ツーサイなお兄様   作:仮面ライダー四季鬼

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大変長らくお待たせ致しました。
やっとこさ更新です。
次回が最終回と言ったな?あれは嘘だ。

いや、前後編構成なら実質一話の内だからOKというか嘘じゃないというか…汗











約束 前編

狩崎side

 

「うっ…ぐ…あぁ~…どうやら随分と長く居眠りをしてしまったみたいだね…」

 

大二と赤石が決着を着ける数刻前、ライスにドライバーを届けた後に憔悴しきって糸が切れた人形のように眠ってしまっていたジョージ・狩崎は、この時間になって漸く目を覚ました。

意識が覚醒したばかりの狩崎はベンチで眠っていたせいで凝り固まってしまった身体を伸びをしてほぐす。

バキバキと骨がなる感触と音を感じると、少しの痛みと共に眼がばっちりと冴えていく。

 

「ふぅ、さて…結末くらいは見届けさせて貰うよ…」

 

身体を起こしてベンチに腰掛け、腕時計を確認すればドライバーを渡した時から相当時間が経っている。

これは恐らく大体のゴタゴタは方が着いている頃だろう…

続いてガンデフォンでネットニュースを調べれてみれば天皇賞(春)の開始が大きく遅延しているとのことらしい。

何があったのかは知らないが今から向かえばギリギリ間に合うかもしれない。

 

「相変わらず頼りにされてるみたいだな、狩崎?」

 

「ン?…おや、君は…」

 

早速、京都レース場に向かおうと思い立ち上がろうとしたその時、一人の男が狩崎に声をかける。

其処にいたのは狩崎のよく知る者であり、そしてある理由によって一時的に戦線を離脱していた人物だった。

 

「意外と早いお帰りだったね、実家のお母様のことはもういいのかい?」

 

男は一度生死も分からぬ状況に陥って狩崎達とも離ればなれになってしまったその際、自身の故郷の田舎に里帰りをしていたらしい。

故郷に一人残していた母親のもとに戻り、心身の療養に努めていると様子を見に行った五十嵐兄弟に聞いた。

そして男の母親は病気を患っている様子だったとの情報も耳に入っている。

 

「ああ、腕の良い医者が見つかってな…

今頃は少しずつ快方に向かっているところだ。

それよりどうなんだ、今の状況は?」

 

「良いとも悪いとも言えない、なんせ私は今まで此処で眠りこけていたんだ…

把握はこれからってところだね。」

 

「そうか…

とにかく今は情報を集めたい。皆の所に案内を頼めるか?」

 

「OK、お安い御用さ…あぁそれと…」

 

狩崎はそこで一旦言葉を区切ると、男の方へと真っ直ぐ向き直ってから声を出す。

 

「許して貰う気は更々ないが、すまなかった…」

 

狩崎の放った言葉は謝罪だった。

狩崎は目の前の男に大きな負い目がある。

彼が戦線を離脱をせざるを得なかった理由の一端を彼は担っている、最早大元の原因といっても差し支えないだろう。

彼は狩崎の行動によって大きなハンディキャップを背負って生きていかなければならないのだ。

 

「………」

 

男は無言で狩崎へと近付いていくと、握り締めていた拳を振り上げ狩崎の顔面を殴り付ける…

 

一歩手前のギリギリでその拳を止めた。

狩崎はそのような状況になっても眉一つ動かさず目と鼻の先にまで迫った男の眼を見据える。

男はそのまま腕を下ろして、狩崎の胸元に拳を軽くぶつける仕草をすると男の表情は怒りを秘めたような仏頂面から穏やかな表情に変わっていく。

 

「…車を近くに停めてある、案内しっかり頼んだぞ?」

 

そう言うと男は出口の方へと歩いていった。その背には先程まであったようなわだかまりのようなものが消え去っているように思えた。

狩崎は先に行った男に向かって感謝を込めてお辞儀をした後その背を追うようにして駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大二side

 

大二は息を切らしながら、京都レース場の観客席に繋がる階段を駆け登る。

現在指名手配となっている大二はどこかに移動するにも人目を気にしなくてはならなかったが、その道中に人の気配はなくこれで心置きなく歩を進められた。

所々に戦闘の痕跡が見受けられたのは気になったが、今はそれより重要なことがあるので意識的に頭から離す。

 

