオさん親戚いたんだ。」
「あの人の親って想像できないわ。」
「きっとお話好きなお母さんと紳士なお父さんなの。」
「えー。厳しいお母さんよ。それでお父さんがお話好きよ。きっと。」
「…頼りない弟がいそう。」
「育ちはよさそうだよね。」
「そうすると。ディオさんの甥?になるのよね。」
「甥は男の子。女の子は姪。」
「あ、そっか。その子がはやてのところで暮らし始めるのね…。」
「はやてちゃんすごく喜んでたの。待望の妹だって。」
「妹…。私も欲しいかも。」
「そうなの?」
「うちお姉ちゃん居るけど妹はいないから。」
「私もなの。お兄ちゃんとお姉ちゃんいるけど…。」
「それなら私だって欲しいわよ。一人っ子よ?私。」
「…私はいいかな。本を読んでたい。」
「律はほんとぶれないわよね。将来世話好きな弟ができそうな気がする。」
「…本を読むの邪魔されないならそれもいいかも。」
そんなことを話していると学校についた。はやてを含めてこの五人は同じクラスだ。最もはやては休学中で学校に来ることはないが。教室で話しているとチャイムが鳴り担任の時音が来るとクラスが静かになった。
「おはよう。…みんないるみたいね。それじゃあ授業を始めます。」
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午前中の授業が終わって昼休み。聖祥ではランチか弁当かを自由に選べる形になっている。前日にあらかじめ注文をしておくことで昼食の時間にランチが教室に届くのだ。弁当の場合は基本的にどこででも食べていいことになっている。なのはたちは、三年生になってから穴場の屋上で昼食をとっている。去年までははやてのこともあり教室やランチルームなど様々な場所で弁当を食べていた。その原因は霧山健人と宮城定行だ。二年生からは二人ともがなのはたちと違うクラスに振り分けられたが、休み時間になるたびにちょっかいをかけに来る。昼食くらいは落ち着いて食べたい、とのことで担任の時音の協力の下、二人から逃げるように様々な場所で昼食をとっていたのだ。そのおかげと言ってもおかしいが、五人とも聖祥の間取りに関して下手すればそこらの教員よりも詳しい。まあ、学校に関して教師より生徒の方が詳しいのは世の常ではあるが。
「…今日は静か。」
「そうね…、今日は馬鹿共が来なかったわね。」
「落ち着いて食べられていいよね。」
「…いつも、ごめん。」
「?なのはが謝ることないじゃない。悪いのはあの馬鹿共よ。」
「…あいつらは不愉快。」
「一番風当たり強いのがりっちゃんだもんね。なんでだろう?」
「風当たりも何も、あんなのはどこに出したって不愉快よ。何が俺のアリサよ!気持ち悪いったらありゃしない!」
「二人とも、お母さんはいい人なのにね。」
「…謝られた。いつも息子がごめんなさいって。」
「お父さんもいい人だったよ。運動会であったの。」
「やめ!食事中にする話じゃないわ!美味しく食べられないもの。」
そう言って弁当を広げるアリサ。それに苦笑いしながら続くすずか。本を片手に既に食べ始めている律。みんなの様子を見ながらなおも申し訳なさそうにするなのは。各々が様々な様子を見せるもとりあえずは昼食の時間が始まった。
「律、何度も言うけど食事中に本を読むものじゃないわよ?」
「アリサ、何度も言うけどたまにならいいでしょ。ここには口うるさい親はいないんだし。」
「あんたのそれはたまにじゃなくて毎日じゃない!…全く。」
「…アリサお母さんみたい。」
「頼りがいあるよね。」
「あんたがそういうことするからでしょ!すずかもそこで乗らないでよ。」
「あはは…。そう言えば、次の授業の宿題考えた?」
「将来についてのなんとかかんとかだっけ?」
「将来の夢!律大丈夫なの?」
「…当たったら考える。…とりあえずは本が読めればそれでいい。」
「…うん。予想はしてた。すずかは?」
「んー工学を学びたいかなーって。高校まではともかく、大学はそれ関係に行きたい…かな。なのはちゃんは?」
