ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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『あなただけを~Summer Heartbreak~』も捨てがたいところです


《こうふ~こうあん》2

 

 嬉しい。今が一番きれいと褒めてくれた。

 嬉しい。胸がどきどきして、全身が熱い。

 嬉しい。嬉しい。もっと言ってくれはしないだろうか。せがんでみようかな。

 男の頃は思いもしなかったことだ。

 もっと乙女のように振る舞うべきだろうか。振る舞えるだろうか。

 

「………はー生き返る~……」

 

 風呂に浸かって考える。風呂のお湯が温く感じるくらいに体が熱い。

 甲府盆地を眺める。遠くで電車が動いているのが見える。夜になれば夜景が素晴らしいのだ、この温泉は。

 彼と夜景を見るのもいいな、それからロマンチックな雰囲気になってあんなことやこんなこと。

 

「ぶくぶくぶくぶくぶくぶく」

 

 にやけ顔を隠すために水中に口を沈めて息を吐く。泡が上っては消える。

 同じく入浴している女性からジロジロ見られるのを感じる。髪の毛が紫色の高齢者の女性は稀に見るが、キツイピンク色の髪の毛は老いも若きもまず見ないからだろう。端的に言えばケバケバしいのだ。

 だがそんなことはどうでもいいのだ、彼が好きと言ってくれれば。

 気分は乙女だった。まるで二十年若返ったあの青春の頃に戻ってきたかのように。もっとも男だったあの頃とは違って女になってしまったが。

 

「ぶくぶくぶくぶく…………ぷはっ」

 

 危うく呼吸が止まるところだった。顔を水面に上げると、岩に寄り掛かる。

 

「“素顔で踊らせて”ね……“恋はお熱く”かな? あ、でも告白は成功したから“限りなき永遠(とわ)の愛”?」

 

 飛鳥は暫し遠景を楽しんでから風呂から上がった。

 

 

 

 風呂上り。

 

「………温泉卵揚げ?」

「略して温玉揚げ! 名物って言う程じゃないけどアニメでも食べてたやつね」

 

 食堂にやってきた二人は、年々インフレが進んでいることを実感させるお値段の温玉揚げを購入していた。飛鳥は食べたことがあるようだったが、彩人は食べたことがないのか、物珍しそうに手に持つそれを見つめている。

 

「……ああー本編で食ってたっけそんなの。黄身が固まってたりして。……固まってない!」

「でしょー。おいしいんだよねぇこれ」

 

 半熟卵とサクサクの衣のハーモニー。かすかに感じる塩気が合わさり三重奏。風呂上りに食べたら即座に陥落すること間違いなしの美味である。

 二人はそれをふんふん言いながら食べつつ駐車場に戻り、ジャケットを着こんでバイクに跨った。

 

「お次は?」

 

 座席に跨り、エンジンキーを差す。スマホをマウントして飛鳥の言葉を待つ。

 飛鳥も同じようにバイクに跨ってキーを差すと、スマホをぺちぺち弄って予定表を見ていた。

 

「んんーのんびり観光もいいんだけど予約した時間が十六時なんだよなぁ」

「ここからだと………マップ検索と……一時間くらいかぁ。余裕持っていきたいよな。最近すぐ暗くなるしな」

「次は……ちょっと下のフルーツ公園の散策でもしない?」

「フルーツ公園ね、了解。ってさっき来たところか」

 

 現在時刻はちょうどお昼前。お昼ごはんには少々早い。

 ギリギリ滑り込みセーフは危険性が高いし迷惑になるので、十五分前には到着するべきだ。

 このようにキャンプツーリングは楽しいのだが、時間的な制約が付きまとうものだ。二人で同時に行動すれば制約も多い。もちろん楽しいのだ、この程度の制約、むしろ醍醐味であると言えるであろう。

 エンジンスタート。坂道を下って行けば、フルーツ公園に着く。

 フルーツ公園。文字通り園内でフルーツを栽培しており、日本有数の葡萄や桃の産地としての特色を活かした各種料理、土産物を楽しむことができる公園である。

 

「おおーやっとるやっとる。彩人みてホラ葡萄しぼってる」

「ほんとだ。ああやって搾るのか」

「搾るっていいよね」

「??? そうすね」

「搾る」

「なんで強調するの?」

 

