「んー。ごめんな?今月音にーさんもルルにーさんもおらんから決めれんわ。…ディオにーさんはペットあんま好きそうやないし。」
「わかった。急にごめんね?」
「ええよ。最近会えへんかったし、電話で話せたんは嬉しかったで。それで、えっと…フェリオやったっけ?今どうしとるん?なのはちゃんちは置いとけへんのやろ?」
「フェレットだよ。動物病院にあずけてるの。今週中には退院するらしいからそれまでには引き取り手を探さないと。」
「なのはちゃんは飼えへんの?」
「……うちは喫茶店やってるから。」
「翠屋となのはちゃんち建物ちゃうやん。士朗さんや桃子さんに聞いてみたら案外ええっていってくれるんとちゃう?」
「…でも……。」
「女は度胸やで!なのはちゃん!」
「…それはなんか違う気がするの。」
「それがダメやったらディオにーさん説得してみるわ。にーさんらなんやかんや私に甘いし。」
そう言って笑う友達に苦笑いしながら、お母さんに聞くくらいならいいかなと思うなのは。
二人はそれから、会えていなかったここ二週間のことを話している。新しいクラスは前のクラスよりもおとなしい人が多いとか、顔の怖いお医者さんに会って思わず涙ぐんでしまったとか。相変わらず律の読む本は難解だったり、道端で月村家族と会うといつの間にか月音が消えていたり。
しばらく話していると、はやてはディオに呼ばれたようだ。
「また今度遊ぼうな!次会う時はアリシアちゃん紹介するで!」
「うん。楽しみに待ってるの。おやすみなさい。」
「おやすみー。…がんばって!」
「えっ。」
切れた電話を握り締めていたなのはは、意を決したように部屋を飛び出した。
友人に応援してもらった言葉が少しでも耳に残っているうちに。
別に我儘を言ったら捨てられると思っているわけじゃない。
ただなんとなく怖いのだ。漠然とした不安。
けれど背中を押してくれた人がいるから、きっと彼女はそう思って両親のもとへに向かっている。
「お父さん!お母さん!」
桃子はキッチンで夕飯の洗い物を士朗は食卓でコーヒー片手に読書をしていた。二人ともその手を止めなのはをみると、続きを促した。
「我儘言いたいの!」
それを聞いた桃子は目を丸くして微笑み、士郎は一拍おいて笑い出した。けれど、今のなのはにはそれを気にする余裕はない。
「フェレットを、飼いたい…です。」
尻すぼみになりながらそう言いうつむくなのはを見て、二人は一層笑みを深めた。
○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○
「もー。ディオにーさんもーちょっと待ってくれてもええやん。」
「せっかく炊いた飯が冷めるのは許せん。箸はあるか?」
「あるよー。あれ?月音にーさん達待たへんの?二人分しかないで。」
「さっき連絡があった。夕飯には間に合わんそうだ。…全く。」
「竜姉のとこ行ったんやったっけ?私も行ってみたいわー。」
「ああ、ルルーシュ達を紹介しにな。またツクネが絡まれて出るのが遅くなったのだろう。」
「…?バスとかないん?」
「田舎は本数が少ない。まあ、そもそもあそこにバスなど通っていないが。」
「へー。そんなとこ住んどるんや。確かに浮世離れしとる感じしたなあ。白雪姫みたいな感じ!」
「…あれはあんなおしとやかではなかろう。」
「あー。そっちやのうて、夜叉ケ池に住んどる方の。」
「……ホウ?」
「着物着こなしてて、かっこよかったわー。…どしたん?」
「よく見ているなと思っただけだ。」
DIOはそう言ってはやての頭を撫でながら、車椅子を食卓の前に移動させた。
「二人で食べるんも今日が最後やね!」
「そうなるな?」
「残念?」
「ン?」
「私を独占できんくてさみしそうやなーって!」
「…馬鹿なこと言ってないで食べろ。ほら。いただきます。」
「ディオにーさんってどっかかわええとこある痛い痛い!…もう、事実やからって強う撫でることあらへんやん。…いただきます。」
