どうしてこんなことになっちゃったんだろう…
なんでみんなはお兄様のことを悪く言うんだろう…
だってお兄様は優しい人だよ…
こんなライスのことを救ってくれた…
走り出す勇気をくれた…
ずっと一緒にいるって約束してくれた…
"ライス"の一番大切な人…
…ッ!…あ、そっか…そうなんだ…
きっとそういうことなんだ…
ライスの…一番大切な人になっちゃったから…
だからきっとお兄様は…
みんなから嫌われちゃったんだ…
またライス…大切な人を不幸にしちゃった…
なんでライスはあんなに優しい人を不幸にしちゃうんだろう…
ライスのせいだ…ライスのせいだ…
だから…だから…
ライスなんかいなくなっちゃえばいいんだ…
一輝side
時は夕刻…日が傾いて人々の暮らしに影を落としていた頃、俺こと五十嵐一輝は閑散とし始めた街の中を大声を上げて走り回っていた。
「どこだ!…ライスっ…!返事をしてくれ!」
突然のライスの失踪…
それが今俺が走り回っている理由だった。
時はほんの数十分ほど前に遡る…俺がいつものように母ちゃんと一緒にしあわせ湯に来ていたお客さんを見送り、閉店作業をしていたときのことだった。
数十分前…
ジリリリリリン…ジリリリリリン…
「ん…?…電話…?」
突然の電話に少し驚いてしまったがすぐに気を取り直して電話を取る。預かっていた忘れ物の連絡かもしれないし、そうじゃないにしても予約の電話の可能性もあったからだ。
それにもしかしたら…
大二が連絡する気になってくれたのかもしれない…
ほんの少しそれを期待していたのも事実だった。
「はい、しあわせ湯です。」
『すみません!五十嵐トレーナーのご自宅でしょうか!?』
しかしその期待に反して聴こえてきたのは何やら切迫した様子の女性の声だった。
しかもその声は聴いたことがある…というかまるっきり知り合いの声だ。
「たづなさん…?どうかしたんですか?」
そう…この声の主は駿川たづなさん、トレセン学園で理事長さんの秘書をやっている大二の上司の方だ。とても綺麗な女性だったので最初の頃は緊張して話していたのをよく覚えている。と言っても知り合ったきっかけは大二が間に入っていたわけではない。家族みんなでライスのレースの応援に行った時に観客席で偶然隣になったのだ。ちょっとした軽い雑談からお互いに接点が見つかったときは酷く驚いたものだ。
レースの応援に来ている観客の中でも一際に目を輝かせて応援しているその姿は目が離せなくなる程輝いて見えて…って話が逸れたな。
『一輝さん…!そこにライスシャワーさんがいらっしゃいませんか!?門限を過ぎても帰ってないみたいなんです!』
それを聞いてからの行動はあまりに無意識で動いていたから覚えてはいないが気付けば俺は道中でもライスを探しながらたづなさんと合流する為にトレセン学園に向かっていた。
「…ッ!…たづなさん!」
「一輝さん!…すいません、本来ならこちらで対処すべき事態なんですが…」
顔を合わせて挨拶をする間もなくたづなさんは自らの危惧を口にする。確かに俺たちの繋がりは大二が間にあるもので五十嵐家自体はトレセン学園と直接関係しているわけではない部外者だ。本来なら手伝う義務はないだろうからこそ手伝わせてしまっているこの現状を憂いているらしい。
目元に隈ができているのを見るに相当疲れているようだった。
「気にしなくても大丈夫です!ライスだって大切な家族だし…それに俺は日本一のお節介ですから…!」
「…ふふっ…ありがとうございます……」
たづなさんは笑顔を浮かべてお礼を言ってくれたが、未だその顔色には影が指していた。あまり俺の激励は意味を成していないようだった。
しかし今はとりあえずできることは全部やるのが先決だ!
