ジュエルシードが海鳴市に落ちてから七日が経った。なのはとDIOがユーノを手伝い出してから五日経つことになる。経過は順調。ユーノがこの世界に来て二つ、なのはが家を飛び出したときに一つ、なのはとユーノが協力して四つ、DIOとユーノで拾って来たのが一つで、今日までにユーノが集めた分もあわせて計八つ確保したことになる。
この八つはそれほど大変ではなかった。最初なのはは自分の手のひらに三つは乗るような小石を二十一個集めるのはどれほど大変だろうと思っていた。何しろ範囲は海鳴市全域。砂漠で落とした針を見つけるようなものだ。けれどそれは簡単に覆った。その原因は二つある。ひとつはレイジングハートによる探査術。レイジングハートは半径100mの領域を探査できたのだ。これにより普段より少し広い範囲を散歩するだけでジュエルシードを見つけることができた。もう一つはユーノの落下地点予想である。ユーノは落下した時間、運搬機材の推定故障原因、転移魔法によって海鳴市に来た際の魔法に発生したノイズ、襲われた暴走体の発生地点、といったものからいくつかのジュエルシードの落下地点を予想してみせたのだ。なのはは正直この話をされたときちんぷんかんぷんであったが、取り敢えず、あるかもしれない場所に行けばいいんだと話を切り上げた。小学生に三角測定法とか魔法力振動の減衰関数とか説明されてもわかるまい。そして、これが非常によく当たる。確保した八つの内四つはこの予想地点に落ちていたのだから恐るべき正確さである。ユーノの予想地点は計五つ。そのうち四つは手に入れたが最後の位置が川だったのだ。池ならともかく流石にこれにはお手上げ。とは言え人の手にわたる可能性も低いだろうということで保留に。因みにDIOが拾ってきたのは少し遠い予想地点だったので、ユーノを肩に乗っけて取りに行ったのだ。
そう、経過は順調だったのだ。危険らしい危険はない。道端や草影に落ちている青い小石を拾い集めるだけ。気をつけるのは直に触れないようにレイジングハートをあてるだけ。こんな作業を繰り返していれば気も緩むし慢心もする。
最近のなのはの興味は魔法のトレーニングに移っていた。マルチタスクの訓練と称して授業中に行われるレイジングハートによるイメージトレーニングとDIOとの鬼ごっこ。後者は魔法の実践使用になれるための訓練で、前者はイメージトレーニングと侮るなかれ。レイジングハートの演算能力を駆使して作られる仮想空間。そしてデータさえ入力すればあらゆる敵と実践可能である。現在の仮想敵はジュエルシードの暴走体とその強化版。暴走体との訓練に慣れた頃、暴走体から予想だにしない破壊光線を打たれたことがある。あの時は授業中にもかかわらず奇声を上げてしまった。しかもそのことがレイジングハート経由でDIOにばれ、説教を食らった。
とは言え誰も責められまい。誰しも手に入れたばかりのモノは使いたがる。ゲームの最新作然り、流行のファッション然り。だからなのはも浮かれていたのだ。魔法という非日常。自分にはその才能があってそれを使った人助け。浮かれるなという方が無理だ。ある程度成熟しているとはいえなのははまだ小学三年生で子供なのだから。だから最悪の状況を作らないようにDIOが付いているし、影で閃が見守っている。とは言え、取り扱っているのは危険物だ。金属の匙を使っただけで実験室が吹き飛ぶような、そんな危険物を回収している。きっと、彼女はそのことを思い知る。あるべき意思がなくとも、ないからこそ起こりうる必然も存在するのだから。
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「「「がんばれー!」」」
「…がんばれー。」
なのはたちは士朗が監督をしているサッカーチームの応援に来ている。今週はジュエルシードの探索に掛かりきりだったこともあり、なのははみんなと遊べるこの日を楽しみにしていた。はやても誘ったのだが都合がつかないらしい。三年生が始まってから会えないね。と話していた頃に試合が始まった。