色々言いながらも食べ始めたはやてを一瞥し自分も食べ始めるDIO。はやてはなんだかんだ言いながらも、皆で食べられなかったことを悲しんでいるようだ。DIOはその様子を見るも、特に何も言うことはなく八神家の食卓においては比較的静かな夕食になっていた。
そんな中はやてが言う。
「ディオにーさんも楽しみにしとったんやろ?みんなの好きなもんいっぱいあるで。」
DIOはそれに応えず言う。
「このあとツクネたちを迎えに行くぞ。九時すぎ頃に出るから準備をしておけ。」
「ふふ、はーい。」
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両親からフェレットの飼育許可をもらってその旨を友人に連絡したなのはは携帯を机の上に置くと椅子に座り、来週から家族に加わるであろうフェレットに思いを馳せていた。
名前は何にしようかな。みんなで見つけたんだしみんなに聞いてみるのもいいかも。名前か…。そう言えば、フェレットって何食べるんだろう?ドックフードとかでもいいのかな。けどキャットフードもあるし…フェレットフードももしかしたらあるかも。お医者さんに聞いたらわかるかな。けど、ケガとかしてたし食事制限もあったりするの?…仲良くなれるかな?はやてちゃんにも見せてあげたいな。外に連れていく時は首輪にリードとかいるのかな。…かわいそうなの。けど周りに迷惑かけちゃいけないし。…ディオさんなら何か知ってるかな。仲間にうまくお願いを聞いてもらえるコツも知ってたし。…そう言えば月音さんって良く動物に懐かれてたの。動物園に連れていったもらったときすごかったな。アリサちゃんとすずかちゃんにもいろいろ聞こうかな。いっぱい飼ってるし。りっちゃんはどうだろう?…フェレットが本を齧るかも。りっちゃんちに連れていくのはやめよう。
そんなことを考えているといつの間にか寝てしまっていたようだ。椅子で寝てしまったせいで少し体が凝っている。少し伸びをして学校の準備をする。
突然声が聞こえたのは算数の教科書を探している時だ。
『助け…!』
え?となのはは周りを見渡す。携帯にはなんの着信も来ていないし、部屋の外からは音は聞こえず家族はみんな静かに寝ているようだ。空耳かな?と首をかしげていると再び声が聞こえた。
『こ…声が聞こ…る方!ど……助け…く……い!』
どこかで聞いたことのある声。ノイズだらけの声を聞いてふと、昨日見た夢を思い出した。
ナニカから必死に逃げる。
けれど次の瞬間には死ぬかもしれない。
体中から血を流し今にも倒れてしましそうな意識。
けれど、何があろうとなさねばならないという覚悟。
突如湧き上がった感覚に思わず膝を付くなのは。
少しの間そのままでいる。
そして、彼女は頭に響く声に従い立ち上がる。
「私が……行かないと。いかなきゃ…!」
少女は部屋を出て階段を静かに駆け降りると扉を開け放ち外へ向かって走り出した。
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頭に響く声を頼りになのはは走る。この声に従えば、きっと対等になれる。何もできない自分じゃなくなる。そんな予感が彼女にはあった。当然違和感も感じている。突如湧いた感覚、不振な声に迷わず従ってしまった自分。
けれど、賽は投げられた。
彼女は選んだのだ。
例えそれを意識していなくとも。
声に従ってたどり着いたのは、日中お世話になった動物病院の裏路地。ついた先でなのはは声を失った。所々に穴のあいた道路、罅割れたコンクリート塀。まるでナニカが暴れたような光景に立ち尽くす。頭に響く声は止まない。あと少しで辿り着く。けれどこの惨状を引き起こすナニカに自分は果たして役に立つのか。逡巡していると前からフェレットが飛び出してきた。さっき治療を受けたはずなのにまた滲んでいる血を見てなのはは我に返った。そのフェレットはなのはを見ると声を張り上げる。
「逃げてください!」
