リュウは青い顔をしたユーノをそっと机の中央に置き、全員がユーノを囲むように座った。
ガチガチに緊張して震えているユーノを見て少し不憫に思ったがしょうがない。
「さあ、昨日の続きよ!」
「はい!」
「それじゃあまず、昨日聞けなかったあんたのいる世界のことについて話してもらおうかしら」
ビシッ!と直立したユーノに対してアリサがあれこれと質問していく。向こうの文化に始まり、生活水準やら法律、歴史に至るまで聞いた内容は多岐にわたった。
それを、メモ帳に逐一書き留めていった。リュウがちらっと覗くと、誰が見てもわかりやすいように要点ごとにまとめられ、重要な所は色分けされていた。
だんだんと白熱する二人の会話に取り残された三人は苦笑いを浮かべながら 、ずっと黙っていた。ユーノの話を聞く限り、向こうの世界は文化的にはこちらとあまり変わらないようだ。
ただ、科学は遙かにすすんでいるようだ。
次元を渡る船の話が出てくると、すずかとリュウが露骨に反応したが、アリサに睨まれ詳しく聞けなかった。
そして、話がジュエルシードやロストロギア関係に移り、昨日より深い話になっていった。
ロストロギアに関しては、古代の遺産であったり、下手をすれば世界そのものがなくなってしまう危険性があること、かつてあるロストロギアのせいで本当に世界が消えてしまったことがあるなど。
質問の結果を聞くたびに、だんだんとアリサの顔が青くなっていった。
さすがのリュウ達も、想像していたよりも大変なことになっていることに表情が強ばっていった。
あらかた質問を終えたあとには、アリサはテーブルの上に覆い被さるように突っ伏していた。その様子を三人は苦笑い浮かべながら見つめていた。
そして、アリサはゆら~と起き上がるとキリっとユーノを睨んだ。
「あんたはもう!!………はぁ~~もう、いいわ……。はぁ~もうさぁ~~この事件。時空管理局って言ったかしらあんたらの警察機構、そこに連絡した方がいいんじゃない。さすがに私たちだけじゃ荷が重すぎるでしょ。あんただって、実際にはわかってるんじゃない?」
「……う、今さらですが、確かにそうですね……そうですよね 」
一瞬怒られると思い、毛が逆立ったユーノはだったがアリサの物言いに同意する。
頭痛を押さえるように頭を撫でるアリサはジト目で言う。
「で、まさか連絡取れないわけないでしょうね」
「いえ。さすがにそこは大丈夫です。向こうと連絡が取れないと僕も帰れませんからね。なのはレジング・ハートをここに置いて下さい」
「あ、うん」
「ん?なんでレイジング・ハートがいるの?」
リュウはユーノの言葉に疑問を持った。
魔法で瞬間移動でもして帰るのかと思っていたからだ。
「レイジング・ハートを使って管理局のゲートを管理する部署部署に連絡を取るんです。今回は違う部署に連絡しますけどね」
「リュウ。あんた今までの私と話聞いてのなかったの。このことはちゃんよ話してたわよ」
「ははは……」
(アリサが怖くて頭にぜんぜん入ってませんでした)
なのははレイジング・ハートをポケットから出すとユーノの目の前に置いた。ユーノが前足で触れながら目を閉じる。
すると、レイジング・ハートが微かに光始めた。
だが、
「あれ?おかしいな?そんなはずないんだけど…… 」
「どうしたのユーノ?」
「いえ、何かがおかしいんです」
「何がよ?」
難しい顔をしたユーノにアリサとリュウは言う。
「この世界以外への通信が出来なくなってる。これじゃあ、管理局に連絡ができない!!」
「ジュエルシードのせいなの?」
すずかは首をかしげながら言う。
「いえ、それはありえません。ジュエルシード自体は単に所有者の願いを叶えるもの。通信単体に影響を与えることは出来ないはず……
まさか誰かがジャミングをかけている?」
「ジャミング?」
「なのはちゃん。よく映画とかで無線がつながらない~~とかいうシーンあるでしょ。
それをするのがジャミングって言うんだよ。あ!私のウチにもあるよ。お姉ちゃんと私で作ったやつ」
「へ~~すずかちゃん。詳しいね」
リュウとアリサは、なんだか最後に不穏なことを言ったことを気すると思いつつもユーノに意識を向ける。
「どう?」
「どうなの?」
「だめです……どうやっても向こうと一切通信出来ません。ですが、ジャミングをするにしてもいったい何の目的で」
