富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について 作:RKC
小学校の一室。そこでは作文の授業が行われていた。作文のテーマは「将来の夢」。
「じゃあ次は〇〇ちゃん!」
「はい!」
呼ばれて立ち上がった女の子はウマ娘。
「私の将来の夢は、トレセン学園に入ってダービーウマ娘になる事です!」
ダービーウマ娘。その栄誉は一年に一人しか
そんな夢を声高々に語る彼女の将来。現実に絶望し諦めてしまうのか、それとも挫折と苦悩を乗り越え栄光を手にするのか。今はまだ分からない。しかし、無垢な子供らしい希望に溢れる作文は100点満点と言えるだろう。
「良い作文だったわよ。じゃあ次はグリードちゃん!」
「はい!」
続いて立ち上がった女の子もウマ娘。彼女の名前はスーパーグリード。
グリードは長い栗毛の髪をツインテールに纏めている。前髪は短く、おでこが出ているので、見る者に活発な印象を与える。
「私の夢はトレセン学園に入って日本一のウマ娘になる事です!」
日本一のウマ娘。やや抽象的だが、ダービーウマ娘よりも敷居の高い夢と言えるだろう。彼女も子供らしく大きな夢を作文にしたようだ。
「日本一のウマ娘になってお金もたくさん、賞賛もたくさん! ガッポガッポのウッハウッハになりたいです! この世は富! 名声! 力です!」
…………その動機はいささか子供らしさに欠けていたが。
(スーパーグリード)
まだ日が昇りかけの頃。私はトレセン学園の校門前に立っていた。
ここが中央トレセン学園……。うぅ~、興奮しすぎて早くに目が覚めちゃったよ……。
今日が入学式の日だというのに辺りには誰もいない。まぁ、今の時刻は5時半なので当然と言えば当然か。
無人の校門という非日常感。加えてトレセン学園は私の夢を叶えるためにどうしても入りたかった学園。瞳をキラキラ、胸を高鳴らせながら大きな一歩で校門をくぐる。
「……っしゃー! ここから私のスター街道が始まるってわけ!」
なんて言いながら歩みを進めると、大きな女神像の前まで来た。
三女神像。う~ん、信心深い方ではないけど今はテンションブチアゲだし、ここは一発祈っときますか。
「三女神様! どうか私をレースで勝たせてください! レースで勝ってチヤホヤされて、SNSのフォロワーも10万人突破して、道を歩くだけで通行人に声を掛けられるぐらい有名になりたいです! ついでに賞金で一生働かなくても良いぐらいお金を稼ぎたいです! 税金はくたばれ!!」
「あ“ァ”!? うっせェぞ!!」
私が学園中に響き渡ろうかという大声で祈りを捧げていると、近くにあるベンチに座っていた黒髪のウマ娘が、ドスの利いた声で文句を言ってきた。浮かれていた私は彼女の存在に今まで気づけなかったようだ。
「あ、ごめんごめん。ちょっと騒がしかった?」
「ちょっとどころじゃねェ。耳栓が役に立たなかったのは今日が初めてだぞ……。とにかく、朝ッぱらからやかましいンだよ! 静かにしやがれ!」
目つきの悪い黒髪のウマ娘は再びウマ娘用の耳栓をして、液晶タブレットを触り始める。
制服が新品っぽい……新入生かな? なら仲良くなっておかなくちゃ。もしかしたら同じクラスになるかもしれないんだし。
そう思った私は黒髪のウマ娘から耳栓を抜き取り、挨拶をする。
「君も多分新入生だよね? 名前は? 私、スーパーグリードって言うんだけど。あ、スーパーでもグリードでも好きな方で呼んで良いよ」
「ンだよ! 俺に関わるな! めんどくせェ……!」
黒髪のウマ娘は私から耳栓を取り返そうとするが、今この場にはこの娘しか話し相手がいない。だから付き合ってもらおう。私はこうと決めたらかなり強引なのだ。
「名前は?」
「――チッ、……エアシャカール」
