大洗に現れた山猫   作:レオパルト

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はじめまして、銀乌と申します(こんな名前してますが純然たる日本人です)。第二話は私による代理投稿となります。

......「何で日本人なのに簡体字を使うのか」ですって?
もう「銀烏」は使われていたんです(泣)


第2話 紅茶の国から

「そういえばさー」

「どうしたの、沙織さん?」

「さっきから2人で彼のこと〝櫻井くん〟って呼んでるけどさ、ウチにそんな名前の子いたっけ?」

「あー……うん、説明してなかったよね。──えっとね、櫻井君は大洗に偽名で転校してきてたの。経緯は知らないけど……」

 

まずい事になった。この流れだと、俺が偽名で転校した理由を根掘り葉掘り聞かれる羽目になる。仕方ない、話題を逸らすか。

 

「……ともかくだ、今のこの学校にある車輛は?一応把握しておきたい」

 

俺は咳払いをして話題を逸らした。幸いにも、誰も話題転換を気にはしていないようだ。

 

「私たちが乗ってるIV号D型とさっき撃ち合ってたIII突、あとは生徒会の人達が乗ってる38(t)、バレー部の人達が乗ってる八九式、あとは一年生チームが乗ってるM3の5輛だよ」

「ところで、明日初めての対外試合があるんですが……櫻井殿に出ていただくなら、新しい車輛を見つけないといけませんね」

「そうそう、たしか生徒会の人が相手の学校を決めてるはずだよね。えっと、相手は──うーん、(セント)グロリアーナかぁ……」

 

みほがタブレット端末の画面を数回叩き、相手校の情報を呼び出す。そして、その校名を口に出した途端、彼女の顔が曇る。

おそらく、彼女の懸念(けねん)対象は敵隊長車──チャーチルMk.VIIの事だろう。

 

「随分強いとこに当たったね……チャーチルが相手じゃまともに戦えないかも」

「いや、希望がゼロという訳じゃない。一応、III突の75mm砲ならギリギリ側面を貫通できるはずだ」

「それは、たしかにそうなんだけど……」

 

そう言いながら、みほは件のIII突を見やる。なるほど、ド派手な塗装の上にカラフルな(のぼり)が何本も立ててある。これでは狙撃も何もあったもんじゃない。

 

「あー……言いたいことは分かった。多分、この塗装だったら速攻で発見されるだろうな」

 

その時、嫌な予感が頭をよぎったので念の為聞いてみた。

 

「なぁ西住、まさかさっき言った他の車輛もあんな感じなのか?」

「まあ……個性だからね?」

「詳しく教えてくれ」

「えっとね……38(t)は金ピカ、M3はショッキングピンク。八九式はオリーヴ色塗装にバレー部復活とかって大書きしてあるよ」

「八九式とIV号以外は酷いもんだな…….」

「まあでもほら、親善試合だし!最初はみんなで楽しめる方がいいんじゃない?」

 

沙織さんと呼ばれていた娘が割って入る。

 

「まあ、そうだな。見た感じ全員初心者だし、実戦練習を優先した方がいいな」

 

無駄な軋轢を生まないよう、俺は今回だけは譲歩することにした。

 

 

──翌日・大洗町──

「ダージリン様、今回対戦する大洗学園というのは、その……名前も聞いたことのない高校なのですが、なぜ親善試合を承諾なさったんですか?」

「ペコ、こんな格言を知ってる?〝L'homme c'est rien, l'œuvre c'est tout(人は虚しく、業績こそ全てだ)〟」

(ギュスターヴ).フロウベールですね」

「そう。戦車道において、名門校かどうかは必ずしも重要ではないのよ」

「はぁ……」

 

(セント)グロリアーナ学院の学園艦は大洗学園との試合のために現在、大洗港に碇泊し、戦車の陸揚げをしている。しかし、(セント)グロリアーナの隊長ことダージリンは、試合の時刻が近づいているにもかかわらず、中々試合会場に向かわない。それどころか大洗の街を呑気に散策しているのだ。──そんな彼女を追いかけるように、一人の男子生徒が彼女の後ろから駈けてきた。

 

「ダージリン様、そろそろ試合の開始時刻です。お戻りになられた方がよろしいかと」

「あら、ウェールズ。あなたが街の地理を把握しておきたいと言ったのよ?」

「それは仰る通りですが、それは別にダージリン様がついてこられる必要はなかったのでは?」

「隊長である私が街の地理を把握するのが何かおかしいかしら?ここは初めて戦う場所、しかも相手のホームグラウンドよ。地の利は相手にあるし、この差を埋めるための街歩きなら、私がここにいるのも当然のことよ」

「では、なぜ勝手に横道に逸れて神社にお参りなさったのですか?おかげで街中探し回る羽目になりましたよ」

 

(セント)グロリアーナの学園艦がこの町に到着してかなり経つが、その間に彼女達は大洗にある大洗磯前神社にお参りしていたのだ。そしてその後、街の地理を把握するためと称して、ウェールズと呼ばれた男子生徒と街歩きをしていた。