「あんたねぇ~~。そんなの決まってるじゃない。タイミング的にあんたが回収しに来たジュエルシードでしょ」
「そんな!」
ユーノの疑問にアリサがあきれながら言う。
「そういえばさ。さっきあんたが言ってけど、ジュエルシードがこの世界に散らばったのは搬送中の原因不明事故なんだっけ?」
「はい……」
先ほどの受け答えで、アリサはなぜジュエルシードがこの世界に表れたのか原因を聞いていた。
ユーノが回収したジュエルシードを保管場所の別次元に運送する途中に輸送船に事故が起きたのだ。
事故原因は不明。
ジュエルシードの行方もわからなくなってしまった。
自分で発掘した責任からか、ユーノはなんとか飛び散った次元を特定し今に至る。
「もしかすると事故は故意に起こされたものかもしれないわね」
「そんな……… 」
「ジュエルシードには暴走の危険性があるけど、使った人の願いをかなえる力があるんでしょ。それって、要するに暴走さえなんとかしちゃえば、願い叶え放題の超便利アイテムじゃない。
どっかの願をかなえるのに七つ集める必要がある玉や、七人の従者で勝ち抜きしないといけない物より全然楽じゃない」
「後半意味がわかりませんでしたが、確かにそうですね」
「ん~~下手をすると、映画見たいに謎の組織が参上。工作員と激しい争奪戦がなんて……笑えない状況になりそうね」
「う……」
もしかすると大規模な組織が関わっているかもしれないと言われたユーノは臆してしまう。
確かにいろいろと考えて見ると、裏に何かがいるのではないかその影が見えるような気がした。
「だ、か、ら、そこの二人!状況わかった。とくになのは!あんたよあんた!」
「にゃ!」
アリサに突然話を振られたなのはは驚いてアリサに振り向いた。
先ほどからすずかとの話に熱中していたおかげでぜんぜん聞いていなかったようだ。
なのはとすずかの恥ずかしそうに薄ら笑いをする姿をみていると、なんだかさらに頭が痛くなる。
「まったく、今の段階でなんとか出来る力を持ってるのはあんただけなんだからね。しっかりしてよね!もう」
「ぼくは、なんかもっとすご~~く大変なことになりそうな予感がする」
「まったくね。こっちで手をつけられないと思ったら、問答無用で士郎さんと忍さんに相談するわよ。いいわね」
「ですが…こり以上巻き込「あん!!」 いえ何も」
アリサは三人と一匹に確認する。さすがに今回は異論は出なかった。
ただ、能天気に返事をするなのはとすずかに、アリサとリュウはお互いに顔を見合わせると大きくため息を吐いた。
とりあえず、一息ついたそのとき。
世界が灰色に染まり、一瞬時が止まったような感覚を感じた。
「どうしたのよ三人とも」
突然、神妙な顔をした三人と一匹にアリサは不思議そうに顔を傾ける。
「また、新たなジュエルシードが発動した」
「え!!」
ユーノが静かに口を開く。
「うん」
「ぼくも感じた」
なのはとリュウはユーノに同意する。
アリサはすずかへ振り向くと、すずかも静かにうなずいた。
「はぁ。要するに魔法を使える素質のある人にしか感じることができない訳ね」
アリサはため息をついた。
いままでなかよし四人組でやってきたが、こんなところで自分だけ差が出ることに少しショックだった。
だが、今はそんなことを考えてはいられない。
四人と一匹はお互いを見つめうなずくとすぐさま準備にかかった。
「さぁそろそろ、おやつの時間ですよ~~」。
ファリンは上機嫌でリュウ達がいる部屋に向かっていた。
今日はファリンが選び抜いた紅茶とスコーン、紅茶の入れ方も今日はうまく出来たと自信が持てる。
なんだか四人が、昨日から秘密の話し合いをしているがいったい何を話しているのだろう。
面白そうだから自分にも教えてくれないだろうか。
と、一応従者と主人の関係であることを忘れてそんなことを考えているメイドがいた。
「ん?…… なんでしょうか?」
なんだか四人の声が聞こえる。
ふと、廊下の先を見ると、四人がすさまじい速度で走ってくる。
そして、一瞬でファリンの横を走り去ってしまった。
なのはちゃんも、あんなに早く走れるんだなぁ~とふと思ったがなんだかおかしい。
「みんな、どこ行くの~~おやつの時間ですよ~~」
「ちょっとみんなで外で遊んでくる。すぐ戻るから~~」
ファリンの声に気づいたのか、リュウが振り向きながら言うとすぐに向き直り行ってしまった。