「ちょっと、律。もっとしっかり応援しなさいよ。士郎さんのチーム負けちゃうわよ。」
「…大声を出すのは苦手。」
「サッカーチームのみんなも頑張ってるんだからアンタもがんばんなさい!ほら!がんばれー!」
「…がんばれーー。」
「もう。」
「アリサちゃん応援は気持ちだから。」
「手を振ってあげれば喜ぶと思うの。りっちゃん人気高いし。」
「……え?」
「ほら。今ボール持ってる子に降ってあげなよ。」
「…うん。」
なのはの言葉に従い、相手からボールを奪いゴールにかけていく少年に向かって手を振る律。目が合う少年と少女。直後コケる少年。目が点になる少女ら。相手チームに奪われるボール。意気消沈する応援勢。
「…私は応援に向いてないみたい。」
「はは…。」
「全く、女の子に恥かかせんじゃないわよ!」
「あ、また攻守が入れ替えったの。」
起き上がった少年の顔は真っ赤だったことを追記しておく。
「あの七番さっきから頑張ってるわね。」
「今シュートした子だよね。というよりみんな七番君にボール回してる…?」
「……さっきチームの子達が話してるのを聞いた。七番の子このあと告白するって。」
「「「「えーー!」」」
「勝利点を決めたらって聞こえた。」
「へー、やるじゃない。」
「うまくいくといいね。」
「んー、多分上手くいくの。相手チームちょっとばててきてるし。」
訓練を初めて五日目。まだそれほど時間が経っていないにもかかわらず、なのはの訓練の成果は徐々に出てきている。相手の状態の把握、空間認知能力。前者はDIOとの鬼ごっこから、後者はレイジングハートとの仮想空間での模擬戦の成果だ。
DIOとの鬼ごっことは飛行魔法と攻撃魔法の訓練の一環として行われたものだ。
一つ、なのはは魔法の使用は可能。ただしDIOから200m以上離れないこと。
二つ、DIOに攻撃を当てるか三十分逃げ切れたら終了。
最初なのははこの条件を渋った。条件がなのはに有利すぎる。そのことをDIOに伝えると真顔でこう言われた。まさか勝てると思っているのか、と。流石にカチンときたなのはは、条件をのんで鬼ごっこをやってみた。
結果として五分もたなかったが。
そして、その翌日から仮想敵がDIOにグレードアップした。
「そうだね、確かにばててるかも。なのはちゃんよくわかったね。」
「わかりやすくばててくれるだけまだいいの。」
「え?」
「あ、なんでもない。なんとなくだよなんとなく。ほら、あそこの人なんて肩で息してるし。」
「ホントだ。」
「男なんだから意地くらいはってほしいわよ。」
「…アリサちゃんは男らしい人が好み?」
「…………。」
「…図星。」
「なによ!悪い!」
「…けど、たぶんアリサちゃんの恋人は尻に引かれると思う。」
「なんですって!」
「「たしかに。」」
「ちょっと、なのはにすずかまで!」
ちょうどその頃七番君がゴールを決めた。
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「「「かんぱーい!」」」
「かんぱい。」
結果として士朗が監督するチームは勝った。素人目から見ても七番君の活躍は著しい物があった。きっと告白も上手くいくだろうとはアリサの弁だ。それにしても恋愛経験ないはずのアリサがなんで断言できるんだろうとすずかが疑問に思っていると律に、
「あれでお姫様に憧れてるから。ハッピーエンドしか見えないんだよ。」
と言われ何となく納得してしまった。因みにその発言はしっかりとアリサに聞こえていたようで、そこでひと悶着あったリもした。
試合終了後、皆で円陣を組んで反省会を軽く済ました後、勝利記念に翠屋を貸し切ってパーティーをしようと士朗が提案するとサッカーチームの面々は歓声を上げた。そこになのはたち四人も誘われたわけだ。
