ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件   作:キサラギ職員

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かわいいおじさんがかわいい女の子になると最強だと思います


《えのしま》2

 

「エスカーにしよ」

「そうすね、エスカーにしましょ」

 

 そういうことになった。

 即断しちゃう当たりが二人のバイク乗りとしての体力と、階段上りという筋力と肺活量が求められる方の体力の違いを意味している。

 エスカーとは、ようはエスカレーターのことである。江の島の階段をひたすら上り続けるのが苦であるならば、エスカーを使うことをお勧めする。若干料金はかかってしまうが楽に観光できることであろう。

 受付で券を買うと、エスカーに乗って上を目指す。途中江の島水族館の宣伝ポスターを見ながら。

 エスカーを降りれば江島神社 辺津宮(へつみや)に出る。由緒正しい神社で田寸津比賣命(タギツヒメノミコト)をお祀りしている。

 

「ゴシュインでももらいましょか」

「あのーその微妙なイントネーションやめてくださーい」

 

 などとセクハラを受けつつも御手淫もとい御朱印を貰い、ついでに茅の輪も潜っておく。

 

「こういう“穴”を潜るのって母体回帰思想がもとになってるっぽいんだよねぇ」

「そうなんすか。確かに罪穢れを祓い清めって書いてありますねぇ」

「潜ってさ、こうオギャアオギャアオギャア! とね」

「実際にやらんでもいいでしょ」

 

 他の参拝客にくすくすと笑われているのに赤ん坊の真似をするあたり大変肝が据わっている。

 瀬戸にその肝の強さはないので無言で通過する。特に何か変わった感じはないが、変わればいいなと思う程度である。

 

「参拝しましょね」

「うす」

「願掛けって言ってこういうのって神様にお願いするんじゃなくて、成し遂げるぜって意思を表明する場所なんよね。瀬戸君は何を成し遂げたい?」

「主夫になりたい」

「お、ちょっとだけ進化してる。おじさんはそうねぇ、秘密かな」

「んだよ自分だけかよ」

 

 二拝二拍手一拝。手洗い場で手を清めてないことはすっかり忘れてる二人であった。

 順路に従って歩いていくと『良縁結び絵馬』なるものが目に入った。

 きゃっきゃっとお前何歳なんだよという若い仕草で飛鳥が瀬戸の裾を掴んで引っ張る。

 

「あはは500円だってさ瀬戸君やってこうぜぇ」

「はぁ、結び絵馬ねぇ。相手がいないんですがそれは大丈夫なんですかね」

「へーきへーき。おじさんがここは一肌脱いであげますってばよ」

「いいのかな………」

「よくない?」

「そうかな……そうかも……」

 

 ゴリ押され500円を払い『いいご縁がありますように』と二人で同じような文面を書いて縁結びの木の前にかけておく。あからさまにピンク色に近い絵馬なのが気になるところだった。

 順路に従って進んでいき、またエスカーに乗ってサムエル・コッキング苑に到着する。風光明媚とでもいうべき場所で、和洋折衷の明治時代の庭園である。

 

「マイアミ・ビーチ広場だってさ」

「ほほぅ。ていうかマイアミ行ったことないからわかんないっすわ」

「お、それは朗報。これから行けばいいんだよ。可愛い彼女とか連れてさ」

「相手がいないんだよなぁ。そんなポイポイ湧いてくるもんでもないでしょ」

 

 異国情緒がごった返している。和風庭園があるかと思えば、急にマイアミ風の庭園もある。のんびりと散策していると汗をかいてしまう。涼める場所がないかと周囲を見回していると、いつの間にか飛鳥が消えていることに気が付く。

 

「ん? ああいた」

 

 周囲を見回してみると、屋台で何やら買い物をしている。歩み寄ろうとすると、振り返ってにっこりと笑ってきた。その手にはアイスクリームが握られている。

 

「はいこれ」

「サンキューっす」

 

 瀬戸はアイスを受け取ると舐めた。ひんやりとしていて、口の中から爽やかさと涼しさが広がっていく。

 

「ん。おいひぃねぇ」

 

 飛鳥がぺろぺろとアイスクリームを舐めつつ感想を述べる。

 赤い舌先の動きにドギマギしてしまうのは男の悲しい(さが)なのか、見つめるくらいは罰は当たらないだろうと直視していると、視線と視線がぶつかり合う。

 

