ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
キャンプ場は近年のキャンプブームのためか、とても賑わっていた。いい場所はたいてい取られてしまっているので、あっちこっちにウロウロしたあげくに、砂浜から一段あがった位置にある木の陰に落ち着いた。
「「ここをキャンプ地とする!!」」
キャンパーなら一度は言ってみたい台詞を二人で同時に叫んで設営開始。設営終了までは三十分とかからない。一つのテント、タープ、くらいしかないからだ。三人用テントなので確かに大きいが、二人で協力すればあっという間である。
時刻は既に十六時過ぎ。日没は十八時くらい。日が落ちてきて、気温も下がってきている。
二人はテキパキと設営を終えると、水を汲みに行った。ボトル数本分を水洗い場で確保。砂浜沿いに設営しようとした結果、水場が遠くなってしまったのが難点だが、水場が近すぎると今度はひっきりなしに人がやってきて雰囲気が台無しということもある。二律背反である。
「調理しますかー」
「マ、調理と言っても煮るだけなんですがね! なんてったっておじさん料理ができませんのでぇ」
えへんとなぜか偉そうに胸を張ってみせる飛鳥に、バーナーを組み立てて水を注いでいた彩人がため息を吐いた。
あの壮絶な部屋を見せられれば大まか想像がつくというものであるが。仕事はできる、性格もいい、バイクは相当速いし音楽もできるが、神はそれ以上の才能を与えなかったらしい。掃除はできず、料理はできずらしいのだ。
「へぇ、バイクも音楽もやってる癖に家事はできないと」
「洗濯は、できまぁす!」
「シャツ畳めるようになってから言えよ………」
意外な(?)弱点が露呈しつつも、鍋の準備に取り掛かる。と言ってもすき焼きなのでそう準備に時間はかからない。具材は既に準備済みのパックを買ってきたし、タレもある。肉はブチ込んで煮るだけだ。
ご飯担当の彩人は、鍋に具材をぶち込んでいく様をみてハラハラしていた。ひっくり返したりはしないだろうかと。幸いなことに鍋に入れて煮るだけならおじさんにでもできるらしく、具材を手際よく配置していくので安心した。
飛鳥は得意げだった。
「僕はねぇ、料理はできないけどスープは得意でねぇ、スープのプロなんだよ」
「どうせ野菜とか適当に買ってきて肉とか入れてコンソメで煮込んだ
「なぜそれを!?」
「キッチンにアホみたいにコンソメばっか冷凍庫に冷凍野菜ばっかあれば嫌でも気が付くわ!」
茨城名物(エビデンスはない)限界中年汁で野菜を摂取する生活も今は昔のこと。今は比較的料理の出来る彩人が担当しているので、コンソメスープの素の消費量は劇的に減少しているとか。
「んでご飯はもうツッコムのやめていいすか」
恒例行事と化したパックご飯を茹でる
「ツッコムのはやめないで欲しいなぁ♡」
「この場所じゃ無理だと思いますけどねぇ。人が多すぎでしょ」
「それな。分別のないキャンパーでもないしセックスおっぱじめるには距離がね」
「大きな声で言わないで貰いますかね」
話し声はともかく、コトに及べば流石に気が付かれるであろう間隔しかない。
かわいい顔して直球で内容を述べて見せると流石に焦る。口の悪さというべきか、元おじさん特有のずさんさにはひやりとさせられる。
「ろまんちっくな場所でしようねぇ」
「そ、そうすね」
「ほかの場所ならいいって遠回しに言ってくれる君が好きだよ」
「するならね、するなら」
「したくない?」
「したい」
などと雑談しつつ“調理”完了。シイタケやら人参やら白菜やらネギやらを甘辛い汁で煮込んだ料理、すき焼きのできあがりである。仕上げに肉を入れるだけでできあがる。
「やっぱ肉は最後だよねぇ~♪」
「すぐ煮えちゃうからなぁ」
最初の方に肉を入れると当然あっという間に煮えてしまうので、大まか野菜が煮えてから肉を入れる方が良い。今回もそのセオリーに従った。