「女の子たちがいると華があるからね。」
と誘う士郎に小学生に言う言葉じゃないだろと律は内心突っ込んだ。
とは言え、部外者でも四人が真ん中で騒ぐわけにもいかず、隅にかたまり楽しそうに食べるサッカーチームを眺めていた。
「あ、七番君がマネージャーの子連れ出したわよ。」
「…周りの見てみぬふり感がすごい。」
「試合の時より一丸になってるの。」
「告白かー。いいなー。」
「すずかは恋人に憧れてたり?」
「え?それは…ね。あこがれはするけど、まだちょっとよくわからないかな。」
「いっぱい本読んでるのに?」
「たくさん読んでも実感してみたら、こんなんなんだって残念に思うことあるよ?」
「……ある。わかるよすずかちゃん…!」
「わかってくれる!りっちゃん…!。」
「すごい美味しそうに食べてた料理とか。」
「山の頂上から見る景色とか。」
そこから盛り上がる読書の実体験談議に、なのはとアリサはついていけなかった。あの作家の描写は過剰だ、とか。逆になんであんな表現にしか出来なかったんだとか。
「そんなに読書って面白いのかな?」
「あれは読書が問題ってよりも読む人間の問題よ。」
二人を見て唖然とするなのはと呆れるアリサ。内々で盛り上がる四人はサッカーチームから送られる熱視線にはアクションを起こさない。無視を決め込んでいるのが二人、気がついていないのが二人。王子様に憧れる少女曰く、せめて声をかけてくるぐらいの漢気がないと。とのことである。
読書体験を語る二人を眺めながら世間話をするなのはとアリサ。話題は専らはやての事だ。最近何かに邪魔されてるんじゃないかと思うくらい会えていない。電話には出るしメールも返ってくる。ただ会えないのだ。家にお邪魔しようにも、月音とDIOはお仕事で家を出ており悪いけど、と断られる。たまに商店街で会うこともあったが最近は時間がずれているのか見かけすらしない。これは何かの陰謀よ!と断じるアリサ。それに対して妹の面倒を見てるんだろうなと思うなのは。宇宙人が攫って実は電話もメールもそれを隠すための隠蔽工作だ。と言う話まで出た。二人とも笑顔で話してはいるがやはりどこかさみしそうだ。
なのははアリサと話をしながら、DIOが仕事で家を空けていると言う部分に違和感を覚えた。けれどその考えがそれ以上進むことはなかった。なぜなら青い宝石が目に入った気がしたからだ。七番君がマネージャーと帰って来てそれを歓声で迎えるチームメイト。二人の様子を見るにうまく行ったようだ。なのはは青い宝石がどこで見えたのかと再度その光景を見る。けれど、宝石を目にすることはなかった。勘違いだったのかな?と首を傾げているとアリサから声がかかる。
「ちょっと、どうしたのよぼーっとして。」
「え?いや、えっと…うまく行ったみたいだなーって。」
「そうね。二人とも嬉しそう。」
「きっと告白の言葉は、あの勝利点は君のために決めたんだ!だよね。」
「…いや、この勝利を君に捧げたい。だと思う。」
「……あんた達読書談義はもういいの?」
「色恋沙汰に反応しない女子はいません。」
「……すずか、さっきよくわからないって言ってたじゃない。」
「そうだっけ?」
そんなことを話しているうちにサッカーチームのパーティーは終わりを告げた。告白の余波か、なのは達四人に声をかけようとした勇気ある男子もいるにはいたが、キッチンから謎の威圧を感じ断念せざるを得なかったことがあったことも追記しておく。
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『サッカーの試合終わったから、今からそっちに向かうね。』
『今日は見つかりそうにないし、ディオさんと二人でも大丈夫だよ?』
『んー、時間があるときは手伝うよ。今日だって私の用事で二人に任せちゃったんだし。』
『分かった。海鳴商店街の烏森で待ってるね。』
『墨村さんとこだよね。今から行く。』
