レオパルトです。個人的にはウェールズくんがいい感じに仕事してくれるので、やっぱり聖グロにはクルセイダー以外の巡航戦車も必要だと思いますね。
──練習試合会場──
八九式は1秒でも時間を稼ぐべく、
八九式の搭載する砲がいくら旧式とはいえ、対するクロムウェルの装甲は八九式と同レベルに薄く、エンジンなり火薬庫なりに当ててしまえば撃破も不可能ではないはずだった。八九式の思わぬ粘りに、観客席も盛り上がりを見せる。
初心者としては最善の選択だ。──だが、彼女らは挑戦状を送る相手を完全に間違えたようだ。
彼女らが今敵対している相手は、走攻守の内、「走」に最も重きを置いたクロムウェル巡航戦車。更にそのクロムウェルを操るのは、聖グロが誇る〝猟犬〟と〝スピード狂〟のコンビだ。走りを活かした戦いでは、クロムウェルの方が何枚も上手だった。
最初はイライラしていたのか追走するのに躍起になっていたクロムウェルは、やがて八九式に速度をあわせて車体の揺れを抑える走りにシフト・チェンジし、前を左右に蛇行しながら走る八九式に静かに狙いを定める。──2輛の戦場はいつしか荒地を離れ、市街地に戻っていた。
「ローズヒップ、次の信号のある交叉点を曲がってくれ」
「なんで曲がりますの?八九式は真っ直ぐ行きましたわよ!」
「さっき街を歩いた時に気づいた。この道は交叉点を曲がった先に合流している。そして次の交叉点を曲がった方がショートカット出来る。そしたら道に合流してきたところを捉える!」
「よく分からないですけど、承知ですわ!」
次の交叉点に差し掛かると、クロムウェルは急旋回しリアを滑らせながら交叉点を曲がる。クロムウェルに減速Gがグッとかかるが、勢いを緩めることなく八九式の視界からフェードアウトする。──八九式からは、あたかもクロムウェルが消失したかに見えたことだろう。
「こちらアヒルさんチーム!敵クロムウェルを見失いました!」
『恐らく、敵のクロムウェルは孤立したIV号を挟み撃ちにしようと私たちの方に向かっています。急いで私たちの近くに戻ってください!』
「了解しました!」
八九式車内はクロムウェルの消失に一瞬困惑するも、彼らを振り切ったと思ったのか、指示通りⅣ号との合流するため道なりに走り先程の道に戻ろうとする。
──しかし、彼女らは気づいていなかった。〝猟犬〟はそう簡単には獲物をその爪牙から逃してくれはしないと言うことを。
「ウェールズ!八九式が見えましたわ!」
「よくやったローズヒップ……
曲がった先の直線の道で八九式がクロムウェルの射線に入った途端、八九式が方向転換するその一瞬の隙を狙って──ウェールズが引金を引いた。
クロムウェルの75mm砲がバシュン、という音をたてて白い砲煙をあげる。瞬間、八九式はエンジン部分を射抜かれ、制御を失い横転し白旗を揚げる。──それを見届けたクロムウェルは、ラリーカーのごとき華麗なワンターンドリフトを見せ、その場を後にした。
──大洗学園・IV号D型車内──
『すみません隊長、撃破されました!現在地はBN/55!』
「「「「!?」」」」
つい先ほどまで元気に走っていた八九式からの突然の被撃破報告に、IV号の乗員全員──いや、淡々と操縦している麻子以外の全員──が瞠目する。
「──まさか!」
その「まさか」であった。クロムウェルは端から八九式を逃すつもりなど毛頭なかった。クロムウェルの最高速をもってすれば、八九式を始末した後で荒地に戻っても充分間に合う。彼らは八九式を撃破した
みほは自らの早計を後悔したがもう遅い。クロムウェルの戻ってくる時間は八九式の被撃破地点からおおまかに推測できるものの、マチルダとチャーチルはいまだ所在不明だ。
「沙織さん!BN/55からここまでの最短距離は?」
「うーんと……正確にはわからないけど多分1kmぐらいだと思う」
「なら……時速60kmぐらいとして1、2分……」