頑なな私の態度に根負けしたのか、舌打ちをしながらも黒髪のウマ娘は名乗ってくれた。そして“これで良いだろ”と言わんばかりの顔で私に手を伸ばす。
しかし、耳栓を返すつもりはまだない。
「エアシャカールか……じゃあシャカだね」
シャカール、シャカ、釈迦。うん、なんだかとても高尚な響きになった。
「シャカはどうしてこんな朝早くからトレセン学園に来てんの?」
「……はぁ~~~……、チームの朝練見に来たんだよ。どこに所属するかを決めるのにトレセン学園のホームページだけじゃデータが足りねぇ」
シャカは大きなため息をかました後、ようやく私と話してくれる気になったらしい。
「へぇ~、シャカは真面目なんだね。私は手持ち無沙汰で来ちゃっただけだからなぁ……。ん? 何その荷物?」
シャカの横に置いてある鞄。チャックが空いており、そこからはノートパソコンが顔をのぞかせていた。
「あ、ノートパソコン! タブレット持ってるのにどうしてパソコンまで持ってるの? しかもステッカーいっぱい。小学生のゲーム機みたい」
「う、うるせェ!! 人のセンスにケチつけんじゃねェよ! というか勝手に漁ンじゃねェ!!」
シャカは私の言葉に急いで鞄のチャックを閉め、脚で私を追い払おうとする。蹴りを喰らいたくない私は距離を取った。
「それで? どうしてノーパソとタブレットの二刀流なの?」
「タブレットは情報を見るには良いが作業するのには向かねェ。ノートパソコンは作業するには良いが情報を見るにはデケェ。そンだけだ」
「適材適所ってやつだね」
私が相槌を打つと、シャカは荷物を持って立ち上がる。
「朝練見に行くの? じゃあ私も同行しようかな」
「あ“ァ”!? 相手してやッただろうが! もうついてくンな!」
シャカは額に青筋を浮かべながら私にガンを飛ばしてくるが、それぐらいで怯むような私ではない。
「分かったよ、ついていかない。ついていかないから。ただ行く先が一緒ってだけだよね」
「ついてくる気満々じゃねぇか! お前マジで〆てやろうか!?」
朝っぱらからそんな漫才を繰り広げていると、
「もし、そこのお二方」
透き通るような美声が聞こえてきた。声の主を見ていないにもかかわらず、声音、発音、口調から勝手に育ちの良さを感じ取ってしまう程。
振り返ると予想通りというべきか、高貴な雰囲気を纏ったウマ娘が立っていた。私達と同じ学生服を着ているのにも関わらず、オーラがまったく違う。
彼女ならドレスコードの厳しい高級レストランであっても、学生服のまま入店が許されそうだ。
確かこのウマ娘は……
「ファインモーション殿下?」
少し前に話題になっていた。アイルランドから王族の留学生が日本トレセン学園に来ると。その時、テレビに映っていたウマ娘が今目の前に。
「私のことを知ってくれているんだね。嬉しいな」
そう言ってにっこりと笑う殿下。その笑みだけで卒倒する人も出てくるのでは、というほど美しい。ハンバーガーショップでスマイルを頼んでこんなものが出てきた日にはお得過ぎてその後の注文は実質100%OFFみたいなものだろう。……自分でも何を考えているのかよく分からなくなってきた。
「色々手続きがあって理事長室に行く必要があるのだけれど……よろしければエスコートしてくださる?」
「はい! 喜んで!」
殿下のお願いに、つい反射的に答えてしまった。
「お前、理事長室がどこにあるか知ってンのか?」
すぐに冷静な突っ込みが。当然、新入生の私が知る訳もない。
「あ~……、ご、ごめんなさ……いえ! 申し訳ありません! 卑賎で矮小な新入生の私共ではあなた様のような高貴なお方を理事長室まで導く力はございません! 加えて虚言まで! どうか平にご容赦を!」
「いえいえ。私の力になろうとしてくれた事、嬉しく思います」
テンパってしまった私にもこの対応。う~ん……神かな?
