メジロマックイーンside
「納得がいきませんわ!」
とある日の昼休み、学園の生徒達が昼食を取っている食堂の中で大きな怒声がこだまする。その中心に居るものの名はメジロマックイーン…由緒正しきメジロ家のウマ娘である。食事中に席を立ち、あまつさえ大声をあげるなどメジロの名に恥じる行いだと分かっていたがそれでも彼女は友人から告げられた話に異を唱えずにはいられなかった。
「ぴえっ…!お、落ち着いてよマックイーン!そんなのボクに言われても困るよ〜!」
「…あ…ご、ごめんなさいテイオー…でも私…」
急に大声をあげたことで目の前の友人は驚きを顕わにする。友人の名はトウカイテイオー…旧家の令嬢にして才能溢れるウマ娘であり、多くの友人を持つムードメーカーだ。現在は怪我で療養中の彼女だがその実力を裏付けるように様々なG1を制覇してきた猛者中の猛者である。
「でも、ボクだって同じ気持ちだよ。自分の担当があんな目にあったんだもん…怒って当然のはずなのにさ…」
テイオーはそう愚痴をこぼす。元々マックイーンが怒声を上げた理由はテイオーがもちかけた話題が原因だった。
「…確かに観客の方々に直接手を下そうとしたのはやりすぎでした…でもだからといってトレーナー免許の停止だなんて…」
その話題とはそう、ライスシャワーさんのトレーナーである五十嵐大二のトレーナー免許停止処分に関してだった。マックイーンの三連覇がかかった春の天皇賞で勝利したライスシャワーに向けられたのは称賛ではなく偉業を阻んだ刺客に対する敵意だった。
投げつけられる罵詈雑言、対話も突っ撥ねられてしまう始末。
そんな観客に怒りを覚えた五十嵐トレーナーは自身に与えられた仮面ライダーの力を用いて直接的な糾弾を行おうとしたのだ。
それは結局同じく仮面ライダーの兄君によって阻止され未遂に終わるものの、その後彼は捕縛を拒み逃走…現在も行方不明である。
「ボク、ライスが心配だよ…
あんなこともあって…
その上トレーナーまでいなくなるなんて…」
目の前の非常に友達思いなウマ娘の友人がその心配をしてしまうのは当然と言えるだろう。
かく言う自分も例には漏れず…
「いえ、あの子はきっと大丈夫です…」
「…ぅえ!?な、なんで…!?」
ということはなかった。実際、正直言えばライスのことはそう心配していなかった。
そう思わせる理由が彼女にはあったのだ。
「テイオーはしあわせ湯の皆さんを知っているでしょう…?
彼等は謂わばライスさんのもう一つの家族…きっと支え、導いて下さる筈…」
「あっ…」
彼女を想う人間は他にも沢山いる。
その代表格と言えるのがしあわせ湯の五十嵐家である。多少のゴタゴタはあるかもしれないが彼等ならライスさんの心を救うことができるはずだ。
「私達が今やるべきことは、彼女の心の拠り所が帰ってこれる場所を守ること…ではありませんか?」
暗に自分が行おうとしていることを示しながら自身の友人に問う。これからやることは容易に実現できるものではない。むしろ良くない爪痕を残す可能性だってある…だがこの現状に納得がいかないのは同じはずだからだ。
「…そうだね、確かにそのとおりかも。ボクも色々やってみるよ、マックイーンも頑張って…!」
理解と協力を示し、激励を送ってくれる友人に対して自分はこの言葉を告げる。
「ふふっ…言われるまでもありません!」
さぁ、これから忙しくなる…
なかなかの無理を通そうというのだ。
はっきり言って成功確率は家の力を総動員して実現できるかどうかといったところだろう。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
どんな方法を使ってでも大切な友人を必ず助けるのだと誓ったのだから。
それからしばらくして…
嘗ての自分の言葉が間違っていなかったことを実感した。
彼女は本当に自分の足で立ち上がったのだ。
なんでもライスさんは失踪しようとしたらしい…自己否定を重ねてしまった故の行動だったようだ。
すぐ保護され、朝には学園に戻ってきたのだがその面影には以前のような弱々しさは感じられず、寧ろなんだか大きく強くなっているような気もする。
どうやら成長したようでなんだか嬉しいような寂しいようなそんな気持ちだ。
だがこれで安心して自分の役割をこなせるというものだと思っていると…
「ヘイ!ちょっといいかい!」
突然軽薄そうな声で話しかけられる。
声の方を向くとそこには如何にも胡散臭いといった印象を受ける風貌をした男が立っていた。
一瞬不審者が入り込んだのかと思ったが、よく記憶を掘り起こしてみると確か彼は失踪したライスさんを保護した人物であり現在のライスさんのトレーナー代理だったはずだ。そんな人物が一体何のようだろうか?
