富と名声のためにトレセン学園の門戸をくぐったら同期が王族と気性難な件について   作:RKC

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11話 最近シャカが怖い

 

(エアシャカール)

 

 気づけば俺は、ゲートの中にいた。

 

『さぁ、今年もやって来ました日本ダービー。今日、日の本一の優駿が決定いたします』

 

 実況の声が耳を打つ。その内容を聞いて、これは夢だと確信した。日本ダービーは一ヶ月も後。ならばこれは夢に違いない。

 

『各ウマ娘、ゲートインを終了しました』

 

 それを聞くと、体が勝手にスタート体勢に入る。夢だと分かっているにも関わらず、俺の体は働き者な事だ。目の前のゲートが開くと同時に駆け出す。

 

 

 

 

 

 

 レースは終盤。後ろで足を溜めていた俺は、第四コーナーで膨らみ、大外から捲り上げにかかる。一人、二人と抜き去っていき、後は先頭のみ。残りは200m。

 思い切り地面を踏み込み、残りの一人も抜きにいく。足の筋線維が収縮、伸長する音を幻聴しながらの最終スパート。

 しかし、俺の体は前に行ってくれない。ゴール板は近づいてくるくせに、前のウマ娘が近づいてこない。刻一刻と迫るレースの終わりに、汗腺から冷や汗が浮かび出てくる。歯が折れる程、噛みしめた後、先頭はゴール板を割った。

 

『一バ身の差で○○○が一着! エアシャカールは二着! 二冠には及びませんでした!』

 

 なぜか、ウイニングライブが終わるまで夢は続いた。敗北の余韻をたっぷりと味わえるようにという悪夢の粋な計らいには、血の涙が出そうな程感謝した。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました瞬間まず感じたのは不快感。寝汗のせいでシャツがべったりだ。

 (まぶた)を開けた瞬間、まず目に入ってきたのはルームメイトの顔。

 

「だ、大丈夫ですか……? ものすごくうなされていたようですけど……?」

 

 気弱なドトウはだいたい眉がハの字に曲がっているが、今日はその角度が更に鋭かった。かなり心配をかけたようだ。

 

「別に。柄にもなく嫌な夢を見ただけだ」

 

「そ、そうですか……。“一バ身、一バ身”……と、憑りつかれた様に言っていたので、エクソシストを呼んだ方が良いかと勘違いしてしまいました……」

 

 ドトウの片手にはスマホが握られていた。

 

「お前は気弱なのに、変な所でアグレッシブだよな……」

 

 完全には目覚めていない頭を手で押さえながら脱衣所に向かう。

 

(“一バ身、一バ身”……と、憑りつかれた様に言っていたので)

 

「チッ……、クソがっ……!」

 

 ベタベタの肌着を着替える最中、舌打ちと悪態が漏れた。

 

 

 

 

 

 

「シャカール、そこまで! ……シャカール!!」

 

 悪夢のせいで溜まった鬱憤を晴らすように、練習に打ち込んでいると、トレーナーの声が鋭く耳を刺した。

 

「……チッ、分かったよ!!」

 

 練習を中断し、トレーナーの元へ戻る。手渡されたタオルで汗を拭うと、カラカラに乾燥していた布地がベットリと濡れた。随分と汗をかいていたようだ。

 

「はい、水と塩タブレット」

 

 タブレットを乱暴に噛み砕き、水で流し込む。その後、すぐに練習に戻ろうとすると、肩を掴まれて無理やりベンチに座らされた。

 

「……ンだよ」

 

 とげとげしい口調でトレーナーを睨む。

 

「ストップ。これ以上はダメ」

 

 しかし、トレーナーは俺の眼光に怯む事は無かった。毅然とした態度で練習を止めさせにかかる。構わず立ち上がろうとする……が、俺の尻はベンチから離れてくれなかった。

 

「ほら。ヒトミミに抑え込まれるぐらい疲労してる」

 

「…………クソッ……」

 