「口元ついてんじゃん。もー、僕は君のお母さんじゃないぞ~」

「ヤメロォ……」

 

 己の口元にアイスがべっとりへばりついているのも気が付かなかったらしい。

 飛鳥がハンカチを取り出して拭こうとしてくるので、首を逸らしてワイルドに手の甲で拭う。するとむんずと腕を掴んで引き寄せて、ハンカチで拭いてくる。無理に振り払うのは無作法であろう。大人しく拭かれておいたのだった。

 

「さーてじゃ塔に登ろうか」

「食べるのはっや!」

 

 ハンカチをしまったかと思えば、ぱくぱくもぐもぐと凄まじい勢いでアイスクリームを吸い込んでコーンをザクザク乱暴に食らいつくす。オッサン時代も大概健啖家であったが、もしかするとこっちでもそうなのかもしれない。

 一人アイスを舐めているのもわびしさを感じてしまうと真似して一気食いする。頭が痛み、涙が浮いたが気にせず飲み込んだ。

 途中でパンフレットを取った瀬戸は、今登っているのが灯台であるという記述を見つけた。

 

「これ灯台なんすね」

「灯台かー。お、眺めいいじゃん。いいじゃんいいじゃんこういうのをライダーは求めてるんだよォ。ほらライダーって先端に行きたがるじゃん」

「岬とか灯台とかは確かに目指したくなりますねぇ」

 

 なんとか岬、なんとか灯台、そういった“端っこ”にあるランドマークというのは、ライダー御用達なのだ。二人も灯台やら峠の頂上やらに行った経験は両手では数えきれないほどある。

 二人は雑談をしながら頂上にたどり着いた。

 相模湾が一望できる絶景で、晴天の空には陰り一つない。容赦なく差し込んでくる日光に自然と目が細くなる。

 

「あっちが稲村ケ崎(いなむらがさき)やねぇ」

 

 飛鳥が指さす方角はおおよそ東であった。

 相模湾、江の島の東、七里ヶ浜(しちりがはま)の先に飛び出した岩のような場所がある。とあるグループが頻繁に使う単語の一つ、稲村ケ崎である。

 

「あぁーなんでしたっけね歌で出てくるんでしたっけね。カラオケで聞かされてたから覚えちゃったけど」

「うん。稲村ケ崎は今日も~ってね。カラオケでよく歌うんだよねぇ」

「趣味がおっさんだなぁ」

「おっさんだもん。見た目は美少女ですけどね、中身はおっさんなのですよ。今更だぜ」

 

 どこか得意げに鼻歌で好きな曲を紡ぎ出す、その声の高いこと。酒焼けしていた少し前の声とは正反対である。

 その昔、バイクでやんちゃしていた頃もあったと聞く。いわゆる峠を攻めていた少年たちである。今でこそ規制速度をビタ一文割らない慎重な運転スタイルだが当時はタイヤの外周部まで使っていたに違いない。したがって歌の趣味も外見の若さとはかけはなれているのであったりする。

 続いて飛鳥は西側に歩いていき、指さした。

 

「あっちが茅ヶ崎だ!」

「今何時? って曲でしたっけねぇ」

「そうねだいたいねぇ!」

 

 テンション上がって柵にしがみつき始めるウン十歳児。落ちやしないかとひやひやして思わず肩を掴むと、四十肩であがんねぇんだよとぼやいていた頃とはまるで違う柔らかな感触がした。

 瀬戸は柵から足をどけてくれたので手を離すと、パンフレットに目を落とした。より取り見取り色々な観光スポットがあり、こじんまりとした小さな島とは思えぬ程飲食店や商店が軒を連ねている。

 まずはどうするか。目に留まった個所を指さして、パンフレットごと飛鳥に見せる。

 

「次は降りてあっちのほうに行ってみますかね? べんてん丸って観光船があるみたいなんで」

「お、いいねぇ……」

 

 こうして一日が更けていった。

 そして夕方。二人は宿に戻ってきたのであった。

どんな展開がいいのだよ?

  • ツーリングしまくれ
  • キャンプしろ
  • いちゃいちゃさせろ
  • R18版まーだ時間かかりそうですかね?
  • とにかく書け

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