「いやぁ…まさかメジロのご令嬢とお話しできる時が来るとは思っていなかったよ…どうだい怪我の治療の方は、順調かい?」
「…ええ、メジロ家には優秀な名医がおりますから。ところで一体どういった御用でしょう?」
いきなり失礼な男だなと思ったがそんなことで一々目くじらを立てていたらメジロの名折れなのでさっさと要件を聞いて退散させてもらおう。
「もうすぐライス君が出走する春天があるだろ?実はライス君にはもう一つ大仕事があってね…早めに出ることになる。その時にこれを渡しておいてもらおうと思ってね…」
そう言って彼が取り出したのはとても派手な色をした物体だった。一体何なのだろうと思い、受け取って注視してみる。
「これは…スタンプ!?」
思わず取り落としそうになるが、それも仕方ないだろう…何故なら今自分の手の上にあるのは人間から怪物を解き放つことができる危険なアイテムなのだから。
「貴方、一体ライスさんに何をさせようと…!」
「おっと…勘違いしないでくれ。君が知る使用方法は間違った使い方さ…ちゃんと使えれば使用者やその周りに危険はないよ。」
そんなことが信じられるわけが…と思ったところで彼の発言に引っ掛かりを覚えた。
ちゃんと使えばとはどういう意味だろう。
いや、答えはすでに知っている。
怪物を呼び出すという使用方法以外には確か…
「何故…ライスさんが…」
「取り戻すためじゃない?自分の大切なものをさ。」
その口ぶりからして彼女は自分の手で大事な人を取り戻そうとしている。そのための力が今自分の手元にあるこのアイテムなのだろう。それを理解すると同時にそんなアイテムを所持していたこの男がどういう存在なのか何となく察しがついてしまう。
だがまたそれとは別に違う疑問が浮かんだ。
「ですが何故わざわざ私に…?
貴方が直接渡せば良いのでは…?」
そう、わざわざ自分を介して彼女に渡す意味が分からない。彼はライスさんのトレーナー代理なのだからもしかすれば自分よりも接する機会は多いはずなのだが…
「大仕事の前に彼女には君たちと話す機会を与えたいと思ってね…きっと積もる話があるだろう?それはそのための理由付け、謂わば建前ってやつさ。」
「……あぁ……ふふっ……」
その答えを聴いたとき、ほんの少し呆けると共に理解して思わず笑いがこみ上げる。
どうやら彼は彼なりにライスさんのことを慮っての行動だったようだ。第一印象から程遠いその行動にやはり人を知るのに見た目は関係ないのだろうなと呆れてしまう。
「ふふふ…貴方、よく勘違いされません?」
「…多少はね…」
自分の言葉からそんな心持ちを読み取られてしまったのかほんの少しテンションを落としながら答える彼はなんだか拗ねてる子供みたいだった。
「ふぅ…さて、承りました。
これは責任を持って届けさせていただきます。先程君たちと仰っておりましたが他にも…?」
「あぁ…他にもミホノブルボンくんやゼンノロブロイくんに頼んでいる…渡す際は彼女らと合流するといいだろう。」
「了解しましたわ、それでは…あっ…そうそう…」
話が終わったその後の去り際に彼に向かって振り返る。この時浮べていた微笑にはほんの少しからかいの色が混じっていた。
「できるならこれからも仲良くいたしましょう…?優しい科学者さん♪」
「…それは魅力的だが遠慮しようかな…」
そう答える彼の苦虫を噛み潰したような顔を見てからかいが成功したのを見届けたのに満足してそこから離れるマックイーンだった。
ミホノブルボンside
あの日、あのときの選択は正しかったのかと自分のメモリーの記録を振り返るたびに思ってしまう。
あの春の天皇賞のあの日、私は走り抜いたライスを迎えるために待機していた。
だが彼女がそこに訪れる前に聞こえたのは観客の悲鳴と大きな衝撃音だった。もしかしてレース場で何かあったのかと急いで駆付けてみるとそこにはボロボロのライスのトレーナーとそれに泣きつくライスの姿があった。
何が起こったのか全く分からなかった。
「五十嵐大二、先程の民間人への攻撃について詳しく話して貰う…大人しく投降しろ。」
彼の周りを同じような服装の…恐らくフェニックスの隊員達が囲む。
民間人への攻撃…?
