ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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ライム先輩のコスプレイヤーはガチでいてみたこともあります


《どうしみち》

 

 国道413号線『道志みち』。相模原市と山中湖村を結ぶ国道であり、走りやすいワインディングで知られるライダーのメッカと言うべき道である。

 彩人と飛鳥は一緒にマンションを出ると、バイクに跨って比較的遅い時間に出発した。目的地になるキャンプ場は高速道路を使えば、二時間もかからないからだ。そうではないツーリングの時は早朝に家を出るのが普通である。バイクという乗り物は事故率が高い。夜間の事故率は飛躍的に上昇する。夕方には走るのをやめるのが賢明であるならば、逆算して出発は早朝になってしかるべきだ。

 

「最近は涼しいねぇ。あんなに暑かったのが嘘みたいだぁ」

「そうすね。今年はあっさりと秋になりましたね。助かるけど」

「食欲の秋だねぇ」

「欲は欲でも違う欲が最近出過ぎてないですかねぇ」

「欲に貪欲な生き物なんですよ、おじさんは」

「えばることかよ……」

 

 最高気温23℃。平地の高速道路ではごく普通であるが、道志みちのような山間部に入ると気温がぐっとさがる。冬用のジャケットを着てきた二人にとっては心地よい涼風に過ぎないのだが。

 空は秋晴れ。今度こそ、ゲリラ豪雨はない。はずだ。念のため雨具を持ってきたので隙はないが。

 

「ああー懐かしいなぁ。ネズミ捕りの警官(おまわり)をぶっちぎったのここだったよ」

「昔はワルだったんですねぇ、今じゃ信じられないけど。速度きっちり守ってるし」

「今は色々と守るものがあるしねぇ。ちなみに知ってる? 上、ヘリ飛んでるの見える?」

「……どれ? あれ?」

 

 二人が見上げる先、比較的低空をヘリがホバリングしているのが見えた。よくは見えないが県警の文字が書かれている……気がする。

 飛鳥はスピードをスロットルで抜いて調整しつつ言った。

 

「あれね、たぶんだけど道志みちを見てるんだよねぇ。地上と連携してスピード違反とか追い越し違反者をとっ捕まえるために」

「ひぇぇ……」

 

 改めて、安全運転をしようと思った彩人であった。

 道志川を渡り、春を待つ桜の木をかすめてさらに進んでいくと、次々とキャンプ場の看板が現れる。まるで駅前のラーメン激戦区のようだ。人通りがあり、自然が豊かなこの道沿いは、キャンプ場には打って付けなのであろう。

 

「キャンプ場多いっすね」

「選り取り見取りだねぇ。次来るなら違うトコとまろーね」

「それはもちろん」

 

 一時間ほど走ったころであろうか、右にたい焼き屋、左側に道の駅が見えてきた。ウィンカーを出し、減速しつつ左折して駐車場に滑り込んでいく。

 原付がいる。スーパースポーツがいる。ネイキッドがいる。スクーターもいる。もちろん、二人が乗っているアドベンチャータイプがいる。日本製もあれば、海外製もある。あらゆるバイクが停車しており、ライダー達が会話に花を咲かせている。

 二人は並んで駐車した。アドベンチャーはガタイが大きく目立ちがちなのだが、アフリカツインやらドゥカティやらが停車している坩堝にあると、目立つどころか馴染んでいるくらいである。

 今日は運がよく(?)、変わったバイクが停車していた。巨大なクチバシを持つ異形のバイクである。

 気が付いた飛鳥が彩人の肩を叩いて指さす。

 

「うわ! 見てあれ! ファラオの怪鳥がおるやん。ツーストより珍しいかも」

「ふぁ……?」

「ビッグオフロードやね。“800cc級のシングル(ケツが痛くなる)”で、君のバイクの元祖というかご先祖様になるのかな」

「新型の方にだいぶ似てるなぁ………てかそんだけ排気量あるのにシングルってやばくない? 色々性能を犠牲にしてそう。燃費とか」

「トルキーでピーキーで面白そうだよねぇ、長距離は察するけど」

 

