大洗に現れた山猫   作:レオパルト

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お久しぶりです、伯林です。
ようやく暇ができたので投稿を再開します。感想などもお寄せ下さればすごく喜びます。


第10話 一難去ってまた一難

──大洗町・発砲禁止区域──

先程まで試合会場としてあらゆる箇所で戦闘が行われていた市街地では、被害がない発砲禁止区域の道路上で、見せしめと言わんばかりの“アレ”が行われていた。その様子を遠巻きながら眺める聖グロの何人かはマイセン焼の高級ティーセットを広げ、優雅にお茶会を開いている。

 

「ウェールズさん……いったいアレはコンプライアンス的に大丈夫なんでしょうか?」

 

と、オレンジペコは紅茶を飲む手を止め、ある意味()()にも近い状況について困惑しながらウェールズに尋ねる。

 

「まあ問題はないんだろう……多分。だが正直──あれだけ挑発したとはいえ、あちらの惨状を見るとさすがに申し訳なくなってきたな……」

 

いくら戦う前に散々煽ったとはいえ、彼とて一人の男子高校生、彼女らの格好と踊りを見ては申し訳なくなるのも仕方がない。

 

「しかし挑発したせいでうちが負けていて、“アレ”をやらされていたらと思うと……寒気がするな」

「いえ──データによれば、ウェールズが挑発しなかったとしても、私たちが大洗に負ける確率はそこまで高くありませんでしたし、あなたの杞憂でしょう」

「そうですわ!私たちのクロムウェルは最後に撃破されましたけれど、結局チャーチルは健在でしたもの!」

「馬鹿言え……あっちは素人なのにこっちのマチルダを2輛も撃破したんだぞ。いいか?()()()()()()()──運が悪かったらこっちが負けていたかもしれないんだ」

 

聖グロは各々の個性が強く、隊長である〝格言嗜癖(マニア)〟ダージリン、彼女の愛犬かつ副隊長の〝猟犬〟ウェールズ、〝スピード狂〟ローズヒップの他にも、〝完全データ主義人間〟アッサムや〝ダージリンの懐刀〟オレンジペコがいる。そしてこのお茶会には、その末席にしれっと参加している他校の男子がいた。

 

「なんというかまあ、予想できた結果ではあるんですが……流石に可哀想ですね……」

 

そう、先程まで大洗の38(t)戦車に乗り聖グロリアーナと戦っていた男、〝山猫(ルクス)〟こと櫻井惟輝その人である。彼は20分ほど前、あんこう踊りが罰ゲームであると知って大洗の集団から脱走し大洗港近辺を彷徨っていた所を、聖グロの面々に誘われて「亡命」していたのだ。

 

「あら、我々が匿っていなければ、今頃櫻井さんは本来あちら側で踊っているはずでは?」

「は、はは……まあいずれにせよ、僕はあとでこってり油を搾られることでしょうね」

 

櫻井が乾いた笑い声を洩らし、ダージリンが悪戯っぽく微笑む。

 

「あとで全員の前で独りあんこう踊りぐらいは覚悟しておいた方がよさそうですわね」

「誰が得するんですかそれは……」

「あら、少しは彼女たちの鬱憤も晴れるでしょう。なにせ一人だけ()()踊りを衆人環視の中踊らなかったんですから」

「ま、まあ、ともあれ──今回は対戦ありがとうございました」

 

櫻井は半ば強引に話を逸らす。今から「独りあんこう踊り」のことなど想像したくもないといった顔だ。

 

「話を逸らしましたわね……まあいいわ。ええ、こちらこそありがとうございました。なかなか楽しめたわ。あれはあなたの指導の賜物かしら?」

「いえ、僕は編入されてからまだ浅いので……みほ──いえ、西住の指導が大きいでしょうね」

「みほさんの……なるほど。それで?全国大会には出場なさるのかしら?」

「さぁ……今は何とも。まだ弱小ですので」

「そう。もし出場なさるなら、また戦う機会があるかもしれませんわね。その時はもっと楽しませてくださいな。いいこと?『犬の喧嘩において体のサイズは必ずしも重要でなく、闘争心のサイズこそが肝心である』のよ」

