「う、う~~ん」
いつもの寝苦しさを感じつつリュウは目を覚ました。
「はぁ~~いつものことだけど」
今日も抱き枕の様に自分をがっちり拘束する姉を起こさないように抜けだし、代わりに枕を抱かせる。
相変わらず幸せそうな顔にため息をつきつつカーテンを開けた。
差し込んだ朝日にリュウは目を瞑り、薄っすらと目を開けると雲ひとつない青空が広がっている。今日もいい天気だ。
朝日を感じたのかユーノが目を覚ました。前足で器用に目をこする姿にものすごく人間臭さを感じ笑みをうかべる。
「ふぁ~~リュウおはよう~~リュウは起きるのが早いんだね~~」
「うん。えと、ウチは~古武術ってユーノはわかる?」
「格闘技のことですよね」
「そ、そんな感じ。ウチには昔から代々伝わる剣術の流派があって、恭也にぃたちは父さんからそれを習ってるんだ。なのはねぇを除いて。
まぁ、僕はまだ本格的な稽古はつけてもらってないけどね」
「そうなんですか。ん?なのはは教わってないのですか?」
「うん。なのはねぇは運動音痴だからねぇ~」
リュウのベッドのなのはを見ると、リュウ~~と寝言を言いながらほほを緩ませていた。
リュウはため息をつきユーノに視線を戻した。
「とりあえず、一時間半ぐらいで戻ってくるからそれまで寝てて良いよ」
「それまでになのはを起こした方がいいかな?」
「ん~~なのはねぇは寝起きが悪いからなぁ~~それにいろいろあるし。僕が戻ってきたら起こすから大丈夫だよ」
「大丈夫。寝起きの悪い子を起こすのは慣れてるから」
ユーノは腕を組みつつ自信満々に言う。
「いや。う、う~~ん。ユーノなら大丈夫かなぁ。ん~~じゃあお願いしていいかな」
「はい」
「ふわ~~と。じゃあよろしく~~」
欠伸をしつつ眠い目をこすりながらリュウは手早く着替えると部屋を後にした。
ユーノは時計を見てあともう少し眠れるなということで丸くなり二度寝の体制に入った。
リュウは日課のジョギングを終へ、シャワーを浴び自室へ戻る階段を上る。
すると、何かが落ちたような大きな音が聞こえた。
(はあ~~やっぱりダメだったか)
リュウはため息をつき、自室のドアを静開けた。
「リュウ!」
悲痛な声を出し、なのはがリュウの胸に飛び込んだ。
あらかじめ予想していたリュウは冷静になのは抱きしめる。
抱きかかえたなのはの目尻には涙が溜まっていた。
「ぐす、ぐす、リュウぅ~~」
「あ~~ごめん」
「う、う~~居なくなったかと思ったよぉ~~」
なのはの頭をなでつつ自室に目を向けると、なのはがやったのだろう。
本は落ち、クロゼットから服が投げ出され、まるで強盗に入られたかの様に散らかっていた。
これを片付けるのかとため息をつきつつユーノの姿を探すと、机のクッションの上で震えていた。
ふと、視線を感じ階段の下を見ると、心配そうにこちらを見つめる両親達と目が合った。
リュウは軽く頷くと、両親は何か察したのかため息つき去って行く。
抱きついたなのはを抱えつつリュウは部屋に入りドアを静かに閉めた。
「ユーノ大丈夫」
「リュ!リュウ!」
ドアの向こうに誰もいないことを察っし震えているユーノにやさしく声をかける。
ユーノはリュウの声にビクっと反応して此方に振り向いた。
ユーノの目は潤んでいった。
「ごめん、驚いたよね」
「は、はい。なのはを起こしたら急に。リュウがいないと暴れだして。僕が何を言っても聞かなくて」
「う~~ぐす」
「よしよし。なのはねぇはちょっといろいろあってね。最近は落ち着いてきたからもう大丈夫かな~と思ったんだけど」
なのはの頭をなでつつリュウは言う。
「うう。リュウ~~」
「うん。うんごめんね。はぁ~やっぱり僕が起こせばよかった。ユーノなら大丈夫だと思ったんだけどなぁ~」
「はぁ?」
よくわからないという顔をするユーノを見つめつつ、この散らかった部屋をどうしようかと悩むリュウだった。
なのはの癇癪を何とかなだめ、朝食取る。
朝食の時も、なのははリュウの服を右手でしっかりと掴んでいた。
両親はそのことに何も言わない。この状態のなのははとても不安定だと知っているから。
いつもは和気藹々としている朝食は、今日に限っては痛いほどの静けさに満ちていた。
朝食を食べ終え、二人は静かに学校へ行く準備を進める。
ユーノは何も言わずに二人を見つめている。
部屋の片付けはとりあえず帰ってからすることに決め、準備が終わるとリュウがなのはに言う。
「なのはねぇほら」
「ユーノくん……さっきは怖がらせてごめんね…」
「い。いえ。大丈夫。気にしてませんから……」
「………」
「………」
二人の会話は続かない。
リュウはため息をつき