 今日何回目になるか分からない悪態をつき、体から力を抜いた。すると、トレーナーも肩から手を退けてくれる。

 

「こんなんじゃ全然足りねェのに……」

 

「どの口が言うのやら。誰よりも早く練習を始めて、誰よりも遅く練習を終えてるのに」

 

 空を見上げると、夜間用の照明が眩しかった。目を細めて視線を下げると、辺りには俺達以外誰もいない。

 

「ほら、クールダウン」

 

 (だる)い体を何とか動かし、酷使した足の筋を伸ばす。筋肉に溜まった熱が放出される様な解放感に快感を覚えた。

 

 

 

 そのままストレッチを終えた俺はトレーナーに背を向ける。

 

「ちゃんと寮に直帰するように。間違っても追加で練習したらダメだからね」

 

「分かってるよ」

 

 トレーナーに釘を刺されながらも寮に帰った。シャワーと遅めの夕食を終えて、部屋に戻る。胃袋が夕食を消化し終えてから、その日は寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば俺は、またゲートの中にいた。

 

『さぁ、今年もやって来ました日本ダービー。今日、日の本一の優駿が決定いたします』

 

 実況の声が耳を打つ。その内容を聞いてデジャヴを感じた。またこの夢か。練習で疲れ切っているのに俺の脳は随分と勝手しやがる。

 

『各ウマ娘、ゲートインを終了しました』

 

 それを聞くと体が無意識にスタート体勢に入る。二度目の夢にも関わらず、俺の体は勤勉な事だ。目の前のゲートが開くと同時に駆け出した。

 

 

 

『3/4バ身の差で○○○が一着! エアシャカールは二着! 二冠には及びませんでした!』

 

 

 

 目を覚ました瞬間、まず感じたのは胸の圧迫感。寝ていたにも関わらず心臓がうるさい。

 (まぶた)を開けた瞬間、まず目に入ってきたのはルームメイトの顔。

 

「だ、大丈夫ですか……? 今日もうなされていたようですけど……?」

 

 気弱なドトウはだいたい眉がハの字に曲がっているが、今は“ハ”を通り越して “い” ぐらいになっている。二日連続の悪夢。随分心配されたらしい。

 

「……別に。たまたまだ、たまたま」

 

「そ、そうですか……。“3/4、3/4”……と、憑りつかれた様に言っていたので……。き、昨日より数字が減ってるんですけど、ゼ、ゼロになった時何か良くない事が起きたりするんじゃあ……。や、やっぱりエクソシストを呼んだ方が……!」

 

「やめろ、大丈夫だ。だからスマホをしまえ」

 

 完全には目覚めていない頭を手で押さえながら、脱衣所に向かう。

 

 昨日は1バ身……そして今日は3/4バ身、か。……ハッ、バカバカしい。ただの夢だろうが……。

 

 そうは否定するものの、脱衣所に向かう足取りは昨日より少しだけ軽かった。

 

 日本ダービーまで残り28日。

 

 

 

 

 

 

「シャカール、ストップ!! 練習はもう終わり!」

 

「……分かったよ」

 

 一歩を踏み出すのも億劫な鉛の体をベンチに落ち着ける。水分補給と塩分補給を終え、クールダウンを始める。

 

「間に合うのか……?」

 

 ストレッチ中に漏れた俺の独り言。

 

「きっと間に合う。……いや、間に合わせて見せる。だからオーバーワークはダメ。良い?」

 

 トレーナーは耳聡く反応してくる。

 

「分かってるよ」

 

 今日も遅めの夕食が消化されるのを待ってから、床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 またゲートの中。

 

『各ウマ娘、ゲートインを終了しました』

 

 うんざりする口上の後、目の前のゲートが開くと同時に俺は駆け出した。

 

 

 

『3/4バ身の差で○○○が一着! エアシャカールは二着! 二冠には及びませんでした!』

 

 

 

 目を覚ました瞬間、まず感じたのは息苦しさ。寝ていたにも関わらず呼吸が荒い。

 (まぶた)を開けた瞬間、まず目に入ってきたのはルームメイトの顔。

 