サッカーチームのパーティーが終わり、念話でユーノにこれから合流する旨を伝える。既に三人とは別れている。翠屋から烏森までなのはの足で十分ほど。飛んでいけば早いかなと思っていると声が掛かった。
「なのはちゃん?」
「え…、閃さん!」
「やあ。最近よく会うね。」
「そうかな?」
前にあったのはDIOに倉庫の中に連れていかれた火曜日だ。そこから四日会っていない。学校で友達と毎日あっているなのはにとって四日ぶりに会う人とはよく会うとは表現しがたい。
「じゃないかな?…どこに行くの?」
「烏森に。DIOさんと待ち合わせてて。」
「へえ。ちょうど良かった。俺も烏森に用があってね。あそこの店主とは顔なじみなんだ。」
「墨村さんと?」
「お、うん。名前よく知ってたね。中学からの付き合いでね。そこから腐れ縁ってやつ。」
「前に一緒にお店を出したことがあったのその相談で良くうちに来てたから。」
「あー。提携して出店出すって言ってたな。」
「んー。けどね?そのときお兄ちゃんがまた試合申し込んでたの。その立ち振る舞いがどうだかとかで。ディオさんみたいなムキムキな人ならわかるけど、墨村さんあんまり強そうには見えなかったなー。」
「……。お兄さん良く初対面の人に試合申し込んだりしてるの?」
「え?そうでもないよ。申し込むこともあるけど私でもわかるくらい強そうな人とかくらいかな。面白いんだよ。口では不躾で申し訳ないとか言いながら、目はすっごい輝いてるの。」
「……。それは面白いのかな?」
「それでね。私前に、話し合いの方が大事だよ!って言ったら、シアッタ方が口で語るよりよっぽどそいつの人となりがわかるって。そうなの?」
「……死合った……。…確かに口じゃ伝えきれないことがあるのは否めない…かな。それで、その時はどうなったの?」
「え?普通に墨村さん引いてた。」
「だよね。」
ここでなのはの兄、恭也の名誉のために断っておくが決して恭也が常識のない武術馬鹿というわけではない。勿論一般人に比べ思考がやや物騒なことに間違いはない。けれど自分の思考がやや危険思想にのめり込みつつあることは理解していて更に試合を申し出るにしても相手がよほど実戦慣れしている時くらいである。法整備され、治安の著しくよくなった現代において実戦を積むということはストリートファイト経験が豊富であるということにほかならない。そういった人間は十中八九試合を受ける。そう言った経験の下、彼は試合つまり実践経験を積もうと努力しているのでる。
烏森に歩きながら、二人の話題は八神一家のことにシフトしていった。片や、社会人の男、片や女子小学生。共通の話題など二人が知り合うきっかけになった八神家のことくらいしかないのだ。なのはが最近はやてに会えないと愚痴ると、保護者三人が仕事で忙しいからねと閃が事情を説明する。
「仕事場で受けられるはずの援助がなくなっちゃったらしくてね。急に人手がいるようになったんだって。」
「ディオさんも月音さんもいつも家にいたから仕事してるってこと忘れてたの。」
「仕事の機会がなかなかないからね。それにはやてちゃん引き取るにあたって育児休暇的なモノを申請してたらしいよ。まあそれでも何回か呼び出されてたみたいだけど。」
「へー。閃さん詳しいんだね。」
「似たようなところで働いてるから。」
「あ!アリシアちゃんてどんな子なの?まだあったことなくて気になってたの。」
「そうなんだ。アリシアちゃんまだこっち来て三週間だから会う機会がなかったのかな?」
「先週は親戚の挨拶に行ってたみたいでなかなか会えなかったの。今週から月音さんたちのお仕事忙しくなって遊びに行けなくなったし。」
「そっか。うーん。運動とかよりは読書とかが好きな子かな。けど割と走り回ったりするし。」
「四歳だったよね。」
「確かそうだったと思うよ。髪は長いき
「ナノハ、センもいたか。」
「ディオさん!ユーノ君も。」