一体どういうことだ?
ライスのトレーナーさんが仮面ライダーだというのは知っている、そんなことをするような人物ではないはずなのに目の前の現実はそれが本当だと雄弁に物語っていた。
それがもし本当なら…ライスは…
「だめ!お兄様を連れて行かないで!」
「そうだ!お願いします!俺の弟なんです!」
「ライスシャワーさん、一輝さん離れて…彼は危険人物です!」
「いやっ…!そんなはずない!お兄様は優しい人だもん!」
「ああっ!くそっ…!大二…!」
「くっ…やはりライスシャワーさんは我々の力では引き剥がせない!誰かウマ娘の方は彼女を押さえてもらえませんか!」
この時、私の脳内には2つの選択肢が浮かび上がった。
ライスを援護し、彼女のトレーナーを助けるか。
ライスを押さえ込み、彼女のトレーナーの捕縛に協力するか。
前者はライスの友として有り得る選択だ。だがライスのトレーナーが本当に危険人物だった場合、彼女は危険に晒されることになる。
後者はライスのことを裏切ることになる。
だが、ライスが危険に晒される可能性は著しく低くなる。
友の信頼と安全、どちらを優先すべきか。
究極の選択だった…その時動けるウマ娘は私しか居らず私が選択を迷えばもしかしたらライス諸共連行されてしまうかもしれない。
その焦りも相まって私は選択を急いでしまった。
私が選んだ選択は…
「ライス…離れてください!」
「ブ…ブルボンさん…!?」
後者だった。
私はライスが傷付いてしまうことだけは避けたかった。だからとっさに選んだのが後者の選択だったのは謂わば安全策のようなものだったのだと思う。ライスを危険から遠ざけられ、なおかつ彼女のトレーナーが誤解を受けているならばすぐに戻ってくることは可能だとも考えられるからだ。
だが私の行動は無駄に終わった…
捕縛を拒否した彼は咄嗟に仮面ライダーに変身。隊員達を蹴散らした後に翼で空へ逃走してしまったからだ。
結局その場に残ったのは蹴散らされ、気絶した隊員達と、涙を流し座り込むライス。
そしてその側でただ立ち尽くすだけの私だけだった。
「マスター、あのときの私の選択は正しかったのでしょうか…?」
「…さぁな…俺にも何が正解なのかは分からない…」
マスターでも分からないことがあるのかと驚愕する。彼に私は何度も助けられた経験があるだけにその驚きもひとしおだ。だがまだ言葉には続きがあったようで彼はそのまま続ける。
「ただなぁ、ブルボン…自分の行いの正否を考えるならまずは自分の行動の芯を見つめてみることだ。」
「行動の芯とは?」
「誰のため、なんのために行動したのかということだ。人は焦ったり躓いたりすると自分ではそれに準じているつもりでも自ずと何処かでズレが出てくるものなんだ…」
そう語るマスターの表情は何処か影を感じさせるものでなんだか不思議で…
まるで自分の過去を語っているかのようだったが深く聞くことはなんとなくしてはいけないような気がした。
「まぁ、何が言いたいのかというとだ…自分の行動の芯を思い出した上で振り返ってみれば何か見えてくるものがあるんじゃないか…?」
「…了解、貴重なご意見をありがとうございます。」
マスターの助言の通り、少しの間一人で思考するためトレーナー室を後にしようとしたその時、マスターは去る私の背に向かってまた声を上げる。
「ブルボン!もしその行動が間違っていたと感じても立ち止まるな!いくらでも失敗していい!大切なのはその後だ!」
何故かその言葉がとても強く私のメモリーに刻みつけられるのを感じた。
自分があの時に動いた理由…行動の芯とはなんなのか思考する。
まず私はライスのために行動した…
それは間違いないはずだ。