「じゃあ僕たちはこれから学校に行かないといけないから、帰ってきたら詳しいお話を聞かせてよ」
「あ、はい。あっ、離れていても話はできるよ」
「「え!」」
ユーノの答えに二人は驚いた。
『二人とも聞こえる』
「「!」」
二人の脳裏にあの時と同じ声が響いた。
「なのは、レイジング・ハートを身に着けたまま心で僕に話しかけてみて」
『こう』
『そう簡単でしょ』
なのはは机に置かれた赤い玉レイジング・ハートと手に取る念じる。
その声がユーノに届いたらしくすぐに返答が帰ってきた。
「すご~~い」
「これで、学校でも話すことが出来きるよ」
うれしそうに話すなのはとユーノの雰囲気に、先ほどの重い空気は消えていた。
だがリュウはふと思った。
「僕は?」
「「あ!」」
「そ、そうでした。すいません」
「それって、そのレイジング・ハートがないと使えないの?ユーノは代わりをもってる風には見えないけど」
「レイジング・ハート。デバイスですね。残念ですがそれは一つしか持ってきてないんです。
僕らの世界のは魔法は前回話しましたがプログラムで出来ています。
この魔法『念話』事態は簡単な術式なので覚えることは可能ですが、一から理論を説明してとなると」
「時間が掛かる」
「はい。基礎を一から覚える必要がありますから。それに人によっては理解出来ない場合もあります」
「はぁ~しょうがない。やっぱり学校から帰ってからでお願いしていいかな」
「はい。わかりました」
「そういえばリュウ。すずかちゃんのことどうしよう」
「あ、そうだった」
なのはの言葉にリュウは忘れていたすずかの事を思い出した。
ユーノは首を傾け不思議そうに二人を見た。
「すずかさんとは?」
「僕のクラスメイトで、実を言うとユーノ声を聴いた一人なんだ」
「そうなのですか!」
リュウの答えにユーノは驚いた。
この世界に魔法の素質を持つ人間はいず、いても非常に希だと知っていた。
まさか、近くに3人も素質がある人間がいるとは。
「すずかにも説明しないと」
「で、ですがこれ以上無関係の人を巻き込むのは」
「そうだよ。リュウ!すずかちゃんを巻き込むのは私も反対だよ。ただでさえいろいろあるのに」
いや、なのはねぇが反対なのは別の理由もあるんじゃないかなと思いつつ、リュウは携帯を取りだし二人に見せた。
そこには、すずかのメールの履歴が映し出されていた。
その数80件。しかも昨日の着信から10分ごとに来ていた。
最初の方は通話だったが、その後繋がらないことからメールに切り替えようだ。
内容は単純に状況の説明を求める者だったが、後になるにつれ文章が荒れ反応がない事への怒りがにじみ出ていた。
リュウは気まずそうに携帯を閉じ、視線をなのは達に向ける。
ユーノは此方の文字が読めないので、なのはに説明して貰っていた。
「ね…」
「にゃはは……これは無理だね。うん。はぁ~すずかちゃんものすごく怒ってる」
「うん。これから憂鬱だよ。どうしよ」
「もう!しょうがない。ユーノくんこういうことだから、帰ったらみんなにお話お願い」
「はぁ~これ以上巻き込みたくないのですが。わかりました」
「ちょうど今日はあの日だからその時に話せばいいんじゃないかな」
「ああ、そういえばそうだね」
リュウはカレンダーを見た。そこには赤い丸が書かれていた。
「あの日とは?」
「あ~ちょっとね」
なのははユーノの問いに気まずそうに言いよどむ。
そのとき、外から桃子の呼ぶ声が聞こえた。
「なのは~~リュウ~~そろそろ出ないと遅刻するわよ~~」
「は~~い。じゃあ行くねユーノくん」
「ユーノ留守番よろしく」
「はい。わかりました」
二人はユーノにそう言うと、急いで鞄を手に学校へ向かった。
バス停に来たスクールバスに乗ると、後ろの席をいつものように陣取る二人の友人がいた
明らかにすずかはご機嫌斜めだった。
隣のアリサはげんなりした顔で座っている。
アリサは二人が乗って来るのを確認すると睨みつけた。
(なんかアリサまで怒こってるんだけど)
(にゃはは…)
二人がすずか達に近づくとすずかが口を開いた。
「さあ、リュウくんなのはちゃん!昨日何があったか全部教えてもらうんだからね。
それに、リュウくん酷いよあんなに連絡したのになんで何も返してくれないの!」
「はぁ~朝からすずかがこんな調子なんだけど。で、昨日何があったのよ。
すずかをなだめるのすっっっごい大変だったんだからね。この埋め合わせはして貰うわよ」
不機嫌そうに言うすずかとジト目で見つめるアリサに言い寄られ、二人は気まずそうに答える。
「いや~~」「話せば長くなるというか」
「もう~~リュウくん。全部教えてくれるって約束したよね!!」
すずかはリュウの襟元を掴み引き寄せる。
