ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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おうちデートならぬ同棲です


《おうち》

 

 彼女が欲しいとは思っていた。まだ早い。まだ早いなどと思ってうつつを抜かしている間にももう二十を過ぎてしまった。一番もてたのは高校生の頃で、大学生になってはゼロに等しく、ついに就職してからは虚無化していた。

 そしてようやくできた彼女がもともと彼で、しかも遊び仲間というのが奇想天外過ぎた。

 彩人は、自分の稼ぎでは到底住むことができないであろう3LDKで目を覚ました。

 今日は休日だ。のんびりできる。それなりにだが。

 相方は、頑張ってはいるものの家事能力が、洗濯はできても畳めず彩人一言目の感想が“泥棒にでも遭った?”、食事はスープがメインでパンを焼くかご飯炊くだけ+ふりかけか生卵、あるいは冷食で、掃除はそもそも年に数度しかしていないくらいの無能力者である。

 

「やらないわけじゃないんだろうけどなぁ」

 

 家事を分担するのは大切なことだ。最近は張り切っているのかゴミ出しと掃除は頑張っているが、他のことをやらせるとそれはもう酷いので、彩人は自分がやる方が効率的だと思っている。

 

「これじゃ主夫だぞ」

 

 などとぼやきながら朝食を作り始める。前日に準備していたご飯に、お手軽簡単で栄養のある卵焼きにサラダをつけてみそ汁を付ければ完璧な食事の出来上がりである。手の込んだ料理は夜に取っておくべきだ。

 

「寝顔が綺麗ならいいんだがなぁ」

 

 なんだかぼやいてばかりじゃないかとベッドに戻ってみると、大股開きで布団を抱きしめる恰好の飛鳥がいる。髪の毛はボッサボサだし、口は開いてるし、ヨダレ垂れてるし、というかパジャマの胸元開いてるしで女っ気の欠片もない。毎度のこと寝相が酷いので夜中に蹴っ飛ばされることが度々あるのがキズである。

 

「起きろー朝だぞー」

「………」

「起きろ」

「…………」

 

 ぴくりとも言わないが呼吸が乱れているのですぐわかる。というより一瞬目が半開きになったのでこれはもう狸寝入り決定である。

 

「引きずっていくか」

「ロマンチックにおなしゃーす」

 

 目をぎゅっと瞑った飛鳥がそんなことを言い始めるので、彩人はその両足を掴んだ。

 

「ロマンチックに引きずっていくか」

「あー! あああああ!!! お姫様抱っこがいいのぉぉぉ!」

 

 両足を掴んで持ち上げて、後ろ歩きしながらリビングまで引っ張っていく。叫び声を上げられても無視して引っ張ると、やがて抵抗を諦めたのかされるがままとなった。

 

「寝起きくらい静かにできないんですかね」

「寝起きでジャンプは基本でしょ」

「…………………そのネタはギリギリ世代過ぎて思い出すのに時間がいると思うんだけど」

 

 ネタのチョイスがいちいち古いのはもはや仕方があるまい。

 今回はともかく、彩人が生まれてすらない頃のネタを振られるともはやツッコミどころの騒ぎではなくなってくるのもご愛敬である。

 ピンクの髪の毛に、ほっそりとした肢体。魅惑的な胸元。むっちりと出たお尻。こんな精々が大学生くらいな外見をして事実元おじさんというのが奇妙な現実である。

 

「いただきます」

「いただきます」

 

 手を合わせて食事を頂く。

 

「ふむふむ」

「新聞そんなに面白いかなぁ」

「世間の情報を紙で入手するのは大切だぞー。古き良き媒体はバカにならないとおじさんは思うのでぇ」

 

 新聞を読みつつご飯をむしゃむしゃするその様子、読みやすいように新聞を折りたたんでいるところも、電車で通勤している姿が透けて見えるようだった。

 スマホでいいじゃん派の彼にはイマイチ理解ができないところだ。新聞の良さがわからないのだ。なので本派の飛鳥と電子書籍派の彩人と正反対であったりする。そのくせほかの趣味であるアウトドアは一致するのが不思議なところだ。

 

 朝食が終われば、朝の掃除だ。これは飛鳥の担当なので任せるとして、皿を食洗器に突っ込んで洗濯機を回してその間にのんびりコーヒーを楽しむ。

 

