ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
「遠い思い出の夏は冷たい夜しか残さない~♪」
透き通った声が独特なイントネーションで歌を紡ぎあげている。
本来は男性が歌う男性視点の曲であるが、飛鳥が歌い上げることで女性視点にも聞こえる。
「ひとり震える心せつなく、遥かなる影は恋人♪」
独特なイントネーションは、この曲の歌手のそれを真似たものであることは少し聞いて分かった。
焚火の元で、パチパチという火が薪を弾く音色を背景に、静かに歌が流れていく。スマートフォンからは自分で弾いたのだろうか、ギターの音色が響いてくる。語り弾きをしたかったのだろうが、積載の関係で諦めたのだろう。多才な飛鳥の一側面を見た気がした。
「
失恋の曲のようにも聞こえるが、そうではないらしい。
じっと耳を澄ましながら薪をトングで弄る。
「立ち止るたび明日は去りゆく悲しみよ Forever……」
胸に手を当てて目を閉じて言葉を奏でる様は、一枚の絵画のように美しい。
「あの日の風の誘惑が肩に触れただけで甘く、幻のまま終わる恋はさまよえる雲のようさ」
目を開けた女と、男の視線が絡み合う。
「雨に濡れながら No No Birdy 心からの涙はひとつだけ
言葉にならない No No Birdy
通り過ぎた季節は夢の中へ」
歌は続く。叶わぬ恋を歌ったものであることがわかる。失恋の曲ともとれる。
最後、ジャジャンとギターが締めに入ったところで飛鳥は口を閉ざした。
瀬戸はパチパチと小さく拍手を贈った。
「おおー………これ古い曲でしょ? 世代を感じるなあって」
「んー若い曲も聞くし弾くけどやっぱサザンですなぁ。チューリップってグループのもよく弾くねぇ。最近のコは知らないだろうけどぉ、フォークって類のジャンルがあんのよ。ギターは持ってこれなかったから録音で締まんないけどサ………んと、余興はこの辺にしといて肉を食いましょ」
「ええ、そうしますか」
焚火台には既に炭がセットされ、赤黒く燃えている。火の管理上、調理するならば炭がベスト・セレクションである。薪で作ろうとすると火がちらつき、偏り、どうしても生焼けと黒焦げの部分ができてしまう。やるならば『
「ふんふーんふん♪」
飛鳥が鼻歌を紡ぎながら鉄板に肉を投じる傍らで、瀬戸は米を準備する。
どうやって?
飯盒で炊くのだ。そう、パックごはんを加熱するのだ……!
「いいんすかねこれ。使い方がなんというかその合理的だけど味気が」
「失敗したくないじゃん?」
米を投じるのではなくパックごはんを温める。その背徳感に瀬戸は首を傾げていた。
ジュウジュウとステーキが焼かれる。分厚いそれはしっかりと火を通さないといけない。飛鳥がこれまた熟達した手つきでトングを使い一枚焼き上げると、皿に盛りつける。
「先食べてていいよん」
「や、待ちますわ」
「あんがとさん」
二枚目。同じように焼き上げると皿に盛りつける。付け合わせはないが、ソースにはわさびがついてくる。
飯盒からパックごはんを上げた瀬戸は、あちあちいいつつカバーを剥がして机もとい切り株の上に置いた。
そして二人で冷えたビールのプルタブを開けると、かつんと缶と缶を合わせた。
「乾杯!」
「乾杯!」
一気飲みして目を閉じて吐息を漏らす。
「かぁー! うまい!」
「おじさん生き返るよ!」
「お肉もいただきましょうかね」
「いいねぇ、肉と酒、ついでにここに女がいる瀬戸君は幸せもんだよ」
「中身はおっさんだけどな」
「ちなみになんだけど、むぐ……」
飛鳥は肉をナイフで切り、フォークに刺してソースとわさびをつけ、一口。もぐもぐと咀嚼しながら口に手で蓋をした。ごくんと飲み込んでから口を開きなおす。
「もとに戻らないんだってさ、この体。ふ、不可逆的? 変化でテロメアがどうとか言ってたけどぉ……」
「マジ?」
「マジで。だからさ、決めたんだ」
肉をもう一口食べてご飯を掻き込んで、もごもごと口を動かす。ややあって飲み込んでから口を開く。お行儀がよろしい。