二人の瞳が合う。
後ろで、他の生徒がおもしろそうに痴話喧嘩を見ていたが、誰も止めるそぶりは見せようとしていない。
「ちょっとすずか」
「何アリサちゃん?」
「ごめん、何もないわ。何も」
「すずかちょと苦しい。わかった。わかったから今日はすずかの家に行く日だからその時詳しく教えるから。
ほら、みんな見てるから」
「あっ。ごねんリュウ。約束ね。絶対だよ」
リュウから手を離し、今の状況を理解して恥ずかしそうに小さくなった。
後ろで運転手はようやく終わったかとため息をつきつつ、バスを発信させた。
今日に限ってはなのははリュウをすずかの隣に座らせた。
二人は学校から帰ると、すぐに自室へ向かった。
ドアを開けると階段を上る音でなのは達に気づいたのかユーノが起きていた。
「ユーノくんただいま!」
「ユーノただいま」
「二人ともおかえり」
「それじゃあユーノくん行こっか」
「どこに行くんですか?」
なのはの言葉にユーノは首をかしげる。
「すずかちゃんの家だよ。ユーノくんに朝話した友達の家」
「なのはねぇ。ぼくシャワー浴びて来るね」
「何でリュウはシャワーを浴びに?というかその子の家に行くんですか?」
「にゃはは」
シャワーを浴び終えたリュウはなのはとユーノとともにすずかの家に向かう。
ユーノの疑問をかわしつつ、すずかの家の門に付くとユーノは目を見開いた。
それもそうだろう、目の前にはテレビの富豪の豪邸紹介で出てきそうな高さは5メートル以上はある鉄の門があり、
屋敷に至っては門の先には見えず、広大な中庭があるだけだった。
『すごい……ですね』
『すずかちゃん家はお金もちだからね~』
すずかの家はこの街でも有名な資本家で、広大な敷地の庭に煉瓦造りの宮殿の様な屋敷が建っている。
初めて来たリュウはあまりの広さに中庭で迷子になったほどだ。
『そういえばリュウのその格好はなんですか?』
リュウの格好は、髪が見えない様にフード深々とかぶり、色つきの眼鏡を欠けていた。
『にゃはは…リュウは自分の髪の色が好きじゃないからね。私はその色好きなんだけどね』
『そうなんですか?』
『そう、生まれつき青い髪の人なんていないから。おかげで学校じゃ一人ぼっち』
『僕の世界では普通にいますよ。青い髪の人は』
『そうなの?』
『はい、そこまで珍しい色ではないですよ』
『後でリュウに言ってあげて、きっと喜ぶと思うから』
視線を感じたのかリュウはなのは達に振り向くと不思議そうな顔をした。
インターホンを押すと聞きなれた声が聞こえる。
すずかの家のメイド長のノエルの声だ。
「はい、どちら様でしょうか」
「リュウです」
「なのはで~す」
「ようこそいらっしゃいました。今門を開けますので」
ノエルの声とともに門が重い音を立て静かに開いた。
リュウ達は広大な中にはへと進み、しばらく歩いているとすずかの屋敷が見えて来た。
入り口にリュウと同年代位のメイド服のの少女が手を振っていた。
ノエルの妹のファリンだ。
ファリンに連れられ、通された部屋にはアリサが椅子に座ってお菓子を食べていた。
未だに朝からの不機嫌さは消えていないようだった。
「遅いわよ。二人とも」
「アリサちゃん。ごめ~~ん」
「ごめんアリサ。ちょっと手間取って」
「ん?あら、この前のフェレットじゃない。やっぱり、その子が関係あるのね」
「ユーノくんていうの」
「ふ~~ん」
「じゃあ私ここで待ってるから。早く済ましてきてよね」
アリサはパタパタと手を振り、視線をお菓子に戻した。
「ユーノくんはちょっとここで待っててね。アリサちゃんユーノくんの相手お願いね」
「はいはい」
机に伏したまま手を上げるアリサになのは気まずそうな視線を向けつつユーノに念話で言う。
『ユーノくんごめん。少しの間アリサちゃんと一緒にいてくれない。私たちこれから大事な用があるの』
『え、ええ~!』
『すぐ、終わるから待っててね』
『は、はい~~?』
なのははユーノをアリサのいるテーブルに置くと、リュウと一緒に部屋を出て行った。
二人が出て行くとアリサは起き上がり、隣で固まっているユーノを抱き上げじろじろと見回した。
ユーノは冷や汗を出しながらじっとしている。
「やっぱり。なんか普通のフェレットと違う感じがするよね~~」
『う!』
二人はファリンに連れられある部屋の前まで来た。
この部屋の扉は他の物より明らかに重厚感がある。
リュウとなのはは気を引き締める。
ファリンが二回のノックをして、扉が重そうに開いた。
部屋の中は薄暗く、窓が一切なかった。そして部屋に調度品とすらなくあるのは三つの椅子だけ、
一つの椅子にはすずかが妖艶な座っていた。
「待ってたよ。リュウくん」