大洗に現れた山猫   作:レオパルト

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どうもお久しぶりです。最近ようやく漢検準一級に合格しました、銀扇──もとい「伯林 澪」でございます。ペンネームがコロコロ変わるのもこれで最後だと思います。
後書きの「戦車解説」には今後「航空機解説」も掲載致します(私の趣味です)。


第6話 劣勢火力

──大洗町・BP/33地点──

三叉路の先に、一輌の車輛が鎮座している。大洗学園のⅢ号突撃砲F型だ。

その暗い砲口の先には、敵車輛の影があった。──75mm砲の砲身がわずかに右に動き、獲物を待ち構える。

 

 

「まもなく三叉路です!」

「注意しろ──敵戦車がいるかもしれん」

「了解……時速7kmまで減速します」

 

あれほど自信満々だったマチルダの車長は、ここに来て自らの愚策を後悔しはじめていた。

 

((まず)いぞ……たしか大洗はⅢ突を保有していたな──あいつに撃たれればいかな重装甲の我々とて危うい……しかし──ここで臆したとあっては車長の名折れだ)

 

しかし、またもや彼女の自尊心が──いや、保身欲というべきか──が、正しい判断に蓋をした。だが、腐っても聖グロリアーナ学園の戦車道チーム、ただ阿呆のように直進するだけではなかった。

 

「砲塔旋回、左三五度!三叉路には斜めに進入する!時速3㎞まで減速!──射撃準備!」

「「「了解(ヤー)!」」」

 

──三叉路へ斜めに進入することで実質的な装甲厚を増し、敵が見えた瞬間に鉛弾を射ち込む算段だ。

 

「BP/33地点まで20……15m……10m……5m──」

「総員、警戒!──砲手、自由射撃を許可!」

「了解!」

 

時速3㎞という亀のような鈍足で進むマチルダが、III突の待ち構える三叉路にじり、じりと迫る。──誰もいないに越したことはないが、ほぼ確実に誰かがいる。誰かがいなくとも、何かがある。相手は腐っても戦車道経験者だ、警戒してし過ぎることはない……

 

「BP/33地点まで2……1……0!」

「「「……!」」」

 

マチルダが三叉路に入った瞬間──ドンッ、と腹に響く砲声がした。待ち伏せしていたIII突の砲撃だ。

だが、ド素人の撃った弾はマチルダを撃破するには至らず、左の履帯を破壊するにとどまった。

 

Sheiße(シャイセ)!──装塡急げ!」

 

III突の車長──エルヴィンが吼えるが、もう遅い。装塡を終えたマチルダは既に、履帯破損で生じた誤差を修正し終えていた。

 

()ッ!」

 

マチルダの車長が高らかにそう号令した──次の瞬間。

ガチャンッ、という金属音と共に、マチルダが左に少し傾いた。

だが、引かれた引金はその任務を忠実に遂行し──マチルダの2(ポンド)砲はズレた照準のまま、その40mm砲弾を勢いよく撃ち出した。

果たして──マチルダの放った砲弾は、III突に命中こそしたものの、急角度の上方装甲板に当たって跳弾し、「誠」の幟を倒すことしかできなかった。

 

「ッ!──外した!次弾装塡!急げ(ハリー)!」

「天祐だ!敵は外したぞ!」

 

マチルダの車長とエルヴィンが同時に叫ぶ。だが、口径の大きいIII突と異なり、マチルダが再装塡に要する時間はかなり短い。双方の再装塡が終わったのは、ほぼ同時だった。

 

Fire(ファイア)!」

Feuer(フォイア)!」

 

ドドンッ、と連続する2発の砲声。続いてマチルダから──パシュン、と白旗が揚がる音がした。

III突の75mm砲弾はマチルダの左側面中央を貫通していた。実弾なら乗員は全員お陀仏だ。

 

「やったぞ!」

「うむ、大戦果でござる」

「一時はどうなることかと……」

 

歴女チームが安堵して盛り上がる中、操縦手──お龍が、浮かない顔をして口を開いた。

 

「いや、皆の衆……我らは勝利してはおらんぜよ」

「うむ?」

「どういう事だ?」

 

皆が怪訝そうにする中、お龍は黙って計器盤を指さした。自動車部が新設した車体状況の表示器に、赤いランプが一つ、点灯している。その下に書かれた文字は──「ENGINE」。

 

「エンジンをやられたぜよ」

 

実戦であれば、エンジンが故障しても死にはしない。だが、これは「戦車道」だ。

エンジン故障、すなわち「行動不能」は──「競技続行不能」と見なされるのである。

一同が茫然自失とする中、ようやく「撃破」判定を下した判定装置が、パシュン、という気の抜けた音と共に白旗を揚げた。

 

──大洗学園・IV号D型車内──

 

『すまん、マチルダは仕留めたがこちらも撃破された!申し訳ない……』

 

ガ、ガッというノイズに交じって、エルヴィンの意気消沈した声がIV号に届く。これで被撃破数は──2輛。

歴戦の搭乗員が乗った38(t)と、チャーチルを撃破可能なIII突──この2輛の損失は、大洗学園チームにとって中々の痛手だった。

だが、みほはその思考を押しやり、III突に労いの言葉を掛ける。

 

「了解しました。カバさんチームの皆さん、お疲れ様です。後は私たちに任せてください!」

Jawohl(ヤヴォール)……すまない、火力要員の我々が……』

「気になさらないでください──今はまだ、練習試合ですから。本番までに強くなったらいいだけです」

『わかった……幸運を祈る』

 

無線が切れると、周囲はふたたびエンジンの駆動音とキャタピラ音だけになった。

そして──勝利するヴィジョンは、もはやほとんど見えなくなっていた。




◇航空機紹介I:フォッケ・ウルフ Fw-200 〝コンドル〟(独)
名レシプロ戦闘機「Ta-152」を設計したことでも知られるクルト=タンク技師がルフトハンザ航空用に設計した、〝大西洋の疫病神〟の異名をもつ第三帝国空軍(ルフトバッフェ)の哨戒爆撃機。
Uボートと連携することで、連合軍艦船の攻撃において多大な戦果を挙げた。
だが、ベースが旅客機ということもあり、急機動をした際にしばしば空中分解することもあった。更に、「CAMシップ」の導入など連合軍の邀撃技術の向上により任務の遂行が困難となり、その主任務は紹介爆撃から輸送へと変わっていった。
なお、試作機の3機目「Fw-200 V3」は、〝インメルマン〟の名を冠してヒトラー総統専用機となったことで知られている。(文・伯林 澪)

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