「あちあち」
「あんがとさん」
飯盒からご飯を取り出してテーブルに置く。ビニールを剥くだけで、あとは食べるだけだ。
「いただきます」
「いっただきまーす」
合掌。二人は肉を投下すると、次々に口の中に放り込み、ご飯をかっ食らった。
「へっへっへ、お代官様銀色のやつもございまさァ……」
「時代劇か?」
キャンプと言えば酒という人も多いはずである。
二人は銀色のやつ(500ml)のタブを開けると、どちらがともなく乾杯をして、ごくごくと音と立てて中身を胃袋に送った。
女は顔をしかめ濁点の多い息を漏らし、男はうむと頷くだけだ。
「か゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ! 効きますなぁ」
「おじさん臭いぞ」
「おじさんなのでえ、あ、今はオトメですけどネ」
仕草は完全に中年のそれなのだが、外見や声は女のそれだ。最も仕草も完全に女の時もあると言えばあるのだが。
酒を飲んで、鍋を突いて。話は弾んだ。最初は仕事の愚痴から始まってしまうのが社会人の悲しい
鍋を食べ終わると、片付けの時間である。生ごみは持ち帰る。ほかは水洗い場で処理をして、あとは焚火を囲んでゆっくりに談笑する時間だ。
「歌でも歌いたいねぇ」
「距離がね」
「そう、近いんだよなぁ。人気なキャンプ場の弱点はそこだよねぇ」
「他ンとこなら歌ってもいいよって言うところだけどご近所迷惑だからなぁ」
二人はチェアを並べて座ると、手を繋いでいた。時折焚火の面倒を見つつ。火の粉が乾いた音を上げて昇っていく。
「おほー富士山晴れてる。ついてるねぇ」
「月明かりがこんなに明るいとはなあ」
富士山に目をやってみると、雲がいつの間にか消えていて、月明かりを受けて銀色に光っているのが見えた。お札の柄にも使われる見事な形状と巨体には、畏敬の念を覚えざるを得ない。過去多くの画家や写真家が魅了されるだけのことはある。
雑談のネタが少なくなると、酒を飲むだけの時間が増えてくる。ところが酒もなくなると、見つめ合う時間が増えてくる。
なんと可愛いのだろう、なんてかっこいいんだろう。
自然と距離が詰まって、ちゅ、とリップノイズを立てて軽くキスをする。
「寝ましょっか」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみ」
こうして夜は更けていく。
ごそごそ………。
朝は物音で目を覚ました。ばっちりと目が合った。寝袋なのに。
朝である。トラブルあれど無事夜を明かすことができた。
チェックアウトまでの時間で食べるものと言えばアレである。
「カレー麺♪ カレー麺♪ いっただきまーす♪」
かなり自然な声真似をしつつカップ麺にお湯を注ぎ、体を揺らし始める飛鳥。ちなみに彩人とマスツーに出る前はソロキャンおじさんだったらしいので、キャラ的にはリンちゃんの方が近かったりする。
「声真似やめろ。っていうか声真似うまいよなほんと」
「いんやーおじさん時代にやっても酒焼けしてるだけの裏声にしかならんかったけど女性の声帯ってやわらかいねェ。アニメ見て練習してみたら結構うまくいった」
「そういうもんなのかね。じゃ、いただきますと」
手を合わせてずるずると食べる。
それから道具類の撤収にかかる。連泊ならここで結露した水を乾かすところだが、今日は帰るだけなので手早くまとめてしまう。あとは家で帰って庭にでも干しておけばよい。
「いきましょっか。帰るコースはっと」
「北上して大月、八王子、中央道から首都高のコースかねぇ。いこっか」
二台のアドベンチャーは並んでキャンプ場を後にすると、徐々に速度をあげながら高速道路へと滑り込んでいき、仲良く帰宅したのだった。
Q.なにをしたんだよ
A.仲良くガリガリ君でも食べたんでしょ。