「だ、だ、大丈夫ですか……? い、息切れが激しいですけど……?」

 

 ドトウは目をぐるぐると回してパニック一歩寸前に見える。

 

「……大丈夫だ」

 

「で、でもここの所ずっとうなされてますし……。あ、でも最近は“3/4、3/4”……って、数字は減らなくなっているので、エクソシストは呼ばなくても大丈夫ですかね……?」

 

「……」

 

 ドトウに返事を返さずに、脱衣所に向かう。歯がギシギシと音を立てていた。

 

 日本ダービーまで残り20日。

 

 

 

 

 

 

「シャカール! 今日はそこまで!」

 

「…………」

 

「……シャカール!!」

 

 トレーナーの声を無視して練習を続けていたが、再三の呼びかけに仕方なく足を止める。タオルで汗を拭い、水分補給をした後、再び練習に戻ろうとすると、肩を掴まれた。

 

「……ッ! 離せ!」

 

 腕を振って、トレーナーの手を払う。その際、彼女の心配そうな顔を見てしまった。

 

「……~~~~~~!」

 

 五十音ではとても表せない奇音を喉から発しながら、頭を掻きむしる。思うままに行動すると、少しはムカつきが収まった。

 

 その日は大人しく練習を止め、寮に戻った。

 

 

 

 

 

 

『1/2バ身の差で○○○が一着! エアシャカールは二着!』

 

 

 

「シャカール! ……シャカール!!」

 

 トレーナーの声を無視して走り続ける。ウマ娘の速度で走っていれば、トレーナーに無理やり止められる事は無い。重たい足を追い使っていると、俺に併走する影が。

 

「はーい、ドクターストップ執行係ですよー」

 

 ピィー!!

 

「っ……!」

 

 聞きなれた声の後、すぐ隣で笛の大音声が鳴った。いきなりの騒音に驚いて足を止める。グリードはその隙を見逃さず、俺の体を肩に抱えてトレーナーの方へと歩き始める。

 

「おい、グリード! テメェッ! 離しやがれ!!」

 

「あぁもう! 暴れないでよ! こっちも練習終わりで疲れてんだから!」

 

 担がれながらも抵抗するが、体勢の不利を覆す事はできなかった。そのまま、コースから連れ出される。

 

「グリード二等兵、これより乱心したシャカ伍長をお部屋まで連行してまいります!」

 

「ごめんね、練習終わりに頼んじゃって」

 

 グリードに対して申し訳なさそうな顔をするトレーナー。トレーナーの顔を思い切り睨みつけてやると、

 

「ブレーキはちゃんと踏むよ。それが私の役割だから」

 

 そう返ってきた。結局その日は米俵のように部屋まで運搬された。

 

 日本ダービーまであと7日。

 

 

 

 

 

 

『クビの差で○○○が一着! エアシャカールは二着に終わりました!』

 

 

 

 

 

 

「退けッ!! こんな練習で足りッかよ!」

 

「いやいやいや! 明日レースでしょ!? 今日は足休めとかないと! そっちの方が合理的だって! シャカの大好きな合理!」

 

「うるせェ!! 事、ここに至って合理なんてものはクソの役にも立ちゃしねェンだ!!」

 

 俺に練習をさせまいとするグリードとがっぷり四つに組んで力比べ。

 

「ぐぬぬ……! 力負けしてる……! スペック差出てるって!! 本部(HQ)! 援軍を要請します!!」

 

 グリードがそう叫んだ後、背中に誰かの手が当たる。

 

「シャカール」

 

 後ろから殿下様の声が聞こえてきた。いやに羞恥心を感じる。こんな荒れた姿を見られたくなかった。

 憂さ晴らしとして体に込める力を増す。グリードのうめき声が大きくなった。

 

「君の焦る気持ちは……」

 

 そこまで聞こえて、背中の手が思い惑うように動く。

 

「……私は、シャカールに怪我してほしくないな」

 