フェレットがしゃべったことに驚く間も無く黒いナニカが向こう側に現れた。
アレを見たことがある。
アレに襲われた。
アレから必死に逃げた。
ナニカを確認するとフェレットを抱きかかえ来た道を一目散に走り出す。
「君が助けてって言ったんだよね!」
逃げながらもなのはは問う。
「声が聞こえたんですか⁉︎」
驚くフェレットの様子を見てそうらしいことを確認すると後ろを見る。黒いナニカはこちらを向いて唸っている。なのははどう逃げるかの算段をつけているとフェレットに話しかけられた。
「力を貸してください!」
「抱きかかえて…一緒に逃げるくらいしかっできることっないよ!」
「あなたにはアレを封じる力がある!これを使って!」
そう言って首についた赤い球を差し出すフェレット。それを見ようとしたのがいけなかった。手元のフェレットを見ようとすると足元が縺れ転んでしまう。フェレットを放り出すことはなかったが、黒いナニカがすぐ後ろにいる。せめて小さいこの子だけでも、とフェレットを抱えて丸くなるなのは。懸命に何かを伝えようとするフェレット。大きく口を広げるナニカ。けれど黒く深いその口に何かが入ることはなかった。
「無駄ァ!」
突如現れた大男は黒いナニカを吹き飛ばしたかと思えば、なのはに声をかけた。
「無事か、ナノハ。」
「…ディオさん?」
「ジュエルシードの暴走体を…!」
「…ン?ああその鼠か。ナノハそいつは雄だぞ。胸に抱えるのはレディとしてよろしくない。」
「…なんで……。」
「ハヤテとツクネ達を迎えに行ってな。こちらが騒がしかったから様子を見に来た。そのフェレットの話を聞くがいい。俺ではアレをどうにかできん。」
「え?」
「このDIOが囮など甚だ遺憾ではあるが、時間は稼ごう。」
「待ってください!あれは危険なもので…!」
そう言われるもの無視してナニカに向かって歩き出すDIO。その背には微塵も不安を感じず。一人と一匹は先ほどまで感じていた恐怖が和らいだことを感じていた。置いていかれるような感覚を覚えたなのははフェレットに問う。
「…私は高町なのは。君の名前は?」
「ユーノ。ユーノ・スクライア。力を…力を貸してください。こんなことは間違ってると思う、けど…お願いします!」
「私にできることなら任せて。何をすればいい?」
「これを。」
そう言ってなのはに渡されたのは先程の赤い玉。
「これは?」
「名前はレイジングハート。詳しいことは後で。今は僕の言ったことを復唱して!」
「わかった!」
「我、使命を受けし者なり。」
「我、使命を受けし者なり。」
一人は嫌だ。
「契約のもと、その力を解き放て。」
「契約のもと、その力を解き放て。」
置いていかれるのも、何もできないのも。
「風は空に、星は天に、不屈の魂はこの胸に。」
「風は空に、星は天に、不屈の魂はこの胸に。」
吸血鬼に立ち向かう勇者みたいに。
「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」「この手に魔法を。レイジングハート、セットアップ!」
みんなと対等に、胸を張って歩きたいんだ!
呪文を唱え終わると手に持っていたはずの球がなのはの身長の半分程もある杖に変わっていた。その杖を持ち直していると杖から声が聞こえる。
[起動確認。付近に脅威を確認。簡易式マスター登録を行います。マスターの名前を入力してください。]
「えっ。」
「なのは。」
なのはに指示に従うよう促すユーノ。起動を確認したら、ユーノは黒いナニカに目を向け、戦いの余波がなのはに届かないよう注意する。
「えっと。高町なのは。」
[マスター登録完了。認証確認。マスター高町なのは。生体データ抽出完了。バリアジャケットの形成に移ります。]
直後なのはの身体を光が包む。その光が収まるとなのはは白に青い意匠の入った服をきていた。
「あれ?なんで…。」
[バリアジャケット展開完了。マスターの魔力資質は推定Aオーバー。マスターは魔法に関して知識をお持ちですか?]