 万力に近い構造の、油搾り器に近い道具を使ってお客さん達が従業員指導の元葡萄を絞っている。子供が親にだっこされてレバーを頑張ってひねっているが、なかなか回っていない。

 

「葡萄のシーズンだからねぇ。シャインマスカットって知ってる? 高いけど、すっごくおいしいんだよ」

「あのウン千円するやつか………」

「えへんえへん! ここは僕がおごって差し上げましょう。キャンプ場行くどっかの露店で売ってるでしょ」

「それはありがたいなぁ。奢られておきたいところ」

 

 シャインマスカット。食べたのは遠い昔のことで、味が全く思い出せなかった。奢ってくれるならありがたく頂いておこうと思った。何せ稼ぎは飛鳥の方が上だからである。こんなナリしてそこそこのポジションにいるらしい。外見はともかく頭脳は変わっていないはずなので、復職すれば十分働けるのだろう。

 

「手、つなごっか」

「うす」

 

 自然な流れで手をつないで公園を散策する。家族連れもいればカップルもいる。少し遠くに目をやれば、葡萄の木があり、紙の服を着たたわわになっているであろう実が見える。

 そのまま二人は自分たち用の土産としてワインを購入したのだった。

 

「おいしいねぇ」

「そうすね」

 

 お昼時。二人が選んだのはほうとうだった。やはり、甲府まで来たらほうとうの一つでも食べなければということで、フルーツ公園から下った先にある店に入って昼食を摂ろうということになった。

 大根、人参、きのこ、などの野菜がよく煮込まれたお味噌のスープ。一反木綿のような独特な形状の麺がよくスープに絡んで、味噌の甘さと相成って、非常に美味であった。

 

「時間も押してきたし、どっかのスーパーで買い物でもして、キャンプ場いこっか」

「……うわ、もうそんな時間なんだ。って食べるの早!」

 

 あっという間にほうとうを“飲み干して”しまう飛鳥。彩人も大急ぎでほうとうを食べると、会計をしてバイクに跨った。到着に一時間、買い物の時間も含めればあまり猶予がない。

 道中で、露店があったので止まる。シャインマスカットや巨峰や桃がお手頃価格で売っていた。

 

「おねえさーん! シャインマスカットのこのパックおくんなましー!」

「どんな方言なんだよ、それ」

 

 二房入って価格驚異の三千円。さすがは本場は安い。蟹が北海道では安いのと同じ理由であろうか。

 おばちゃん(おねえさん)は微笑みながら会計をしてくれた。

 

「はい、彼女さん」

「えへへ。ありがとうございます」

 

 やはり外からは“そう”見えるらしい。

 そう見られることがうれしいのか飛鳥のテンションは高い。お釣りを受け取りながら顔を赤くしている。振り返ったその顔の嬉しそうなことと言ったら、彩人の方が思わずにやけそうになり口元を覆ってしまうほどである。

 

 その後はスーパーに向かって、酒や肉などを購入した。キャンプ場にも当然売店はあるのだが、大抵の場合割高か品ぞろえは最低限であることが多い。事前に買っていくのが吉であろう。

 こういう時はアドベンチャーバイクは素晴らしい積載性能を発揮してくれる。荷物を括り付けた二人は、キャンプ場に急いだ。

 甲府盆地から南下。山の中を突っ切るコースだ。いくつかのトンネルに飛び込んで、風景が開けてきた。湖だ。

 彩人はここで早とちりを犯す。

 

本栖湖(もとすこ)!」

「甘いなァ彩人よ。これは精進湖(しょうじこ)でーす。精進(しょうじん)が足りませんなぁ」

「腹立つなー」

「えへへ」

「褒めてねぇよ!」

 

 本栖湖ならぬ精進湖をかすめるようにして、進路を西に転進する。

 すると今度は富士山が見える高台に出た。

 

「富士山があるけどぉ……どう思う?」

「曇っててなんもみえねー!」

 

 彩人はお決まりのセリフをインカムに語るのであった。富士山は頭に雲の帽子をかぶっており、先端がよく見えない。ほかの空は晴れているのにピンポイントに富士山だけよく見えないのである。

 さらに進んでいくと駐車場が見えてきた。二人は車用のスペースに二台並べて止めると、受付へと進んだのであった。

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