 彩人は平均的日本人の外見をしているのでともかく、ピンクの髪の毛に青い瞳の外見はよく目立つ。ジロジロとみられるかと思ったのだが、それ以上に目立つ存在が入ってきた。

 シンプソンのヘルメット。大きな赤いリボン。セーラー服。膝プロテクター。乗っているバイクはカワサキのライムグリーン色のメガスポーツ。運転手は体型からして女性。そう、あの漫画のキャラクターのコスプレイヤーである。その証拠に隣にもじゃもじゃ髪の毛のセーラー服の女の子がくっついている。

 あの漫画。急にタイムスリップしたり急にバイクの神様が出てきたりするアレである。キリンさんは泣かないのであるし、カタナは最高なのである(要出典)。

 

「「ライム先輩じゃん」」

 

「あの漫画好きだわ」

「俺も好き」

「セーラー服、そそるかい?」

「………いや別に」

 

 目を逸らす彩人に飛鳥がにやっといやらしく笑った。

 

「動揺したでしょ」

「してないよ!」

 

 セーラー服を着た飛鳥。それもいいかもしれないな、などと脳内で妄想を繰り広げていたところで急に指摘され、心臓が跳ねた。声が上ずってしまったのを後悔する。

 飛鳥は、今度通販で買っておこうと心の中で決心をしたとか、していないとか。

 

 と、話している間にも、コスプレイヤーが入ってきてさっそく撮影会が始まってしまった。これで心置きなく観光ができる。

 まあそれでも、

 

「なでしこのコスプレですか!?」

 

 と声をかけられることもあったりしたが。

 

「そうなんですよー彼が似合うからやってみとか言ってきてぇ」

「おい!」

 

 とコスプレ大好き男としてギャラリー(?)に認識される一場面があったとかなかったとか。

 その辺を手を繋いでぶらぶらして、山菜ラーメンの昼食を摂り、アイスを食べて、ご飯やお菓子を売店で調達する。

 

「行きますかぁ、って言ってもそんなに離れてないんだけどね」

「そうすね。十分あれば着くんじゃないですかね」

 

 道の駅を出てすぐ左折。道中の薪の無人販売所で薪を購入してさらに進んでいくと、キャンプ場が見えてきた。

 

「ここ来たのが昔過ぎてルールがよくわかんないんだよねぇ」

「えーっと、人がいるときといない時で少しだけ料金が違うみたいすね。グーグルマップの評判だと、……電波の入りが場所によって違うとか」

「この辺はいいんだ。管理棟に行ってみようか。料金を払わなきゃ」

「営業してない時は、巡回時に払ってくださいだって。そっちの方がちょっと高いみたいだ」

 

 二人は管理棟を目指した。管理棟近くにバイクを止めて中をうかがってみたが、営業している様子がなく、料金は若干高めの方になることが確定した。もっとも誤差みたいな料金差であるが。

 管理棟傍には川が流れており、つり橋がかかっているのが実に雰囲気がよい。

 スマホを見ていた飛鳥が言った。

 

「この辺wifiあるんね、じゃ、この辺でよくないかい?」

「そうすねぇ、この辺に設営しましょっか」

 

「「ここをキャンプ地とする!」」

 

 恒例行事と化したキャンプ地宣言。これで二人がカブ乗りであれば完璧だったが、あいにくのアドベンチャーである。

 

 丁度木の陰に二人はキャンプを設営し始めた。まずは柔らかくて、障害物がなく、平地の、ペグの刺さる場所を探す。グランドシートを張り、ペグを刺して固定する。次にテントを張る。骨格をテントに差し込み、立ち上げて四隅を固定する。あとはフライシートを被せる。次にタープを張る。

 

「ひょいひょっと」

「相変わらずうまいなぁ」

「経験が違いますよぉ、経験がねぇ」

 

 するするとタープを設営する飛鳥を見て、彩人は感嘆の声を漏らす。ロープワークの巧みなことと言ったらない。手伝う間もなくやってしまうので、荷物を開けて空気式マットを膨らませ、寝袋を広げて敷いたりしておく。

 三十分足らずで完成。一泊する宿のできあがりである。

 

「コーヒー淹れたよ」

「ありがとー」

 

 コーヒー担当と化した彩人がコーヒーの入ったマグカップを差し出す。二人はチェアに腰かけると、暫しまったりとした時間を過ごしたのだった。

 そして、一息つくと、さっそく焚火の準備に取り掛かったのであった。

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