最後の一段を登り終えて、目の前の大きな光が広がると其処には見慣れたレース場の姿が目に入り、隙間なく詰め込まれた観客達の歓声が響き渡った。

 

脇目も振らずに手摺から身を乗り出してターフの方に目をやると、其処には十数名のウマ娘達と共にゲートインの準備をするライスシャワーの姿があった。

所々に怪我の治療をした形跡があるので少し痛々しく見えるが、レースに向けての心意気は劣っておらずむしろ突出しているように見える。

どうやら兄達が間に合わせてくれたようだと安堵して息を吐く。

 

「間に合ったか…」

 

「大、ちゃん…?」

 

その慣れ親しんだ、しかしここ最近聴くことのなかった声を聴いて大二は振り返る。

そこにはいきなり現れた大二に驚いて呆然としている様子の妹、五十嵐さくらと両親。

そしてマックイーンとテイオーの姿があった。

兄の一輝とその友人であるアイネスがさくらの前で正座をしているのは先程までさくらから説教を受けていたからだろうか?

 

「皆…その、俺は…(パァン!)…ウグッ…」

 

大二は様々な思いが頭を駆け巡り、掛ける言葉が見つからずに俯きながら口ごもっていると頬に大きな衝撃を感じると同時に少しよろけてしまう。

改めて前を向いて見ればいつの間にか近付いていたマックイーンが手を振り抜いた体勢で立っていた。

どうやらマックイーンに平手打ちを食らったのだと理解する、当然だろう。

自分はその程度では足りない程の罪を犯したのだから、これでもきっと温情をかけてくれているのだ。

 

「御家族を含めた多くの方々に多大な心配をかけた件は、これで手打ちとします…しっかりと向き合いなさい。」

 

「…ああ、すまないマックイーン…」

 

マックイーンに喝を入れて貰ったことで少し頭が冷え、まず自分が言うべきことが分かってきた。

此処に集まっているのはライスが自分を連れ戻してくれること、自分が迷いを振り払って戻ってくることを信じてくれた、そんな人達に言うべき言葉は一つだろう。

 

「皆…ありがとう。俺…」

 

「良いんだよ、一人にしてごめんな…」

 

「おかえり、大ちゃん…」

 

感謝と謝罪をしようとした時、一輝はその言葉を遮り大二に近付き抱き寄せる。そして大二の頭を包むように撫でると後ろのさくらも続くようにして兄二人をまとめて抱擁する。

そんな仲睦まじい様子の兄妹三人を見て五十嵐夫婦は漸く日常が帰ってきたことを実感した。

 

「大二、帰ってくるって信じてたわ!」

 

「ああ、家に帰ったらまずは家族皆でご飯を食べよう!

ライスちゃんも一緒に!」

 

「父ちゃん…母ちゃん…」

 

【なら献立は激辛カレーなんてどうだぁ…景気付けにはちょうど良いぜ?】

 

「え、今の声って…もしかして!」

 

その場にいる関係者全員の頭の中に響く声。その声は大二の声色と全く同一のものだったが、込められた感情からは大二とはとても似着かない様子を感じた。

そこから数秒も経たない内に大二の服装や髪型といった様相が一瞬にして変化する。

全身黒づくめ、いつものピッチリとは駆け離れた跳ねた髪型。

忘れるはずもない、一度は家族をドン底まで突き落としたかと思えばその果てに全てを託して消えていった筈の大二の悪魔…カゲロウは以前と変わらぬ様子で其処に立っていた。

 

「よぉお前ら、俺様が地獄から舞い戻ってきてやったぜぇ…」

 

「は、え!?意味分かんない!なんでカゲロウが戻ってんの!?」

 

当然カゲロウ復活の経緯を知らないさくらは混乱し、声をあげて捲し立てる。

カゲロウを初めて眼にしたテイオーとマックイーン、アイネスは物珍しそうにカゲロウを見物する。

 

「この方が大二さんの悪魔…実物を見るのは初めてですわ…」

 

「でもバイスとかデッドマンみたいなのと比べるとあんまり代わり映えしないね?