 ファインの困ったような声色。

 

 ……卑怯だ。あァ卑怯だよ、その声は。

 

 正面から受け止めていたグリードの体を右へ打ちやる。勢いそのままにグリードは芝の上をすべった。受け身は取っているようなので心配する必要はないだろう。

 

「帰る。寮で大人しくしてりゃあいいンだろ」

 

「えぇ……急に冷静じゃん」

 

 地に伏せて文句を言うグリードの横を通って部屋へ戻る。ベッドに腰かけるなり、膝に肘を付いた前傾姿勢に。そのまま目を閉じてレースで走る自分の姿を想像し始めた。

 

 集中して行うイメージトレーニングは一般に想像されるそれとは一線を画する。アスリート数人に実験を行った所、イメージトレーニング中、対応した筋肉が実際に働いていたという結果が出たらしい。ただ大人しくしているよりかは、こうして少しでも足掻いている方が精神的にましだ。

 

 練習時間としては短く、明日を待つ時間としては長く感じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば俺はゲートの中にいた。

 

『さぁ、今年もやって来ました、日本ダービー。今日、日の本一の優駿が決定いたします』

 

 実況の声が耳を打つ。その内容を聞いてうんざりする。これで何度目のリハだ、ここまでくると何かの怪異に巻き込まれているのかと勘違いしそうになる。

 

『各ウマ娘、ゲートインを終了しました』

 

 それを聞くと体が勝手にスタート体勢に入る。夢だと分かっているにも関わらず、俺の体は働き者を通り越して社畜だ。

 

 まぁいい、それも今日で終わりだ。

 

 目の前のゲートが開くと同時に駆け出した。

 

 

 

 レースは終盤。後ろで足を溜めていた俺は、第四コーナーで膨らみ、大外から捲り上げにかかる。一人、二人と抜き去っていき、後は先頭のみ。残りは200m。

 

 思い切り地面を踏み込み、残りの一人も抜きにいく。足の筋線維がブチブチと収縮、伸長、断裂する音を幻聴しながらの最終スパート。どうせ夢だ、脚を使い捨てにするつもりで走る。

 

 前の奴の尻尾を掴めそうな所まで位置が詰まった。しかし、ゴール板も近づいてくる。間に合うかどうか、今はその思考を頭の外に追い出し、ただ全力で走る。やがて俺はゴール板を割った。

 

『○○○が一着! 二着はエアシャカール! 7センチ! 僅か7センチの差が栄光を分けた!!』

 

 俺はその場に佇んでいた。

 

「……ハハッ」

 

 滝のように流れる汗も、纏わりつく熱気も、酸素不足でクラクラする頭も。全てがリアルそのもののくせに、たった7センチ差でついた勝敗が審議も無しに決着している。ひどいご都合主義だ。

 見ろ、掲示板にも“7センチ”とランプで表示されてやがる。このためだけにLEDランプの配列を変えたとすれば、本当にご苦労な事だ。

 

 内心でおどけるものの、本来掲示板に表示されるはずの無い“7センチ”という文字はいつまでも網膜に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 

 半透明の意識の中、体が揺さぶられた。遅れて目覚まし時計の音がやかましさを脳が認識する。

 

「シャ、シャカールさ~ん……、ずっと目覚まし鳴ってますよ……」

 

「……あァ」

 

 目覚まし時計を黙らせ、ベッドの上で胡坐をかくと、さっきの最悪な夢が想起される。眉間にしわが寄った。

 

 いつまでも退かない影を疑問に思い、顔を上げる。すると、いつものように困り眉のドトウが立ち尽くしているが目に入ってきた。

 

「なンだよ」

 

「……あ、い、いえ! す、すみませんすみません……! のべーっ、と突っ立ってて、す、すみません……!」

 

 お得意の謝罪を述べるドトウ。しかし、彼女の“すみません“にはいつものキレがなかった。気弱を極めた彼女にしか出せないドトウ節とも呼ぶべきキレが。

 

 日本ダービーまで後0日。

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