「おーわり。さて、次のツーリングなんだけどさぁ」

「コーヒー淹れたよ」

 

 掃除を終えた飛鳥がリビングにやってきた。彩人は準備済みのコーヒーを勧めた。

 

「さんきゅー。それでさあ、どこがいい?」

「うーむ」

 

 私用のパソコンを起動した彩人は、マップを開いて唸り声を上げた。次の休み、泊まるなら一泊、余裕持って行き帰りできるところと言えば……。

 

「道の駅どうし………」

「オ、いいですなぁ、峠も行ったけどどうしも昔よく走ったなぁ。最近行ってないしいいね」

「ちなみに何kmくらいで?」

「聞かない方がいいよ」

 

 道の駅どうし。道志村にある道の駅であり、相模湖と山中湖を結ぶ道の丁度中央にあることから訪れる人が多く、ライダーの聖地であり、休日になるとバイク全盛期だった数十年前とは比べるまでもないとはいえ、大勢のバイクが集結する場所である。

 

「それでー………近くのこのキャンプ場でいいんじゃね」

「あぁ、ここ。来た事あるよ。安くていいよね、僕は賛成かな」

「決定ね」

 

 彩人は道の駅どうしから近いキャンプ場を検索すると、隣に座る飛鳥に見せた。飛鳥はうんうんと頷いた。サクサクと話が纏まった。この辺りは非常に気が合っている。

 次は、纏まっていないものを纏める番だ。

 彩人は櫛を持ってくると、ソファに座って、前をぽんぽんと叩いて誘った。平日はともかく、休日はこうして髪の毛を梳いてあげているのだ。介護などと言うなかれ。

 

「髪の毛は女の命、つまり命を握られているッッ」

「えぇ………バカ言ってないでやんなら座ってくれませんかね。髪梳かすからさ」

「アフン♡」

「喘ぐ要素ある?」

 

 座った彼女の髪の毛を指で流すと、妙に演技掛かった声で喘ぎ始める。ぽこんと軽く頭を叩くふりをすると、髪の毛をゆっくりと梳いていく。

 最近は女ものシャンプーとコンディショナーを使っているらしく、最初と比べると指どおりが良い。梳いて梳いて、梳いて梳いて。跳ねがなくなり、ストレートヘアになっていく。

 

「髪の毛さあ、短いほうがすきかーい?」

「長いほうがいい」

「サーイエスサー! このままでいくであります」

「ノリが、ノリが俺にはわかんないよ……」

 

 ハイテンション過ぎてついていけなくなる時もたまにある。

 

「そういえば」

「うん」

「本気で走ってるのって見たことないなって」

「ああ」

 

 飛鳥の声が若干低くなった。

 

「見たいなら見せてあげてもいいよ。ビデオですけどね!」

「ビデオかー………」

 

 ちなみにこの部屋には現代っ子にはわからない神器であるビデオデッキがある。もちろんビデオもある。そもそもビデオってなんですか? という質問をする少し前の世代である彩人には意味が分かった。

 

「昔は飛ばしたもんだよ。ツーストロークの怪物に乗ってさぁ。改造もしたし警官もぶっちぎって峠道で膝パット何枚も使い倒したっけ。いい時代だったって言いたいけど、大勢死んだし君は真似しちゃだめよ」

 

 飛鳥は追憶しているのか目を瞑り、人差し指を立ててどこか得意げにしかし、最後は自嘲気味に語る。

 彩人は首を振った。命知らずにはなれない。

 

「しないぞ」

「賢明な判断だネ。ということで視聴してみましょっか。僕の若い頃というかー男だった昔の青年期でも」

 

 ビデオに登場した若い頃を見て、彩人はこう思ったとか。

 今の容姿に非常に似ている、優男風貌だなと。

 加齢って怖い。

 

「あ、やべ上書きしちゃってるし」

「変なビデオ見せないでくれないですかねぇ……」

 

 真昼間から知らぬ女体を見せられた彩人はげんなりとしたのだった。

 

 

 

 

 

「ちなみにこっちのビデオは僕のおすすめです」

「見ないよ!!」




次回、道の駅どうし
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