ただの中二病の大二って感じ!」

 

「大二さんのグレてる姿って想像つかないから、なんだか新鮮なの!」

 

「好き放題言いやがる……っ!……カゲロウ、勝手に出てくるな!」

 

カゲロウの姿がまた変わり、もとの大二の姿に戻る。それは大二とカゲロウの以前までの関係性を知る者達から見れば異様な光景に移るだろう。

何故なら以前の二人なら身体の主導権を奪い合う関係上、手に取った主導権を譲るようなことはしないので入れ換わらせる為にはライダーキックを直撃させて無理やり表と裏を引っくり返さなければならなかった。

だが、今の二人はまるで主導権を共有しているように見える。それは大二とカゲロウの関係が以前とは様変わりしていることの証左でもあった。

 

「少し見ない間に何があったわけ?

ちゃんと説明してくれなきゃ分かんないんだけど!」

 

「…ああ、実は……」

 

大二はカゲロウの件も含めて、さっきまで起こっていた出来事について説明していった。

それを聞いていた一同はおしなべて驚いた表情を見せていた。

 

「つまり、カゲロウのお陰で此処に帰ってこれたってこと?」

 

「ああ、そう言うことになるのかな。」

 

「凄かったんだぞ、流石は俺の自慢の弟だな!」

 

「あっ、一輝兄は後でお説教の続きだから。」

 

「ええ!?……アッハイ…ワカリマシタ……」

 

その一幕を見た他の一同からは笑いの声が上がる。それを見た大二はつい昨日まで自分が手放してしまっていたものの大切さを改めて認識し、もう一度心の中で帰りを信じてくれていた仲間達に感謝を送った。

すると…

 

『大変長らくお待たせ致しました!全ウマ娘ゲートイン完了、出走の準備が整いました!

天皇賞(春)、まもなくスタート致します!』

 

遂にレース開始の実況が鳴り響く。それと同時に観客の歓声はそのボルテージを増してレース場全体を大きく揺らす程の大歓声に変わる。

そして大二達はその眼をターフに向けて応援の態勢に入った。

ライスが見せたいものがあると言っていたこのレース、一瞬たりとも見逃さずにライスの真意を探らなければ…しかしそれ以上にライスがこの天皇賞(春)でもう一度勝者に輝くことを大二は祈るのだった。

 

(ライス、君ならきっと勝てる…頑張れ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライスシャワーside

 

「すぅ…はぁ~…よし!」

 

スタートが切られる数分前、いよいよこの時が来たと逸る心をライスは抑える為に深呼吸をする。

この天皇賞(春)にライスは何か運命的ななにかを感じていた。それは大二と離ればなれになってしまった原因であるレースと同じ名前を持っていたから感じていたものなのかと思いもしたが恐らくそうではない。

もっと奥底の、魂のようなものが訴えかけてくるのだ。

このレースは良くか悪くかは分からずともライスというウマ娘の人生に大きく関わってくるものだと。

 

「ねぇ、ライスちゃん。」

 

「あっ、どうしたの?ウィナーさん。」

 

そうして精神を研ぎ澄ましている最中にライスは別の出走ウマ娘に声を掛けられる。

声を掛けた彼女の名前はウィナーステージ。通称ウィナーさん。

低迷期のライスに黒星をつけたウマ娘の内の一人であり、これから始まるレースでもしのぎを削り合うことになる相手でもあるウマ娘だ。

先の日経賞やステイヤーズステークスを制したのは勿論、その他の長距離レースでも掲示板に名を連ねる程の生粋のステイヤーである彼女は、この天皇賞(春)に出走するにあたって非常に警戒すべき相手である。

 

「どうしたのじゃないよ!ホントに怪我は大丈夫?

あんな状態で運ばれてきた時は驚いて頭真っ白になっちゃったよ…」

 

「あ、あはは…お騒がせしちゃってごめんね?

でも、ライスは大丈夫!今なら誰にも負けないよ!」

 

「………はぇ~……」

 

「?…ウィナーさん?」

 

ウィナーステージはライスのことを見つめて固まる。その顔は唖然としているというと少しオーバーだが少し面食らった様子でなんだか不思議だった。

 

「ライスちゃん、なんかまた変わったね?」

 

「え…そ、そうかな?」

 

「うん、なんだか今のライスちゃんはそうだな…心に空いてた穴をやっと埋めることができたみたいな雰囲気を感じる!」

 

「!…うん、そうだね。そんな感じかも…」

 

「こりゃ心配している場合じゃないね…手加減無しで行くから覚悟しといてね!」

 