DIOの肩から飛び降りなのはの方に駆けていくユーノそれを見ながらDIOは閃に声をかける。
「すまんな。」
「いえ、確かに下手すれば飛びかねなかったので声をかけたのは正解だと。」
「それでは確かに引き受けた。あちらは頼んだ。」
「はい。それにしても女子小学生つけまわす仕事多すぎません?」
「性に合ってるんじゃないのか?」
「俺はノーマルです!」
なのははユーノと見つめ合っていて二人の会話に気がついていない。おそらく念話で話しているのだろう。そんなのはに一声かけて閃は去る。
「じゃあね、なのはちゃん。」
「あ、ばいばい!閃さん。墨村さんによろしく。」
「分かったよ。」
「フム、では合流もできたことだ。探索に向かうとしよう。」
「はい!」
『そもそもなんで、商店街なんですか?ここは初日に一通りさらったと思うんですけど。』
「……。」
「あ、ディオさんユーノ君がなんでもう一度商店街を見て回るのかって。」
「…?ああ、念話か。別に口で言えばよかろう。人が多いところではフェレットがしゃべっていることなど誰も気に留めん。」
「…それでも迷惑かけるかもしれないからって。」
「通訳を置く方が面倒だと思うが。…まあいい。ここを選んだ理由だったか。人通りが多いからだ。」
「人通り?」
「この周辺に落ちていないことは以前確認したとおりだ。だが、ジュエルシードは願いに反応するそうだ。つまり拾っても何も起きず、身に付けた状態で何か願って初めて何かが起きる可能性が高い。これは以前ユーノに確認したことだ。推測ではあるが、落ちてから今日まで五日、暴走体以外何も事件事故が起きていない状況を考えるとこの可能性が高い。」
「そうなの?ユーノ君。」
頷くユーノ。
「さて、ナノハ。我々の一番の目的はなんだ。」
「…ジュエルシードを全部集めること?」
「それでは足りん。ユーノに聞いてみろ。」
『被害を抑えつつ、ジュエルシードを確保すること…かな。』
「あ。」
「その様子だとおそらく正しい。被害を抑えねばならん。以前言ったとおり、異能者による治安維持組織は海鳴に入ってこれん。であるなら超常現象が起きたときに対応出来る者は限られる。そのため手におえんことが起きた場合どうしようもないのだ。故に事前に防がねばならん。だからこそ人の多い商店街だ。」
「けど、ここ以外で何か起きるかも。」
「そうだな。しかしここで何か起きれば、ほかで被害が起きるより多くの人が傷つくだろう。」
「他の場所を見捨てるってこと?」
「そういう言い方もできる。だが海鳴すべてを見張ることなどできまい?どこかでは選ばねばならん。」
「……。」
「納得はしなくていい。今は何かあったときに備えろ。」
DIOにほかの場所の可能性を提示したのはとっさの思いつきだ。特に考えていったわけではない。けれど、そう発言すると、いまどれだけ危険な状況なのか分かった。ストンとあるべきところにあるべきものが収まったのだ。そして、そのあるべきものがなのはを震え上がらせた。もし、あの黒いナニカが突如現れて友達を喰い殺したら。為す術もなくあの黒い淵に飲まれる友人たちを幻視して自分がどれだけ甘く考えたかを理解した。今この街にはアレを生み出すものが十三個も眠っている。
黒いナニカの眼窩。何も入っていない深い穴。そこを見ると、眼球がないのにまるで睨まれたかのように足が縫いつけられた。あの時はユーノがいた。だから気丈に振舞えた。仮想空間内でも妥当はたやすい。あれには威圧感も、圧迫感も欠片もないのだ。まだDIOの方が恐ろしい。仮想空間でいくらアレを打倒しようと現実でアレを打倒できるのか。あの恐怖に屈さずにいられるか。
そんな時ふと、翠屋での光景を思い出す。もしあの時見た石が、錯覚ではなく誰かが握っていて見えなくなっていただけだとしたら。
せめてもう少しだけ早く気がついていたら何か変わったのだろうか。
次の瞬間、ビルを貫き突如現れた大樹にDIOが飲み込まれた。