ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
TS症候群の報告はつい最近されるようになったが、その報告は曰く核兵器による云々かんぬん。
オートバイ。バイク。モーターサイクル。いろいろ呼び方はあるが二番目のが一番好みであると彼は思っている。
愛車のVツインエンジンを唸らせながらカーブを曲がる。あまり曲がる車種ではないので、速度は言うまでもなく交通規制に従っている。死にたくないという気持ちがある反面で、バイクという乗り物は加速させようとする困った乗り物で、たとえそれが慎重な立場であるとしてもスロットルを回したくなるものだ。
などと油断していると白と黒の車に狩られるのでやりはしない。時折ミラーで背後にいる一台がきちんとついてきているかを確認しつつ、インカムに話しかける。
「あっつ」
「熱いねぇ。おじさんはもう正直だめです」
人のよさそうな声が返ってくる。ドドドドドという凄まじい音。彼の乗るミドル・アドベンチャーを上回る車格の海外製アドベンチャーバイクのエンジン音である。比較的小柄なのにひょいひょいと取り廻せるのはひとえに積んできた経験がものを言っているのだろう。
炎天下を長時間走っていたせいか、汗の量が減少しているのがわかる。快適かもしれないが、これは危険な兆候だ。日陰の下に自販機があるのを見つけたので、ウィンカーを出してギアを下げる。
「瀬戸君はどう? 休憩でもしない?」
「多治見さん、自分も限界すねこれは。いっすよ。あそこで止まりまーす」
「はーい」
年齢で言えば瀬戸は二十台前半、多治見は四十代も後半である(自称)。タメ口を聞くと違和感しかない年齢差ではあるが、元々インターネット上で知り合ったので『そういうもの』として二人の間の敬語は最低限であった。君さん付けで呼び合うのはご愛敬である。
路肩にバイクを止めて、サイドスタンドを立ててから降りる。ヘルメットを取ると自然と笑い合った。
「今日下道300くらいすかね。死にそうすわ」
「結局一日走ってたねぇ」
合計十二時間以上は走っていただろうか。観光地への立ち寄りこそあったものの、それを加味すれば走り続けていたことだろう。いくら大型バイクとて一日走れば尻は痛み、スロットルを握る指は皮膚が痛くなり、背中のあたりに違和感が生じ始める。今日は宿に泊まるだけなので楽なものだが。
またある日はネット上でやり取りをする。やり取りと言っても通話の出来るアプリで会話しつつ、ゲームをプレイするくらいであるが。
友達と言えば友達だが、走り仲間でもあって、まるで親戚同士のような付き合いをしていたそんな間柄であった。
ある日、アプリでこんなやり取りがあった。
多治見が体調不良を訴え始めたのだ。
『体調が悪いかも』
『マジすか』
『病院行った』
『しばらくバイク乗れんわこれ』
『バイクいかない?』
一か月後、体調が治ったのか、アプリでそんな提案をしてきた。
『富士山とかどうすか』
『ふもと?』
ふもとと聞くと一つしかなく、そこでキャンプしようという意味である。すぐに休日を調べて一泊できることを確認する。
『次の土日 どう?』
『いつでもいける 今 休職中』
休職ということは治っていないのか? いろいろと疑問はあったが、その時はそこまで考えなかったのだった。
当日早朝。東京から出て高速に乗って炎天下進んでいき、高速を降りて現地に向かう。ネットで予約していたので受付はスムーズだった。
『ちょっと遅れる 十分くらい設営して待ってて』
当日は晴れていた。富士山が良く見えるキャンプ場で有名なだけあって、目の前にどとんと富士山が聳え立っていた。季節が真夏のせいか頭に雪をかぶっているということもなく、黒々とした巨体を見せつけている。雲一つもなく、晴天である。今日も気温はあがることだろうことが予想され、とっとと設営をしてしまおうと荷ほどきをしていると、聞き覚えのあるエンジン音が響いてきた。
「お ま た せ」
「おっす……病気大丈夫でした……?」
違うのだ。声が違う。酒焼けした声ではなく、この声質はそれどころか男性ではなく女性のそれで。