つまり私の行動の芯はライスのためだということ…
ではあの時の行動はそれに準じたものだっただろうか…
だが何度考えても自分の行動は正しかったと言える結論に行き着き、それに反して胸に渦巻く不安感は消えてくれなかった。
まるでなにか大事なことを見落としているかのような…
これは一体何なのだろうと思案していると…
「どうかしましたか、ブルボンさん…」
「貴女は…フラッシュさん…?」
突然一人のウマ娘が会話を持ち掛けてきた。
彼女の名はエイシンフラッシュ、ドイツの実家が洋菓子店を営むとてもストイックなウマ娘だ。夕春チョコレートコンテストに一緒にエントリーした縁で仲良くなった経緯を持つ。
「いつもより眉の角度が1.4度ほど落ちていましたから何かしら悩みがあるのかと思いまして。」
どうやら私の様子がいつもと違うことを見抜き、声をかけてくださったようだ。
私は人の変化に敏感な彼女ならもしかしたらという気持ちもあってフラッシュさんにすべてを打ち明けてみることにした。
それからしばらくして…
「なるほど…よく分かりました。本来ならすぐに人員を集め、その悩みの具体的解決案を模索する会議を催したいところですが…」
正直言ってそこまで大事にしたいわけではないので読み取れる言葉からそれが難しいだろうというのが理解できたのは良かった。
彼女は言葉を続ける。
「私も予定が押していますから、ちょっとした助言を一つだけ…」
「ブルボンさん、貴女は確かにライスさんを思って行動しました。ですが、その行動はライスさんの意思をちゃんと尊重していましたか…?」
ライスの…意思…
「人というのは不思議で、誰かを思うあまりにその誰かの意思を蔑ろにしてしまうことがあるものです…私の経験則ですが…」
「マスターさんの言うズレというのもおそらくそういうことなのでは…?」
そういえばしっかりと考えたことはなかった…私はライスの意思をちゃんと尊重できていただろうか…
あの時ライスは自身のトレーナーと離ればなれになることを恐れていた。
それは二人の間に強い信頼関係があったことが前提として考えられる。
であれば何故彼女のトレーナーは民間人への攻撃という暴挙に出てしまったのか…?
そんなことをすれば拘束され、お互い離れてしまうことは明らかだというのに…
いやまて…あの時の状況をよく思いだせ…
ライスが走ったのは春の天皇賞、そしてその舞台はメジロマックイーンさんの三連覇がかかっていたもののはず…
彼女はあのレースに勝ち、ヒールと揶揄され、蔑まれた…
そんな状況に彼女を心から信頼する存在が立たされればどうなるだろう…
きっと心からの怒りが湧き上がるはずだ。
怒りに我を忘れてしまってもしょうがないはずだ。
彼もまたライスを思って行動していた…?
だとするなら彼がライスを危険に晒すなど見当違いも甚だしい。
寧ろ彼はライスを悪意から守ろうとしていたんじゃないか…
ああ…そうだ…私は…
「眉の角度が修正されたのを見るに、どうやら答えを得たようですね。」
「ええ…私は…選択を間違っていたようです…」
「ふふっ…自分の間違いを自覚した割には晴やかな表情ですよ?」
それはそうだ。もし私がフラッシュさんと同じ状況にいるなら同じことを思うだろう。
だがしかし…それに対する解はもう得ている。
「ええ、失敗を自覚したのならそれを取り戻すように動くまでですから。」
「…もう大丈夫のようですね、なら私はここで失礼します。それと…あちらの彼が貴方に話があるようですよ?」
そう言われてフラッシュさんの指す方向を見るとなんだか如何にも「怪しい」に該当するような男がいた。
だがよく思い返せば彼は確か…?
