ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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《おおあらい》2

 

 

「海の大学? ってことは教育施設なんすかね」

「いんやー大学って名前がついてるだけで特別な施設ってわけじゃなくてレクリエーション……マリンスポーツなんかができる施設だネ。防風林の中にあるような感じでまだ発展途中みたいで面白いから予約してみたんだけど」

「そういうの好きっすね。この前の廃材置き場みたいなキャンプ場もそうだったけど」

「開発♡ 途中ってのがいいんだよねぇ。そそるじゃん」

「イントネーションを変えるのはやめろ」

 

 二人は防風林の中にあるような位置にあるキャンプ場について、受付を済ました。中まで乗り込んでいけるようなので、バイクで中に入っていくと、木材のチップを敷き詰めたふかふかの道から続くキャンプサイトがあった。地面は砂浜特有の柔らかい土で、マットもいらないくらいである。

 

「ああー逆に柔らかすぎて椅子が沈むかもしれないねぇ」

「確かに」

 

 などと会話をしながら、さっそく設営を開始する。その前に。

 

「これ重量級のバイクには危険な立地だねぇ。マ、僕のバイクは対策済みだけど君は石噛ましたほうがいいよ」

「柔らかすぎるのも問題だなぁ……」

 

 地面が柔らかいので、バイクのスタンドが夜間の間に埋まって転倒する危険性がある。飛鳥のバイクのようにサイドスタンドの面積を拡大するサポーターがついているならまだしも、彩人のバイクのスタンドは純正そのままだった。適当な石を拾ってきて地面との間に噛まして対策をする。

 

「グランドシート敷いてっと」

 

 まずは何はともあれグランドシートである。敷いて分かったが、砂が細かすぎてすぐに汚れる。これは帰ったら総洗いかもしれない。ペグは打ち込むまでもなく素手でズブズブと差し込めた。

 次にテント。これも慣れたものである。二人で取り掛かれば五分とかからない。最後にタープ。これは飛鳥の担当である。彩人は寝袋を広げ、テーブル類を用意して、カンテラも忘れない。

 最後にコーヒーを準備する。二人はカフェイン耐性が強いのか夜に飲んでも眠れなくなるということがないのだ。やはりここは一杯飲むべきであろう。

 

「はふー」

「やっぱこの一杯ですねぇ」

 

 折り畳み式の椅子に座ってコーヒーを堪能する。気温は十度を下回っていることであろう。冷えた体が癒されるのがわかる。

 飛鳥は椅子にもたれながら、足で椅子の下方を示した。

 

「やっぱり沈むねェ。なんてこともあろうかと僕の椅子は先っちょにこれつけてるんだけどね」

「なんすかそれ」

「これ? 登山の人が使うストックの先に差し替えてるのよ。安いし、買ってもいいかもね」

「なるほど………」

 

 やはりというか地面が柔らかすぎて椅子が沈む。ところが飛鳥の椅子はほとんど沈んでいない。よく見ると椅子の接地面にゴムのパーツが取り付けられており、面積が広がっている。経験者特有の振る舞いである。

 それから、焚火を起こす。今回は飛鳥がやることになった。綿とナイフでフェザースティックを作っている間に、彩人が受付で薪を買ってきた。

 

「よーしよーしいい子いい子」

 

 飛鳥が白い吐息を吹き付ける。火は一瞬静けさを増したが、次の瞬間には綿に、フェザースティックに、それと防風林で拾ってきた松ぼっくりに延焼していき、徐々に大きさを増していく。小枝を投じ、徐々に勢力を育てながら薪に燃え移らせていけば、焚火の完成である。

 そして鍋を焚火に直接かける。煤塗れになって真っ黒になるが、金属たわしで洗えば楽に落ちるので問題はない。それよりも、ガスバーナーで調理しようとすると時間がかかる方が遥かに問題である。

 

「できたよー」

 

 彩人はお湯を地面に捨てると、二人分のおでんをコッヘルに分配して、飛鳥に渡した。飛鳥はからしのチューブを握っていた。

 

「お、さんきゅ。からしをつけてっと」

「からし、いる?」

「いる」

 