D(ドワイト).アイゼンハワーですね……ええ、ご期待ください」

 

櫻井が言い終ると、ダージリンは唐突に後ろの籠から箱と手紙を取り出した。箱の正体は、縁が唐草模様で彩られた美麗なラベルに包まれた紅茶(カン)だ。ぱっと見たところ、TWINING(トワイニング)AHMAD(アーマッド)といったブランド名はどこにも見当たらない──自家栽培だろうか。

 

「これをみほさんに渡しておいてくださらないかしら」

「これは────ええ、確かに受け取りました」

「よろしいわ。では仕切り直して、紅茶を一杯いかが?自家栽培の美味しいアッサム・ティーが入っていますのよ」

 

──大洗学園艦・第IV娯楽区画──

さて、親善試合の日の夜――聖グロリアーナのお茶会で優雅に紅茶を飲んでいた時とは打ってかわって、俺はあんこうチームの面々──主に沙織──からきついお叱りをうけていた。

 

「……だからね、いくらダージリンさんに誘われたからって勝手に罰ゲームを抜け出すのは絶対ダメなの!わかった?」

「誠に申し訳ない」

「わかればいいの!──じゃあ、今度みんなの前であんこう踊りね!」

「……は?」

 

どうやらダージリンの冗談が現実となったようだ。沙織が悪戯っぽく笑う横で、みほが苦笑いをしている。──おそらく助けてはくれないだろう。今の俺の顔はさぞかし蒼いにちがいない。

 

「あ、()()衣装もちゃんと着てね♪」

 

途方に暮れる俺の精神に、()()()と沙織がトドメを刺した。俺は必死に頭を廻し、この場から逃れる方法を探す。──と、俺は自分の手提げ鞄から覗く罐に気がついた。

 

「……そうだ、そういえばダージリンからこんなものを預かっていてな」

 

そう言って俺はみほに手紙と紅茶罐を渡す。全員の視線がいい具合にみほの方に誘導され、彼女のもつ紅茶罐に視線が集まる。

 

「これ、は──」

「西住殿!それは聖グロリアーナが好敵手と認めた相手だけに贈るといわれる紅茶では!?」

「「えっ!?」」

 

みほが絶句するなか、優花里が興奮気味に解説を挟み、華と沙織が驚愕をあらわにする。当然と言えば当然だ――結成から間もない弱小チームに天下の聖グロが「紅茶罐」を渡すなど、古今未曾有のことなのだから。

 

「幸先がいいな。チームの士気も上がること請け合いだ――」

 

そこまで言って、俺の口は()()と動くのをやめる。

曇った俺の顔を皆が一斉に見つめ、何事かと眉をひそめる。

 

「あの……櫻井殿?どうかしましたか?」

「い、いや――なんでもない。少し考え事をしていただけだ」

 

そう言って、俺は平静を装う。だが、俺の長年の勘がけたたましく警鐘を鳴らしていた。

──()()()()()()()

出来のわるいB級ファンタジー小説でもあるまいし、こうトントン拍子に事が進むのは()()()()()()――これはいわば()()()()にも似た……なにか不吉な出来事の前触れではないのか?

いや、よそう。昔からの悪い癖だ──良いことが続くと、その()()()()()が来るものと半自動的に思ってしまう。さいわい今は何も悪いことは起きていない。素直にこの時を楽しもうじゃないか……




※筆者が現時点で書く気をなくしているので「戦車紹介」はお休みです。気が向いたら追加しますが期待はしないでください。
※また、レオパルトさんから修正依頼が入ったので後半部分削除・改変および第11話削除を行いました。
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