「え~~~!」
「全くどうしたのですかファリン。そんな大声を上げて」
振り返ると、いつの間にいたのだろう。
ノエルがため息交じりで立っていた。
「あ!姉様。もう!みんなひどいんですよ。私がせっかくにおやつを持ってきたのに、みんなどっか行っちゃたんです」
「はぁ?ですが、お嬢様達はいったいどこへ行くのでしょう?もうすぐ日も落ちると言うのに」
「む~~もう。みんな知らない!」
四人の行方を気にするノエルを尻目に、ファリンはぷんすか怒りながらリュウ達に持ってきたスコーンを頬張った。
「…… やはり忍お嬢様と相談した方がよろしいですかね」
そう、ぼそっとつぶやいたノエルが窓から外を見ると、四人が中庭から外へと向かっていた。
四人と一匹は街内を走る。
反応があった場所はめざし全速力で走る。
この先にある何が四人とも知っていた。
神社。
この街にある神社の中でもそこそこ大きい所で、年始にはみんなで初詣に行く場所だ。
だが、この神社、月村家からそこそこ離れている。
子供が全力で走ったとしても、20分はかかるんのではないだろうか。
なので、
「リュウ……わたし… もうだめ…… 」
この中で一番体力のないなのはが悲鳴をあげるのは必然だった。むしろ、ここまで10分近くついてこれただけ頑張った方だ。
「あ~~もう。しょうがないなぁ~~」
リュウはため息をつき、よいしょっとなのはを背負い走りだす。
すると、なのははさっきまでの疲れた顔は何だったのか思うぐらい、にやつきながらリュウの背中にほほをすり寄せた。
「なのは!あんたもうちょっと体力つけなさいよ。いつもそうやってリュウに頼って」
「む~~なのはちゃんずるい!ずるよ!」
「にゃはは~~」
そんなことがありつつ、四人と一匹は神社の前まで着いた。
後は、
「はぁ~~さすがに私も堪えたわ。でも、あとはこの階段を上るのね」
「はい」
四人の眼前にあるのは神社に向かい、はるか彼方へ続く階段。
大人から見てもかなりの段数がある、子供のリュウ達にとってはかなりの数だ。
初詣のときはいつもこの階段に苦労させられる。主になのはが。
「アリサちゃん疲れてる?乗る?」
すずかは自分の背中を指した。
「冗談でしょ!う~~もう!やってやろうじゃない。私ファイト~~!」
その時
「キャーーー!」
女性の叫び声が上から響いた。
「急ぎましょう!」
ユーノの声に四人は頷くと一斉に階段を駆け上った。
階段を上り終えると、そこには四人待っていたか様に佇むものがいた。
黒い狼だ。
いや狼と言うのはおこがましいかもしれない。
大きさは大型犬より一回り以上大きく。こちらを見つめる金色の瞳は四つ。体の至る所から鋭利な鎧のような外殻を身にまとっている。
まるで、ゲームの世界から飛び出てきたような狼、というよりモンスターだった。
「グルルル ル ル 」
狼の化け物がうなり声を上げ、今にも誰かに襲いかからんと様子でたたずんでいた。
その後ろには、女性が倒れていた。この狼に襲われて気絶してしまったのだろうか?
すでに犠牲者が出てしまったと、リュウは顔を青くする。
「現住生物を……取り込んでいる……」
「それって………どういうこと?」
ユーノの焦りに満ちた声に、リュウは相手から視線を外さずに質問する。
「簡潔にいうと前回より手強くなってる」
「ふぇぇぇ~~」
弱々しく悲鳴を上げるなのはだが。
その横では
「なんか、ゲームのモンスターみたいね。実際見ると」
「そうだねアリサちゃん。あ!そういえば昨日やったRPGにあんな子が出てたような。でも確か普通のザコモンスターだったかな」
「すずか。あんたそれで今日の授業中眠そうにしてたのね。もう!また先生に怒られても知らないわよ」
「え~~でも、やっぱりRPGは一気にクリアしたいし」
「あんたね~~」
のんきに、談笑するアリサとすすかがいた。
真面目なアリサが、この状況でこんな話をしていることから結構混乱しているようだ。
「二人とも!今はそういうことを話している場合じゃ」
「そういえばリュウくん。あのゲーム買った?」
「へ?い、いや。ん~~今月厳しいから、ぼく買ってないんだよね~~ってそういうことじゃなくて!」
「じゃあ貸してあげる。というより、リュウくんにならあげるよ。私もうすぐクリアするし、遅い誕生日プレゼントだと思って!」