 

「みんな行ってみたかったんだって。それに、"恋愛と戦争においては全ての手段が正当化される"のよ?さっきの神社は確か、縁結びの神社だと聞いたけど」

「……ダージリン様、流石にこれ以上はまずいので試合会場に向かいますよ。そもそもダージリン様、恋愛経験はおありなのですか?」

「あらウェールズ、今なんと言ったのかしら?──返答次第では今度、ローズヒップのクルセイダーに跨乗(タンクデサント)させてあげても良くてよ」

 

痺れを切らして皮肉交じりの提言をした男子生徒──ウェールズに、ダージリンが笑顔のままサラッと恐ろしげな事を言う。

 

「いえ、その……何でもございません」

Very Well(大変結構)。さ、戻るわよ」

 

そう言うと彼女は踵を返し、試合会場の方角へと歩きはじめた。

 

 

──親善試合会場──

「なあ西住、これかなり不利じゃないか?」

 

目の前に並ぶ5輛の戦車を見ながら、西住に話しかける。相手は強豪校の(セント)グロアーナ学院だ。当然、戦車の塗装は戦時中のパターンを利用しているし、整備も行き届いている。対してこちらは派手な塗装に初心者揃いの上、一部の戦車は整備が完全に終わっていない。

 

「そ、そうだね。でも今回は親善試合だから勝ち負けより経験だと思う」

「そうだよ!でも、そう簡単に負ける訳にはいかないんだから!あ、向こうの人達が来たよ!」

 

武部が指さす方向には、今回の対戦相手の聖グロの隊長と副隊長と思しき男女が歩いて来る。

 

「ちょっと待ってみぽりん!男の人だよ!男の人!」

「沙織さん、落ち着いて……」

 

西住の制止も空しく、初めて見る他校の男子生徒に興奮する武部は、抑えられない様子で飛び出して行った。そして男女と何やら談笑しながらこちらに向かってくる。

 

「はじめまして!グロリアーナの隊長さんと副隊長さん!今日の対戦相手の大洗学園の武部沙織って言います!」

「あら、ごきげんよう。(セント)グロリアーナ学院の隊長のダージリンと申します。彼は同じく副隊長を務めているウェールズ、私の愛犬ですわ」

「あ、愛犬……ですか?」

 

唐突の発言に戸惑いを隠せていない武部を尻目に二人の発言は続く。

 

「ダージリン様、流石にそれは引かれるのでやめて欲しいのですが……」

「あらウェールズ、あなた"グロリアーナの猟犬"の愛称で通っているのでしょう?なら犬繋がりでいいじゃありませんの」

「あのー……」

 

軽い言葉の応酬をしている二人にオドオドと話しかける西住を横目に、俺は二人の乗るであろう戦車を特定すべく思考を(めぐ)らす。幸いにも、俺の方に注意は向いていないようだ。

 

「あら、そちらは大洗の隊長さん?」

「に、西住みほと申します!今日はよろしくお願いします!」

「あら、西住……あのまほさんの妹さん?それにそこの殿方は櫻井さんではないかしら?」

 

早速気づかれた。

 

「あ、そうですね。お久しぶりです。あの時は折角のお誘いをお断りして申し訳ありませんでした」

「気にしてないわ、貴方の選択ですもの。それに横にいる「猟犬」も手に入りましたし」

「……それならまあ、許容範囲でしょう。おっと、それはそうと……」

 

ウェールズがなにやら皮肉っぽい笑みを浮かべて口を(はさ)む。

 

「あなた方の戦車は、何といいますか……随分と"個性的"ですね」

 

先程まで空気だった"名誉"副隊長の河嶋が、癪に触ったようで吠えるように言い返す。ウェールズの貼り付けたような笑みが引き()った。

 

「貴様らこそ我々を馬鹿にしていると、足元を(すく)われるかもしれんぞ!覚悟しておけ!」

「おやおや、手厳しいですね。しかし──我々にそこまでの啖呵(たんか)を切るということは、それ相応の試合を期待してもよろしいのですね?」

「何だとおっ!?どういう事だ!」

 

河嶋副会長が激昂(げっこう)するが、ウェールズはいっこうに意に介さない。

 

「まぁまぁウェールズ、その辺になさい。あまり対戦相手を挑発しては、騎士道精神(シヴァルリ)に反するわよ」

「……それもそうですね。では後ほど」

 

そう言うと、ダージリンとウェールズは自らの戦車に引き返していく。──なるほど、ウェールズの搭乗車はクロムウェルか。あの速度を活かされたらかなり厄介だな……

 

「各員、準備はよろしいですか?」

「はい!」

「こちらもよろしいですわ」

「それでは、大洗学園対(セント)グロリアーナ学院、試合──開始!」

 

試合開始を告げる号砲が高らかに鳴り響き、対(セント)グロリアーナ戦の火蓋が切って落とされた。

 

[To be Continued]




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