ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
これも実在するお店です
「冬になるとあれが恋しくなるねぇ」
「アレ?」
二人はリビングに設置してあるこたつでまったりとしていた。
ちなみに、リビングの壁にはウィリーでゴールする飛鳥のツナギ姿の写真が飾られている。あの後大食いの飛鳥はさんざん高い肉を食いまくったとか。彩人もそのおこぼれに預かったりした。
季節は冬。
大半のライダーが寒い、雪が降るなどの理由でバイクを冬眠させる時期であるが、バイクバカの二人にとってはそんなことは些事に過ぎなかった。電熱グローブやジャケットなどを駆使すれば、冬であろうがホカホカのままである。初期投資がかかるのは諦めるしかないのだが。
「鍋!」
「鍋? 水炊きでもするなら準備しますけど」
「んっんー甘い甘いワトソン君」
「ホームズか?」
「冬ともなればやっぱりアレしかないっしょ! あんこう鍋!」
「取り寄せるとか?」
彩人はみかんをむしゃむしゃしながら問いかけた。あんこう鍋。食べたことがなかったが取り寄せられるのだろうか?
暖かそうなセーターを着込んだ飛鳥はコーヒーを一口飲んでから口を開いた。
「ちっちっち。本場に行くしかないでしょう、ライダーなら。ねぇ~~♪ 彩人くーん大洗にいこ~?」
「猫撫で声やめろや。大洗って言うとあの茨城にある大洗? そんなに離れてないしいいか………大洗と言うとなんか聞いたことあるんだよな」
「戦車と女子高生のアニメの舞台やねぇ、聖地巡礼も兼ねていこうぜ」
ということになった。
当日。
常磐自動車道経由で都心の北側に出た二人は、三郷インターチェンジを通り越し、霞ケ浦掠める形で高速道路を走っていた。
「寒いねぇ」
「まあ電熱あるからだいぶマシっすけど」
大洗の最高気温十度。最低気温は氷点下にもなる。
こういうとき二人が着込むのが、作業服で有名な企業が出しているジャケットである。防風、防水、保温性が高いことで知られており、ライダー御用達となっている高機能な商品である。冬ということでダウンジャケットを着がちな人も多いだろうが、どちらかというと保温よりも防風を重視した方が良い。ダウンを一枚上に羽織るのならば、ウインドブレーカーを着た方がいい。
「やっと冬用の寝袋の出番が出て来て楽しみだなぁ」
「そうねぇ、焚火もいい感じの季節だね」
彩人はこの日の為に冬用の寝袋を新しく買っていた。今までのは化学繊維だったのを、ダウンにしてみたのだ。万札を何枚か投じることになったが、果たして性能はいかほどか。
高速道路を使えば、ゆっくり走っていても二時間あれば東京から到着する。二人が大洗についたのはそこそこ早い時間帯であった。
二人が走っていると、港に出た。白い船体が停泊していて、無数のトラックを飲み込んでいる。
「おほー、フェリーターミナルがあるねぇ。知ってる? ここから北海道に行けるんだよ」
「知ってる。北海道行きたいけど休みがね……」
絶賛休職中の飛鳥ならともかく、仕事のある彩人にとって北海道は遠すぎる土地だ。まず上陸に時間がかかるし、広大な土地故に回ることを考えると最低でも十日間は欲しい。十日間の休みはなかなかとれるものではない。年末年始などを除けばだが。
ヒューンとエンジンの回転数を絞りながら飛鳥がぼそっと言った。
「仕事、辞めてみる?」
「冗談きついぜ」
「ええー……でもさぁ僕の稼ぎなら君養えるんだけど」
「………考えておくよ」
(さりげなくプロポーズされたんですが……?)
