大洗に現れた山猫   作:レオパルト

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どうも、最近万年筆熱が再燃してきた銀乌……もとい銀扇(ぎんせん)です。旧い物っていいですよね。特に万年筆とかタイプライターとか。


第4話 零距離の敵

──大洗学園・38(t)車内──

「あー、西住?少し良いか?」

『はい、どうしたんですか?』

「それがなぁ、どうもあいつら──」

 

そこまで言ったとき、無線機から妙な音がしたと思うと、音声がぷつりと切れてしまった。代わりに、ザーザーという砂嵐の音がスピーカーから流れ出す。

修理したいところだが、生憎俺は電子工学が大の苦手だ。あのチートじみた能力をもつ自動車部なら話は別だろうが……

 

「チッ……緊急連絡だったんだがな」

「どうかしたのか、櫻井?」

 

舌打ちをしながら愚痴を垂れる俺に、河嶋が片眼鏡(モノクル)を押し上げながら訊く。どうやら()()には気づいていないようだ。

 

「はい、先ほどから小さく走行音が聞こえます。ウチの本隊は停止しているはずですから、敵が奇襲を仕掛けるために遊軍を設置している可能性が高いです」

「そうか?ただはぐれただけという可能性も──」

「いえ、我々ならともかく──あの聖グロがそのような失態を犯すとはとてもとても」

「そうか……」

「IV号に伝えようと思ったのですが、間が悪く無線機が故障しまして……」

「代替手段はないのか?」

「一応、発煙筒や信号弾の類はありますが、ここで使うと自分の位置を自ら敵に知らせることになります。自殺行為です」

 

河嶋が困ったように黙りこくる。──無線機がお釈迦になっている以上、本隊との連携はまず不可能だが、幸いこの38(t)は快速な方だ。本隊に近づきつつある敵遊軍を誘導することぐらいなら何とかなるだろう。

 

「小山先輩、我々の現在位置は?」

「えっと……BQ/77だね。もうすぐIV号に合流できるけど、どうする?」

 

先の走行音は──南西からか。このまま一ブロック直進すれば、本隊との間に割り込めるだろう。

運がよければ、本隊が見つかる前に。

 

「いえ、そのまま直進してください。附近にいる敵遊軍を叩きます」

「了解!」

 

元気な返事と共に、38(t)は矢のように飛び出した。そのまま直進し、舗装の荒い道路を飛ばす。

戦術マップと照らし合わせると、現在地はBP/77──よし、間に合った。

右側を見やると、IV号のキューポラで、みほが驚いたような顔をしている。だが、説明に割く時間はない。

 

「走行音は──前か。小山先輩、僕が指示をしたら、右に折れてください」

 

そう指示をしておいて、俺は万が一のために用意していた、高輝度LEDトーチを取り出した。あの中の一人くらいはモールス信号くらい理解できるだろう。

 

〈──R-E-P-O-R-T(連絡)

〈──O-U-R/R-A-D-I-O(我が方の無)/H-A-S/B-R-O-K-E-N(線機が故障)

 

──大洗学園・IV号D型車内──

「モールス信号です!どれどれ……『Report: Our radio has broken』──無線機が故障したみたいですね」

「よくわかったね、優花里さん……」

「それはもちろん、英文と和文モールスは頭に叩き込んであります!ええと、返事は……どうします?」

「了解、っていうのと──頑張って、って」

 

少しして、IV号の砲塔横からライトが突き出され、返事が送られた。

 

〈──R-O-G-E-R(了解)

〈──C-R-U-S-H/’-E-M/A-L-L(全員ぶっ壊せ)

 

──大洗学園・38(t)車内──

「『Crush 'em all』、か……無茶をおっしゃる」

「しかし、一輛くらいなら吹っ飛ばせるぞ……多分な」

 

河嶋が若干自信無さげに言うが、俺たちの本懐は撃破ではなく、誘導だ。要は本隊を発見される前に、別の方向へ誘導できればいい。

 

「桃ちゃん、もし相手がチャーチルだったらどうするの?」

「う……いや、流石にそれはないだろう。櫻井、どう思う?」

「ないと思いますね。チャーチルはただでさえ鈍足ですから、中・軽戦車に回り込まれると終わりです。少なくとも孤立して遊軍化はしないかと」

「となれば、さっきのクロムウェルか、マチルダか……」

 

