ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
旅も、残り少なくなってきた。
ツーリングで一番だるいのはなんだろうか。端的に言えば帰りである。行きは楽しいのだが、これから帰って日常生活に戻らなくてはならないと考えただけで憂鬱になってくるし、そのために来た道と同じ道を通って帰らなければならないのがとにかくだるいのだ。
だるさを解消するには、来た道とは違う道を、楽しく通るのが一番前向きだ。
二人は次に東進、宮崎に向かった。
「南国みたいだぁ」
「マ、南国ですからな」
ヤシの木にも見えるが実際には
海岸はいい道が多い。海を見ながら走ることができるし、信号機もすくないので煩わしさがない。
「真夏に来てもよさそうだねぇ」
「そうすねぇ」
「僕の水着姿見たいっしょ」
「そりゃあ見たいけど」
「隅っこでこっそりさ、えっちいことをさ」
「それ漫画とかだとよくあるけど色々やばいでしょ!!」
「見られるのもまた乙なもんだよ」
「よくないわ!」
水着姿。どんな水着が似合うのだろうか。夏になればきっと着てくれるだろう。一緒に買いに行くのだろうか。悶々としながらも、先を進むピンク色の髪の毛を追いかける。
日南海岸を走る。日本らしからぬ青い海を見つつ、二台はスムースに走り抜けていく。わずかなアップダウンのあるなだらかなワインディングコース。走っていて、気持ちがいい。
やってきたのは、
スマートフォンでツーリングアプリを弄っていた飛鳥が、こんな情報を読み上げる。
「ツーリングマップによるとぉ、祀られてる神様は縁結びの神様なんだってよ」
「へえ、それいる?」
「あと子授け、夫婦和合、安産とか」
「…………」
「…………えへっ」
謎の沈黙を挟みつつ、散策する。
「でもさぁ、僕ってば腰広いじゃない? するっと出てくると思うんだよねぇ」
「安産型ねぇ、ほんとうなんかね」
「骨盤が広い分、赤ちゃんが出てきやすいってのは事実だと思うけど結局個人差があるんじゃないかねぇ。赤ん坊産んだことないからわかんないケド」
「…………」
「…………」
と、またも謎の沈黙が挟まる。
二人は、参拝するために宮へと“下っていく”。海流や雨風の浸食作用で作られた海岸線にある本堂は、階段を下っていくことで辿り着くことができるのだ。
本堂で手を合わせる二人。
「赤ちゃんできますように」
「オイ」
飛鳥が真面目な口調でそんなことを神様に誓約し始めるので、彩人はツッコミを入れた。結婚してまだ時間が経っていない。子供は早すぎるのではないかと。
飛鳥は振り返るとにんまりと笑った。
「欲しいでしょ赤ちゃん」
「欲しくないのかと言われると欲しいけどさぁ、早くない?」
「将来設計は大切ですよん。おじさんはいつだって将来を考えているからね」
考えなしなように見えて、飛鳥は計算高い男もとい女である。理性的とも言える。
ちなみに神社で運試しができる。通称運石と呼ばれるもので、石を購入し、崖下の穴に投げ入れるというものである。
石を購入した二人はさっそく石を投げてみることにした。飛鳥がふふんと得意げに石を握る。
「野球の嗜みありますからねェ……そおい!」
投げる。が、力が強すぎたのか手からすっぽ抜けてあらぬ方角に飛んでいく。石は、見事に斜め四十五度方向に飛んで行ってしまった。
「………」
「…………よし俺の番だな。よいしょ!」
彩人が構え、投げ込む。しかし、外れてしまった。躍起になって投げ込むもなかなか入らず、飛鳥最後の一発がようやく入ると言った有様である。
神社を後にした二人は、そこからニ十キロメートルほど北上した地点にあるキャンプ場へとやって来ていた。ヤシの木がずらりと並んでおり、車両直接乗り入れ可、少し歩けば白い砂浜が広がっているというキャンプ場である。バイク・自転車専用サイトで泊まれば二人合わせても三千円にならない点も大きい。こういう時、バイクという乗り物は得をする。
ヤシの木の傍にテントを張る。タープを張る。荷物を配置して、焚火の準備をして、完了である。
「僕、洗濯ものしてくるわー」
「じゃ俺は売店で買い物してくるわ」
二人いると役割が持てるのが良いところである。分担して負担軽減ができるのだ。長旅なので、定期的に洗濯物をしなくてはならない。売店で物資の補給も必要だ。
売店から帰ってきた彩人は火熾しを始めることにした。着火剤の追加分も補充してきたので、簡単にできる。今日のご飯はおでんである。と言ってもパック詰めされたものをコッヘルに出して、加熱するだけなのであるが。
火が陰ってきた。焚火が煌々と燃えている。
「明日帰りかぁ」
「んまそ仕方ないね、旅は終わるものだからね」
洗濯ものを抱えて戻ってきた飛鳥が返事をする。乾燥機に突っ込んできたであろうそれらをぎこちない手つきでカバンへと仕舞っていく。
「終わらない旅はないのさ。でもまた始めることはできる。また九州、こようねぇ」
「そうだなぁ、また、いつか…………次は北海道がいいかな。夏の」
「お、いいですな。北海道はいいぞー」
次の旅先への思いを話しつつ、コッヘルで加熱したおでんを頬張っていく。あつあつのおでんに酒がよく合う。冷え切った体に染み入る出汁の味わいを、麦とホップの織り成すハーモニーで流し込む。
酒の時間が終われば、焚火を見つめて海を眺める時間である。
「月が綺麗だねぇ」
「そうすねぇ……」
月が綺麗に出ていた。満月。波間に揺れ動くそれを見つめて、自然と手を握り合う。
「んっ」
二つの影が一つに重なり合った。
最終日。宮崎から高速道路で北上した二人は、別府の温泉を頂くと、定食屋でゆっくりと、しかし大量に海鮮をかき込んでから、一路、最初の土地である新門司へと戻ってきた。
フェリー出発の時間は深夜である。それまではゆっくりとすることができた。
バイクで搭乗。荷物を置いて、甲板へと出て去り行く新門司の港を見送る。深夜というのに元気なのは、温泉に入ってゆっくりと食事を摂ったお陰であろう。
「さらばーだいちよー!」
「落ちる! 落ちるから!」
「落ちないよぉこんくらいじゃあさあ!」
帰りの時間だ。
二人はフェリーに乗って東京方面へと帰って行ったのであった。
「………暇だねぇ」
「こればっかりは仕方がないというかなんというか」
「しりとりでもしよっか」
「小学生かよ」
帰り。行きと同じくついにやることがなくなったので、テレビを見て政治がどうの社会がどうの語り合ったあげく、それすら語りつくしたので昼間から酒を飲んで飲んで飲みまくり昼寝をしたのだったとか。
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