違和感なさすぎて突っ込めなかった。
考えるのをやめた彩人は先頭を行くアドベンチャーに合わせスロットルを緩めたのであった。
「ここがあの女のハウスね〜♪」
「ちょっとオペラ風にするのをやめろ。そのネタ、元ネタがわからんのですけど」
やってきたのは戦車と女子高生のアニメで登場した大洗マリンタワーである。変わった形をしたガラス張りのタワーなので遠くから見てすぐにわかる。
二人はマリンタワーの駐車場に舵を切りつつインカムで他愛もないことを語り合う。
「マリンタワー来たねぇ、いいねぇ、いい感じに原作が思い起こされるねぇ。ちなみに僕は家元推しでした」
「ええ……年齢的に近いから? ガルパンおじさんか?」
「女になったいまだと常夫さん推しです」
「顔すらでてないのにマニアックすぎる。というかいまだに出てきてないし家元落とす男とか背景が知りた過ぎる。……俺は……ミカかなあ……」
「ぽろろん♪ 人は失敗する生き物だからね。大切なのは、そこから何かを学ぶってことさ」
「全然似てねぇ……似るキャラと似ないキャラの差がよくわからん」
二人はカフェで時間を潰すことにした。
「しかし」
コーヒーを嗜みつつ、ついこの前のことを思い出しながら彩人が言った。
「あんなにレースが速いとは思わなかったすわ。地元で鳴らしてたの本当だったんだなって……」
「いやぁ、本物のレーサーとは比べ物にならないよ。僕なんて何回も何回もこけて骨折とかしてようやくあの速さなんだぜ? この体になったおかげか随分動きやすかったけどねぇ」
飛鳥がひらりと両手を肩の高さまで上げて見せる。
彩人はコーヒーを飲み干すと、腕で頬を支える姿勢を取った。
「やっぱ違うもんなのかね、女の子の体ってのは」
「足元が良く見えない」
「そういうネタはいいです」
などと昼間まで時間を潰し、予約を入れておいたあんこう鍋を出している店へと向かった。
マリンタワーからさほど離れていない住宅地にあるその店は、マップなどでは評判がかなりよろしいらしかった。お値段は数千円かかるものの、その価値はあるらしい。
青い暖簾を潜る。
「予約入れてた多治見でーす」
店内で座席に座って待っていると、まずは刺身がやってきた。お醤油をつけていただく。お次に、お鍋がやってきた。えのき、はくさい、にんじんなどの野菜に、あん肝、身、お味噌。
彩人は中身を覗き込んだ。汁が見えない。後から入れるのだろうかと小首をかしげる。
「これ汁入ってないけど」
「ああ、水分出てくるから大丈夫ヨ。少し待てば食えるよ」
「顔拭くんかい」
「気持ちいいじゃん」
飛鳥がお手拭きで顔を拭きながら言った。
ここは経験者に従うべきだろう。
二人は調理完了まで暫し待機した。ぐつぐつと煮える音。蓋を開けてみれば、驚くほど水気が出ており、そこにお味噌を溶けば完成である。一人一つの鍋を頂く。
両手を合わせて、さっそく箸を取る。
「………もちもちしてる!」
「でしょ」
一口、身を頂く。もちもちとしたゼラチン質であり、お味噌のスープが良く合う。
はふはふ言いながら食い進める。もっちりした白身と、ほろりと溶けていくあん肝がベストマッチ。お味噌が良く合う。酒を飲みたいところだがバイクで来ている以上その選択肢はない。
ほぼほぼ同じ速度で食べ進めた二人。飛鳥が手を振った。
「お次は雑炊行きましょうねぇ。女将さん雑炊おねがいしまーす」
女将さんがやってきて、中身が食べつくされほぼ汁だけになった鍋を持って行くと、雑炊にして戻ってきた。
レンゲで掬って口にすると、あん肝と味噌の味が絡んだ、とろとろの雑炊のうまみが広がる。彩人は思わず目を閉じていた。
「んー濃密………」
「せやろ。これがまたおいしいんだ」
鍋一つ分、食いきれるだろうかと不安であった彩人だったが、ぺろりと平らげてしまった。
時刻はお昼過ぎ。夕方前。日没は早い。そろそろ急ぐべきであろう。
会計を済ました二人はバイクに跨ると、キャンプ場へと急いだのだった。
次の舞台は?
-
北海道
-
九州
-
東北
-
四国
-
おうち
-
なんでもいいからいちゃつかせるんだよ!