ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
東京九州フェリー。 横須賀発~新門司着を、およそ丸一日で結ぶフェリー。東京から九州を目指す際、大まかに分けて二つの選択肢がある。一つは自走。一つはフェリーである。三つ目輸送業者に運んでもらって自分は新幹線なり飛行機なりで向かうというのもあるが、ほぼとられない方法であるので割愛する。
ちなみにしんもんじではなく、しんもじである。
自走のいい点は安いことだ。燃料代、高速代金込みでもさほどかからない。欠点は自走することによって走行距離数がかさんでしまうこと、一日で東京から九州に行くのは相当厳しいのでどこかで一泊する必要があること、燃料代がかかること、一番重大なのは体力を著しく消耗することである。船と侮るなかれ。時間があるのであればフェリーの方がトータルで安く疲れずつくこともあるのだ。
「たまにはこういうのもいいでしょ」
“瀬戸”飛鳥は言うと、くぴりとチューハイを口にした。
「そうすね」
瀬戸彩人もまたチューハイを口にした。
ロビー。窓際の席にて二人はまったりと海を見つめていた。あの後仕事を辞めた彩人は、本格的に主夫になった。一昔前なら白い目で見られていただろうが、もう時代が違うのだ。
「これはハネムーンなんですかね。新婚旅行? というか新婚旅行とハネムーンの違いってなんなんですかね」
「さあ? おんなじじゃない?」
わかっているのかわかっていないのかニヤニヤしっぱなしの飛鳥。
ちなみに本来の意味で考えると前回も今回も新婚旅行であって、ハネムーンではない。厳密に言うと、であるが。はちみつ酒を飲みかわす必要がある。もう一つ条件があるのだがここでは省略する。
「しかしやることないっすね」
「船旅っていうのはそうもんさね。マ、のんびり酒でも飲んで雑談するか寝るかだねぇ」
「………」
「………」
ついに雑談のネタが尽きてしまい、テレビを見るだけになってしまった。
21時間もあるのだ、いくら仲が良いと言っても雑談だけで何十時間も繋げるはずがなく。
「寝よっか」
「寝ましょ」
そういうことになった。
上陸の日である。とはいえ、上陸してさっそく行動できるのかというと、到着が深夜なのでできることが限られている。宿に泊まるには遅すぎるし、行動するには早すぎる。よって二人は揃ってネットカフェで一夜を過ごすことになった。
フェリーを降りる瞬間、ライダーの脳裏に過るのは転倒である。というのも、下船の為に渡されているのは鉄板なのだ、超特大のマンホールの上を走っているようなものである。マンホールはバイク乗りの天敵なのだ。
上陸。船を降りた二台は、坂道を下って港へと到着した。出入り口で止まるわけにはいかないので一般道に出るまで速度は緩めない。
彩人は看板を見てつい読み方を間違えた。
「はえーここが新門司(しんもんじ)………」
「しんもじ、ね。読めないよなぁ」
と、彩人が見事に読み間違ったところを飛鳥がツッコミを入れる珍しい状況になった。
一般道を走っていき、幹線道路沿いに建つオレンジ色の看板のネットカフェに到着。バイクを停め、エンジンを切る。
「なんかあんまり疲れてないね」
「そりゃあずっとのんびりしてるだけだったからなぁ」
座席を予約。隣同士の個室を取り、キーカードを手に部屋に向かう。本当は同じ部屋がよかったのだが、同じ部屋に入ること自体が想定されていない施設である。料金は二部屋分当然払った。
「えっちな動画見すぎちゃだめだゾ♪」
「みねぇよ……」
部屋に入るときに飛鳥が釘を刺す。ネットカフェのパソコン程大人の動画が見やすい装置はない。
翌日。なんやかんや動画をちらっとだけ見た彩人と、部屋に入って早々すぐさま寝た飛鳥は、朝、出発したのだった。スマホに設定した経路には福岡の位置が示されていた。
「やっぱここまできたら博多ラーメン食べたい……食べたくない?」
「食べたいすねやっぱここまできたのであれば」
アドベンチャーが前後に並んで一般道を走り抜けていく。冬の空気は冷たいが、東京と比べればまだマシだった。電熱グリップや電熱ジャケットなどで身を固めている二人なので、多少の寒さはどうということはない。本番なのは氷点下からである。
距離だけで考えるならば、現在地新門司から福岡までは二時間弱と言ったところだが、休憩時間や信号待ちを考えれば三時間はみたいところである。
スロットルを緩めて赤信号に対応しつつ飛鳥が言った。
「オール高速道路も味気ないからねぇ。下道も乙なもんよ」
「オール高速はなんか作業感が半端じゃないからなぁ……下道ゆっくり流すのもいいもんだと思う」
高速道路は楽しい。だがその楽しいのは加速感を味わえる最初のうちで、慣れると作業と化し眠くなってくるのだ。バイク運転していれば眠くならないなどという幻想は捨てるべきだ。
新門司から西へ、一路、博多へ一般道を流す。
ハンドルにマウントしたスマホを見つつ、先頭を行くアドベンチャーを追いかける形の彩人がインカムに話しかけた。
田舎の風景が続いていたところ、徐々に建物が増え始めたのだ。
「博多市街地に入ってきたみたいだ。東京とあんまり変わらないなって」
「そうねぇ、日本の特徴としては各都市に特色があんまりないっていうのがあってぇ……もちろん熱海ーとか、京都ーとか、あと札幌みたいにぱっと見でわかる街もあるんだけどねぇ。まあ地震の多い国だからしゃーないね」
福岡市内。評判のいい博多ラーメンの店舗前に来た二人は、困ってしまっていた。
「停める場所がない……」
ありがちなことだが、バイク専用駐車場というものはほとんどない。あっても数か所しかなかったり、125cc以下専用だったりする。大型バイクは肩身が狭い乗り物なのだ。
店舗前に駐車しつつ、飛鳥が笑った。
「にゃはは! 札幌行ったことあるんだけどぉ……似たような感じだったよぉ。バイクに厳しい世の中だよなァ」
「店の前においてササっと頂きますか」
「それしかないね。お巡りさんか緑のおじさんが来る前に撤収やね」
店舗前に停めて暖簾を潜り、さっそく注文する。
白っぽいスープに細い麺。きくらげに小ねぎ。テーブルには紅しょうがの入った容器がある。
「いただきます」
「いただきます」
啜れば細い麺にあっさり風味のとんこつ味が良く絡む。まろやかな味に二人は魅了された。
「替え玉ください!」
「あ、俺もください」
替え玉を追加。やはり博多ラーメンは替え玉である。しかし……。
「替え玉ください!」
「食べるなぁ」
「替え玉ください!」
「おい」
「替え玉ください!」
「どんだけ食べるんだよ!!」
ということもあったり。
「はー食った食った」
「食いすぎでしょ店員さん笑ってましたよ」
膨らんだ腹を擦る飛鳥を見て彩人は苦笑していた。替え玉し過ぎてスープがなくなりかけていたのにまだ食うので、なんという健啖家だと驚愕していた。
「じゃ、お宿に向かいましょうかねぇ」
「ええ。ちょっと戻っちゃいますけどね」
「マ、時間はあるんですしぃ。ゆっくりいこうね」
二人はお宿もといキャンプ場に向かうために、西ではなく東を目指したのだった。
目指すキャンプ場は山の中にある。道中で食材の調達、焚火用の薪を買わなければならないことだろう。
二台のアドベンチャーは並んで発進して、一般道に乗ったのであった。
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