ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
危なくて走れない
これも実在するスキー場です
スキー編あと北海道編の予定
それかおうち編
今年は豪雪であった。日本各地で雪が降っており、林道などでも走破できるように設計されたアドベンチャーでも、豪雪地帯を走るのは危険極まる。あるいは卓越した腕前を持つ飛鳥であればできるのかもしれないが、彩人には無理難題であった。
東京にも雪が降った。ということでしばらくバイクは封印されることになる。
二人は例の如くこたつでまったりしつつテレビを見ていた。みかんをむしゃむしゃと消費しつつ、雑談に花が咲く。
「私をスキーに連れて行って」
「急にどうした」
テレビを見ていた飛鳥がそんなことを言い始めた。ここは飛鳥の3LDKマンション。二人の巣である。
特定の年代なら反応するであろう言葉でも、世代の差なのか彩人は反応できず、言われてピンとこないのか首を傾げている。こういうよくわからない言葉を使ったときには何かしらのネタであるというのはわかるのだが。
一方スキーブーム直撃世代の飛鳥にこの言葉を言えばピンとくる。らしい。
飛鳥がごろんと寝転がると、隣に座る彩人を見上げて言う。
「バイクもしばらくお預けだし、ハニイムーンにいこうよぉー」
「ハネムーンね」
二人の指には銀色の指輪が光っている。結婚したことを証明する装身具としては最も一般的なものだ。曰く、結婚というのは始まりに過ぎないのだと。結婚はゴールではなくスタートで、これからは二人三脚で走って行かねばならないのであると。
ハネムーン。要するに新婚旅行であるが、頻繁にバイクに跨って日本中あちこち旅している二人からすれば、旅をするイコール新婚旅行には若干繋がりにくいところがあった。
彩人はコーヒーで唇を濡らすと問いかけをした。
「別にいいけど、なんでスキー?」
「特別感を出したいんだよねぇ。バイクで行ってもいいけどぉ、バイクっていつも乗ってるしここは新幹線に乗って行くというのはどうかなって」
「なるほど。俺はいいと思うよ。ちなみに海外旅行じゃない理由って言うのは」
「言葉が通じなくて不安だから」
「わかる」
ということになった。
日程を決めた二人は、三泊四日の度に出ることになる。バイクは、ガレージでお休みである。
「おじさんの行き慣れてるところにいこうよ」
ということで、新潟にあるスキー場にハネムーンに行くことになったのだった。
道中、新幹線が豪雪で止まったり、トラブルはあったが、なんとか到着することができた。白の壁に黒い梁と柱に赤い三角屋根が特徴のヨーロッパ風の宿は、家族連れからカップルあるいはソロスキーヤーまで多種多様な人でごった返しており、人種も様々だ。日本語ではない言語が飛び交っている。
モコモコのダウンジャケットを着込んだ飛鳥がコネクション館の受付へと行き、担当者に声をかける。
「二名で予約していた多治見と瀬戸でーす」
多治見。結局、どちらの名字にするのかという議論は決着をしていなかった。結婚する以上どちらかの名字にしなければならないのだが、コントさながらお互いが譲り合ってしまい、各方面に相談という形になっていた。よって事実上結婚しているようなものだが、書類は出せていない。
「んじゃ荷物置いて滑ろっか」
「そうすね」
鍵を受け取り説明を聞いた二人は、さっそく部屋に向かった。部屋はダブルベッドの部屋であったが、最初期のような動揺は全くなく、和気藹々談笑しつつ荷物を置き、少し寛いでからさっそくゲレンデへと向かったのであった。
飛鳥は手をポキポキと鳴らす素振り(鳴ってない)をしながら
「にゅふふふ毎年スキーで鳴らした僕のテクを見せてやろうねぇ」
「へぇ、毎年。若干不安なんだよなぁ」
毎年スキーをしているらしい飛鳥と、あまりスキー経験のないらしい彩人。二人は道具はレンタル派であった。
