ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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《にいがた》2

 

 スキー尽くしの三日間が終わりを告げようとしていた。

 ホテルの一室。ダブルベッドの上に二人はいた。

 彩人は呟いた。

 

「ハネムーンってこんなに過酷だったっけ?」

「まあまあうまく足揃えて滑れるようになったじゃん」

 

 ベッドの上。横たわった彩人は疲労困憊であった。まだ若いとはいえ三日間みっちりと滑ったのは流石に堪えたらしく、筋肉痛と疲労で酷いことになっている。

 その上に跨るのは浴衣を着込んだ飛鳥である。彼女はちょうど彼のお尻の上に乗ってマッサージをしているのであった。まるで熟年夫婦の『行為』の代替でもやってるような光景だが、これは純粋に疲労回復を兼ねてやっているのであって、いやらしい気持ちはない。そのはずである。メイビイ。

 飛鳥が指圧をすると、彩人が唸った。手つきが妙に手馴れている。的確にツボを圧してくるのだ。

 

「あーそこそこ」

「お客さん凝ってますねェ……」

「ていうか飛鳥はなんで疲れてないんですかねぇ……」

 

 彩人はどこか不満そうだった。同じくらい運動をしているのになぜ疲れていないのか。お前も疲れろと言わんばかりだった。

 すると飛鳥は胸を逸らし、ふふんと鼻を鳴らしてみせた。

 

「正しいフォームで力を抜いてやってるからだネ。力でごり押しして綺麗な姿勢を取ろうとすると疲れちゃうんだよ。おじさんの姿勢いつでも脱力してる感じでしょ。すーっと自然に足が揃うのが理想なの。君のは力で足を揃えようとしてるからねェ。直ったけど」

 

 一方で飛鳥に疲労の色はない。もともと体力バカなのはそうだろうが、スキー経験の長さがものを言っていた。

 飛鳥は彩人の腰を指圧しながら得意げであった。

 

「ニーグリップと正しい姿勢すればバイクだって疲れないでしょ。それと一緒だよ」

 

 バイクは正しい姿勢をすれば疲れないが、間違った姿勢をすると無駄に力が入ることになり、疲労度が増す。同じことだと言わんばかりに、彩人バイクに跨った飛鳥がニーグリップで横脇を締め付ける。

 

「………わかるけど、いやはや疲れた」

「ぐいっとぐいっと」

「いだだだだ腰が痛い」

 

 指圧、指圧。腰が悲鳴を上げる。

 彩人が枕に顔を埋めたまま呻いた。

 

「今夜頑張ってもらうんだからさぁ~」

「いやぁ~きついっす」

「大丈夫だよ天井のシミ数えてれば終わるよ」

「そういう問題じゃねぇよ」

「枕に顔を埋めて………それどうやって入れんの?」

「知らねぇよ!」

 

 逆に目がさえてきてしまうようなことを言い始めるので、とりあえず異議を並べておく。

 腰が終わると足。次に腿。ひっくり返そうと、飛鳥が彩人の肩を掴むがベッドから剝がれなかった。

 

「あ゛ー…………」

「じゃーお次♪ ひっくり返って?」

「いやです」

「なんで?」

「いやです………」

「そおれ!!」

 

 彩人は枕に顔を埋めたまま首を振り拒否した。

 無理矢理ひっくり返される。

 いやらしい気持ちは一切ありません。などと思っても、体は正直である。

 

「あー」

「だから、そのさあ………」

「お疲れなんですねぇ」

「そうだよ」

「………」

「………」

 

 沈黙があった。

 にんまりと白い歯を見せた飛鳥が自身の前髪に指をやると、耳に引っ掛けるように梳いた。

 明るい笑顔は徐々に妖艶な色合いを帯びた。ちろりと赤い舌が唇を濡らす。

 

「しょうがないにゃあ」

 

 

 

 

 

 

 

「クソ疲れた」

「そうかな」

 

 帰りの新幹線内。つやつやの顔をした飛鳥と、げっそりとしてしまった彩人がいた。

 彩人は風景を見つめる飛鳥の表情を見遣っていた。決心したように話を振る。

 

「仕事を辞めるって話だけどさぁ、あれOKだわ。辞めて家事に専念するよ。まさかこんな形で主夫になるとは思ってなかったけど、そうでもせんと家がゴミ屋敷になっちゃいますし。せめて洗濯物くらいは畳めるようになってくださいな」

「ほんとに? ありがと。じゃあさぁ、あの件だけどさあ」

「名字に関しては」

「うん」

「俺のを貰ってくれないか?」

 

 とても新幹線内でするような話ではないが、二人は世間話でもするような軽さであった。

 話を振られた飛鳥は振り返った。厚手のセーターを着込んでいて、その女性的な体躯の外線がよくわかる。セーターは量産品に過ぎず、化粧こそしていないが、道行く人が振り返るような美人っぷりである。

 その美人さんはうんうんと頷いた。

 

「ええよ。これで多治見も卒業で、瀬戸飛鳥かァ。おじさん感動しちゃいましたよ」

 

 飛鳥が小さくぱちぱちと拍手をした。

 

「結局書類出すにはどっちかに決めないといけないからなぁ。親にも相談したけど、このほうがいいってよ」

 

 彩人の親は結婚相手が見つかって大喜びであった。写真を見せて、髪の毛の色が妙なことを除けばおおむね好印象であった。

 

「ン、マァ親御さんはそういうだろうねぇ。じゃ、今度挨拶にいかなきゃ」

「飛鳥の親……」

「はいーよ。報告だけあげりゃあ。だって考えてみ、息子が急に娘になってしかも若返ったんだぜ。気味悪いでしょ」

 

 彩人はさほど時間をかけずに適応したが、普通は気味が悪いと敬遠するものである。

 彩人は親に、相手が元男でTS症候群でこうなったと伝えると、暫し呆然とされたが、完全に女性化していることを説明すると納得してくれたのだ。この親がいて、この子ありであろうか。納得する速度は確かに受け継がれているらしい。

 飛鳥はうんうんと満足げに目を閉じ、鼻を擦った。いちいちおじさん臭いのはご愛敬。つい半年前は男であったのだから。

 

「そうかなぁ」

「君は親御さんに似たんだねぇ、いいことだ。適応能力が高い。うんうん、いいトコだぞ」

「単純って貶されてる気がする」

「そんなことないゾ。素直でいい子ってことだ」

 

「あと、結婚式のことなんだけどさ」

 

 

 

 ここに一枚の写真がある。

 教会だ。

 ピンク色の髪の毛を後ろでまとめ上げて花の冠をし、化粧をした女性が映っている。女性は白いウェディングドレスに身を包んでいて、花束を持っている。そしてフォーマルなタキシードに身を包んだ男性にいわゆるお姫様抱っこをされていた。

 彩人は驚いたような顔をしており、飛鳥は満面の笑みで手に持ったブーケを振り回していた。

 

 紆余曲折あったが、無事に式を終えることができた。男としてではなく女として。一人の男性と共にこれから生きていくのだ。

 結婚は終わりではなく始まりである。

 二人三脚はまだまだ、始まったばかりなのだ。




えんだぁぁぁぁぁ!!!

まだまだ続くんじゃ

次回九州編 のあと北海道編の予定
なんでかって作中だとガチ冬なので北海道にいけないのです

次の舞台は?

  • 北海道
  • 九州
  • 東北
  • 四国
  • おうち
  • なんでもいいからいちゃつかせるんだよ!
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