「いやさすがにそれは……父さんからもそういうのはよくないっていわれてるし」
「大丈夫!リュウくんには、あとでおっきく返してもらうから!」
「おっきくて…… 何を?」
「それは私の口からはちょっと……」
「リュウどういうことかな。何を返すのかな?」
「うわ、なのはねぇ!」
いつの間にか現れたなのはが、リュウともじもじとするすずかの間に入ってきた。
すずかに乗せられたリュウも悪いのだが、こういう話には常に入り込むなのはである。
と、そんな和やかな会話に横から気まづそうに入り込むイタチがいた。
「あの~~~すいませんが、いまはそういうことを話している場合じゃないですが」
「は!私としたことが少し動揺してたみたいね。はぁ~~はいそこの三角関係ズ。乗せられた私も悪いけど今の状況を冷静に考えようか」
ユーノの声にわれに帰ったアリサは、パンパンと手を叩く。
三人はアリサの方を何?という感じで振り向いた。
何じゃないだろうと思いつつ、アリサは狼を確認すると話は終わりました?という感じでこちらを見つめていた。
しっかりとした犬座りで。
「と、とりあえず仕切りな直しよ!」
アリサは狼に指を刺すし叫ぶ。
「さあ!行きなさいなのは!リュウ!ユーノ!」
「うん!」
「はい!」
なのはとユーノは指された狼に向く。
狼もやっと始まるのかと起き上がった。
だが、反応が一人足りない。
「それじゃあ。なのはねぇ頑張って、ぼく今回はパス」
「「え?」」
一人足りないと思っていたら、横にいたはずのリュウはいつの間にか神社の奥に生える木々に隠れてなのは達を見つめていた
「ふぇえ~~ちょっと。なんで?一緒頑張ろうって言ったじゃない!!」
「あ!そういえばリュウくん犬嫌いだもんね」
「あんた。こんな時に何いてるのよ!おばけとかは大丈夫なくせに!」
アリサはすさまじい速度でリュウの元に向かうと襟首をつかんで引き寄せる。
アリサに引き寄せられたリュウは、横を向いて視線を合わそうとしない。
だが、ボソッと小さくつぶやいた。
「犬キライ……」
「こなときなに言ってるのよ」
「それに、別に戦うのはレイジング・ハート持ってるなのはねぇだからぼくはいなくてよくない」
「あんた~~~「ガゥ!!」 !」
アリサが振り向くと、狼がまだなんですかという感じで座り、四つの瞳がこちらを見つめていた。若干潤んで見えるのは気のせいだろうか。
なんだか、いろいろ心配してみたものの、今回の事件は意外と穏便に終わるような気がしてきた。
「あ、すいません」
アリサはとりあえず謝ると、掴んでいたリュウを離した。
「リュウあんたはもういいから。そこにいなさい……後で覚えてなさいよ」
「ええ~~ちょっとリュウ~~私だけじゃ無理だよぉ~~」
「すずか!」
「はいはい。もう今回だけだよ……リュウくんには後で埋め合わせしてもらおっと」
弱音を吐くなのはの耳元にアリサに呼ばれたすずかがヒソヒソと呟いた。
「はのはちゃん。なのはちゃん。今リュウくんにいいとこ見せるチャンスだよ。この中でそれを使えるのはなのはちゃんだけなんだから。
あの、モンスターを倒したらきっとリュウくんはなのはちゃんを見直すと思うよ」
「よ~~し来るなら来い!」
「単純ね」
「まあ、最終的には私が全部もらうんけどね」
「すずかあんたも大概ね……」
狼は今度こそ始まるのかと立ち上がる。
そして、一瞬頭を振るとなのはに向かって駆け出した。
「よし!とりあずなのは!レイジング・ハートの起動を!」
「え、起動。 あ、そうか。ちょ、ちょ待って!」
だが、相手は待ってくれない。
「なのはちゃん急いで!」
「なのはねぇ!」
「ちょと!あんたたち、何もたもたしてるのよ!」
「ってアリサちゃんとすずかちゃんもいつの間に」
いつの間にかリュウの横に来ていたアリサとすずかを合わせた三人が叫ぶ。
そんなやりとりをしている間に相手との距離は縮まっていく。
そして、狼はなのはの目前まで迫ると、地面を蹴り上げ飛びかかった。
「なのはちゃん危ない!」
「はのはねぇ!」
その時
「Stand by ready……Set up」
なのはが握るレイジング・ハートから桃色の光が漏れる。
「え!」
驚くなのはをよそに、レイジング・ハートは独りでに杖形態へと変化した。
「そんは!パスワードなしにレイジング・ハートを起動させた!」
