ツーリング・キャンプ仲間のおじさんがピンク髪の美少女になってた件 作:キサラギ職員
「房総で…………暴走……ぐふふふっ」
「いや笑えねぇよ」
房総半島。東京のお隣千葉県の大部分を占める半島であり、西側は東京湾を望むことができ、東側は九十九里浜が広がる、日本にしては高低差の少ない半島である。東京から近いこと、お手軽にオーシャンビューを拝むことができることなどから都心ライダーのツーリング先として第一に上がりやすい場所であり、ライダーはなぜか『トンネル』に吸い込まれることでも知られる。
そう、房総には岩を採掘して作られた切り通しトンネルが数多く存在しており、実にフォトジェニックなため、ライダーがブラックホールよろしくいつの間にか半径に引き込まれ撮影会が始まってしまうのだ。
「高速できて正解だったねぇ」
「そうすね、あの工業地帯を走るのは結構苦行だった記憶があるんで」
秋である。夏もその勢いが潜め、涼しさを感じるようになった頃合い、連休を利用して二人はツーリングに出かけた。今回はツーリングメインなのでキャンプ道具は持ってきていない。ウン十馬力もあるアドベンチャーからすれば十キロも二十キログラムも誤差でしかないだろうが、それでも切り返しや燃費の面で若干の軽さを実感することができる。
二人がとった経路はまずいつものようにサービスエリアで合流して、それから南下、湾岸線から川崎浮島ジャンクション経由でアクアラインに乗って、海ほたるを目指して房総の工業地帯を回避するルートだ。
悪名高い房総の西側工業地帯は重機やトラックがひっきりなしに通ることから道路状態が最悪なことで知られ、渋滞しがちでライダーにとっては退屈で仕方がない場所なので、アクアラインでスルーする経路を取ったのだった。
「ここで300km出して捕まったやつがいたんだけど正気じゃないよねぇ。と、いうことで速度超過は絶対にNGデス」
「ちなみに多治見さんは今まで最高時速何km出したことがあるんですかね」
「知りたい?」
「はい」
「教えない♥」
「ああ、そう……」
元走り屋小僧が教えないなどと言い始めると、大まかに想像がつくというものだ。サーキットに入り浸っていた頃もあると聞く。似たような速度を出したこともあるのではないだろうか。
アクアラインは、端的に言えば東京湾を横断する長大なトンネルである。とにかくまっすぐなので、二人はインカムで雑談をしながらアクアラインを突き進んだ。
飛鳥がひらりと左手を背後に向けて合図した。ブレーキランプが光って、カコン、ぎゅーんと、ギアが落ちる高音が聞こえた。
「ちょっち、休憩していこうか」
「一時間は走ってますしね……行きますか」
先頭を行く海外製アドベンチャーのウィンカーが灯った。分岐路を左折して、ぐるっと一周回って海ほたるの駐車場へと滑り込んでいく。あとからスズキのアドベンチャーが続く。
駐車場にバイクを止めた二人は、まず最上階を目指した。景色が開けた。一面の海、そして対岸に見えるは東京都、千葉県である。
飛鳥が指さした方角にヨットの帆を巨大化したような謎の建築物が海にぽつんと浮いているのが見えた。
「こういう景色も乙なもんだわね。ホラ瀬戸君、あれ風の塔だぜ」
「あれね。何回か見たことありますわ」
「コーヒーでもキメながらまったりしますか」
ライダーと言えばソフトクリーム、そしてコーヒーと決まっている。二人は缶コーヒーをのんびり楽しみ、海の前で何枚か写真を撮ったのち出発した。
「と、いうことで着きましたアリランラーメンの本家、八平の食堂 本店でございます」
「ありらんらーめん?」
「語源はエーッと何だったか忘れたけどニンニク、タマネギををふんだんに使った車で帰る人が若干気まずい思いをするというラーメンでございます。スタミナがついていいぞー」
「へぇ」
「スタミナがついていいぞぉ」
「へ、へぇ」
木造りの三角屋根の建物に到着した二人は、バイクを降りて人の列に並んでいた。開店ちょっと前であるが、既に数人が並んでいて、人気があるのだというのがわかる。