「やぁ、ミホノブルボン…実は君に折り入って頼みが「お願いがあります。」…なんだい…?」
彼は確かライスのトレーナー代理だったはずだ。
彼女の失踪騒動のすぐ後に姿を表した謎の人物であり、平時であれば警戒レベルを引き上げるべきだと思われるが今は彼の立場が必要なのだ。なぜなら…
「あの子と…ライスと話す機会を与えていただきたいのです。」
「願ったり叶ったり…というやつさ…」
あの子に、しっかりと謝らなければいけないのだから。
ゼンノロブロイside
彼のことを知ったきっかけは、ライスシャワーさんが図書室に連れてきて紹介してくれたのが始まりだった。
「よろしく。君がライスと同室のゼンノロブロイさんだね、俺は五十嵐大二…ライスのトレーナーだ。」
第一印象はものすごく真面目そうな人だなと思ったけど、それは実際その通りで彼は何事にも実直に真面目に取り組むとても良い人のようだった。
同室の友人が素敵な人に巡り会えたのが嬉しかったし、何より二人が並んで笑い合う姿はとても輝いて見えて、私はそれを見守る日常がとても好きだった。
でも最近はそれを見る機会は日に日に少なくなり、やがてもう一切見ることはできなくなってしまっていた。
そしてそれに代わるように私が見ることが多くなったのは日に日に憔悴していくライスさんの姿だった。
弱っていく友人を前に私ができることを探したけどそんなものはなくて、自分の無力さを余計に自覚してしまった。
最近のライスさんはなんだか前とは違い、活力に満ちているように思えるがだからといって状況が好転しているわけじゃない。
このまま二人が元に戻らなかったらどうしようという不安で今まで息をするよりも簡単に行なっていた本の頁を捲るという行動が滞ってしまう。
だが弱気になってはいけない。自分なりに二人が元に戻るための方法を探すと決めたのだから。
そのための方法を記した本がないかとこうやってかき集めた本に向かい合っているのだ。
いま手元にある本を一旦閉じ、次の本を手に取り題名を見てみる。だがそこには自分が手に取った覚えのない名前があった。
「…ロストメモリー…?」
これは一度読んだことがある…確か記憶喪失の少年が自らの記憶の手掛かりを探す旅に出るという内容のファンタジー小説だ。
学園の誰かが適当に配架したものを間違えて持ってきてしまったのだろうか…?
とりあえずこれは元の配架場所にと思っていると…
「その本、いいよね。私も好きだよ…」
「きゃあ…!?」
突然意図せず話しかけられたことに驚いてしまった私は少しの恐怖を帯びたまま、声のした方向を顔を向けてみる。するとそこには白いコートとサングラスを身に着けヘアピンを使ったおしゃれな髪型の男の人が立っていた。
「まぁ…と言っても、私が好きなのは作者の方だけどね…」
「は、はぁ…えっと貴方は確かライスさんの…」
トレーナー代理の方ですねと続けようとすると彼が手を前に出してこう言った。
「狩崎と呼んでくれ、その肩書は長いし固いからね…」
「あ、はい…分かりました。え、えっともしかしてこの本の貸出希望でしょうか…?」
その可能性が一番高いと考えて問を投げる。図書室に足を運ぶ理由としてはそれが最有力だし、何よりこの本が好きだと自分で言っていたからだ。
だがその予想は外れていたようである。
「いや、わざわざ借りる必要はないよ。その本はもう作者のサイン入りを持ってるからね…私が用があるのは君さ、ゼンノロブロイ。」
どうやら狩崎さんは私に用があるらしい。こんな私に用があるとは一体何なのだろうと一瞬思ったが、そんなことより気になる言葉があったのでそちらに気を取られる。
彼は今なんと言った?確かこう言ったはずだ!
「作者さんのサイン入りとは本当ですか!?」
「Oh…!?」
「この本の作者さんは突然メディアに顔を出すことが少なくなったのでお話を伺う機会ってなかなか得られないんですよ!
あの!サインを頂く時になにかお話されましたか…!?」
「ソ、ソーリー…その期待には答えられそうにないが…流石はゼンノロブロイ、噂に違わぬ本の虫っぷりだね…」
「あっ…すっ、すみません!///」
がっついて人様に迷惑をかけてしまった。こういうところはいずれちゃんと治さなければと思案するも、そういえばあちらには私に用件があるということを思い出し、誤魔化す意味も含めつつそれについて聞いてみようと思う。
「あ、あの…それで私に用とは一体…?」
「おお、そうだった…サンキュー、忘れるところだったよ。」
そう言って彼が懐から取り出したのは狼の意匠が施されたスタンプのようなもの、というかそれは…
「それは、バイスタンプですね…意匠を見るにオオカミバイスタンプ…といったところでしょうか…?」
「おや、これについて知ってるようだね…?」
その問はただ単純にこのアイテムの名を知っているのかということだけを問うたものではない。テレビのようなメディアだけから得られる情報だけではこのスタンプのイメージは怪物を生み出す危険なモノでしかない。
