ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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これも実在するキャンプ場です


《どうしみち》2

 川のせせらぎを聞きながら、新鮮な空気を吸う。

 

 焚火を囲んで語らう時間は、キャンプをしてよかったと感じさせる瞬間であろう。焚火は、一般的な例えば公園では禁則に指定されている場合も多く、家でやろうとすると煙やにおい最悪の場合警察に通報される趣味であり、キャンプ場はその例外的な場所なのだ。

 キャンプというものは、はっきり言ってめんどくさい趣味である。極論から言えば紙とエンピツがあれば始められる絵や文と違い最低限でもテント、寝袋を買わなければならないし、キャンプ場にいかなければならない、食事も自分で用意しないといけない、設営撤収までセルフサービスである。さらにそれが夏ではなく冬となると道具をケチると凍死しかねない。某漫画でも凍死しかけていたが、現実でも凍死するキャンパーが稀に報告されるので笑い話ではないのだ。

 グランピングというキャンプのようでキャンプではない遊びもあるが、それは例外である。

 つまるところ“不足を楽しむ”。これに尽きる。老子曰く足りるを知るというが、キャンプとは最低限の道具でも足りているのだと知ることと言えるのではなかろうか。

 

「よしついた」

 

 彩人が焚火をするときは着火剤を使ったいわゆる文化焚き付けであるが、一方の飛鳥の場合はファイアスターターである。

 焚火の火を安定させるには、焚火全体の温度を上げる必要がある。温度が十分に高ければ、火がところどころ青く見えるようになり、薪を入れるだけで勝手に燃え始めるようになる。簡単なように思えるが、安定させるにはコツがいる。

 

「ふー、ふー、ふー」

 

 火吹き棒を使って空気を送り込みつつ、トングを使って細かい枝を投じていく。最初は小さい枝や葉っぱから、徐々に大きい枝、薪に移行していく。火を育てていく感覚であろうか。

 

「うまくなってきたねぇ、僕感心しちゃったよ」

「ん。ベテラン級とは言わないけどうまくなってきたでしょ」

「まだまだじゃのうホッホッホ」

「どんなキャラなんだよ……」

 

 火を大きくする作業をコーヒー片手に見物していた飛鳥が髭を擦るジェスチャを交え感想を述べた。この道何十年とキャンプをしているベテランから見れば、数年しか経験のない彩人の仕草はたどたどしいものに見えていることであろう。

 

「ふう。こんなもんかね」

「いいねぇ………」

 

 時刻は既に夕方前。夕飯には早いが、昼飯には遅すぎる時間帯である。秋ということもあり、日没はあっという間にやってくる。光陰矢の如し。

 逆に言えば焚火が“映える”時間が早くやってくるということだ。焚火は素人がスマホのカメラで撮影しても美しく撮れる被写体であり、その絵面のよさから、SNSを中心にキャンプと言えば焚火のイメージができあがっている。

 飛鳥が椅子のひじ掛けを触りながら言った。

 

「こういう椅子ってさあ」

「うん」

「一緒に座れないよねぇ」

「そりゃあ………というか一緒に座ったら折れるんじゃないの」

「おじさんの体重は30kgです」

「かける2だろ」

「違います」

「ほんとかよ、絶対嘘だぞ」

「私の体重は53万です」

「特撮の怪獣か?」

 

 折り畳み式の椅子には重量制限が決められている。たいていの場合80kg~120kgであり、彩人と飛鳥が乗ればそれだけでオーバーしかねず、最悪足がへし折れて尻もちである。

 ようはくっつきたいのだ、飛鳥は。

 飛鳥はむふふと笑うと、椅子から腰をあげてすぐそばに横たわっている倒木に腰を下ろした。

 

「きてきて。一緒に座れるカナって思ってここにしたんだからさあ」

「なんでここかと思ったらそういうことかいな。いいっすよ」

 

 彩人も倒木に腰かける。

 すると飛鳥が凭れ掛かってきて、そのままごろんと上半身を腿の上に預けてきたではないか。膝敷布団とでも言おうか。

 飛鳥はむふーと鼻を鳴らして満足気だった。

 

「はーあったかいあったかい」

「膝枕つーかさあ。こういうのって男が女の子にされるんじゃないの」

「逆でもいーよ。してみるかい」

「ええよ」

 

 ということで逆転してみる。彩人の思い描く絵になった。飛鳥の柔らかい腿の上に、頭を置く。慈しみの表情で見下ろしてくるので、なんだか恥ずかしくなってしまい、けれど目線は逸らせない。

 飛鳥が髪の毛を耳元にやりながら顔を近寄せた。彩人も腰を浮かす。

 