「千葉三大ラーメンの一つなんよ。アリランラーメン、勝浦タンタンメン、竹岡式ラーメンの一つ。個人的にアリランが一番うンまいから連れて来てみた」
「ほかのラーメンってどんなんですかね」
「端的に言うと勝浦タンタンメンは地獄みたいに赤くて辛い。竹岡式はあっさりスープで食べやすい。こんな感じかな。こってりというか、味の濃ゆいラーメンすきっしょ瀬戸君」
飛鳥は指を三本立てて、順番に折りたたみながら説明してくれた。
「好きすね。あ、開店したみたいだ。行きますか」
「ほいほい」
席に着いた二人はさっそく一番大盛を注文した。ほどなくしてやってきた、ラーメンの味の濃そうなことと言ったら。
二人は手を合わせてさっそく頂くことにした。
「いただきます」
「いただきまーす」
油の浮いた黒っぽいスープ。濃密なにんにくの刺激臭。レンゲで掬ってみると、みっちりとザク切りになったタマネギやニラなどの野菜と肉が入っている。一口含むと、意外にも油っ気は少ない。あっさりとしていながら、それでいてタマネギとにんにくの爆弾的な味の電撃戦が襲い掛かってくる。
ずるずると夢中で食べる瀬戸と、ちらちらと瀬戸を伺いつつ食べる飛鳥であった。飛鳥は早食いをセーブしているらしく、相手と同じくらいに食べ終われるように計っている。
「おいしい! これでもかとタマネギ入ってるのいいっすねぇこれ!」
期待した通りの味に瀬戸は目を見開いていた。このスープがよく麺に合う。
つるつると麺をすすっていた飛鳥が顔を上げて笑う。
「でしょ。私も前来た時はびっくりしちゃってさあ。あんときは車で来たんだけど車内がとんでもないことになったわ」
「……臭いか!」
「にんにくにタマネギついでにニラに………察するよね、臭い的な意味で。バイクには関係ないけど」
二人が頼んだのはチャーシュー入りである。食べてみると、スープに浸かって身が解れて溶けるようでおいしい。
全て食べ終わり、代金を支払って店外で食事終わりのコーヒーを嗜んでいた瀬戸は、同じくコーヒーを飲んでいる飛鳥をじっと見つめていた。
「気が付いちゃったんですけど、タバコ吸わないんですね多治見さん」
煙草を吸う仕草をしてみせると、飛鳥が視線を返してきて首を振った。
「昔はやってたけどなぁ、禁煙したんだよ。吸う女の方が好きなら吸ってもいいけどぉ」
「う、うーん健康に悪いからなぁ。せっかく綺麗な体になったなら吸わないほうがいいんじゃないかな」
「せやな。私はこれで十分だよ。知ってる? コーヒーって尿酸値対策になるんだよ」
「急に現実的なこと言うのやめろ」
「ぶへへへ! マ、君も吸うのはやめるんですな。吸うと長生きできなくなるからネ」
会話の内容が健康に不安を抱える中年のそれだが、実際ついこの前まで血液検査の結果にそわそわしていたくらいなのだ、急に変化できるわけもなく。
「長生きしておくれよ」
「お前……死ぬのか?」
急に真面目な顔になった飛鳥に瀬戸も真面目な顔で言葉を返す。
「僕は死にましぇーん!」
「昭和を感じる……!」
「平成でーす!! ざーんねん!!」
「くそがぁ!!」
残念、それは昭和ではなく平成である。
そして二人はラーメン屋を後にしたのだった。
どんな展開がいいのだよ?
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ツーリングしまくれ
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キャンプしろ
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いちゃいちゃさせろ
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R18版まーだ時間かかりそうですかね?
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とにかく書け