「魔法?」
[知識なしと判断。脅威の排除を優先。マスター、目の前の暴走体に杖を向け呪文を唱えてください。]
「暴走体っていうのはあの黒いのだよね?」
「はい。」
そう言って黒いナニカに目を向けるとDIOがナニカと戦っているのが見えた。素人目にはよくわからないが、なのはが見る限り苦戦しているようには見えない。黒いナニカに杖を向けふと呪文ってなんて言えばいいんだろうと思い至る。すると頭に呪文らしき文言が届いた。
「DIOさんよけて!リリカルマジカルジュエルシード封印!」
呪文を唱えると、桜色の奔流が黒いナニカに殺到した。
「すごい…。」
ユーノは驚いたように言う。魔法を知らない素人が初めて使った魔法。練度が高いとは言い難い。けれどその出力は、自分と比べて遜色がない。
光線を受けたナニカは唸り声とともに消えた。先ほどまで怖がっていたのが馬鹿らしくなるくらいあっけなく。ナニカのいたところには、青い菱形の石が光りながら浮いていた。手に持つレイジングハートが瞬くとその石がなのはの元に飛んできて、レイジングハートの中に飲み込まれた。
[ジュエルシードNo.Ⅳ封印完了。脅威の排除を確認。以降待機モードに移行します。]
そう言って杖が球に戻ったかと思うと、服も元通りになっていた。しばらく放心していたなのはだが、ユーノに声をかけられ我に帰る。
「あの男の人は⁉︎」
「ディオさんも一緒に封印されちゃったのかも!」
そう言って慌てて周りを見渡す一人と一匹だが件の彼はすぐに見つかった。というより、いつの間にすぐ後ろに立っていた。DIOはなのはの頭にておいて言う。
「ナノハよくやった。今はさっさとここを離れるぞ。話は後だ。」
そう言ってDIOはなのはを抱えて走り出した。
○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○
非日常の後は至って普通な帰宅となった。無論、夜遅くの帰宅となったので両親を始め家族全員に怒られたが。
なのはは十分ほどの説教の後、夜も遅いということで自室に送られた。なのはは疲れた頭でぼんやりと思う。
冒険の代償は大きい。一ヶ月のお菓子抜きに来月のお小遣い取り消し。正直わけもわからず家を飛び出たし、今も分からないことがばっかりだ。けど、飛び出した結果としてユーノを助けられた。怒られるのも当然だし、夜遅くに家を飛び出たんだからこの罰は寧ろ小さいんではないかと思う。ちょっと残念な気もするけれど、後悔はしていない。私は納得している。
「おやすみ。ユーノ君。」
家に着く前から既に寝ていたユーノに声をかけ、目を閉じた。
「私は、頑張れたかな。」
少女の呟きは静かに消えた。
○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○◉○
一方その頃、高町家のリビング。向かい合うはDIOと士郎。
当然高町家の面々はなのはから説明を受けた。
曰く、窓の外を見たらフェレットが走っているのを見た。今日助けたフェレットが病院から逃げ出したのだと思い保護しようと追いかけた。なかなか捕まらず時間がかかったが途中でDIOに会い手伝ってもらった。そのあとはDIOに家まで送ってもらった。とのことらしい。
また、ユーノは高町家に着く前、魔法を秘匿しなければならないことを二人に告げ意識を失っている。それを受けなのはは家族に嘘をつき、DIOにも話を合わせて欲しいとお願いした。
「さてと、DIO君。あったことを話して欲しい。」
「ホウ?愛娘の話は信じられんと?」
「愛娘の嘘くらい見抜けるさ。僕以外は信じたみたいだけどね。…ちょっと安心したよ。普段はいい子すぎるから。今日も初めてわがままを言ってね。おっと…オホン。そもそもはぐらかすつもりもないだろう?」
「…まあな。もともと話すつもりであった。まず、今日のことを話す前に二三言わねばならんことがある。」
「…。」
「俺は裏会の仕事に携わっている。主な仕事は神佑地の調査だ。」
「…まあだろうなとは思っていたよ。四年前の通り魔の件も?」
「ああ、最近は落ち着いたらしいがあの頃は異能者が襲われる事件が多発していたらしい。」
「とすると月音君とルルーシュ君も?」
「月音は異能者だがルルーシュは違う。まあその話はいいだろう。裏会について詳しい説明入らんな?」
「ああ、妖に対処するための組織だろう?」
「まあその認識で誤りではないが、一応は異能者のための公助組織だ。まあそこに所属しているわけではないがな。そこで予言を受けた。」
「…予言?」
「なのはが地球を救うらしいぞ。」