みほがクロムウェルの迎撃について思考を
「西住殿、敵集団到着まで約1分半です!」
「えっ!?」
「3輛同時ってこと……?」
その警告を聞いて、みほと沙織が焦燥のまじった驚愕の声をあげる。──そう、今や唯一の残存車輛となってしまったIV号は、チャーチル・クロムウェル・マチルダの3輛を同時に相手取らなければならなくなっていたのだ。
「クロムウェルは十中八九市街地から出てくるだろうから、場所取りを間違えれば丘陵地の敵と挟み撃ちにあうし……でもチャーチルまで単独行動している可能性もあるし……」
「せめて38(t)が生きていればよかったんですが……ない物ねだりをしても仕方ありませんしね」
「うん……」
「では、一度市街地へ行ってクロムウェルを何とかしてから遊撃戦に持ち込むのはどうでしょう?」
みほと優花里が悩んでいるところへ、今まで黙っていた華が口を挟む。クロムウェルの進路は予測しやすいので敵の数を減らせる可能性はかなり高いが、その提案にはもちろんリスクもあった。
「うーん、華さんの意見ももっともなんだけど……市街地はマッピングしやすいから、クロムウェルを撃破できても位置がすぐバレちゃうんだよね……」
「位置バレと1輛撃破の交換ですか……」
「敵戦車を1輛減らせるが、位置がバレる」か「位置は限界までバレないが、3輛を相手にする必要がある」のどちらか、ということだ。
しかし、悩んでいる暇はあまりない。すぐにでも決断を下さねばならなかった。
「──仕方ないね。もし位置がバレても、3輛を相手にするより少しでも減ってくれたほうが戦いやすいし……麻子さん、BL/55まで全速力で!なるべく岩陰を通るようにしてね」
「わかった。しかし少し迂回することになるぞ」
「多少なら大丈夫。丘陵地の方から見えないことが大事だから」
「ほーい」
相変わらず麻子の返事は気怠げだが、ハンドル捌きは一流操縦手のそれだ。IV号はたちまち身を翻し、〝猟犬〟を逆に狩るべく荒地を後にする。
──ST.G.CL. クロムウェルMk.V車内──
八九式を始末してから荒地に急行するクロムウェルと、そのクロムウェルを狩るべく市街地に突入したIV号。
だが、IV号はクロムウェルのおおよその位置を把握しており、その点でIV号は優位にたっているといえた。──だが、ウェールズもそれは把握していた。
「奴さん、そろそろこっちに全速で向かってくる頃だな……少しでも敵の数を減らしたいだろうからな。ローズヒップ」
「なんですの?」
「少し寄り道をしたい。次の交叉点で折れて2ブロック進んでくれ」
「よくわかりませんけど、いいですわよ」
「よし──ダージリン様、こちらウェールズ」
ウェールズがダージリンを呼び出すと、高飛車な声がすぐに応える。
『こちらダージリン。どうかしたの、ウェールズ?』
「今から指示する地点に急行してください。チャーチルの最高速度でも間に合うはずです」
『──なにか名案があるのね?』
「はい。連中をおびき出します」
ダージリンがしばし、沈黙する。GOサインを出してよいものか考えているのだ。
やがて──
『いいわ。やってみましょう』
「ありがとうございます」
作戦が承認された。あとはIV号が罠に掛かるのを待つだけだ……
──大洗学園・IV号D型車内──
「あれ?みぽりん、あれ何?」
通信手としての仕事がなくなり、暇つぶしにハッチから外を見ていた沙織が、何かに気づいた。
「……?煙幕──いや、発煙筒?」
「味方じゃないし、相手戦車が故障したとか?」
沙織がもっともらしいことを言うが、みほは即座にその意見を否定する。
「動けないほどの故障なら揚がるのは白旗だし、小さな故障ならわざわざ発煙筒を焚いて位置をバラすようなことはしないと思うよ」
「じゃあ何だと思う?」
「うーん……十中八、九罠だと思う。さすがに私たちを発煙筒がある位置におびき寄せるためではないだろうけど……」