そう言い残すとウィナーステージは自身の番号のゲートに一足先に向かっていった。

そのやり取りを見ていた他の出走ウマ娘達も、どうやら気兼ねする必要がないことを悟り精神を集中させながら徐々にゲートインしていく。

此処に集まったのは全員がこの春の盾を受け取る素質を持った世代の精鋭達だ。その全てを抜き去り、一着をもぎ取ることは決して容易なことではない。

しかし、それでも必ずや勝利を掴んで見せる…そしてあの人に約束の景色を見せてあげるのだ。

その想いを胸にライスもゲートに入って体勢を整える。

 

『さぁ、いよいよ天皇賞(春)…スタートです!』

 

ガッコン!

 

『さぁ、今年も始まりました天皇賞(春)!

御覧のように3200mから18人が一斉に飛び出しました!

内のウマは外へ、そして外のウマはずぅっと内の方へ入って参ります!

京都レース場、芝コースは重。

 

ミソジボールド、ダイナイレーネ、そしてクリスタルレイ。10番のトウホクベルマン!

これは意外なウマ娘が先行争いを繰り広げています!』

 

ようやく開始された天皇賞(春)、その滑り出しは11番のミソジボールド、13番のダイナイレーネ、16番のクリスタルレイ、トウホクベルマンの四人が前に出る。

その後ろから12番のタマモシャーベットと2番のアトラスシャレードが続く形だ。

しかし、その状況はほんの少しの間にちょっとずつ変わっていく。

 

『ずっと外を通りましてようやくクリスタルレイ、大方の予想通りゆっくりと飛び出しました!

二馬身から三馬身!

ミソジボールド、ダイナイレーネが三番手!

トウホクベルマン四番手!

外からオレンジのスカーフ、サロンタンゴ!

12番がタマモシャーベット!

それから落ち着いている2番のアトラスシャレード!』

 

少しの合間を終えて、クリスタルレイがゆっくりと先行集団から離れていき先頭に立つ。

クリスタルレイが逃げを打っている間に14番のサロンタンゴが徐々に上がってきていた。

追い抜かれたタマモシャーベットとアトラスシャレードはそれを落ち着いて静観すると判断したか、表情に動きはない。そしてその後ろでは大本命ライスシャワーの姿があった。

 

『ライスシャワーがいた!

その外へ3番のライスシャワー、不気味な黒い帽子です!

エアレンスターがいた!1番エアレンスター!

そしてダイナジョイフル!

どんどん差を詰めていきます!

 

1周目の第四コーナー!

モンテソブリンの青いリボンが踊っている!

 

クリスタルレイ!

クリスタルレイを除いて後の17人は固まっています!

クリスタルレイが先頭!』

 

一週目のホームストレッチ、観客達は目の前でウマ娘達が駆け抜けていく姿に興奮して大きく歓声を上げる。

すると徐々に差を詰めていた1番のエアレンスターが苦しげな表情を浮かべると同時にその速度を急激に上げて追い上げていく。

 

「あの子、どうしたの?」

 

「あれは恐らく『掛かった』んだ、簡単に言えば焦って何時ものコンディションが出せなくなるってこと…」

 

良く分かっていない様子のさくらに大二が説明する。

恐らくは歓声によって観客を意識しすぎて掛かってしまったのではないか。

今回の天皇賞では彼女は一番人気、期待されていることが分かっているからこそ其処に一瞬焦りが出たのだ。

しかし、それも束の間のことでエアレンスターはすぐに落ち着きを取り戻した様子だった。

しかし、極小規模といっても掛かりは掛かり。その影響は無視できない、レースの結果を大きく左右するだろう。

 

「でも、それならチャンスなんじゃない?

取り敢えず一人は気にしなくて良くなったんでしょ?」

 

「そう簡単にはいきませんわ…

たとえ掛かったとしても其処から挽回して、一着をもぎ取るウマ娘もいます。

それに…」

 

「ああ、ライスだって絶好調と言えないのは同じだ。

度重なる敗戦は本人も気付かぬ内にメンタルの溝を生むし、戦闘のダメージだってある。

何時も通りのやり方は通じないと思った方がいい。」

(そしてそれはライスも分かっている筈…)

 

現在の状況を冷静に分析している二人が出した総評は、現在のライスが勝つには従来のやり方には当てはまらない奇策が必要であるということだった。

大二はライスがそれを理解してなにか策を講じているであろうと信じており、その目に不安の色を見せることなくレースを見守る。

 

『18人がほぼ一団でこれから第一コーナー右にカーブをとります!