なのははレイジング・ハート見て静かに頷くと、迫ってくる狼に向けた。
桃色の半球の防壁が、飛びかかる狼の一撃を受け止める。
そして、そのまま相手を弾き返した。はじき飛ばされた狼はそのまま境内の石畳に全身を打ち付けた。
ゆっつくりと起き上がろうとしたが、今の反射ダメージが相当効いたのかそのまま気を失った。
「あ。一撃。ってなのはねぇ。早く封印を! 」
「あ。そっか」
リュウのかけ声で、惚けていたなのはは我に返ると封印作業に入った。
アリサとすずかは一連の状況変化についていけなかったのか、呆然と立ち尽くしている。
(無意識での起動、それにあの一撃を受け止めるだけじゃなくて、跳ね返すなんて。やっぱりなのははすごい才能を持ってる)
四人とは打って変わって先ほどの様子をユーノは、冷静に分析していた。
まだ、レイジング・ハートを手にしてから、二回しか変身していない。そして、今回は必要な起動パスワードなしでの変身。
確かに慣れてさえいれば、パスワードを省略可能だ。だが、なのはは今回で三回目それをやってのけた。
普通の魔導師でさえ難しいことを、難なくやっているそのことをなのはは何も気づいてはいなかった。
「リリフ」
倒され普通の飼い犬(柴犬だろうか)に戻った暴走体に回復魔法をかける。
犬はすぐに目を開けると、今は木を背に寝かされている女性に走り寄った。
どうやら、彼女のペットらしい。今回の騒動もあの子がジュエルシードを発動させてしまって起きたもののようだ。
女性に怪我がないところを見ると、彼女はペットの姿に驚いて気絶してしまったのだろう。
「やはり、リュウのそれは魔法ですね。術式は見たことがないものですが。魔力の反応を感じます」
「そうなの?」
「はい。リュウはどこでそれを」
「わかんない。気づいたときから使えるから ……」
リュウは前髪をいじりながら言った。
「リリフというのはその魔法の名前でしょうか?」
「さあ?なんとなくこれを使おうとするときに頭に浮かんで来るから言ってるだけだけど?」
「そうですか…… 」
(この次元には魔法文明は無かったはず、未知の文明があったのか……ん!そういえば前未知の魔法術式が見つかったという論文を見たような……)
リュウの答えに腕を組んで考えるユーノ、その様子をリュウは不思議そうに見ていた。
「さあ!みんなすずかの家に戻るわよ。あの人は目覚めたら夢かなんかだと思うでしょ………たぶん 」
「「は~~い」」
「アリサなんか後半へんなこと言わなかった?」
「さ~~行くわよ!」
全力でごまかすアリサは先に階段を降りて行った。
その後をすずかとなのはがついて行く。リュウははぁ~~とため息をつくとユーノに向いた。
「まっいいか。じゃあ行こうユーノ」
「はい!」
すずかの家に戻ったときにはすでに日は落ち。すでに闇が街を支配していた。
突然出て行ったことに、ファリンに文句を言われたが素直に謝ったらなんとか許してもらえた。
ノエルが少し堅い表情をしていたことに少し気になったが。
そして、三人と一匹が帰る仕度をしようとすると、すずかが言い放った。
「リュウくん今日止まってく?」
「え!」
「は!何いきなり言ってるすずかちゃん。とうとう頭がおかしくなったのかな?」
「リュウくんさっき埋め合わせしてもらうって言ったよね?」
「え!」
怒るなのはを尻目にニコニコとするすずかはリュウに腕を絡めた。
「あ!もう士郎さん達には伝えてあるから大丈夫だよ。士郎さん達もよろしくだって」
「いつの間に!そんな時間なかったよね!」
「ちょっとすずかちゃん勝手に話しをすすめないでよ。てか、リュウからはなれた!」
リュウを盾にしつつすずかは話を進める。
実は、リュウ用になぜか男子生徒用の制服が置いてあったりする。
「あ!なのはちゃんは帰るの?実はなのはちゃんのことは言ってないんだよね」
「はぁ!!なに言ってるの!」
「アリサ!ヘルプ!ヘルプ!」
リュウはアリサに助けを求めたが
「わたし、鮫島が来から帰ります」
携帯をパタンと閉じると、荷物をまとめて扉へ向かう。
「アリサ~~~ゆ、ユーノ助けて!」
「ユーノあんた今日は私の家に泊まる」
「はい!ぜひお願いします」
「ユーノ~~~」
なにはともわれ、またひとつのジュエルシードを封印出来た。
彼らの戦いはまだ始まったばかりだ。