「そちらのお方は?」
「見て分からねェか? 俺も新入生だ、他を当たれ」
「ちょっとシャカ! 殿下に対してその口の利き方! 不敬罪になるよ?」
王族に対して乱暴な口調で話すシャカを
「現代社会に不敬罪は無ェだろうが。それに相手が王族の生まれだからってどうして敬語使わなきゃいけねェんだよ。俺が敬うのは生まれじゃなく能力だ。まだ勉強中の殿下を敬う気は毛頭無い」
「またそんなこと言って! あぁ、もうすみませんうちのシャカが……よく言って聞かせますのでどうか打ち首だけは! 市中引き回しぐらいで勘弁してあげてください!」
「お前は俺のなんなんだよ! それに市中引き回しは死罪の前に罪人を辱めるために行われる処罰だろ!? 死罪と同義じゃねぇか!」
「えぇ~、じゃあ
「それ王族をヤクザ扱いしてるからな? お前のほうがよっぽど不敬罪だぞ」
「ん~、まぁ王族も
「お前ちょっと黙れ」
「む、むぐぐ……」
シャカが私の顎を掴んできた。頬に指がめり込み、まともに喋れない。
「ふふっ、二人はとっても仲良しなんだね」
そんなやり取りを見て、笑う殿下。
「ほーはほ(そーだよ)」
「どこが!?」
満足に喋れないまま肯定する私と、大変不本意そうなシャカ。それを見て殿下はさらに笑う。
「あはは……! こほん。とりあえず、不敬罪については気にしなくて良いよ。二人も新入生なら一緒に学ぶ学友になるわけだしね。普通に接してくれて大丈夫。それとそちらの……シャカ、さん?」
「エアシャカールだ」
「私、スーパーグリード!」
シャカの手から逃れた私もどさくさに紛れて自己紹介する。
「じゃあシャカールにグリードって呼んでも良いかな? 私の事はファインと気軽に呼んで良いから」
「分かったよファイン!」
「おい。さっきの
「ふっ、ふっ、ふっ……。殿下を呼び捨てに出来る程の仲ともなれば、SNSに乗せる絶好のネタが出来るってもんよ」
「俗人の鑑だな、お前」
殿下のネタともなれば1000いいね500リツイートは堅いだろう。フォロワー数も伸びるはず。しかも彼女と友達になればしばらくはネタにも困らない。
「シャカールも私の名前、呼んでくれないかな?」
ファインがシャカールに対して無垢な笑顔を浮かべながら迫る。
「…………」
「…………」
ファインはキラキラした目でシャカールを見続ける。
「……分かったよ! ファイン……これで良いんだろ!」
「うん! これからよろしくね、二人とも」
「ったく……、入学早々めんどくせェのが二人も……」
ぶつくさと言いながら頭を掻くシャカ。
「お話ありがとう。私はここらでお
話に一段落が付き、ファインが綺麗なお辞儀を残して去っていく。理事長室の場所を誰かに聞きに行くのだろう。その背中を見送っていると、彼女はふと振り返る。
「私、シャカールにも敬われるように精進するからね!」
そう言い残し、今度こそファインは去っていった。
「だってさ、シャカ」
「チッ……あの様子だと定期的に絡まれそうだ。めんどくせぇ……」
シャカはトレーニングコースの方に足を進める。
「あ、待ってよ! 今あった事ツイートするから!」
「るせェ! 誰が待つか!」
ポケットからスマホを取り出しSNSを開く。歩きスマホは危ないので立った状態のまま急いで操作する。
「“今日、トレセン学園に入学したよ♪ 朝からなんとファイン殿下と……”」
そこで肩を叩かれた。振り向くとウマ耳を生やした黒づくめのSPが。
「殿下の現在位置が特定できるようなツイートを無造作に行うのは控えてください」
「…………ひゃい」
簡素な言葉だが、有無を言わさぬ迫力があった。人生で一番冷や汗かいた。