と、聞こえてくるエンジン音がだんだん大きくなってきた。

 

()っ……敵です。恐らくはマチルダでしょうから、後部装甲板なら抜けるはずです。僕の合図で飛び出してください」

「了解。その後で後ろに回ればいいのよね?」

「はい。河嶋先輩は砲撃をお願いします」

 

停車している38(t)のプラガ社製6気筒液冷エンジンがドロドロと低い音で唸り、周囲の空気を震わせる。それと重なるように、敵のエンジン音がだんだんと大きくなり──その影が交叉点の端に見えた。

 

「今です!」

 

俺の声を合図に、38(t)は砲塔を90度旋回させたまま飛び出した。小山先輩が巧みな操縦で素早くマチルダの後ろに回る。

──(ゼロ)距離だ。

そして──38(t)の3.7cm砲が火を噴いた。

外しようのない距離で後部装甲板への一撃。

 

だが────

 

「桃ちゃん、ここで外す……?」

 

ああそうだとも、俺が撃破を確信したせいで、装填作業を遅らせてしまったのは確かに事実だ。

だが、これは──これは流石にないだろう!?

(ゼロ)距離で、砲塔旋回の(のろ)い相手に、充分な照準時間が取れたにもかかわらず──外すだと!?

 

「と、とにかく退避を!──あれ?」

 

小山先輩が慌てて後退しようとするが、民家の塀に派手に突っ込んだせいで、38(t)はなかなか動かない。

125馬力のエンジンを一杯にふかし、数秒後に塀から抜け出した時には、マチルダの砲塔は完全にこちらを向いていた。

 

Scheiße(クソッ)!せめて情報だけでも……」

 

再装填が間に合わないと考えた俺は、キューポラから体を乗り出し、信号弾を水平に撃った。

そしてその直後──38(t)の車体は、マチルダの発射した2(ポンド)砲弾に盛大に揺すられる羽目になった。

ドォンッという轟音と共に撃破判定が下され、天板から白旗が揚がる。

 

「あーあ、やられちゃったねー。どんまい」

 

今まで干し芋をぱくついていた会長が呑気に言う。一体この人は何のために乗っているのだろうか……

いや、そんな事はどうでもいい。ただ一つ確実なのは、この弩級の無能砲手をどうにかしない限り、この戦車は「走るブリキの棺桶」以上の存在にはなれないということだ。

何とかせねば。

 

──黒森峰学園・Fw-200客室(キャビン)内──

「……む?」

「あっ」

 

白熱電球が2つ点いているだけの(ほの)暗い客室(キャビン)の中で床を覗き込んでいた二人が、同時に声を上げた。二人とも驚愕の表情を浮かべている。

 

「隊長、今のは……(ゼロ)距離射撃でしたよね?」

「そうだ。そして照準時間も十分あり、砲身もマチルダの砲塔にしっかり向いていた。向いていたのだが……」

「盛大に外しましたよね……」

 

まほが途中で絶句しているところを、赤星が引き取って言う。

事実、38(t)が撃った砲弾は、奇蹟的ともいうべき外れ方をしていた。むろん、砲身が曲がっていた訳ではない。

河嶋の技倆(ぎりょう)が、おそろしく──致命的なまでに、低かったのだ。




◇戦車紹介I:IV号戦車D型(独)
みほ達が最初に発見した車輛。第三帝国(ドリッテスライヒ)のその最期まで、ドイツ陸軍(ヴェーアマハト)の主力を担っていた戦車である。
当時としては大口径の7.5 cm KwK 37(短砲身)を装備していた。
本来はIII号戦車の支援用として設計されたが、余裕のある堅牢な設計と度重なる改良により、T-34ショックをも乗り越える主力戦車となった。
D型が短砲身の砲を装備していた理由は、本来の使用目的が榴弾による歩兵支援だったため。
お察しの通り、短砲身では対戦車砲としてはかなり心許なく、歩兵がいない戦車道では文字通り無用の長物(短物?)と化しかねない。八九式やチハタン(ペラペラ装甲)もいるから断言はできかねるが。
余談だが、ドイツにおいて、砲の口径はcm表記であり、mm表記の欧米や日本とは異なる。
(文・伯林 澪)
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