「ん?んーわかんないの。理系科目が得意だけどそれをやりたいってほどじゃないし。」
「なのはは翠屋継ぐんじゃないの?お兄さんは多分道場の方継ぐだろうし、お姉さんは…まああれだし。」
「たぶんそうなるのかな?けどわかんないの。やりたいこともやるべきことも……。アリサちゃんは?やっぱり会社を?」
「…。そうね!目指すのは女社長よ!バリバリのキャリアウーマンになって世界経済を動かすの!」
「…やっぱりアリサは姉御肌。」
「…どういうことよ律。」
「なんでもない。」
「そういうあんたは本を読むだけ?」
「本を読めたらそれで幸せ。」
その後は律のおすすめのほんの話になり、…なのはが置いてけぼりになることはあったが。最終的になのはは斎藤惇夫作冒険者たちを読むところから始めたほうがいいと結論ずけたところで予鈴がなった。
「あら、もうこんな時間。急がないと間に合わなくなるわよ!」
「時音先生怒ったら怖いらしいの。」
「ケーキ屋のお兄さんがそう言ってたらしい。」
「そうなんだ。とにかく急ごう?」
そう言って駆けていくアリサとすずかだが、その二人に比べ運動神経の悪い二人は遅れて付いていく形になる。律と併走するなのはは途中で律に声をかけられた。
「…やりたいことはきっと見つかる。なのははそういうの見つけるのうまそうだから。」
そう言われて律の顔を見るもそれられた。首元が赤くなっているから恥ずかしがっているのだろうと思い
「ありがとう。」
とそれだけ返した。
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放課後、みんなで仲良く下校中。
なのはは海鳴公園を通り過ぎようとしたところでふと違和感を覚える。
私はここに来たことがある。
当然だ。月音と初めて会ったのもここだったし、はやてともここで遊んだ。何かあればよくあそこのベンチで黄昏ていた。ここに来たことがあるのは当然だ。けれど違和感を覚える。違和感、そう違和感だ。この感覚は違和感としか言えない。ふわふわした感覚の中にいると隣のすずかが声をかけてきた。
「大丈夫?」
「え?あ、うん。ぼーっとしてただけなの。大丈夫大丈夫。」
「転んだりしたら危ないよ。」
「流石になんにもないところでは転ばないの!」
「もう!転ぶわよ!」
「だから転ばないって…?」
「律。読みながら歩くのは危ないって…もう!」
「あっ。本を取らないでよ。」
「危ないでしょ!」
そう言って本を閉じてカバンにしまうアリサ。腰に手を当てて私怒ってますというアピールは非常に可愛らしい。本を閉じるときにきちんと栞を挟んだり律のランドセルに丁寧にしまうさまは確かに姉御肌だ。
「せっかくみんなで帰ってるんだから話しなさいよ。」
「せっかくみんなが居るんだから安心して本を読んでいたい。」
「もしかして一人で帰る時も本読みながら帰ってるの?」
「うん。」
「りっちゃん、さすがにそれは危ないの。」
「せめてアリサちゃんが一緒にいるときにしよう?」
「ちょっとすずか。」
「うん、そうする。」
「そのほうが安心なの。」
「律もなのはも…。もう。」
そうは言うが頼りにされてまんざらでもなさそうだ。
「今日は寄り道するわよ!せっかく四人揃ってるんだし。」
「…はやてのところいかないの?」
「はやてちゃんところ今日んは都合が悪いんだって。ルルーシュさんたちが明日帰ってくるからその準備でバタバタしてるって言ってたよ。」
「そうなの?」
「先週ルルーシュさんとはやてちゃんに会ったときにそう言ってた。月音さんの知り合いと顔合わせするんだって。」
「へー。お仕事かな?」
「妹ちゃんも一緒に行くって言ってたから違うんじゃないかな?」
「多分顔合わせよ。たまに私もパパに連れて行かれることあるもの。」
「じゃあはやてちゃんちには行けないんだ…。」
「最近会えてないね。」
「仕方ないじゃない。都合があるわ。」
「はやてちゃんの誕生日には会えるよ。大丈夫だって言われたし。そういえば私やっと月音さんと話せたよ!…電話越しだったけど。」