こちらの残存車輛が八九式やM3のように素人が乗る車輛であればその可能性もありえたが、今残っているのは歴戦の戦車長が乗るIV号だ。そのような浅薄な意図がすぐに看破されることは予測しているだろう。
「でもでも、罠ならその近くに敵がいるってことでしょ?」
「それはそうかも。向こうは私たちを撃破したいわけだし」
「じゃあ近くまで行ってみたらどう?」
「うーん……どうだろう……」
沙織の意見も
「……しょうがないね。このままじっとしていてジリ貧になるのも危険だし、近づいてみて危険そうなら全速離脱するのがいいかも」
「向かうか?」
「うん。BL/54あたりがいいかな」
「──わかった」
麻子の返答とともに、IV号のエンジンが猛り、履帯がアスファルトを蹴る。
「総員警戒!これより敵クロムウェルを叩きます!」
「「「了解!」」」
だが、みほの中では、クロムウェルが焚いたであろう発煙筒のことがどうしても頭から離れなかった。理屈では言いがたいが、どうも
いや、会敵まであと少しだ。雑念は捨てなければ。
「まもなく会敵です!優花里さん、装塡は万が一に備えて早めにお願いします!」
「了解です!」
「華さん、相手の装甲は薄いですから焦らずに!」
「はい!」
IV号が交叉点に差しかかると、角の奥に1輛の戦車が見えた。まだこちらを向いてはいない。
「停止!照準急いで!」
「はい!」
履帯が回転を止め、IV号は地面との間に火花を散らしながら急停車する。華の精確な操作で砲身はまっすぐ敵車輛をむき、照準は敵砲塔を捉えた。──敵戦車が砲塔を旋回させて迎撃しようとするが、遅い。
「撃て!」
ドォンッ、と轟音を響かせ、IV号の75mm砲が火を噴いた。砲弾は狙い過たずクロムウェルの砲塔側面に命中し──クロムウェルから白旗が揚がった。
「装塡急いで!まだ敵がくるかも──」
そこまで言ったところで、みほは突然、言いようのない不安に駆られた。理屈はわからないが、
「全速前進!!照準少し上げて撃て!」
その号令とともに、IV号の履帯がふたたび猛スピードで回転をはじめ、わずかに仰角をとった砲身が再び火を噴く。だが、その車体が動き出す前に、クロムウェルの方から1発の砲弾が飛んできた。
その砲弾はまだ碌に加速していないIV号の車体後部に深々と突き刺さる。なすすべなく動力部を砕かれたIV号は、黒煙をあげながら停止し──白旗を揚げた。
『大洗学園・IV号D型、行動不能──よって、聖グロリアーナ学院の勝利!』
IV号の被撃破を確認した実況席から、高らかに聖グロリアーナ学院の勝利が告げられる。──晴れた煙幕の先には、その砲塔正面に黒く被弾痕をつけたチャーチルが、勝ち誇るように鎮座していた。
◇戦車紹介V:III号突撃砲F型(独)
名前の通り、ドイツ軍のIII号戦車の車体を流用し、その上に固定戦闘室を付けた装甲戦闘車輛。砲塔の廃止による単純化と、低車高による隠蔽性を獲得した。意外にもドイツ軍で最も生産台数の多い装甲戦闘車輛である。
大洗学園が使用しているF型は後期型で、T-34などの新型戦車への対抗策として長砲身75mm砲を搭載した車輛になる。また、ベンチレータ(砲撃時に車内に排気されるガスを排出する機構)を搭載したことで、連続射撃も可能になっていた。
なお、「自走砲」と「突撃砲」は属する兵科の違いによるものなので、機能に差はない。兵科の対立とかどうでもいいから統一しろよめんどくさい。
註:戦車はドイツ語で「パンツァー」とよばれるが、これは「Panzerkampfwagen」つまり「装甲(panzer)戦闘(kampf)車輛(wagen)」の略になる。なのでIII突も「パンツァー」扱いしてよいはずなのだが、III突のドイツ語名は「Sturm(突撃)geschütz(砲) III」になっている。どうしても突撃がいいらしい。
(文・伯林 澪)