クリスタルレイは以前先頭!

おっとエアレンスター、二番手に上がる勢い!

ダイナイレーネが外を通って上がっていきます!

まもなく半分!半分の1600m!

1分41秒から42秒台!まずまずのペースでレースは進んでいきます!』

 

そして『その時』は訪れた。

ライスシャワーのアメジストの瞳に蒼い焔の光が揺れる…

 

『おおー!いったいったいったぁ!

ライスシャワーがいく!

内から1番のエアレンスター!ダイナイレーネ!

人気の三人が先行集団を形成しました!

 

ライスシャワー!ライスシャワーがいく!

マックイーンもミホノブルボンもきっと応援している!

ライスシャワーが京都の坂の登りで先頭に立つ勢い!』

 

その時起こったことにレースを、そして天皇賞(春)を知る者は皆総じて驚愕を顕にしていた。

起こったということ事態は至極単純、ライスシャワーが仕掛け始めたのだ。

しかし、驚愕の原因は仕掛けたタイミングにある。

 

「第三コーナー手前から…ライスさん…」

 

「京都レース場における最大の難所、通称『淀の坂』…

レースにおいて坂の上り下りというのはやり方を間違えば大きくスタミナを奪われる結果になる。

天皇賞(春)ではそんな難所をスタート直後とゴール直前の二回も越えなければならない。その重要性も増しているこの状況で坂の前に仕掛け始めるのは、リードを大きく広げられる代わりに持久力を犠牲にする一種の賭け…

ライス、これが君の策か…!」

 

無謀の挑戦のようにも見えるライスシャワーの策、しかしそれを伺う大二の表情からは焦りや不安といったマイナスな感情は読み取れない。

寧ろ、なんだかその手を使うことがまるで最初から分かっていたかのように大二は確信めいた表情だった。

 

『エアレンスターが内で四番手!

13番ダイナイレーネ!ダイナジョイフル!タマモシャーベット!

ハギノマコトノオーがいきました!

 

有力所が先行集団に上がってまいります!

サロンタンゴ!それからアトラスシャレードがいきましてモンテソブリンもいたぁ!

 

さぁ、ウィナーステージもいる!

 

第三コーナー!

ライスシャワー先頭!ライスシャワー先頭!

サロンタンゴ、ダイナイレーネが二番手に上がった!

ライスシャワー、そしてダイナイレーネ、タマモシャーベット、サロンタンゴ!

ハギノマコトノオー、メリーエスパーであります!

そしてその後ろからゴーツーズィー、エアレンスター、モンテソブリンが差を詰めてくる!

 

さぁ間もなく第四コーナー!

ウィナーステージ!アメイジングタイム!ダイナジョイフル!

この辺りで差を詰める!』

 

ライスシャワーが大きく動いたことでレースのペースが一気に加速していく。数人の有力なウマ娘達が置いていかれまいとライスシャワーに続いていこうとする。

しかし、並外れたスタミナによって淀の坂の中で大きなリードを造り上げていたライスシャワーに、他のウマ娘達は付け入る隙はない。

ライスシャワーは完全にこのレースを支配していた。

 

『さぁ、ライスシャワー先頭だ!いやぁーやっぱりこのウマは強いのか!

ライスシャワー先頭だ!ライスシャワー先頭!ライスシャワー先頭!

 

そしてダイナイレーネが来る!内から内からエアレンスターが差を詰めてきた!内からエアレンスターが差を詰める!