「父ちゃんたちにも事情話して探してもらってます!そっちはやっぱり学園内には…?」
「はい、くまなく捜索しましたが見つかりませんでした…恐らく学外にいると思われます…」
そこまで調べがついているならまだまだやり様はあるだろう…日中にはちゃんと学園にいたことが分かっている。つまり居なくなったのは授業終わりの放課後で学園から駅までの距離や経過時間的に電車を使って遠出はしていないだろう。
ウマ娘の脚力なら全力を出せばすぐ駅につくのは造作もないことだ。
だが現役で活躍しているウマ娘が全力疾走すれば目立つし人目につく。そういった話が出ていないということはライスは駅には向かっていない、あるいはゆっくりと駅に向かってるという可能性が導き出せる。
予めブーさんにライスが駅に向かってる可能性を考慮して先回りして待機してもらっているが、街の中にまだいるのならもうすぐ父ちゃんたちによって見つかるだろう。
その旨をたづなさんに伝えると少しの間驚きの表情を浮かべた後にまた影のある笑顔を浮かべた。光明が見えたのに浮かないのであろうその様子がひどく気になった。
「どうしました…?」
「…一輝さんはすごいですね…こんな想定外の事態にも冷静に解決策を導くなんて…」
「私とは大違い…」
それは言葉だけ見れば賞賛のように聞こえるが、その後に続く言葉によって彼女の自責の言葉であることが伺えた。
「…いや、そんなことないです。たづなさんの方がいつだって落ち着いてて…」
「虚勢をはってるだけです…本当はいつだって不安なんです…私って本当に皆さんを支えることができてるのかなって…」
そこまで口にして、はっとして口元を抑える。
きっとこんなことを言うつもりはなかったんだろう。
つい溢してしまった拍子に流れ出てしまったのかもしれない。
それも仕方ない…ここ数日、色々なことが起きすぎた。学園に通うウマ娘が謂れのない誹謗中傷に合い、それによって交流を持っていたトレーナーが仮面ライダーになって人を襲い、今度はそのトレーナーに悪意が向けられた。彼女もその渦中にいて対応に追われていた者の内の一人…
ただでさえ疲弊しているところにこの騒動だ。心の蛇口が緩んでしまうのも無理はない。
そこまで口にしてしまったことで諦めたのか、口元を抑える手を下ろしそのまま言葉を紡ぎ出す。いつもきれいな姿勢で立っていた彼女が頭を抱え座り込んでしまった。
「今回のことだってそうです…対応に追われていたことを言い訳にして…ライスシャワーさんの精神的なケアを怠って…その結果がこれです…一輝さんが居なかったらと思うと…」
声は出さずに隣に腰掛けて話を聞く。
弱っている人を前に何を悠長にだとかライスが見つかったわけじゃないだろと思わないわけじゃなかったが、まずはしっかりと話を聞いてやらないといけない、そう感じたんだ。
「友人が大変な時に何もできずに…支えるべき学園の生徒さんも助けられない…こんなんじゃ…私がいる意味なんて…」
目に涙を浮かべて自らの力のなさを嘆くたづなさん。いつものようなできる大人の女性ではない、弱々しい少女のようなその姿を見て思わず俺は声を出していた。
「たづなさん…最近風呂って入りました…?」
「…………………………………………はい?」
一瞬呆けたような顔したのも束の間、思い当たる節があるのかサァーッと青褪めたと思うと一言。
「………臭いますか……?」
「…え?……あっ…!いやっ!そういうことじゃなくて!変な言い方してすみません!」
すぐに訂正する。
たづなさんはいつだっていい匂いですと付け加えようとも思ったがよく考えればキモいなと思ってやめた。
「俺が言いたいのはたづなさん、最近ちゃんと休めてないんじゃってことです。
たづなさんは強いからとことんまで弱ってないとそんなふうに弱音を吐くようなことしないでしょ…?」
「…そんなこと…」
あるわけがない。
滅多に弱音を吐かないなんてこともそうだが…
自分が強いなんてことはあるわけがない。
今だってこんなにも挫けそうになっているというのに…
そう言いたげな顔を浮かべていた彼女にそっと否定をする。
「ありますよ、だって…
たづなさんのその強さに助けられた人が大勢いることを俺は知ってるんですから。」
「え…?」
「俺ん家の銭湯って…ほんとに色んな人が来るんですけどその中にはトレセンの生徒たちもいるんです。」
家の銭湯はそれこそ湯治なんてだいそれた効能があるわけじゃないが、それでも他の銭湯に負けないくらいに気持ちいいお風呂を提供している自信がある。それが通じたのかトレーニング終わりのトレセン生徒には非常に好評なのだ。
「それで、そんな生徒たちがしてくれる話の中にはいつもたづなさんが出てくるんです。」
「…私が…?」
たづなさんが悩みを聞いてくれた…
たづなさんがトレーニングでアドバイスをくれた…
無理なトレーニングを強要するトレーナーから逃してくれた…
など、それぞれ形は違えどたづなさんがしてくれたこととそれに対する感謝を述べていたことはみんな共通していたのだ。
そして…
「みんな口を揃えて言うんです!今度は自分がたづなさんを助けられるようになりたいって…」
「…ッ!…」
「たづなさん、周りを見渡してみてください…
あなたが助けた人も…
あなたを助けてくれる人も…
こんなに溢れてるじゃないですか…
だからたづなさんがいる意味がないなんてこと…
あるはずない…俺はそう思います…!」
一息にすべてを詰め込んでしまったので言い切ってから少し息を切らす。ちゃんと伝えることができたか怪しいものだったがまだ言うべきことがある…
「…いつも頑張ってるんですから、たまには助けられてみるのも悪くないと思いますよ…」
それを聞いた彼女は一言を漏らす。
「…ですが…私は生徒の皆さんを支えなければいけない立場ですから…」
厚意に甘えるようなことをするわけには…そう続けようとする彼女。そう言うだろうことは察しがついていた…だから…
「だったら俺が助けます!」 「えっ…?」
「俺、たづなさんが支えなきゃ…守らなきゃいけない存在じゃないですよ?