「………」

「………」

 

 ちゅ、と唇を合わせて愛を確かめる。何も言わず急にお互いがそうしたくなったのか、動き始めるのは同時であった。

 

「ここさ」

「うん」

「今日人気(ひとけ)もないしさあ」

「夜ね」

「うひひ」

「だから笑い方ァ!」

 

 相変わらずテンションが上がると胸の控えめなマジシャンみたいな笑い方をするので思わず突っ込んでしまうのであったとか。

 

 時刻は夜。

 

「ずるずる」

「ずずず………ってキャンプ場まで来てカップ麺かよ」

「カレー麺♪ カレー麺♪」

「くっそ似てるから困る」

 

 そこには豪華なキャンプ飯を食べる二人の姿が!!!

 ……なかった。

 ド定番のポジションを確保したカレー麺を仲良く倒木に座って啜る二人の図があった。お湯を沸かして入れて三分待てばいつでもおいしいカレー麺が頂けるのはありがたいが、キャンプと言えばやれカレー(飯盒炊飯)やらパエリアやらステーキやらホットサンドやらが思いつくのに、ここであえてのカレー麺は何か釈然としないものを感じる彩人であった。

 

「ずずずず………ちなみに明日の朝はカレーメシです」

 

 飛鳥がビニール袋から取り出したそれを折りたたみ式テーブルに並べる。お湯を注いでカレーがすぐ頂ける商品で、こっちはCMでゆるキャン△とコラボしていたりする。

 

「いやCMやってたけどさあ……」

「結局これですわ」

「そっちは似てないのかよ」

「あ゛したからほんきだーす」

「似てねぇや……」

 

 飛鳥が声を変えて無理して志摩リンの真似をするものの、こっちは全然似てないのである。声帯模写にも限度があるらしい。しまいには無理が来てガサガサ声になる始末だった。

 他愛もないことを話していると、一台の軽トラックが入ってきた。あたりのテントを回ってはなにやら話をしている。

 二人は財布を取りだして小銭を数えた。

 

「あれが巡回すかね。料金、料金と」

「安いよねぇホント。ウン千円取るところもあるのに」

 

 二人は、やってきた軽トラックの運転手のお兄さんに料金を支払った。代わりに票を貰う。返却の必要はなく、処分して構わないとのことだった。バイクのハンドルに巻き付けておく。

 

 食事が終われば、酒の時間だ。

 焚火とランタンの明かりだけが頼りになる時間帯。森林の中で二人は乾杯をした。

 

「かんぱーい」

「乾杯!」

 

 何を飲んだのか。もちろん銀色のやつ500mlである。

 おつまみにジャーキーをかじりつつ、酒を進めて談笑をする。至福のひと時と言えよう。

 

 

 そして夜。

 キスから始まる夜は熱く、というやつだ。するりと絹擦れの音が漏れ出す。

 そうして、熱い夜は更けていく。

 

「おやすみ」

「おやすみ」

 

 お互いの体温を確かめ合った後は、寝袋に包まって眠るのみ。

 挨拶をして、二人は柔らかい眠りに落ちていった。

 

 

 翌日。早朝から撤収準備を開始した。タープを取り、テントを畳み、グランドシートを仕舞う。寝袋は空気を抜いて袋に入れた。マットも同様である。

 椅子と机は撤収せず、残してある。朝食を摂るためだ。

 二人はガスバーナーで淹れたコーヒーを楽しんでいた。

 

「目覚めのコーヒーは格別だねぇ」

「インスタントも悪くないっしょ」

「カレーメシはどうかなっと。かき混ぜてかき混ぜてっと」

 

 カレーメシをスプーンでかき混ぜた。混ぜ方が足りないとルーがうまく作用せずスープカレーみたいになってしまうこともあるので要注意である。空腹に染み入るカレーの味。はふはふ言いながらスプーンですくっては口に入れて、あっという間に完食してしまう。

 朝のコーヒーを楽しんだ二人は、カレーメシを食べて、荷物を纏めてバイクに積んだ。

 

「おし、帰ろう」

「そうですな。帰りましょ」

 

 二台のアドベンチャーがここでようやく目を覚ます時がやってきた。エンジン起動。イグニッション。ライトに光が灯った。

 彩人はハンドルにマウントしたスマホを弄り経路を設定していた。

 

「せっかくなんで、大垂水峠(おおたるみとうげ)を抜けて高尾山インターから乗って帰りませんか?」

「せやね。同じコースじゃちと趣向に欠けるからねぇ」

 

 二台はギアを入れ、スロットルをひねって発進したのだった。




次回、おじさんの本気
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