 

ライスシャワー完全に先頭だ!ライスシャワー先頭!』

 

誰もがライスシャワーの勝利を予期して疑わなかったことだろう。

しかし、勝利の女神はそう簡単に勝利の口付けをすることはなく、未だ彼女がヒーローになることを拒むかのようにもう一度試練を与えてきた。

 

「!…もう体力が底を尽きかけてる、早仕掛けの反動だ…!」

 

リードを保っていたライスシャワーが緩やかに失速していく。

その眼は虚ろで蒼い焔の光は失われており、口は半開きになって息も絶え絶えの様子。

博打を打った反動が現れたのだ。そしてその隙を見逃さずに乗じて追い上げてくるウマ娘がいた…

 

『外からウィナーステージ!外からウィナーステージ、ハギノマコトノオーが来た!ハギノマコトノオーが来る!』

 

ウィナーステージとハギノマコトノオー、二人のウマ娘が疲労によって走りが拙くなってきているライスシャワーに凄まじい勢いで近付いていく。両者引けを取らないスピードだが特にウィナーステージの差し脚は尋常ではない。

共に追い上げていたハギノマコトノオーをも置き去っていき、先頭のライスシャワーにどんどんと迫っていく。

ライスシャワーは朦朧とする意識の中で自身が追い詰められていることを、ウマ娘の鋭敏な感覚で感じ取っていた。

 

(どう…しよう…ここで…頑張らなきゃいけないのに……もう脚が鉛みたいに重たい………)

 

一歩踏み出していく毎に重くなって動かすのも億劫になっていく両脚、張り裂けてしまうのではないかと錯覚する程痛みを訴えてくる肺、酸欠によってゆらゆらと揺れて不安定な白黒の視界、自分の息遣いの声しか聞こえない耳。

ライスシャワーの身体はもう限界に達していた。

五感の殆どを感じ取れなくなったライスの頭の中にすぐ近くの観客席にいる筈の大切な人達の言葉が響く。

 

「ライスちゃん頑張ってぇ!」

 

「ライスさん…貴女を信じてますわよ!」

 

(さくらお姉様…マックイーンさん…)

 

「ライス!お前なら勝てる!」

 

「いっけぇぇ!ライスぅ!」

 

(一輝お兄様…テイオーさん…)

 

「ここが踏ん張り所よ!ライスちゃん!」

 

「頑張れぇぇ!頑張れええぇえ!」

 

(幸実お母様に、元太お父様…)

 

そして…

 

「ライスゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

(お兄様…!)

 

いつも隣にいて支えてくれた、きっとこれからの長い人生でこれ以上ないと思えるくらいに大好きで永久に共にいたいとさえ感じる大切な人…

 

今、自分がなぜ走っているのかを克明に思い出していく。

あの人と交わした約束、それはただの約束ではなく一種の誓いなのだ。

約束の勝利を果たす為に…

 

(ライスは……『私』は!!

こんなところで終われない!!)

 

「ハァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

瞬間、消えていた筈の焔が甦った…

満身創痍のライスシャワーの両脚に一瞬力が戻り、そのままゴール板を駆け抜ける。

並んでその瞬間に立ち合ったウィナーステージはそれに気付かなかったのか、ゴールした瞬間に喜色を孕んだ表情を浮かべていた。

 

『さぁ、完全にライスシャワー先頭だ!ウィナーステージ!ウィナーステージが二番手に上がったぁぁぁライスシャワー!

 

ライスシャワーとウィナーステージ!

ゴール板を並んで駆け抜けたのはライスシャワーとウィナーステージ!

全くの同タイミング!

もはや肉眼では判断ができません!

写真判定!写真判定です!

果たして結果は!?』

 

ライスシャワーとその他のウマ娘達はゴールした後に、ゆっくりと速度を落としてやがて立ち止まっていく。

ライスシャワーは息を整えようとすると極限状態から抜けたことで遮断されていた感覚が蘇り、燃え上がるかのような肺の痛みとパチパチとして考えが纏まらない頭のせいでその場に倒れそうになる。しかしその崩れ行く身体を受け止めてくれる存在がいた。

 

「ライスちゃん、大丈夫?」

 

「……うぃ…な……さ……」

 

「無理しちゃダメ。

取り敢えずゆっくり呼吸して、意識を保つことだけ考えて…

気をやるのは早いよ?