…だから俺が助けになりたい人達の思いも一緒に背負ってたづなさんのことを助けます!」
困惑した様子のたづなさん…
さっきからずっと困惑させ続けてるのでほんの少しばかり申し訳なく思ってしまう。
そして…
「ふふっ…自称するだけあります…流石日本一のお節介…」
笑うたづなさん、その笑顔からは未だ力の無さは残しつつも先程まで彼女に巣食い続けた影は幾らか晴れているのを感じてなんだか嬉しかった。
「それじゃあ私…遠慮なんかしません…
精一杯その言葉に甘えさせて貰いますからね…?
後で後悔しても知りませんよ♪」
「任せてください!必ず役に立ってみせますから!」
座り込んだ状態から立ち上がってこちらへ振り返る彼女…
その言葉を紡ぎながら浮かべる彼女の笑顔に見惚れてしまい平静を装った返事を返すことができたのが不思議だった。
このままずっと見つめ合っているのも悪くないような気がしてしまっているがそういうわけにもいかない。ライスが失踪しているこの状況は何も変わっていないのだから。
立ち上がって捜索してくれてる父ちゃんたちに加わる旨を伝えようとしたその時…
〜♪ 〜♪
俺のガンデフォンに通話が掛かってきた…一瞬たづなさんに目配せして許可をもらってから電話を取る。
「はい、もしもし?」
「ハロー、一輝。調子はどうだい?」
この喋り方にちょっとばかしの胡散臭さを内包した声は…
「狩崎さん?どうしたんですかこんな時間に…」
そう、俺に電話を掛けてきたのは何時もお世話になっているジョージ・狩崎さんだった。ライダーシステムの開発者であり重度の仮面ライダーファンである彼とは幾度かの衝突は有りつつもいつも俺たちを支えてくれた。
そんな彼が俺に電話とは一体なんの用だろうか?
「君に朗報をね…ライス君が見つかったよ…」
「ホントですかっ…!ありがとうございます!」
それはこれ以上ない朗報だ…!
たづなさんも安心してくれるだろう。
「と言っても見つけられたのはたまたまだ…彼女は私が保護しておくから安心してくれ…元太さんたちにも伝えておいたよ。」
「はい…!また今度お礼させてください!」
「それじゃいつかまたそちらの銭湯にお邪魔するよ…風呂上がりに最高の一杯を期待させてもらおうかな?」
「はい!良いの入れときます!ありがとうございました!」
その言葉を聞いて満足したのか
「オーケー!それじゃ!」
と狩崎さんは足早に通話を切ってしまった。
後はあの人に任せておけば安心だろう…胡散臭さが半端じゃないので誤解されがちだが基本的には善良な人だ。
「たづなさん、安心してください。ライスが見つかったみたいです!」
「本当ですか…!?」
心からの安堵を浮かべるたづなさん。学園の生徒を心から想っている彼女だからこそその度合いの大きさは計り知れない。
「はい!信用できる人が保護してくれるそうなんで、明日には俺が学園まで送り届けますよ!」
「本当に良かった…その方には私からもお礼をさせてください!要望を可能な範囲で叶えさせて頂きます。」
「えっ!?…えぇ…っと……」
その発言はなんだか危ういのではと危惧する。
こんなことを言ってくれているが実際本人にこんなことを伝えればなにかとんでもないことを要求しかねないような気がする。
先程の信用とはまた別の意味で信用があるのが彼なのだ。可能な範囲でとは言っているがたづなさんの性格上また無理をしてでも要望を叶えようとするのが目に見えている。
何か俺がここで代案を…そうだ!
