ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
ツーリングの帰り道。晴れという予報は大きく外れて、冷たい豪雨が降っていた。
「さむい!!!」
「わかってるよぉ!!!」
スズキのアドベンチャーバイクが高速道路を走り抜けていた。そう、高速道路である。途中で停車することは基本的に許されていないので(緊急事態を除く)、止まることができないでいた。サービスエリアもなかなか見えてこないのが泣き所だ。
二人は、今回は一台のバイクに乗っていた。
『相棒が壊れたんだが』
『これマジ? 壊れやすすぎるでしょ』
『倒しちゃった(泣) 瀬戸っちの後ろ乗せて。ツーリングいこ』
『っちやめろ』
というアプリ上の会話があって、たまにはいいかとツーリングセット(サイドバッグ等)を外して二人乗りでツーリングに出かけたのだ。天候は晴れのはずだったが大外れ。秋口の冷たい豪雨に襲われてヒーヒー言いながら走る羽目になった。
頭部以外はずぶ濡れだった。何せ高速で走っている最中に降られたのだ、当然のことながらレインコートを着ることなどできない。というより、着る以前に持ってきていない。天気予報では秋晴れになるなどとほざいていたが、この
バイカーが憎むものが二つある。一つは
さらに言うと雨天時にはタイヤの摩擦力が低下し、滑りやすくなる。視界も悪くなる。物好きでない限りはお勧めできないのが雨天ツーリングである。
だが、選択できないということもある。こういった高速道路で止められないのに、雨に降られるということである。ゲリラ的に湧いてきた雨雲に降られ、高速で走り抜けていく風で冷却され、指先からブーツまで冷たくなってきた。
「降りよう! どっかで今日は泊まってさ! 明日帰ろう! 休みじゃん!」
ヘルメット以外ずぶ濡れの飛鳥が風に負けないように声を張り上げた。グローブからブーツまでびしょ濡れである。
「うーん……」
「はよ降りろ!」
「ああ、わかったよ!」
後部に乗ってしがみつく格好の飛鳥がヘルメットをぺちぺちと叩いてきた。
逡巡したのも一瞬。後方確認、ウィンカー、車線変更で左レーンに入ると、インターチェンジの出口へと向かう。こういう時はETCの恩恵が大きい。いちいち止めずに通過できるからだ。
ETCレーンから出た瀬戸は、どこに行こうかとバイクを止めようとして、横合いから指が伸びているのに気が付いた。その指はまっすぐお城みたいな建物に伸びていた。
「あそこ! あそこ入ろうぜ!」
「ええええーっ!?」
「来ちゃったよ……初めてはいったよ……」
パンツ一丁になった瀬戸は豪華なキングサイズのベッドに腰かけて考える人と化していた。
濡れた服を脱ぎ、乾燥機に放り込み、シャワーを浴びて乾燥した衣服に着替えたのはいいのだが、ここが“どこなのか”が問題だ。
見たことがないだろうか。高速道路沿いにそそり立つ妙に装飾の多いホテルを。つまりそういうことだ。たまたまそこにあったのが悪いとでもいうべきだろうか、そんなことはないだろう。入ったヤツが悪いのだ。
ぐるぐると思考が回転している。じっと考え込んでいると、白く細い足が視界に入り込んできた。
「お待たせ」
「待ってないけどな」
タオル一枚だけ巻いた飛鳥が来た。
白磁の肌がうっすらと赤みを帯びて上気している。瑞々しい肢体はまるで見せびらかすように片足に体重が乗っており、タオルの隙間からむちむちとした太ももが丸出しになっている。豊かな乳房はかすかに水分を帯びたタオルに隠され、つんと先端が上を向いている。ピンク色の髪の毛は水を吸い、しだれて、艶を帯びていた。
そしてその顔。頬はりんご。青い、日本人離れした瞳は正面から瀬戸を見つめていた。
「好きよ、
彩人。それは本人が嫌う『女々しい』名前であり、普段は下の名前を使わず瀬戸とだけ呼ぶ最大の理由である。あえて名前を呼ぶということは、それが真剣な告白であることを意味しているだろう。
彩人は腕を組み、青い瞳を正面から見据えた。
「元男なのに?」
「だからかな。その方が心がよくわかるというか、ネ。下心ある癖に無理矢理理性で押さえつけてるの見え見え、でも絶対手出しはしない。ふふっ。少しぐらい乱れてもだーれも文句なんて言わないのに」
「急に女っぽい口調になるとなんだか怖いよ、俺は」
「こっちの方がいいかい? 男口調の方が楽だけどねぇ、僕もね」
はらりとタオルをほどくと、膝の上に伸し掛かる。腕を背中にふんわりと触れさせて、胸元を胸元に押し付ける格好になった。
「人称が安定しないおっさんだよまったく」
「私でも僕でもおじさんでも飛鳥でもいいけどねぇ、好きなの選んでよ」
「別になんでもいいよ」
「僕にちょっとときめいてるの知ってるけどねぇ」
「い、いや別に」
「ほらときめいた。じゃ一人称は僕に固定ね」
「うるせぇ! この!」
肩を掴んで押し倒す。腹をくすぐってくるのでくすぐり返す。笑い合いながら抱き合って、そうして自然に口と口を合わせた。
「んっ、ふぅ………」
飛鳥が甘ったるい吐息を漏らす。口を離すと銀色の橋がかかって、切れた。
「リードは僕がする……?」
「いや、やれるよ」
髪を指で梳いて、匂いを嗅覚に押し付ける。甘い、それと自分もよく使うシャンプーの匂いがした。男用だ。
それから―――――――。
「………あっ♡」
「おはよ」
「ふぁ………おはよう」
目を覚ました飛鳥は、同じように目を開いている彩人と顔を合わせた。挨拶をしてみると、彩人は大あくびをした。
飛鳥の白い肌には、首筋や胸元にあちこちに痕跡が残っている。シーツ一枚まとっただけの飛鳥は乱れた髪の毛を手で直しつつ上半身を起こした。傍らのゴミ箱の中身が“凄い”ことになっているのはこの際無視して、起き上がろうとしてふらつく。
「おっと」
「いつつ。この年にして腰痛って昨日はずいぶん頑張っちゃったねぇ……一日で治るからいいけど」
「まあ、その………よかったよ」
「ここでよくないとか言ったら首絞めてやるとこだったけど合格ね」
飛鳥がくすくすと笑った。ちょうど背後から抱きしめられるような恰好になっている。昨晩の最初とは、向きが反対である。
「………なんだ、まだ元気じゃん。今日休みっしょ?」
「ああ…………え?」
「もう少し“休憩”してこっか、いいでしょ。元気だし」
飛鳥に上から臀部で押さえつけられると、まだまだやれると主張している部位がますます“元気”になるのがわかる。
彩人ははあとため息を吐くと、背後から腕を交差させて飛鳥を抱きしめると、首筋をちろりと舐めた。
「もうどうにでもなれだ………」
「えへ、僕も結構疲れてるけど頑張るからさぁ」
そうして、もう半日“休憩”をすることとなり、揃って腰痛を起こしてしまったなんてことは、想像することは難しくないであろう。
翌日、疲労感を抱えたまま仕事をする羽目になったなんてこともまた、想像することは難しくはないであろう。
えくすたしー版読みたいのだよ?
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はよ書け
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本編も書け