まだ私達には見届けなきゃいけないことがあるんだから…」

 

ウィナーステージはそう言うと周りのことを見渡し、ライスシャワーも眼だけを動かしてそれに倣う。

 

レースを踏破した後の出走者達の反応は十人十色で、掲示板に載ることもできず肩を落とす者も居れば、予想よりも好走することができたので喜びを現す者、疲れはてて激しく呼吸しながら立ち尽くす者も敗北の悔しさを余所に他のウマ娘の観察に徹していた者もいた。

 

今このレースの場で勝利した可能性があるのはライスとウィナーの二人のみ、それ以外はすべからく夢破れた敗者達だ。勝者には敗者の悔しさや悲しみを全て背負っていく義務がある。

ウィナーステージはそのことを重々承知しているのだろう、今この場でそれを背負うに能う勝者がどちらか見届けなければならない。

観客席の五十嵐家の面々共々、未だ一着と二着の数字が浮かばない掲示板に眼を向け、固唾を飲んで見守る。やがて審議の文字が消えて代わりに審議の結果が映し出された。

掲示板の一番上に灯った数字は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3番…

ライスシャワーに割り振られた番号だった。

 

『出ました!

ライスシャワー!ライスシャワーです!

ハナ差もハナ差!

ほぼ同タイムでのゴールインを経て、今年の春天を見事に制したのはライスシャワー!

 

やったやったライスシャワーです!

恐らくメジロマックイーンもミホノブルボンも喜んでいることでしょう!

 

ライスシャワー!再び春の『天皇賞』を制しました!』

 

「や…やった…やったぁぁッッ!」

 

ワァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!

 

五十嵐家の面々含む観客達は結果が出た後もしばらく呆然としていたが、一足先に我に返った五十嵐元太が喜びの声をあげると同時にそれに促されるようにして大きく歓声が上がる。

 

「おめでとう…っ…おめでとう…

ライスちゃん…!」

 

「信じてたぞ、ライス!」

 

「よく頑張ったわね、それでこそうちのもう一人の看板娘だわ…!」

 

さくらはその結果に嬉し涙を流し、一輝は自分の信頼に答えてくれたことを尊び、幸実は家族のために戦い続けてくれたことに感謝し激励した。

さらには他の観客達も同じようにライスのことを祝福する。

 

「おめでとう!ライスシャワー!!」

 

「よく頑張った!すごいぞーっ!」

 

「ラ・イ・ス!ラ・イ・ス!ラ・イ・ス!」

 

『ものすごい歓声ですっ!

スタンドを埋め尽くす観客が、ライスシャワーを称えています!』

 

そこにはもうライスのことを偉業を阻んだヒールとして見る者達はいなかった。

彼らの眼に写っているのは幾度として辛酸を舐めさせられ心を砕かれてもその度に立ち上がりあらゆる困難に挑み続けた真のヒーローの姿だった。

 

「皆が…皆が喜んでくれてる……。

笑ってくれてる…!

 

……皆、ありがとう!」

 

(ああ、そうか…

ライスが見せたかったものはきっと…

この景色のことだったんだ……)

 

大二は今までの自分の世界を見る眼が真実の色を写さない灰色の視界であったことに気付く。

ただ自分の考えが正しいと盲目的に信じ込んで、よく見れば気付ける筈の変化を見落としながら今まで世界を呪い続けていたのだ。

大二はそんな自分の愚かさに心底呆れ果ててしまう…余りに自分は人として脆すぎると。

 

【ハッ、今更なに言ってやがる…

お前が脆いことなんて俺が生まれた時点でとっくに分かりきってたことだろうがぁ…】

 

「カゲロウ…」

 

【それでもお前はしぶとく前に進み続ける、今のあいつみてぇにな…

だったらそれで良いだろ、大二?】

 

「…お前もしかして、励まそうとしてるのか?」

 

【おいおい、寝言は寝てから言えよなぁ…】

 

どこまでも素直じゃない皮肉屋の相棒に苦笑しつつもカゲロウの言う通りだと思い至る。

これから先何度間違えたってその度に自分は諦めずに立ち向かうだろう。

そうさせてくれる大切な家族が側にいる限り。

そのためにもまずは…

 

「逃亡犯の五十嵐大二だな?

お前を拘束させてもらう、大人しく投降しろ。」

 

自分の罪に真っ直ぐ向き合わなければならない。

 

 

後編に続く…

 











思えばこのツーサイなお兄様は大二の闇堕ち期中盤から書き始めて今やギーツも終わりがけになってきて、結構長い間やってきた感じがしますね。
なんだか感慨深いです…

今回のレース描写はYouTubeの公式が出しているレース映像を基に書いてみましたが、なにぶん不慣れですので変に思うところだらけかもしれません。
そこら辺はうまく脳内で変換して下さい(^人^)





執筆して欲しい方はどっち?(詳しくは活動報告へ)

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