「あぁ〜…あの人!仮面ライダーが大好きなんです!だからそれのグッズとかならハズレはないと思います!」
「え…!?あ…は、はい…」
とりあえずこう言っとけばいいはずだ…どうせ狩崎さんのことだから喜んで受け取るだろう。
なにか言われる前にこの場を退散しよう!
「じゃあ俺はこれで!よかったらたづなさんも家の銭湯に入りにきてください!」
「は…はい!」
脇目も振らずに走り去る、そんな俺をたづなさんは見送ってくれた。
(なぁ…一輝ぃ…)
「ん…?どうしたんだよバイス?」
突然俺に宿る悪魔であり相棒のバイスが話し掛けてきた。そういえばたづなさんと話してる間は珍しく静かだったな…
(一輝って意外とさ…罪作りな男ってやつ…?)
「ん…?…どういう意味だ?」
(ああ〜…いいや!やっぱなんでもな〜い!)
「はぁ!?おいなんなんだよ!バイス!おいって!」
突然おかしなことを言い出すバイスに大きな声を上げながら俺は帰路につく。明日はライスを迎えに行かなければならないし、できる限り早く寝て備えておかなきゃな!
たづなside
「…ありがとうございます、一輝さん…」
走り去ってもう点に見えてしまうほど遠くの彼に私はもう一度感謝を告げる。
ライスシャワーさんのこともそうだったが、何より落ち込んでいた私に対してとても親身になってくれたこともだ。
正直言えば今までも何度だって似たような言葉をかけられた筈だった。なんだったら上司の理事長にも同じことを言われたのだが、思えば何故か彼の言葉はストンと私の心に驚くほど滑らかに滑り落ちたのだ。
それは一体何故だったのだろうか。
彼と知り合った経緯はそれこそ偶然という言葉が一番当て嵌る。レースの応援の席でたまたま隣同士になった二人が五十嵐大二トレーナーの関係者であるという共通点があったことが交流のきっかけだった。
最初はほんとに知り合いのトレーナーのお兄さんというだけの印象だった。それから関わり続けるに連れて大切な友人となりやがて彼が世界を守る仮面ライダーになってからもそれは変わらなかった。
彼の言葉が心に溶け込むのは彼が大切な友人だからだろうか…
それとも…?
彼が五十嵐トレーナーに差し入れを持ってきた時…
弟にだけ見せるくだけた笑顔の彼…
仮面ライダーとして戦っているのをテレビで見かけた時…
誰よりも真剣に相手へと向き合う彼…
ウマ娘たちにサッカーをしていた時の話をする時…
無邪気な子供みたいな顔を浮かべる彼…
「………〜〜〜〜〜〜〜ッ!………」
これ以上はいけない…!
顔から火が出そうになって心臓が警鐘を鳴らしている…
これはつまり…そういうことなのだろう…
自覚したのならばこの先は一層気を引き締めなければならないようだ…
なんせ…
「相手は世界を救う仮面ライダー…ライバルは多そうですね…」
だがそれはそれで構わない。
難しい勝負ほど勝利のしがいがあるというものだ。
並み居る強豪も全て撫で切って見せよう。
そして必ず…必ず…
「貴方の一着になりますよ…一輝さん…」
そうして私は舞台は違えど久しぶりの勝負の香りに身を震わせるのだった。
つづく…
あ…ありのまま今起こったことを話すぜ…!
ライスの苦悩と失踪を書こうと思ったら、一輝とたづなさんがなんかいい感じになっていた…
何を言ってんのか分からねえと思うが俺も何が起こったのか分からなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
筆が乗ったとか…想像力だとか…そんなちゃちなもんじゃ…断じてねぇ…!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
ちゃんとした恋愛描写なんて初めてだから勝手がわからん…!
けどお節介な三兄妹の長男とできる女秘書さんの組み合わせは萌えるものがあるはずなんや…
次回は狩崎さんがライスを見つけるところから始まります
執筆して欲しい方はどっち?(詳しくは活動報告へ)
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リバイスとテイオー主体の物語
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ライスシャワーが主人公の物語
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その他