二人は、サイズにあったスキー板とウェア・ズボンを借りると、さっそくつけてみる。スキー・スノボ用ウェアは押し並べて派手なものだが、ピンク色の髪の毛が良く映える。
「似合ってるよ」
「にへへ、ありがとさん」
時刻は昼前。さっそく、滑走を堪能せんとゴンドラに乗って頂上に向かう。
慣れた様子でゴンドラに乗る飛鳥と、一方彩人は恐る恐ると言った様子で乗った。
「たけぇなぁ」
「そうかな、普通じゃない?」
ゴンドラが地面から離れて二人の体を宙に持って行く。急に静かになった。遠くで冬をテーマにした音楽が流れているのと、ゴンドラがきしむ音くらいしか聞こえなくなった。前のゴンドラに乗る人がスキー板の雪を振って落とすのが見えた。
「静かになったねぇ」
「そうすね」
「ちゅーして」
「はいはい」
ちゅ、と軽く口づけ合う。ああ、恋人同士になったのだと実感する瞬間である。ストックやらを持っているので手は繋げないが。
「足元気を付けてねぇ」
「はいよー」
するりと二人はスキー板を揃えてゴンドラから降りた。
先導するのは飛鳥だ。両足を揃えてシュプールを作りながらくるり一回転して反対向きで滑って手招きをする。熟練した腕前を感じさせる。
一方の彩人も未経験者程ではないのだが、飛鳥と比べるとどうしても拙さが残る。両足の揃え方も飛鳥程ではなく、ストックの使い方もぎこちない。
林間コース。文字通りに林間を走り抜けるコースで、比較的穏やかな坂を楽しめる家族向けのコースである。まずはこちらで慣らしてから通常のコースで走るべきであるという飛鳥の判断によるものだ。
飛鳥がくるりと正面を向くと、ストックで雪面を突き、左右に体を振りつつ、ゆっくり滑っていく。あとから彩人が続く。
「林間コースから行ってみましょー。いきなり急角度で滑走はつらいでしょ。最初は慣らしていこうね。三日間滑るチャンスがあるんだからさ」
「わかった。お手柔らかにお願いします」
「えっスパルタで!?」
「お手柔らかに! お願いします!」
「わーってるよん♪」
林間コースの緩やかな傾斜を滑っていく。凄まじい速度でコケるボーダーに掠められたりしたが、最後まで滑り切ることができた。
二人は並んでゴンドラを目指しながら話し合った。
「どうだった?」
「意外となんとかなるもんだなって……もっかい林間コースでお願いします」
「結構小心者だよねぇ、彩人ってば」
「毎年行ってる人と比べたら経験値がね」
二回目。木々の間をすり抜けるように滑る。最初曲がるときは足をハの字にしがちだった彩人も、徐々に両足を揃えて滑ることができるようになってきた。
右に、左に、急激に旋回。ピンク色の髪の毛がマフラーの間から揺れ、棚引いている。最後は両足を揃えて急停止したかと思えばくるりと回って後ろ向きに静止。手を振る飛鳥。
えっちらおっちらついていく彩人。無駄に力が入っているのか、なにやら足の筋肉に疲労を覚える。
「結構疲れた」
「そかそか。うまくできてると思うよん。足揃えて滑れるように特訓しようねぇ」
顔に疲労の色の見える彩人と、一方飛鳥はけろりとしている。経験の差がものを言うのだ。
「しかし俺たちってほんとアウトドア好きだよなって」
「えへへへ! 今更ァ!」
昼飯の時間である。ヨーロッパ風の建物に吸い込まれていく人々に交じって入店。彩人はカレーを、飛鳥はラーメン大盛を注文したのだった。食事を終えた二人は外でコーヒーを嗜みつつゴンドラに向かっていく人波を観察していた。
「なかなかハードなハネムーンだなぁ」
「夜もがんばってね♡」
「体力持つんですかね……?」
「おじさんがご奉仕してあげるよぉ。あ、エッチじゃない方のマッサージも得意なのでしてあげるからさあ」
彩人は手をわきわきと怪しく動かす飛鳥を見てこれは大変なことになりそうだと、けれど笑ったのだった。
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