ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
ビジネスホテルで一夜を明かした二人は佐世保から東へ向かった。今回の旅は九州を一周するというよりも要所を巡る旅なので、佐世保の南へは向かわない。次の目的地は阿蘇である。
阿蘇。大規模なカルデラに街を作ったとでも言うべき地点であり、一帯は国立公園に指定されている。空から見るとまるでクレーターに街があるようにも見える。また阿蘇山付近はいまだに活動を続けており、ガスが時折噴出しては観光客を遠ざけるのだが、果たして今回はどうか。
一路、東へ高速道に乗って行く。鳥栖に戻り、さらに東へ。うきは市、
「おまたせ」
「うす。行きますか」
道中道の駅でトイレ休憩を挟んで、再び出発する。
山間部を抜けていくと、段々と風景を開けてきた。一面の穏やかな丘陵地帯と、草原からなる風景はまるで日本のそれではなく、北欧を思わせる。
「阿蘇観光農場だって。放牧には向いてそうだしなぁ」
「せやね。四国のカルストに似てるよね」
「実は行ったことないんだよなぁ」
「今回は上陸しないで来たからねぇ。次の機会にでもゆっくり四国のお遍路さんでもしますか」
インカムで雑談をしながらも、坂道を登っていく。
まるでお椀の中にいるような風景であった。周辺、地平線は山に隠れているのに、手前側には街が広がっている。盆地に似ている。ぽこんぽこんと子供が土を盛ったかのような小さい山が無数にあり、上を草が覆っていることもあり自然なのに不自然なまるでゴルフのコースのような光景がそこにはあった。
「ここいら一帯が牧場なんか」
「そうだよー。のびのびとしていていいよねぇ」
道の両側には柵がかかっており、内側には牛がのんびりと草を食んでいるのが見える。
通称ミルクロードを上がっていけば、
「本当にカルデラの中に街があるんだなぁ。これ大噴火とか起こしたらどうなるのっと」
「まあ死ぬよね! ぶへへへへへ!!」
と不謹慎な話をしつつも到着。カルデラの中に街がある。まるで隕石のクレーターのような構造のそこに、ミニチュアサイズの人の営みがある光景に思わず目を奪われる。夏特有の新緑が山肌を覆っており、青空とのコントラストが美しい。
「ついた……」
「いいもんでしょ。あっそうだ下でアイスクリームたべよーよー」
「花より団子かよ」
夏と言えばアイス。バイカーと言えばアイス。二人は景色をスマホで撮影したのち、下でアイスを購入して食べ、次に向かった。
阿蘇市を抜けて南下。山を越えて行く。
「がんばれ、アルペンマスター」
坂道を登っていると、たとえ大出力の大型バイクとはいえ苦しさを感じる時がある。そういうときには、つい話しかけたくなるものだ。生きてすらいないが、自分をここまで運んでくれている相棒に。
徐々に森林がなくなっていき、わずかに草が生える荒涼とした風景に変わっていく。
「ちなみになんだけどぉ、火口は現在規制中だからいけないんだよねぇ」
「しゃーない」
「マ、この辺ぶらぶら散策しますかぁ」
阿蘇山は活動している山で、時折噴火とまではいかないまでもガスを放出することがある。そのため状況によっては火口に近づけないこともあり、二人が訪れたときは、周辺1kmへの立ち入りが禁止されていた。
「お馬さんがおるねぇ。乗れないけど」
「ウーム残念」
「まあ僕は君に乗るんですけどね、えへへへ!!」
「笑い方をなんとかしろ」
馬にも乗れるらしかったが、今はやっていないらしい。時期が悪い。旅というものはトラブルが付きものなのだ。トラベルの語源だけはあって。
二人は周辺を散策することにした。博物館に入ってみると、若干昭和を感じさせるものの、カルデラの成り立ちなどを学習することができた。平日ということもあってか、二人の他にぽつぽつと客がいるだけで、貸し切り状態であった。
「安かったね」
「バブル期はウハウハだったんだろう気配がしたよねぇ」
「バブル期か………全く知らないわけじゃないけど、その頃子供で全然わかんねぇんだよなぁ」
「あの頃はよかったなんて口が裂けても言えないよ。狂乱の時代だよあれは」
などと雑談をしつつ、今度はレストランに入る。
二人とも肉厚なハンバーグとポテトのセットを注文する。はふはふ言いながらあっという間に完食。食後のコーヒーを飲みつつ、スマホの画面を見て今後について相談する。
「高速で二時間南下してぇ、人吉市のこのキャンプ場に泊まるっていうのはどうだい」
「予約は?」
「あ、だいじょーぶ。予約とかじゃなくて先着順で決めるトコだからぁ、行ってみて勝負って感じかな。こんな平日に満タンってことはないでしょ、多分」
飛鳥が示したキャンプ場はここから高速を使って二時間ほどのところだ。冬は日没が早いことを考慮しても、丁度いい位置にあるように思える。
「じゃいこうか」
そういうことになった。
阿蘇山から下山。高速道路に乗って、南へ、南へ。
道中の道の駅で食材を調達。と言ってもカップ麺やら、今日の酒やらであるが。キャンツーで移動しながらのことを考えると、どうしても簡単なものを買いがちである。凝った料理より、酒の方が良い。そんな二人であった。
到着と同時に受付と設営を開始。日没はあっという間である。素早くやらないと、暗い中で設営する羽目になる。
テントを張る作業は共同で。タープは飛鳥が、そのほかの準備は彩人が行う。三十分程で完成。手馴れたものであった。
チェアに座った二人は、さっそく料理を(※カップ麺)作り、食べる。
「カレー麺♪ カレー麺♪」
「まあシーフードヌードルなんですけどね」
「ぶへへへへ!」
「だから笑い方ァ!」
飛鳥が持ちネタと化したカレー麺ネタを披露したりした。二人は、カップ麺とおにぎりのご飯を済ませた。食事が終わればいつものやつの開始である。そう、酒盛りである。
二人はかちんと瓶を合わせて乾杯をすると、ごくごくと音を立てて飲み、表情を緩ませた。
「くぁーきくきくぅ!」
「地ビールもいいもんすねぇ」
最近流行の地ビールを飲みつつ、ツマミのジャーキーをかじる。ジャーキーは焚火で軽くあぶっているので、香ばしく、肉のうまみがよくにじみ出ていておいしい。地ビールは濃密で、麦の甘みが感じられる芳醇な味わいで、満足できるものであった。
夜。あとは寝るだけであるが。
「えっちする?」
「いやーきついっす」
「ですよねー。今日は流石の僕も疲れちゃったよ。いちゃいちゃしよ」
「話が繋がってないぞ。まあでも、いいよ」
テントの中で抱きしめ合い、唇を重ねて、マットの上に転がる。
「僕かわいいかなぁ」
「かわいいよ。今更か?」
「んー美少女美少女っていってもさぁ、やっぱ現実にピンク髪の女がいるとこんなに奇異の目で見られるんだなって」
飛鳥は自分の髪の毛を指でくるくると弄びながら言った。豪快で大胆が服を着ているような性格であるが、気になるものは気になっていたらしい。
彩人が首を振った。
「何度でも言うけどそのままが一番かわいいよ。俺が保証する」
「ん」
また口づけ合って、そうして、眠気に襲われる。
「明日もいっぱいはしろーねぇ」
「おやすみ」
そして二人は寝袋に包まって健やかな眠りについたのだった。
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なんでもいいからいちゃつかせるんだよ!