若干腹の出たおっさんがまたがってると思いきや、ひょいと身軽そうに降りてきたのは背丈のちんまりとした小柄な“女の子”で。
ヘルメットを外すとふんわりとしたピンク色の髪の毛が風に舞って。
「おじさん、女の子になっちゃった」
その女の子は面目ないと頭を下げた。
みーんみんみんみー。
みーんみんみんみー。
みーんみんみん………。
十秒ほど間が空いただろうか。いの一番に口を開いたのは瀬戸である。
「え? 誰?」
「おじさんだよ! 多治見! 多治見飛鳥!」
多治見飛鳥。名前が女のようだが立派な男である。銭湯でもきっちり“見て”いるので間違いない。
ところが目の前の女―――大学生くらいだろうか―――は自分こそが多治見であると言って憚らないのだ。常識的にすぐに受け入れられるわけがなく。眉を顰めた瀬戸はスマートフォンを弄ってアプリを起動すると、メッセージを送った。
『シュポ』
目の前の多治見(?)の手の中にあったスマートフォンがメッセージを受信した音がした。
「ほら! 見て! おじさんのスマホでしょこれ!」
お安い中国製のスマホをドヤ顔で見せつけてくるので開いているアプリを見ると、確かに自分のメッセージのやり取りが表示されている。
「だけどさぁ」
「盗んだっていいたいんだね。わかる。おじさんもよーくわかります。じゃあこれ」
次に出してきたのは年季の入って汗を吸い黒くなった安物の財布である。免許証を取り出して見せつけてくると、確かにピンク色の髪の毛の女性が免許証に映っていて、名前も多治見飛鳥と表示されているのがわかる。
いや、でも……ともごもごと反論しようとしたところで止めが刺される。
多治見はおもむろにスマホを操作すると、それを見せつけてきた。
「瀬戸君にだけは見せてやってもいいよ。一枚目これね」
「ヴォエ!」
パンツ一枚で姿鏡の前で自画撮りするおっさんという地獄みたいな画像。
思わず吐き気を覚えたところで二枚目が披露される。
「二枚目これね」
髪の毛がピンクになり、ぽよぽよだったお腹が引っ込んで身長も縮んだ画像。
三枚目、四枚目と経る度にどんどんと姿が面影を残して変わっていき、最終的には同じパンツを履いた女性の画像になった。
がくりと膝から崩れ落ちる瀬戸であった。
多治見はたははと快活に笑うと、蹲った瀬戸の肩を叩いた。
「わかる。いやおじさんも驚いたんだけどねぇ、痛風は治るわ腰痛治るわ慢性眼精疲労治るわおしっこ快適だわいいこと尽くしでね」
「それは聞いてねぇよ!」
立ち上がって肩を掴んで口角泡飛ばしつつ怒鳴ってみるが、むなしいだけであった。
じっと見つめてみると確かに面影が残っている。人懐っこそうな目元。通った鼻筋。それ以外は別物である。ピンク色の髪の毛は腰まで伸びて、太陽光を反射してヘイローよろしく円環型を宿しているし、きめ細やかな素肌は白磁のそれで。通気性を考慮した薄手の夏用ジャケットは大きい胸元に押し上げられているし。なるほど、親しみを感じる美少女と言った様子だった。
「ま、ま、別に悪いことじゃないだろう? おじさんはおじさん。心はそのまんまのつもりだしね。まァ、相棒はちょっとでかすぎて扱い難いけどぉ……」
ちらっと大型のアドベンチャーを見やる多治見。元の体型ならともかく、今の女性体型では大型アドベンチャーは確かに扱いにくいであろう。
「とにかくキャンプ、しようぜぇ!」
多治見はえいえいおーと腕を突き上げたのであった。
Q.バイクは何?
A.スズキとBMWのアレ
どんな展開がいいのだよ?
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ツーリングしまくれ
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キャンプしろ
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いちゃいちゃさせろ
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R18版まーだ時間かかりそうですかね?
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とにかく書け