これを見て取り乱さないということは正規の使用方法についての知識がある可能性がある。それについて問う意味もあるのだ。
「ええ…大二さんに教えてもらう機会があったんです。似たものを見たらすぐ教えるんだよって…」
「やれやれ…生真面目な彼にしては珍しいね…特に機密扱いにしてはいないとはいえこんな危険物を一般人にひけらかすとは…」
「…あ…あはは…」
それを手渡ししてる貴方はどうなんだという疑問が出てきたのは黙っておこう…こういうのは黙っていた方が話が進みやすいのだ。
「あの…それでそちらのバイスタンプを私はどうすれば…」
「話が早くて助かるよ…簡単なことさ、ライス君にそれを渡してもらえるかい?」
「は、はい…え?でもそれなら…」
貴方が渡せばいいのでは?そう続けようとしたのを、恐らく察したのであろう狩崎さんは私が言い切る前に口を開く。
「彼女には来たる天皇賞の日にレースとは違う別の大仕事がある…
その前に君には彼女に何か言葉をかけてあげてほしいのさ…恐らく君の激励は彼女の力になるだろうからね。」
それを聞いて少し納得する。ということは恐らくこのバイスタンプはその理由付けのためのものだろう。
そしてその大仕事とはなんなのか、このバイスタンプを何に使うのかということもなんとなくの察しがついてしまう。
「…でも…私などに務まるでしょうか?…私以上に適任な人が…「君以上の適任はいない。」…ッ!…」
「…と、私は思うけどね。」
少し強い言い方になってしまったのを自分で感じたのだろうかその後にちょっとおどけた風に言葉をつけ足す狩崎さん。
だけどそれに込められた真剣さそのものは全くと言っていいほど変化していなかった。なぜ私が適任だと考えているのだろう。
「君が一番、大二とライス君…あの二人のことを解ってるからさ。」
「え…?」
それはどういう意味だろうか。
確かに二人と一緒に居た時間は誰よりも長いつもりだがそれが一体どうしたというのだろう。
「君は謂わば二人の理解者、両者それぞれの目線に立って考えることができる。」
「二人のことが同じくらい大切だからどちらかに寄ってしまうこともない…そういう人材が今は必要なのさ。」
正直言って過大評価なような気もした。
自分はそんなに大層な存在ではない…
ただ二人のことが大好きで…
いつまでも二人に一緒に居てほしいと思っているだけのただの平凡なウマ娘、それが自分のはずなのだ。
だから、その大役が自分に務まるかは分からないし、未だにもっと適任がいるのではとも考えてしまう。
だが、今狩崎さんに頼ってもらえているのは私だ。
なら私は自分の出来得る限り全身全霊を持って応える、それが二人が元に戻るためというのならば尚更だ。
「私が適任だとお考えになった根拠は理解しました…私にどこまでできるかは分かりませんが全力を尽くさせていただきます!」
「オーケー、宜しく頼むよ。」
ライスさん、大二さんを取り戻すお手伝いをさせて頂きます。
大二さん、これからあなたの一番大切な人が迎えに行きますから…だから待っていてくださいね。
オリジナルバイスタンプ
オオカミバイスタンプ
『甘噛み!マジ噛み!マジで神!オオカミ!』
『獲物の運命は俺が決めるっ!』
狼の遺伝子情報を内包したバイスタンプ
ゼンノロブロイに託された。
フリオこと玉置がギフテクスに変身する際使用していたウルフプロトバイスタンプを調整させたもの
フェーズ4に初めて移行したバイスタンプだったため、通常のバイスタンプよりもより高度な調整を行なう必要があり、その結果変容が起こったことで全く別のバイスタンプとなった。
ライダーレリーフはメテオ
キツネバイスタンプ
『ヤッバイ〜ネ!キッツイ〜ネ!キツネ!』
『私は…不屈だぁぁ!!』
狐の遺伝子情報を内包するバイスタンプ。
ミホノブルボンに託された。
ジャッカルバイスタンプの色違い。
ライダーレリーフはゲンム
エレファントバイスタンプ
『超エレガント!えーそれホント?エレファント!』
『デカさは…別格だ!』
象の遺伝子情報を内包するバイスタンプ。
メジロマックイーンに託された。
本編にチラッと登場したマンモスバイスタンプの色違い。
ライダーレリーフはネガ電王
今回は番外編。
ウマ娘側の心理描写が少ないという意見を頂いたため深く関わるであろうウマ娘たちの視点を描いてみました。
ライスを信用し、大二を心配するマックイーン
大二を信じれず、ライスを心配するブルボン
両者を愛し、両者を心配するロブロイ
といった感じで三者で対比できる構図を目指しました。
元々ボツ構成を練り直したものなのでちょっと変なのはご容赦を…
執筆して欲しい方はどっち?(詳しくは活動報告へ)
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リバイスとテイオー主体の物語
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ライスシャワーが主人公の物語
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その他