大洗に現れた山猫   作:レオパルト

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どうもお久しぶりです。伯林 澪です。
今回は会話少なめです。次話で補うので乞うご期待。


第7話 蟷螂之斧

──試合会場・観客席──

『聖グロリアーナ学院・マチルダMk.IIおよび大洗学園・III号突撃砲F型、行動不能』

 

淡々とした放送がさきの戦闘結果を読み上げる。

列車砲を模した実況ディスプレイには、現在の残存車輛が表示されていた。──大洗学園はIV号と八九式のみ。聖グロリアーナ学院は超重装甲のチャーチルに〝猟犬〟が健在のクロムウェル、さらに取り巻きとはいえこちらも重装甲のマチルダが各1輛。唯一飛びぬけた火力をもっていたIII突とM3が撃破された今、敵フラッグ車の装甲を何とか貫徹できそうな車輛はIV号だけであった。

お世辞にもよい状況とはいえず、大洗学園側の観衆から焦燥の交じった声が上がる。いよいよ聖グロリアーナの蹂躙劇を確信し、席を立つ者までちらほら現れる始末だった。

反面、大洗が意地をみせてマチルダ2輛の撃破に成功したことに触発され、大洗の応援をはじめる観客も現れていた。──なにせ地元の高校が強豪校の呼び名も高い聖グロの喉元にその刃を突き立てつつあるのだ、逆転勝利の夢を見たくなるのも道理だった。

威風堂々と戦場を闊歩するチャーチルと、縦横無尽に戦場を駆け回るクロムウェルという組み合わせは、新人揃いの大洗学園チームには難敵中の難敵といえたのである。

だが、まだ大洗学園のフラッグ車は健在だ──今のところは。

 

──大洗学園・IV号D型車内──

「任せてください、とは言ったものの……これはかなり厳しいよね……」

 

みほが唸るのも当然だった。八九式の豆鉄砲ではチャーチルはおろかマチルダにすら歯がたたず、IV号は大口径砲こそ搭載しているものの、短砲身のせいで精度は当てにならない。

──つまり、実質的にIV号が接近してタイマンを張るしか勝ち筋が無くなっていたのだ。さらに、III突が撃ち損じたマチルダ2輛がBP/33地点から追いすがってくるという非常に嬉しくないオマケまで付いてきている。

 

「私たちの火力を考えると、IV号が邪魔の入らない状況でチャーチルと1対1で戦える環境が必要になるから……IV号の機動性を活かせるある程度の広さと障害物を兼ね備えた場所が必要……そうだ!」

「西住殿、なにか妙案が!?」

「うん。妙案ってほどじゃないけど……ここからしばらく進んで西側に折れたら──CA/12あたりに障害物多めの広い荒地があるでしょ?そこでアヒルさんにクロムウェルを引き付けてもらって、うまいことチャーチルだけ誘い出せたら……」

「マチルダはどうしましょう?」

 

眼を輝かせる優花里を尻目に、華が痛いところを突く。みほは半笑いで返すことしかできなかった。

 

「あ、あはは……さすがにアヒルさんにマチルダまで何とかしてとは言えないからね……最悪、相手チームの中に飛び込んで乱戦にするしかないんだよね。味方を誤射するかも知れないなら撃ちにくいだろうし」

 

じっさい、彼我の戦力差がここまで大きくなければ、別の戦法をとることもできた。だが、こちらの車輛数が2輛にまで減ってしまった今、リスクを気にしていられるほどの余裕はもはやなかった。

だが、勝機がゼロというわけではない。鈍足の敵軍をうまく攪乱することができれば、チャーチルの背面なり側面なりに砲弾を叩きこむことができるかもしれないのだ。

 

──ST.G.CL. クロムウェルMk.V車内──

『ねえウェールズ、こんな格言を知ってる?“敵には、手加減せず致命傷を与えよ”』

 

駆動音がガタガタと響くクロムウェルの車内に、気取ったようなダージリンの声が響く。だが、「ダージリンの猟犬」ことウェールズは浮かない顔をしていた。

 

N(ニッコロ).マキャヴェリですね……ダージリン様、格言蘊蓄の披露は後にして頂けますか?今はIV号の追跡で忙しいので」

『あらウェールズ、どんな状況でも優雅に戦うのが聖グロリアーナの戦車道よ?』

「左様でございますか……ところで、敵には“手加減せず致命傷を与える”のではありませんでしたか?格言の講義をしながらでは全力は出せませんよ」

 

ウェールズが反駁した途端、無線機の向こうが静かになった。――しばらくして、溜息の後に紅茶を啜るような音が聞こえてきた……どうやら誤魔化したようだ。

しかし、特に全力を出さずとも、IV号を見つけることはそう難しくはなかった。というのも――

 

「敵IV号および八九式発見。座標CC/25」

 

――クロムウェルはIV号の1.5倍近い速度で走行することができるからだ。

 

「――攻撃しますか?ダージリン様」

 

──試合会場附近・退場者待機所A──

畜生め(フェアダムト)……分が悪すぎる」

 

大洗の戦車はどれも、校内を漁って探し出した車輛ばかりだ。それが悪いとは言わないが、「掘り出し物」で戦車道チームを構成するというのは一種の()()だ。運が向いていればパンターやティーガー、M26やT-34/85ぐらいは見つかるかも知れない。だが、下手をすれば「菱形戦車」なる鈍足乗員燻製器で戦う羽目になるかもしれない。戦車の黎明期ならともかく、シャーマン以上の車輛がうようよしている中に飛び出せばただの的以外の何物でもない。

 

聖グロの残存車輛はクロムウェルを除き全車が重装甲。ひるがえって大洗の残存車輛で唯一まともな火力をもつIV号の砲身はというと……「対歩兵戦闘において榴弾を発射するために設計された短砲身砲」だ。精度はいうに及ばず、チャーチルからすれば豆鉄砲同然の火力しか持ち合わせていない。

さらにまずいことに、敵唯一の快速戦車・クロムウェルがIV号を発見したらしい。ついさっきまでは最高速でかっ飛ばしていたのにもかかわらず、今はIV号とほぼ同じ速度で走行している。




◇戦車紹介III:マチルダMk.III/IV(英)
原作でも本作でもロクな活躍をしていないマチルダだが、史実においてはかなり毀誉褒貶の激しい戦車となっている。
というのも、マチルダは「重装甲で敵の砲弾は弾き返すが、徹甲弾しか撃てないため敵歩兵の掃討力に欠ける」戦車だったからだ。
マチルダやチャーチルは「歩兵戦車」であり、歩兵に随伴して敵を蹴散らす役割をもつ。そのため、「①重装甲であること・②榴弾が発射可能なこと」が求められた。だが、マチルダは①しか満たしていなかったのだ。
しかし、敵であるドイツ軍にとってはその重装甲はある程度の脅威であり、一時期は8.8cm対空砲(アハトアハト)を水平射撃してやっと撃破していたほどだった。(文・伯林 澪)
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