 道中、買っておいたおでんを調理するもとい加熱する。おでんをキャンプで食べるならばなんやかんや湯煎が一番簡単である。

 

「乾杯!」

「乾杯!」

「………かぁぁぁぁぁ! 効くぅう!」

「この一杯、生きてるって感じしますねぇ」

 

 恒例行事と化した銀色のやつ500mlを乾杯してから飲む。焚火の明かりの下、おでんを突きながら談笑をするひと時のほっとすることと言ったら。

 食事がすんだあとは、食後のお茶を淹れる。コーヒーばかりでは飽きるので、今度は紅茶である。

 

「あたたまるねぇ」

「そうすね」

 

 ずずずと紅茶を飲みつつ、夜空を見上げる飛鳥。いつもなら談笑に花が咲くのだが、今夜は妙に静かだった。

 

「あ、流れ星」

「え? マジ?」

 

 急に飛鳥が空を指さしたので、彩人は立ち上がって流れ星を探そうとした。漆黒の闇の中、輝ける星の中に動いているものはなく、懸命に目を凝らして探そうとするのだが、どこにもない。

 

「んだよ嘘つく………な……」

 

 振り返ってみてみると、片膝立ちになった飛鳥が小さい箱を差し出してきているではないか。

 

「僕と結婚してください」

「……………………………えぇぇぇぇぇえええええええ!? ってほどでもないけどさぁ」

 

 そもそもプロポーズに近いことは今朝言われているのだ、驚くほどではなかったのだが、こちらが先に渡すつもりでいたのだ。指のサイズだってこっそり測っておいたというのに。

 彩人は頭をかくと、視線を逸らした。そういえば、思い出したことがあった。

 

「あれかぁ………なんかごそごそやってたよなぁ」

「そうだよ。指のサイズ測ろうとしたら起きるんだもんごまかすの大変だったんだから」

「先越されたなぁ………」

「もしかして作ってた?」

「いやサイズ測って発注しようかと思ってたところ。まだお金も払ってないぞ……」

「だぶっちゃうところだったねぇ」

 

 朝、目を覚ましたら急にキスされたことがあったが、あれはどうやら指のサイズを測ろうとしていたらしい。

 男が指輪を渡すのが一般的なプロポーズの形であるが、先を越されてしまった。

 

「………でさ、返事は?」

 

 顔を赤くした飛鳥が小首をかしげて問いかけてくるので、彩人は頷き、その手を取った。

 

「喜んで」

 

 飛鳥が喜びを隠しきれない様子で抱き着いてきた。よしよしと、そのピンク色の髪の毛を撫でてあげる。

 付き合いは長い。バイクを始めたころから計算すれば腐れ縁と言ってもいいくらいだ、お互いのことは知り尽くしている。体を重ね合っているのだ、今更ということもあった。

 

「ここは! ここは俺が指輪を嵌めさせたいところだけど!! 先を越されるなんてよぉ! 悔しいわ……」

「嵌めたい? ちなみにペアも持ってきてるよん」

「準備がいい! やらせてくれないかな」

「えーよ」

 

 飛鳥を抱いたまま、彩人が怨嗟の声を漏らす。主に己に対してである。

 すると飛鳥が女性用のリングの入った小さい箱を取り出してきたので、中身を開けてみる。シルバーのシンプルなエンゲージリングである。受け取って、飛鳥の細い指に嵌めてやる。

 

「僕もする!」

「お互い嵌め合うもんだっけ……名刺交換かな」

 

 飛鳥がしたいと強請るので、薬指に嵌めさせてやる。

 それから、どちらかともなく口づけをかわしたのだった。

 

 

 夜。

 

「今夜はさあ」

「まだその覚悟はちょっと……」

「実は僕もないんだ」

 

 キス。抱擁。テントが小さく揺れた。

 

 

 

 翌日。

 

「安全運転でかえろーね」

「そうすね」

 

 二台のバイクは仲良く並んで発進し、東京方面への高速道路に乗って家路についたのだった。




プロポーズはルール無用だろ

明日分我慢できず投稿したので連続更新は途切れちゃうかもしれません

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