「よかったじゃない!どうだったの初月音さんは。」
「…優しげな人だったかな。けど、ちょっと慌ててた…かな?そそっかしい人なの?」
「ディオさんみたいにどっしりはしてないの。」
「あのレベルが家に二人もいたらはやての息が詰まっちゃうわよ。」
「詰めの甘そうな人?…肉じゃがは美味しかった。」
「あ!私それ食べてないの!」
「お泊りの時に作ってもらった。」
「りっちゃんいいなー。」
「今度の誕生日会で作ってもらえばいい。」
「そうするの。」
「私は会えれば満足かな。話せたから次こそは!」
「まるで恋する乙女ね。」
「違うよ!アリサちゃん!皆が会ったことあるのに私だけ仲間はずれは嫌だから…。」
「わかってるわよ。ちょっとからかっただけ。…それにしてもそこまで慌てると逆の怪しいわね。」
「…もう!」
そう言って少し歩みを早めるすずか。それを笑いながら追いかける三人。けれど四人はそれより先に進むことはなかった。
「嬢ちゃん達。悪いけどここから先は立ち入り禁止ッス。」
茶色いコートを着た大柄な男が少女たちの前に現れた。大柄な男ではあるが、怖さはあまり感じられない。そもそもDIOを見慣れている少女たちは大柄な男に多少耐性がある。
「何かあったんですか?」
男に喋りかけるアリサ。怖がらずに話しかけてくれたことに感動する男。
「貸しボート屋で爆発事故があってね。それで立入禁止ッス。入ったら危ないッスよ。」
「あっちに抜けたいんだけど回り道しないとダメ?」
可愛らしく首をかしげ、上目遣いで男を見るアリサ。それを見て動揺する男。
「いや、ダメッスよ。これ以上給料下げられるともやししか食べられなくなるッス。そもそも、危険なところに嬢ちゃん達を連れていくことは男糸鋸圭介、断じて認められないッス。抜けるなら隣の道から回って欲しいッス。」
「ちぇー。分かったわ。頑張ってね刑事さん。」
「それがいいッス。回り道させちゃってごめんね。あと自分は圭介ッス。」
「??」
「??」
多少の行き違いがあったようで首をかしげている二人。頭の上にはクエスチョンマークが見える。
「アリサちゃん行こう?失礼しますね、糸鋸刑事。」
「気を付けて帰るッスよー。」
圭介に挨拶をして去ろうとするアリサたち。けれど、なのはは動こうとしない。圭介の向こうにあるはずの景色を見つめている。
「?どうしたの?アリサたち行っちゃうよ?」
「…りっちゃん、前にも事故ってあったっけ?」
「え?えっと…聞いたことない…かな。大丈夫?」
「…そうだよね。…大丈夫。夢に『……けて』え?」
「え?」
「何か聞こえなかった?」
「うんうん。木がざわざわしてるくらい。…だと思う?」
『助けて!』
「聞こえた!こっち!」
「え?なのはちゃん!」
なのはは一心不乱に駆け出した。律を置いて。律はすずかとアリサを呼びなのはを呼び追いかける。
「なのは!どうしたのよ一体。」
「いきなり走り出すと危ないよ。」
「二人とも…はや…すぎ。」
律たちが追いついたとき、なのはの胸には血まみれの小動物が抱かれていた。
「この子怪我してる!助けないと!」
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆
次元の狭間で男が笑う。
「各々の夢の世界が存在するならば、想像の顕現である創作の世界があってもおかしくなかろう?誰かの意思にかかわらず。世界の意思とも言える必然で成り立つ世界。…自らの意思に関係なく失敗が定められているとは、哀れなものだな。プレシアよ。」
プレシアは言う。
「戯言に付き合うつもりはないわ。あなたのおかげで失敗作とは言えアリシアの蘇生のきっかけはつかめた、だから協力しているの。世界などどうでもいい。アリシアの蘇生がなればそれでいい。」
そう言ってプレシアは
それを見ながら男は嗤い。鏡に写った少女を眺める。
「それでは、時が来るまでは待つとしよう。既に運命は定まった。」