「女として、生きていく」
「そんなユーチューバーみたいなこと言われてもなぁ………」
「もらってよ」
「え?」
「もらってよ、僕のこと」
「………」
「………」
「なーんて」
「その」
「そのさ、答えなんだけどさ」
「うん」
「保留じゃだめすか」
「うーん」
「ほりゅ………」
「………」
チュッ。
食事の時間が終わり、飲酒も済ませば焚火を眺める時間になるが、もう夜も遅いので眠ることになった。
今日は二回目ということもあってか、酒の作用もあってか、睡魔がアッと言う間に襲い掛かってくる。
寝袋に包まった二人は正面から向き合う恰好になっていた。
「おやすみ……」
どちらがともかく挨拶をして、夜がふけていく。
「行こうぜ、瀬戸君」
「ええ」
帰る日だ。
ジャケットを着た二人は朝食のパンを食べ、荷物を纏めて、テントとタープを撤収して荷造りをした。昨日のことはまるでなかったかのようにテキパキと準備をして、バイクに跨る。
管理人への挨拶もいらないとのことだった。夜更かしをしたとはいえ睡眠は十分とれたので、十時前には準備が整った。
「ルートはどうするんよ、瀬戸っち」
「っちって呼ぶな。えー、おんなじ道を使うのも癪なんですけど、一番近いルートってことで飯能に戻るルートにしようかと」
「私と一緒の選択やねぇ、マ、燃料代だって無限じゃないんだからそれが賢明だわな。いこう。おうちが待ってる」
東京に帰るならば、北側から寄居町に抜けるか、飯能を通るかの二択くらいしかなく、時間的にも観光をしている暇もあまりない。となれば選択肢は限られる。
スマホにルートを入力すると、サイドスタンドを払ってエンジンをかける。Vツインが目を覚ます。どるん、という景気良い音と共に車体が振動し始めた。同じように隣に並ぶアドベンチャーのエンジンにも火が灯った。
気温表示、外気温29℃。今日も暑い一日になりそうだ。
フルフェイスのシールドを開けた飛鳥が太陽を見上げた。
「太陽は罪な奴ってね」
「? ああ、それも曲名かなにか?」
「なんでもない。検索してみるといいヨ。ん、よし、いきましょ」
「おうよ」
二台は譲り合いながら発進、ギアを上げつつ加速しながらキャンプ場を出て行った。
「結局ここに戻ってくるんかい」
ソフトクリーム(あずき)を舐めながら瀬戸はツッコミを入れた。基本的にツッコミ担当である。
ボケ担当(?)の飛鳥がソフトクリーム(いちご)を舐めつつ、タイムズマート飯能店の表に立っている女の子のボードを眺めていた。
「ライダーとアイスクリームは切っても切り離せない関係だからねぇ、まるで私たちのように!!」
「そっすね」
「連れないなぁ色男よォ……」
あとは帰るだけなので気楽なもんである。
ソフトクリームを食べた二人は、今度こそ高速道路に乗ると毎度のようにサービスエリアで別れを告げた。
「また、行きましょ」
ふふふと飛鳥は微笑んだ。
「待ってるから」
インターチェンジ前で二台は分かれると、一台は直進、一台は分岐路へと入っていき、今回の旅路の終わりを告げたのであった。
帰宅後、瀬戸はベッドに寝転がりながらスマホで検索してみた。
「太陽は罪な奴、ね………情熱的な歌詞なこった」
そして、自分の唇に軽く触れると、窓から見えている夕日に目をやったのだった。
どんな展開がいいのだよ?
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ツーリングしまくれ
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キャンプしろ
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いちゃいちゃさせろ
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R18版まーだ時間かかりそうですかね?
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とにかく書け